8 / 41
第8話:レベルアップ通知と、プロジェクトG始動のベル
しおりを挟む
森猪という、ゴブリンよりも一回り大きな獲物を仕留め、DPは910まで増加した。目標の1000DPまで、あとわずか90DP。ゴールは目前に見えてきている。
「ゴブリンならあと6体、森猪ならあと3頭か…あるいは、もっと別の獲物が来る可能性もあるな。」
俺はコアが表示する周辺マップを眺めながら、次なる侵入者を待っていた。索敵範囲が半径2kmに広がったことで、以前よりも広範囲の生物の動きを把握できるようになった。相変わらず、ゴブリンの小規模な群れが周辺をうろついており、森の中には猪以外の獣の気配もある。今のところ、冒険者や騎士団といった、明らかに高レベルな脅威の反応はない。
(焦りは禁物だ。下手にこちらから仕掛けて、想定外の反撃を食らうのは避けたい。今は、確立した防衛システムを信じて、受動的に待つのが最善手だろう。)
システム開発においても、焦って未検証の機能をリリースするのはバグの元だ。まずは安定稼働。それが鉄則だ。
スラきちとスラには、相変わらず健気に働いている。落とし穴の清掃と粘液補充を終え、今はコア安置室の隅で待機中だ。命令があれば、いつでも出動できる体勢を整えてくれている。本当に優秀な「社員」だ。
時間はゆっくりと流れていく。ダンジョン内の魔力吸収により、DPは1時間あたり0.5ずつ、着実に増えていく。910… 911… 912…
(この自然増加分だけでも、あと…えーっと、90DP ÷ 0.5DP/時 = 180時間か。日数にすると7日半。結構かかるな。やはり侵入者によるブーストが欲しいところだ。)
まるで、基本給だけでは生活が苦しいから、残業代やボーナスを当てにするような心境だ。いや、前世のトラウマが…。
そんなことを考えていると、コアが新たな侵入者の接近を告げた。
『マスター、侵入者を探知。ゴブリン2体です。ダンジョン入口を突破し、通路を進行中。』
来たか! ゴブリン2体。前回は3体だったから、少し楽かもしれない。しかも、今回は対処法も確立している。
「よし、コア。通常迎撃プロトコルを実行。潤滑床、落とし穴、粘液コンボで対処する。スラきちは粘液射出準備、スラには予備待機だ。」
『了解しました。迎撃プロトコル・パターンB(対ゴブリン・複数)を実行します。』
俺は落ち着いて、コアが表示するマップを監視する。2つの緑色の光点が、通路を進んでくる。動きは前回同様、ややバラバラだ。連携というほどの統率は取れていない。
先頭のゴブリンが、潤滑床のあるカーブ(ポイントα)に差し掛かる。
ズベッ!
予想通りの反応。ゴブリンは足を滑らせ、体勢を崩しながらも、なんとか転倒は免れたようだ。だが、明らかに動揺している。
後続のゴブリンも、仲間の異変に気づき、警戒して足を止めた。
(よし、ここで畳み掛ける!)
「コア! スラきち、粘液射出! 足止めされている先頭ゴブリンの足元を狙え!」
『了解! スラきち、粘液射出実行!』
ピチャッ! スラきちが放った粘液が、体勢を崩していたゴブリンの足元に命中。これで、さらに動きが鈍るはずだ。
その隙に、後続のゴブリンが状況を把握しようと、慎重にカーブの先を覗き込もうとした。そこには、巧妙に隠された落とし穴(ポイントβ)がある。
(かかるか…?)
後続のゴブリンは、一度足を止めた。何かを感じ取ったのかもしれない。だが、先頭の仲間が粘液で足止めされている状況を見て、焦りが出たのか、あるいは罠はないと判断したのか、再び歩き出した。
そして…
ザンッ!
