元社畜、異世界でダンジョン経営始めます~ブラック企業式効率化による、最強ダンジョン構築計画~

夏見ナイ

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第14話:アンデッド導入の是非と、訓練成果測定の狼煙

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ダンジョン拡張工事が完了し、ゴブリンたちの再訓練プログラムが始動してから、体感で一週間ほどが経過した。ダンジョン内は、以前にも増して組織化され、システム化された空間へと変貌しつつあった。

俺の主な仕事は、コア安置室の司令塔から、リアルタイムで更新されるダッシュボードを監視し、ダンジョン運営全体をマネジメントすることだ。DP収支、モンスターの稼働状況、罠の作動ログ、訓練の進捗、そして捕虜(兼教官)リナの動向。あらゆる情報が集約され、可視化されている。まるで、前世で担当していた大規模システムの統合監視コンソールを眺めているようだ。ただ、こちらの方が遥かにストレスは少ないし、何より「自分の城」を運営しているという実感がある。

訓練スペースでは、今日もゴブリンたちの(主にゴブキチの)悲鳴と、リナの怒声が響いていた。

「ゴブキチ! だから、その命令は『右に避けろ』だ! なぜ左に突っ込む!? 話を聞け!」
『ギャンッ! い、痛え! わ、分かってる! 次はやる!』
リーダー候補のゴブキチは、相変わらずコアのスパルタ訓練に悪戦苦闘していた。指示への反応速度は少しずつ上がってきているものの、焦るとすぐに我流の動きが出てしまう。特に、ペナルティの電撃を食らうと逆上し、壁に棍棒を叩きつけたりする悪癖が抜けない。リーダーに必要な冷静さとは程遠い。

「まあ、根気強くやるしかないか…ゴブリンにリーダーシップを求めるのが、そもそも無茶なのかもしれんが。」
俺はダッシュボードのKPIシートに、「感情コントロール能力:要大幅改善」と追記した。

一方、ゴブジの成長は目覚ましいものがあった。
『……(小声で)よし、罠解除完了。周囲に敵影なし。ポイント・シータへ移動する。』
彼は、持ち前の慎重さと観察力を活かし、斥候訓練の課題を次々とクリアしていた。隠密行動の精度は上がり、トリップワイヤー程度なら、音もなく解除できるようになった。報告も簡潔かつ正確になりつつある。まさに、斥候・工作員のスペシャリストへの道を歩み始めている。

ゴブゾウは、後方支援業務にすっかり馴染んでいた。スラきち、スラにと共に、ダンジョン内の清掃、資材運搬、そして罠のメンテナンス補助(簡単な部品交換など)を黙々とこなしている。戦闘能力は皆無だが、ダンジョンの維持管理には欠かせない存在となりつつあった。彼のような「縁の下の力持ち」も、組織には必要なのだ。

そして、リナの「ゴブリン教習所」。これも、遅々としてではあるが、進展を見せていた。
「いい? これは『1』。リンゴが『1』個。こっちは『2』。リンゴが『2』個。分かった?」
『ウ? リンゴ…ウマソウ…』
『イチ…ニ…ムズカシイ…』
リナは、身振り手振り、そしてコアが用意した絵教材を駆使しながら、根気強くゴブリンたち(主にゴブキチとゴブジ。ゴブゾウは単純作業の合間に参加)に文字と数字の基礎を教えていた。最初は「なんで私がゴブリンに!」と不満たらたらだったが、最近では、どうすれば彼らに理解させられるか、試行錯誤すること自体に、ある種のやりがい(あるいは諦観?)を見出し始めているようにも見えた。

「ふむ…ゴブリンたちの知性レベルが少しでも向上すれば、より複雑な指示も理解できるようになるかもしれない。リナの存在は、思った以上に大きいな。」
もちろん、彼女に対する監視は怠っていない。コアは常に彼女の魔力や言動をモニターし、不審な動きがあれば即座に俺に報告する体制になっている。

さて、ゴブリンたちの育成が進む一方で、俺は次のダンジョン強化策について検討を進めていた。現在の所持DPは、自然回復と、時折迷い込んでくるモリネズミやゴブリン単体を処理することで、550DPまで回復していた。

「そろそろ、新しい戦力を導入したいところだが…」
選択肢としては、ゴブリンの数を増やすか、あるいは新たな種類のモンスターを召喚するかだ。ゴブリンはコスト30DPと比較的安価で、訓練のノウハウも蓄積しつつある。数を増やせば、単純な戦力は向上するだろう。

だが、俺は別の可能性にも目を向けていた。それは、プロットにもあった「スケルトン」の導入だ。

「コア、ダンジョンレベル2で召喚可能なモンスターリストを再確認したい。ゴブリン以外には何がいる?」

『ダンジョンレベル2で現在召喚可能なモンスターは、「ゴブリン」(コスト30DP)と、「スケルトン」(コスト40DP)です。』

スケルトン。コストは40DP。ゴブリンより少し高い。

「スケルトンの基本スペックは? メリットとデメリットも合わせて教えてくれ。」

『スケルトン:アンデッド系モンスター。骨だけの体を持つ。
    *   メリット:
        *   維持コストがほぼゼロ(食事不要、休息不要)。
        *   命令に対する忠実度が極めて高い(感情がないため)。
        *   物理的な痛みを感じない。
        *   毒・精神攻撃などに耐性を持つ場合がある。
        *   矢などの貫通攻撃に比較的強い(骨の隙間を抜けるため)。
    *   デメリット:
        *   打撃攻撃に弱い(骨が砕けやすいため)。
        *   聖属性の攻撃(魔法、武器)に極めて弱い。
        *   知性・学習能力は皆無に等しい(単純な命令しか実行できない)。
        *   柔軟な状況判断ができない。
        *   生者(特に人間)に強い恐怖感や嫌悪感を与える可能性がある。
        *   日光に弱い個体もいる(ダンジョン内では問題ないが)。