短い悲鳴と共に、後続のゴブリンが落とし穴に吸い込まれていった。
『後続ゴブリン、落とし穴に落下! 粘液により拘束中!』
「よし! まず一体!」
残るは、通路で粘液に足止めされている先頭のゴブリンだ。そいつは、仲間が消えたことに驚き、さらに粘つく足元に苛立ちながら、棍棒を振り回して威嚇している。
「コア、あのゴブリンは『存在消滅』の対象になるか?」
『判定…対象は混乱し、有効な抵抗が困難な状態と判断。「存在消滅」実行可能です。』
「よし、実行!」
『了解! 「存在消滅」実行!』
ピタッ。通路で暴れていたゴブリンの動きが止まり、消滅した。
**【DP獲得:15DP】**
**【現在の所持DP:925DP】** (粘液射出2DP消費後)
残るは、落とし穴の中の一体。これも、もはや時間の問題だ。
「コア、落とし穴の中のゴブリンも処理しろ。」
『了解! 「存在消滅」実行!』
**【DP獲得:15DP】**
**【現在の所持DP:940DP】**
「ふぅ…順調だな。」
ゴブリン2体を、危なげなく処理できた。罠とスライムの連携が、確実に機能している証拠だ。DPも着実に増えている。あと60DP。
「コア、後処理を頼む。」
『承知いたしました。ログ記録、清掃、粘液補充を実行します。』
再び静寂が訪れたダンジョン内で、俺は次の侵入者を待った。今度はどれくらいで来てくれるだろうか?
意外にも、次の「顧客」はすぐやってきた。先ほどの戦闘から、体感で1時間も経っていない頃だ。
『マスター、侵入者です! ゴブリン、今度は4体です!』
4体! さすがに少し多いな。だが、やることは同じだ。
「コア! 迎撃プロトコル実行! 各個撃破を狙う!」
『了解! パターンB改(対ゴブリン・多数)を実行! スラににも粘液射出準備を指示します!』
4つの緑点が、通路を進んでくる。先頭の1体が潤滑床で足を滑らせる。後続は警戒するが、状況が分からないまま、不用意に落とし穴に近づき、1体が落下。残る2体が通路で立ち往生しているところを、スラきちとスラにの連携粘液射出で足止め。視界を奪われた1体をまず「存在消滅」。残る1体も、粘液で動きが鈍ったところを「存在消滅」。最後に、落とし穴の1体を処理。
**【DP獲得:15DP x 4 = 60DP】**
**【現在の所持DP:1000DP】** (粘液射出 2DP x 2 = 4DP 消費後)
「………やった!!」
ついに、所持DPが1000の大台に乗った!
思わず立ち上がり、拳を握りしめる。目標達成だ!
その瞬間だった。
ダンジョン全体が、わずかに、しかし確かに振動した。コアの輝きが、これまでになく増していく。
『……! マスター!!』
コアが、珍しく感情的な、驚きと喜びに満ちたような声を発した。
『ダンジョンレベルが上昇しました! Lv.1 から Lv.2 に到達です!』
**【ダンジョンレベルアップ!】**
* **ダンジョンレベル:Lv.2**
* **召喚可能モンスターリスト更新:** ゴブリン(コスト30DP)が追加されました。
* **設置可能罠リスト更新:** スパイクピットLv.1(落とし穴+底面スパイク、コスト70DP)、トリップワイヤーLv.1(侵入者が躓くワイヤー、コスト15DP)が追加されました。
* **ダンジョン拡張可能範囲:** 半径20メートルに拡大。
* **コア機能拡張:** 簡易ダッシュボード機能(DP収支、モンスター稼働状況、罠作動ログの簡易表示)が利用可能になりました。マスターの思考に基づき、UIを最適化します。
俺の目の前に表示されたインターフェースが、目まぐるしく変化していく。
ゴブリン! ついに召喚可能になった! コストは30DPか。ゴブリン一体を倒して得られるDPが15だから、一体召喚するには二体分の働きが必要になる計算だ。まあ、妥当なところだろう。
新しい罠も追加された。スパイクピットは、落とし穴の殺傷能力を高める待望の機能だ。トリップワイヤーはコストが安く、他の罠との連携に使えそうだ。
ダンジョン拡張範囲も倍になった。これで、より複雑な通路設計や、モンスターの待機スペース確保などが可能になる。
そして、簡易ダッシュボード機能! これは嬉しい。まるで、プロジェクト管理ツールが導入されたようなものだ。DP収支やモンスターの稼働状況が一目で分かれば、より効率的な運営判断ができる。
「すごいな…レベルアップって、こんなに色々解放されるものなのか。」
『はい、マスター! ダンジョンの成長は、マスターの能力向上にも繋がります!』
コアは、興奮冷めやらぬ様子で、その光球をキラキラと輝かせている。普段の無機質な口調からは想像もできないほどの喜びようだ。
「よし…ついに、この時が来たか。」
俺は深呼吸し、決意を固めた。
プロジェクトG、始動だ。
「コア、ゴブリンを召喚する。まずは…そうだな、3体ほど頼む。」
『承知いたしました! ゴブリンを3体召喚します! コスト90DP!』
コアの輝きが一段と強まり、コア安置室の中央付近の空間が歪む。そして、緑色の肌をした、小柄で醜悪な人型の生物が、一体、また一体と姿を現した。
身長は1メートルちょっと。ぼろ布を纏い、手には粗末な棍棒を持っている。目は小さく、狡猾そうな光を宿している。互いに警戒し合いながら、キョロキョロと周囲を見回している。これが、ゴブリンか。
「グルル…」「ギャ?」「キシャア!」
ゴブリンたちは、威嚇するような、あるいは戸惑うような、意味不明な声を発している。そして、俺と、俺の傍に浮かぶコアの存在に気づくと、明らかに敵意を剥き出しにしてきた。
(なるほど…召喚したからといって、すぐに従順になるわけではない、と。)
これは、ある意味予想通りだ。新入社員だって、最初から会社の理念を理解し、忠誠を誓っているわけではない。教育と、動機付けが必要なのだ。
俺は、コアに合図を送る。
「コア、翻訳と威圧、頼む。」
『了解しました、マスター。』
コアの輝きが変わり、ゴブリンたちに向けられる。ゴブリンたちは、コアから放たれるプレッシャーに怯えたように身をすくませた。同時に、俺の言葉が、彼らにも理解できる形で伝わるようになるはずだ。
俺は、ゆっくりと立ち上がり、三体のゴブリンを見据えた。そして、できるだけ威厳のある声で、第一声を発した。
「貴様ら、よく聞け。今日から、俺が貴様らのマスター、ワタルだ。」
ゴブリンたちは、ビクッと体を震わせ、驚いたように俺を見た。俺の言葉が理解できている証拠だ。
「貴様らは、今日から俺のダンジョンで働くことになる。仕事の内容は、侵入者の撃退、ダンジョンの防衛だ。これは、命令だ。」
ゴブリンたちは、互いに顔を見合わせ、何やらブツブツと呟き合っている。反抗的な目つきの個体もいる。
「もちろん、ただ働かせるだけではない。働きに応じて、報酬を与える。安全な寝床、美味い食事、そして…力だ。」
報酬、という言葉に、ゴブリンたちの目の色が変わった。特に、食事と力、という部分に強い反応を示している。
「だが、そのためには、ルールを守ってもらう必要がある。」
俺は、コアに指示して、先ほど作成した「ゴブリン向け報連相 基本マニュアル Ver.0.1」を、彼らにも理解できるような、もっと単純な絵や記号を交えた形で表示させた。
「これが、貴様らが最初に覚えるべきルールだ。『ホウ・レン・ソウ』。見たこと、やったことは、すぐに俺かリーダーに『ホウコク』しろ。決まったことは、仲間に『レンラク』しろ。困ったら、勝手に動かず、俺かリーダーに『ソウダン』しろ。これができれば、報酬が増える。できなければ…罰がある。」