「なるほど…一長一短、か。」
俺は腕を組んで唸った。維持コストゼロ、命令への絶対服従。これは、効率化を追求する俺にとって非常に魅力的だ。まるで、プログラムされたロボット兵のようだ。知性がない点も、下手に反抗されたり、サボったりするゴブリンより扱いやすいかもしれない。

だが、デメリットも大きい。打撃や聖属性に弱いというのは、冒険者の典型的な攻撃手段に対して脆弱であることを意味する。柔軟性がないため、想定外の状況に対応できない可能性も高い。そして、ゴブリン以上に「教育」による成長が見込めないだろう。

(ゴブリンは、手間はかかるが育てれば化ける可能性がある。スケルトンは、初期性能はそこそこだが、伸び代がない。まるで、手のかかる新人か、言われたことしかできないベテラン派遣社員か…)

どちらが良いとは一概には言えない。重要なのは、それぞれの特性を理解し、適材適所で使い分けることだ。

(例えば、スケルトンは定点防衛や、単純な壁役としては優秀かもしれない。ゴブリン斥候が敵を発見し、スケルトン部隊が足止め、その隙にゴブキチ率いる遊撃部隊が側面を突く…そんな連携も考えられる。)

「アンデッドについて、もう少し情報が欲しいな…」
俺は、教官役のリナを呼び出した。彼女は、ちょうどゴブリンたちへの授業(?)を終えたところだった。

「リナ、アンデッドについて聞きたい。スケルトンや、それ以上のアンデッドについて、知っていることを教えてくれ。冒険者は、アンデッドとどう戦う?」

リナは、突然の質問に少し驚いた顔をしたが、すぐに魔術師としての知識を語り始めた。

「アンデッド…死者が、何らかの魔力によって動かされている存在ね。スケルトンやゾンビは下級だけど、もっと強力なレイスやリッチ、ヴァンパイアなんかもいるわ。共通して言えるのは、生命力そのものではなく、負の魔力で動いているってこと。だから、普通の武器より、銀や聖印が刻まれた武器、あとは聖水や浄化魔法が効果的なのよ。」

「聖属性が弱点、というのはコアからも聞いた。具体的にはどれくらい弱いんだ?」

「そうね…例えば、クレリック(神官)が使う『ターン・アンデッド』なんかは、下級アンデッドなら一撃で浄化(消滅)させられることもあるわ。聖なる光を放つ魔法も、アンデッドにとっては猛毒よ。普通の火傷とは比べ物にならないダメージを受けるはず。」

クレリック…神官か。厄介な存在だな。もし、そんなクラスの冒険者が来たら、スケルトン部隊は一瞬で壊滅する可能性がある。

「冒険者パーティに、クレリックがいる確率はどれくらいだ?」

「それはパーティによるけど…バランスの取れたパーティなら、回復役兼アンデッド対策として、一人はいることが多いわね。特に、アンデッドが出ると噂のダンジョンや墓地を攻略する場合は必須よ。」

(なるほど…スケルトンを主力にするのはリスクが高いか。あくまで補助戦力、あるいは特定の状況下での切り札として考えるべきだな。)

「分かった、参考になった。下がっていいぞ。」
俺が言うと、リナは少し不満そうな顔(もっと話したかったのか、あるいは早く解放されたいのか)をしながらも、おとなしく下がっていった。

俺は再びダッシュボードに向き直った。
「コア、スケルトンを召喚するために、何か特別な条件はあるか? 例えば、特定の施設が必要とか、ダンジョン内に墓地が必要とか…」

『現時点では、ダンジョンレベル2に到達していること以外に、特別な召喚条件は確認されていません。ただし、アンデッドモンスターは、ダンジョン内の「死」の属性や、負の魔力濃度が高い環境を好む傾向があります。将来的に、そういった環境を意図的に作り出すことで、アンデッドの強化や、より上位のアンデッド召喚が可能になるかもしれません。』

「負の魔力濃度…か。今はまだ考える必要はないな。」

まずは、スケルトンを少数召喚し、その実用性をテストしてみるのが良さそうだ。ゴブリンとの連携訓練にも使えるだろう。

(そのためには、もう少しDPが必要だな…最低でも、スケルトン3体で120DP。できれば5体は欲しいから200DPか。)

現在のDPは550。まだ少し足りない。
やはり、次の侵入者を待つしかないか。

そう考えていた、まさにその時だった。

『マスター! 新たな侵入者を感知! タイプ:ヒューマン! 人数:1名! 推定ランク…Eランク上位、あるいはDランク下位の可能性があります!』

コアの警告が、ダンジョン内に響き渡った。
Eランク上位、あるいはDランク下位! これまでで最も強力な相手だ! しかも、ソロ(単独)で侵入してきたということは、それなりの実力と自信があるのだろう。

訓練中のゴブリンたちが、ピタリと動きを止めた。リナも顔色を変えている。

「よし…来たか。」
俺は、不敵な笑みを浮かべた。これは、絶好の機会だ。

「ゴブリン部隊、第一戦闘配備! 訓練の成果を見せる時だ!」

俺の号令と共に、ゴブキチが、ゴブジが、そして後方支援に回ったはずのゴブゾウまでもが(なぜか)緊張した面持ちで配置につく。スライムたちも臨戦態勢に入る。

新たなダンジョン構造、強化された罠、そして訓練された(はずの)ゴブリン部隊。果たして、格上の冒険者相手にどこまで通用するのか。

俺はダッシュボードの戦闘モニターに意識を集中し、静かにその時を待った。訓練成果測定の、そして新たなDP獲得の狼煙が、今、上がろうとしていた。
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