俺は、言葉の最後に、少しだけ威圧を込めた。ゴブリンたちは、ゴクリと喉を鳴らすのが見えた。
「まずは、この『ホウ・レン・ソウ』を徹底的に叩き込む。それから、貴様らの中からリーダーを選抜し、チームとして動いてもらう。良いな?」
ゴブリンたちは、まだ戸惑いと警戒心を隠せない様子だったが、ひとまず、力でねじ伏せようという気は失せたようだ。コアの威圧と、報酬への期待、そして罰への恐れが、彼らを縛り付けている。
「返事は!」
俺が強く言うと、ゴブリンたちは慌てて、不明瞭ながらも何事か叫んだ。肯定の意思表示、と受け取っておこう。
「よし。では、プロジェクトG、これより開始する!」
俺は高らかに宣言した。
目の前には、まだ頼りなく、そして油断ならない三体のゴブリン。彼らを、いかにして効率的な「戦力」へと育て上げていくか。元社畜SEの、異世界における人材育成プロジェクトが、今、静かに幕を開けた。前途は多難だろうが、やりがいはありそうだ。
「ゴブリンならあと6体、森猪ならあと3頭か…あるいは、もっと別の獲物が来る可能性もあるな。」
俺はコアが表示する周辺マップを眺めながら、次なる侵入者を待っていた。索敵範囲が半径2kmに広がったことで、以前よりも広範囲の生物の動きを把握できるようになった。相変わらず、ゴブリンの小規模な群れが周辺をうろついており、森の中には猪以外の獣の気配もある。今のところ、冒険者や騎士団といった、明らかに高レベルな脅威の反応はない。
(焦りは禁物だ。下手にこちらから仕掛けて、想定外の反撃を食らうのは避けたい。今は、確立した防衛システムを信じて、受動的に待つのが最善手だろう。)
システム開発においても、焦って未検証の機能をリリースするのはバグの元だ。まずは安定稼働。それが鉄則だ。
スラきちとスラには、相変わらず健気に働いている。落とし穴の清掃と粘液補充を終え、今はコア安置室の隅で待機中だ。命令があれば、いつでも出動できる体勢を整えてくれている。本当に優秀な「社員」だ。
時間はゆっくりと流れていく。ダンジョン内の魔力吸収により、DPは1時間あたり0.5ずつ、着実に増えていく。910… 911… 912…
(この自然増加分だけでも、あと…えーっと、90DP ÷ 0.5DP/時 = 180時間か。日数にすると7日半。結構かかるな。やはり侵入者によるブーストが欲しいところだ。)
まるで、基本給だけでは生活が苦しいから、残業代やボーナスを当てにするような心境だ。いや、前世のトラウマが…。
そんなことを考えていると、コアが新たな侵入者の接近を告げた。
『マスター、侵入者を探知。ゴブリン2体です。ダンジョン入口を突破し、通路を進行中。』
来たか! ゴブリン2体。前回は3体だったから、少し楽かもしれない。しかも、今回は対処法も確立している。
「よし、コア。通常迎撃プロトコルを実行。潤滑床、落とし穴、粘液コンボで対処する。スラきちは粘液射出準備、スラには予備待機だ。」
『了解しました。迎撃プロトコル・パターンB(対ゴブリン・複数)を実行します。』
俺は落ち着いて、コアが表示するマップを監視する。2つの緑色の光点が、通路を進んでくる。動きは前回同様、ややバラバラだ。連携というほどの統率は取れていない。
先頭のゴブリンが、潤滑床のあるカーブ(ポイントα)に差し掛かる。
ズベッ!
予想通りの反応。ゴブリンは足を滑らせ、体勢を崩しながらも、なんとか転倒は免れたようだ。だが、明らかに動揺している。
後続のゴブリンも、仲間の異変に気づき、警戒して足を止めた。
(よし、ここで畳み掛ける!)
「コア! スラきち、粘液射出! 足止めされている先頭ゴブリンの足元を狙え!」
『了解! スラきち、粘液射出実行!』
ピチャッ! スラきちが放った粘液が、体勢を崩していたゴブリンの足元に命中。これで、さらに動きが鈍るはずだ。
その隙に、後続のゴブリンが状況を把握しようと、慎重にカーブの先を覗き込もうとした。そこには、巧妙に隠された落とし穴(ポイントβ)がある。
(かかるか…?)
後続のゴブリンは、一度足を止めた。何かを感じ取ったのかもしれない。だが、先頭の仲間が粘液で足止めされている状況を見て、焦りが出たのか、あるいは罠はないと判断したのか、再び歩き出した。
そして…
ザンッ!
短い悲鳴と共に、後続のゴブリンが落とし穴に吸い込まれていった。
『後続ゴブリン、落とし穴に落下! 粘液により拘束中!』
「よし! まず一体!」
残るは、通路で粘液に足止めされている先頭のゴブリンだ。そいつは、仲間が消えたことに驚き、さらに粘つく足元に苛立ちながら、棍棒を振り回して威嚇している。
「コア、あのゴブリンは『存在消滅』の対象になるか?」
『判定…対象は混乱し、有効な抵抗が困難な状態と判断。「存在消滅」実行可能です。』
「よし、実行!」
『了解! 「存在消滅」実行!』
ピタッ。通路で暴れていたゴブリンの動きが止まり、消滅した。
**【DP獲得:15DP】**
**【現在の所持DP:925DP】** (粘液射出2DP消費後)
残るは、落とし穴の中の一体。これも、もはや時間の問題だ。
「コア、落とし穴の中のゴブリンも処理しろ。」
『了解! 「存在消滅」実行!』
**【DP獲得:15DP】**
**【現在の所持DP:940DP】**
「ふぅ…順調だな。」
ゴブリン2体を、危なげなく処理できた。罠とスライムの連携が、確実に機能している証拠だ。DPも着実に増えている。あと60DP。
「コア、後処理を頼む。」
『承知いたしました。ログ記録、清掃、粘液補充を実行します。』
再び静寂が訪れたダンジョン内で、俺は次の侵入者を待った。今度はどれくらいで来てくれるだろうか?
意外にも、次の「顧客」はすぐやってきた。先ほどの戦闘から、体感で1時間も経っていない頃だ。
『マスター、侵入者です! ゴブリン、今度は4体です!』
4体! さすがに少し多いな。だが、やることは同じだ。
「コア! 迎撃プロトコル実行! 各個撃破を狙う!」
『了解! パターンB改(対ゴブリン・多数)を実行! スラににも粘液射出準備を指示します!』
4つの緑点が、通路を進んでくる。先頭の1体が潤滑床で足を滑らせる。後続は警戒するが、状況が分からないまま、不用意に落とし穴に近づき、1体が落下。残る2体が通路で立ち往生しているところを、スラきちとスラにの連携粘液射出で足止め。視界を奪われた1体をまず「存在消滅」。残る1体も、粘液で動きが鈍ったところを「存在消滅」。最後に、落とし穴の1体を処理。
**【DP獲得:15DP x 4 = 60DP】**
**【現在の所持DP:1000DP】** (粘液射出 2DP x 2 = 4DP 消費後)
「………やった!!」
ついに、所持DPが1000の大台に乗った!
思わず立ち上がり、拳を握りしめる。目標達成だ!
その瞬間だった。
ダンジョン全体が、わずかに、しかし確かに振動した。コアの輝きが、これまでになく増していく。
『……! マスター!!』
コアが、珍しく感情的な、驚きと喜びに満ちたような声を発した。
『ダンジョンレベルが上昇しました! Lv.1 から Lv.2 に到達です!』
**【ダンジョンレベルアップ!】**
* **ダンジョンレベル:Lv.2**
* **召喚可能モンスターリスト更新:** ゴブリン(コスト30DP)が追加されました。
* **設置可能罠リスト更新:** スパイクピットLv.1(落とし穴+底面スパイク、コスト70DP)、トリップワイヤーLv.1(侵入者が躓くワイヤー、コスト15DP)が追加されました。
* **ダンジョン拡張可能範囲:** 半径20メートルに拡大。
* **コア機能拡張:** 簡易ダッシュボード機能(DP収支、モンスター稼働状況、罠作動ログの簡易表示)が利用可能になりました。マスターの思考に基づき、UIを最適化します。
俺の目の前に表示されたインターフェースが、目まぐるしく変化していく。
ゴブリン! ついに召喚可能になった! コストは30DPか。ゴブリン一体を倒して得られるDPが15だから、一体召喚するには二体分の働きが必要になる計算だ。まあ、妥当なところだろう。
新しい罠も追加された。スパイクピットは、落とし穴の殺傷能力を高める待望の機能だ。トリップワイヤーはコストが安く、他の罠との連携に使えそうだ。
ダンジョン拡張範囲も倍になった。これで、より複雑な通路設計や、モンスターの待機スペース確保などが可能になる。
そして、簡易ダッシュボード機能! これは嬉しい。まるで、プロジェクト管理ツールが導入されたようなものだ。DP収支やモンスターの稼働状況が一目で分かれば、より効率的な運営判断ができる。
「すごいな…レベルアップって、こんなに色々解放されるものなのか。」
『はい、マスター! ダンジョンの成長は、マスターの能力向上にも繋がります!』
コアは、興奮冷めやらぬ様子で、その光球をキラキラと輝かせている。普段の無機質な口調からは想像もできないほどの喜びようだ。
「よし…ついに、この時が来たか。」
俺は深呼吸し、決意を固めた。
プロジェクトG、始動だ。
「コア、ゴブリンを召喚する。まずは…そうだな、3体ほど頼む。」
『承知いたしました! ゴブリンを3体召喚します! コスト90DP!』
コアの輝きが一段と強まり、コア安置室の中央付近の空間が歪む。そして、緑色の肌をした、小柄で醜悪な人型の生物が、一体、また一体と姿を現した。
身長は1メートルちょっと。ぼろ布を纏い、手には粗末な棍棒を持っている。目は小さく、狡猾そうな光を宿している。互いに警戒し合いながら、キョロキョロと周囲を見回している。これが、ゴブリンか。
「グルル…」「ギャ?」「キシャア!」
ゴブリンたちは、威嚇するような、あるいは戸惑うような、意味不明な声を発している。そして、俺と、俺の傍に浮かぶコアの存在に気づくと、明らかに敵意を剥き出しにしてきた。
(なるほど…召喚したからといって、すぐに従順になるわけではない、と。)
これは、ある意味予想通りだ。新入社員だって、最初から会社の理念を理解し、忠誠を誓っているわけではない。教育と、動機付けが必要なのだ。
俺は、コアに合図を送る。
「コア、翻訳と威圧、頼む。」
『了解しました、マスター。』
コアの輝きが変わり、ゴブリンたちに向けられる。ゴブリンたちは、コアから放たれるプレッシャーに怯えたように身をすくませた。同時に、俺の言葉が、彼らにも理解できる形で伝わるようになるはずだ。
俺は、ゆっくりと立ち上がり、三体のゴブリンを見据えた。そして、できるだけ威厳のある声で、第一声を発した。
「貴様ら、よく聞け。今日から、俺が貴様らのマスター、ワタルだ。」
ゴブリンたちは、ビクッと体を震わせ、驚いたように俺を見た。俺の言葉が理解できている証拠だ。
「貴様らは、今日から俺のダンジョンで働くことになる。仕事の内容は、侵入者の撃退、ダンジョンの防衛だ。これは、命令だ。」
ゴブリンたちは、互いに顔を見合わせ、何やらブツブツと呟き合っている。反抗的な目つきの個体もいる。
「もちろん、ただ働かせるだけではない。働きに応じて、報酬を与える。安全な寝床、美味い食事、そして…力だ。」
報酬、という言葉に、ゴブリンたちの目の色が変わった。特に、食事と力、という部分に強い反応を示している。
「だが、そのためには、ルールを守ってもらう必要がある。」
俺は、コアに指示して、先ほど作成した「ゴブリン向け報連相 基本マニュアル Ver.0.1」を、彼らにも理解できるような、もっと単純な絵や記号を交えた形で表示させた。
「これが、貴様らが最初に覚えるべきルールだ。『ホウ・レン・ソウ』。見たこと、やったことは、すぐに俺かリーダーに『ホウコク』しろ。決まったことは、仲間に『レンラク』しろ。困ったら、勝手に動かず、俺かリーダーに『ソウダン』しろ。これができれば、報酬が増える。できなければ…罰がある。」
俺は、言葉の最後に、少しだけ威圧を込めた。ゴブリンたちは、ゴクリと喉を鳴らすのが見えた。
「まずは、この『ホウ・レン・ソウ』を徹底的に叩き込む。それから、貴様らの中からリーダーを選抜し、チームとして動いてもらう。良いな?」
ゴブリンたちは、まだ戸惑いと警戒心を隠せない様子だったが、ひとまず、力でねじ伏せようという気は失せたようだ。コアの威圧と、報酬への期待、そして罰への恐れが、彼らを縛り付けている。
「返事は!」
俺が強く言うと、ゴブリンたちは慌てて、不明瞭ながらも何事か叫んだ。肯定の意思表示、と受け取っておこう。
「よし。では、プロジェクトG、これより開始する!」
俺は高らかに宣言した。
目の前には、まだ頼りなく、そして油断ならない三体のゴブリン。彼らを、いかにして効率的な「戦力」へと育て上げていくか。元社畜SEの、異世界における人材育成プロジェクトが、今、静かに幕を開けた。前途は多難だろうが、やりがいはありそうだ。
20
あなたにおすすめの小説
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました
Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である!
主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない!
旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む!
基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。
王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
【薬師向けスキルで世界最強!】追放された闘神の息子は、戦闘能力マイナスのゴミスキル《植物王》を究極進化させて史上最強の英雄に成り上がる!
こはるんるん
ファンタジー
「アッシュ、お前には完全に失望した。もう俺の跡目を継ぐ資格は無い。追放だ!」
主人公アッシュは、世界最強の冒険者ギルド【神喰らう蛇】のギルドマスターの息子として活躍していた。しかし、筋力のステータスが80%も低下する外れスキル【植物王(ドルイドキング)】に覚醒したことから、理不尽にも父親から追放を宣言される。
しかし、アッシュは襲われていたエルフの王女を助けたことから、史上最強の武器【世界樹の剣】を手に入れる。この剣は天界にある世界樹から作られた武器であり、『植物を支配する神スキル』【植物王】を持つアッシュにしか使いこなすことができなかった。
「エルフの王女コレットは、掟により、こ、これよりアッシュ様のつ、つつつ、妻として、お仕えさせていただきます。どうかエルフ王となり、王家にアッシュ様の血を取り入れる栄誉をお与えください!」
さらにエルフの王女から結婚して欲しい、エルフ王になって欲しいと追いかけまわされ、エルフ王国の内乱を治めることになる。さらには神獣フェンリルから忠誠を誓われる。
そんな彼の前には、父親やかつての仲間が敵として立ちはだかる。(だが【神喰らう蛇】はやがてアッシュに敗れて、あえなく没落する)
かくして、後に闘神と呼ばれることになる少年の戦いが幕を開けた……!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる