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第22話:外部接続インターフェースとしての「ジン」と、商談のプロトコル
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ミリアがダンジョンに保護されてから、一週間ほどが過ぎた。当初は怯えきっていた彼女も、リナの献身的な世話(と、時折俺が見せる不器用な優しさ)によって、少しずつだが心を開き始めていた。
「ワタルさん、これ、なあに?」
ミリアは、俺がコア安置室で整理していた鉱石のサンプル(ゴブゾウが採掘現場から運んできたもの)を指差して尋ねてきた。まだ警戒心は残っているものの、好奇心が勝るようになってきたらしい。
「ああ、これはダンジョン…いや、この洞窟の壁から採れた石だよ。キラキラ光っているだろう?」
俺が鉄鉱石の欠片を見せると、ミリアは小さな鼻をひくつかせ、じっと石を見つめた。そして、不思議そうな顔で言った。
「うん、キラキラしてるけど…でも、中はなんだか重くて、黒っぽい感じがする。こっちの石(銅鉱石)とは、ちょっと違う匂いがするね。」
俺は内心、驚きを隠せなかった。まだ子供で、専門的な知識もないはずのミリアが、見た目だけでなく、その内部の質感や、さらには「匂い」で鉱石の違いを感じ取っている。これが、『鑑定眼(未覚醒)』の力の一端なのだろうか。
「…よく分かるな、ミリア。大したものだ。」
俺が感心して言うと、ミリアは「えへへ」と少し照れたように笑った。その笑顔は、年相応の子供らしい無邪気さを持っていた。
(この才能、やはりただ事ではないな…)
だが、今はその才能をどうこうするよりも、彼女を安全に父親の元へ返すことが最優先だ。そして、そのためには、外部との接触が不可欠となる。
ミスリル銀の採掘は順調に進み、保管庫には少しずつだが価値ある資源が蓄積され始めていた。低品質魔石も、ゴブゾウの地道な収集作業によって、それなりの数が集まってきた。これらの素材を有効活用し、DP不足を解消するためには、やはり安定した交易ルートが必要だ。
ミリアの父親が「ガルバス商会」の会長であるという事実は、まさに渡りに船だった。彼らと繋がりを持つことができれば、素材の売却だけでなく、逆にこちらが必要とする物資(例えば、魔法に関する書物や、より高度な道具など)を調達することも可能になるかもしれない。
「リスクはある…だが、リターンも大きい。やるしかないか。」
俺は、ガルバス商会との接触を決断した。問題は、どうやって接触するかだ。俺自身が動くわけにはいかない。リナは交渉向きではないだろう。ゴブリンは論外。
となると、残るは一人しかいない。
俺は、コア安置室で治療を受けつつ、ゴブジに(しぶしぶ)隠密術のコツなどを教えていたジンを呼び出した。
「ジン、お前に仕事を与える。成功すれば、相応の報酬をやろう。」
ジンは、俺の言葉にピクリと反応し、値踏みするような目で俺を見た。
「ほう? ダンジョンマスター様直々のご指名とは、光栄だな。で、どんなヤバい仕事だい?」
「フロンティアの町まで行ってもらう。そして、ガルバス商会の会長、ガルバス・ロウに接触し、メッセージを届けてもらう。」
「ガルバス商会!? あのデカいところに、俺が?」
ジンは驚きの声を上げた。ガルバス商会は、辺境の町フロンティアでは最大手の商会らしい。しがない盗賊ギルドのメンバーであるジンにとっては、雲の上の存在なのだろう。
「そうだ。内容はこうだ。『貴殿の娘、ミリア嬢は、我々が保護している。彼女は無事であり、健康だ。身代金目的ではない。我々は、彼女の安全な返還と引き換えに、貴殿と『取引』をしたいと考えている。詳細については、追って連絡する。まずは、このメッセージに対する貴殿の意思表示を、指定する方法で返答されたし』…とまあ、こんな感じだ。」
俺は、コアに代筆させた羊皮紙のメッセージ(もちろん、差出人不明、ダンジョンの場所も伏せてある)をジンに見せた。
ジンは、メッセージを読み、そして俺の顔を見て、ニヤリと笑った。
「なるほどね…あの獣人の嬢ちゃん、そんな大物の娘だったとは。それで、俺に使いっ走りをさせようってわけか。見返りは?」
「成功報酬として、まずはお前のその怪我を完全に治すための高品質ポーションをやろう。それから、お前が欲しがっていた新しい短剣(ミスリル製ではないが、良質な鋼鉄製だ)もくれてやる。さらに、今回の働き次第では、魔力枷の一時的な解除も検討しよう。」
ジンの目が、ギラリと光った。高品質ポーション、良質な短剣、そして何より「自由」の可能性。彼にとって、それは抗いがたい魅力だろう。
「…だが、もし裏切ったり、任務に失敗したり、あるいは余計なことをしたりすれば、どうなるか…分かっているな?」
俺は、彼の足元に、コアを通じて微弱な魔力スパークを発生させた。ジンはビクッと体を震わせ、顔を引きつらせた。コアによる遠隔ペナルティの恐怖は、彼にしっかり刷り込まれているようだ。
「…へへ、冗談きついぜ、マスター。分かってるよ。仕事はきっちりこなすさ。プロだからな。」
ジンは、冷や汗を拭いながらも、請け負う姿勢を見せた。
「よし、決まりだな。コア、ジンに必要なものを準備しろ。フロンティアまでの地図、変装用の少しマシな服、最低限の路銀。それと、連絡用の小型魔道具(コアと短距離通信ができる試作品)もだ。会長からの返答は、その魔道具を通じて暗号で送るように指示しろ。」
『承知いたしました。必要物資の準備、及び連絡用魔道具の用意をします。』
「ジン、お前が出発するのは明日の早朝だ。今夜はゆっくり休んで、怪我の回復に努めろ。」
「へいへい。」
こうして、ガルバス商会への接触という、リスクを伴うミッションが動き出した。俺は、ジンが油断しないように、そして絶対に裏切らないように、コアによる監視体制をさらに強化し、遠隔ペナルティの準備も怠らなかった。彼は、外部と繋がるための重要な「インターフェース」だが、同時に最も危険な「脆弱性」でもあるのだ。
翌朝、俺はジンをダンジョン入口近くまで転送した。
「いいか、ジン。フロンティアに着いたら、まず町の様子を探り、ガルバス商会の場所と、会長に安全に接触する方法を調べろ。決して力ずくで押しかけたりするな。あくまで、秘密裏に、だ。」
「分かってるって。俺は盗賊だぜ? 隠密行動はお手の物さ。」
「会長にメッセージを渡したら、すぐに結果を報告しろ。そして、指示があるまでフロンティアで待機だ。勝手な行動は許さん。」
「了解、了解。」
ジンは、新しい服に着替え、路銀と地図を受け取り、そして連絡用魔道具(耳に隠せる小型のものだ)を装着した。その姿は、しがないチンピラ盗賊というよりは、少し腕の立つ旅人か傭兵のように見えた。
「じゃあな、マスター。良い知らせを期待してな。」
ジンは、最後に不敵な笑みを残し、森の中へと姿を消した。
『ジンの追跡・監視を開始します。現在位置、周辺状況、バイタルサインを常時モニター。異常があれば即座に報告します。』
コアの報告を聞きながら、俺はダンジョンへと戻った。
あとは、待つだけだ。フロンティアまでは三日の道のり。ジンが会長に接触し、返答を得るまでには、少なくとも一週間はかかるだろう。
その間、俺たちは俺たちのやるべきことを進めるだけだ。
ダンジョンの強化、モンスターの育成、そして資源の蓄積。
俺は、ミスリル銀の採掘現場の映像をチェックした。スケルトンたちは相変わらず黙々と働き、銀色の鉱石が少しずつだが着実に掘り出されている。その輝きは、まるで俺たちの未来を照らす希望の光のようにも見えた。
(頼むぞ、ジン…)
俺は、一抹の不安を抱えながらも、この賭けが成功することを願った。ガルバス商会との取引が実現すれば、俺のホワイトダンジョン計画は、大きく前進するはずだ。
だが、世の中、そうそう上手くいくとは限らない。それを、俺は前世で嫌というほど味わってきた。
果たして、ジンからの連絡は、吉報となるのか、それとも…?
不安と期待が交錯する中で、ダンジョンの時間は、また静かに流れ始めた。
「ワタルさん、これ、なあに?」
ミリアは、俺がコア安置室で整理していた鉱石のサンプル(ゴブゾウが採掘現場から運んできたもの)を指差して尋ねてきた。まだ警戒心は残っているものの、好奇心が勝るようになってきたらしい。
「ああ、これはダンジョン…いや、この洞窟の壁から採れた石だよ。キラキラ光っているだろう?」
俺が鉄鉱石の欠片を見せると、ミリアは小さな鼻をひくつかせ、じっと石を見つめた。そして、不思議そうな顔で言った。
「うん、キラキラしてるけど…でも、中はなんだか重くて、黒っぽい感じがする。こっちの石(銅鉱石)とは、ちょっと違う匂いがするね。」
俺は内心、驚きを隠せなかった。まだ子供で、専門的な知識もないはずのミリアが、見た目だけでなく、その内部の質感や、さらには「匂い」で鉱石の違いを感じ取っている。これが、『鑑定眼(未覚醒)』の力の一端なのだろうか。
「…よく分かるな、ミリア。大したものだ。」
俺が感心して言うと、ミリアは「えへへ」と少し照れたように笑った。その笑顔は、年相応の子供らしい無邪気さを持っていた。
(この才能、やはりただ事ではないな…)
だが、今はその才能をどうこうするよりも、彼女を安全に父親の元へ返すことが最優先だ。そして、そのためには、外部との接触が不可欠となる。
ミスリル銀の採掘は順調に進み、保管庫には少しずつだが価値ある資源が蓄積され始めていた。低品質魔石も、ゴブゾウの地道な収集作業によって、それなりの数が集まってきた。これらの素材を有効活用し、DP不足を解消するためには、やはり安定した交易ルートが必要だ。
ミリアの父親が「ガルバス商会」の会長であるという事実は、まさに渡りに船だった。彼らと繋がりを持つことができれば、素材の売却だけでなく、逆にこちらが必要とする物資(例えば、魔法に関する書物や、より高度な道具など)を調達することも可能になるかもしれない。
「リスクはある…だが、リターンも大きい。やるしかないか。」
俺は、ガルバス商会との接触を決断した。問題は、どうやって接触するかだ。俺自身が動くわけにはいかない。リナは交渉向きではないだろう。ゴブリンは論外。
となると、残るは一人しかいない。
俺は、コア安置室で治療を受けつつ、ゴブジに(しぶしぶ)隠密術のコツなどを教えていたジンを呼び出した。
「ジン、お前に仕事を与える。成功すれば、相応の報酬をやろう。」
ジンは、俺の言葉にピクリと反応し、値踏みするような目で俺を見た。
「ほう? ダンジョンマスター様直々のご指名とは、光栄だな。で、どんなヤバい仕事だい?」
「フロンティアの町まで行ってもらう。そして、ガルバス商会の会長、ガルバス・ロウに接触し、メッセージを届けてもらう。」
「ガルバス商会!? あのデカいところに、俺が?」
ジンは驚きの声を上げた。ガルバス商会は、辺境の町フロンティアでは最大手の商会らしい。しがない盗賊ギルドのメンバーであるジンにとっては、雲の上の存在なのだろう。
「そうだ。内容はこうだ。『貴殿の娘、ミリア嬢は、我々が保護している。彼女は無事であり、健康だ。身代金目的ではない。我々は、彼女の安全な返還と引き換えに、貴殿と『取引』をしたいと考えている。詳細については、追って連絡する。まずは、このメッセージに対する貴殿の意思表示を、指定する方法で返答されたし』…とまあ、こんな感じだ。」
俺は、コアに代筆させた羊皮紙のメッセージ(もちろん、差出人不明、ダンジョンの場所も伏せてある)をジンに見せた。
ジンは、メッセージを読み、そして俺の顔を見て、ニヤリと笑った。
「なるほどね…あの獣人の嬢ちゃん、そんな大物の娘だったとは。それで、俺に使いっ走りをさせようってわけか。見返りは?」
「成功報酬として、まずはお前のその怪我を完全に治すための高品質ポーションをやろう。それから、お前が欲しがっていた新しい短剣(ミスリル製ではないが、良質な鋼鉄製だ)もくれてやる。さらに、今回の働き次第では、魔力枷の一時的な解除も検討しよう。」
ジンの目が、ギラリと光った。高品質ポーション、良質な短剣、そして何より「自由」の可能性。彼にとって、それは抗いがたい魅力だろう。
「…だが、もし裏切ったり、任務に失敗したり、あるいは余計なことをしたりすれば、どうなるか…分かっているな?」
俺は、彼の足元に、コアを通じて微弱な魔力スパークを発生させた。ジンはビクッと体を震わせ、顔を引きつらせた。コアによる遠隔ペナルティの恐怖は、彼にしっかり刷り込まれているようだ。
「…へへ、冗談きついぜ、マスター。分かってるよ。仕事はきっちりこなすさ。プロだからな。」
ジンは、冷や汗を拭いながらも、請け負う姿勢を見せた。
「よし、決まりだな。コア、ジンに必要なものを準備しろ。フロンティアまでの地図、変装用の少しマシな服、最低限の路銀。それと、連絡用の小型魔道具(コアと短距離通信ができる試作品)もだ。会長からの返答は、その魔道具を通じて暗号で送るように指示しろ。」
『承知いたしました。必要物資の準備、及び連絡用魔道具の用意をします。』
「ジン、お前が出発するのは明日の早朝だ。今夜はゆっくり休んで、怪我の回復に努めろ。」
「へいへい。」
こうして、ガルバス商会への接触という、リスクを伴うミッションが動き出した。俺は、ジンが油断しないように、そして絶対に裏切らないように、コアによる監視体制をさらに強化し、遠隔ペナルティの準備も怠らなかった。彼は、外部と繋がるための重要な「インターフェース」だが、同時に最も危険な「脆弱性」でもあるのだ。
翌朝、俺はジンをダンジョン入口近くまで転送した。
「いいか、ジン。フロンティアに着いたら、まず町の様子を探り、ガルバス商会の場所と、会長に安全に接触する方法を調べろ。決して力ずくで押しかけたりするな。あくまで、秘密裏に、だ。」
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「会長にメッセージを渡したら、すぐに結果を報告しろ。そして、指示があるまでフロンティアで待機だ。勝手な行動は許さん。」
「了解、了解。」
ジンは、新しい服に着替え、路銀と地図を受け取り、そして連絡用魔道具(耳に隠せる小型のものだ)を装着した。その姿は、しがないチンピラ盗賊というよりは、少し腕の立つ旅人か傭兵のように見えた。
「じゃあな、マスター。良い知らせを期待してな。」
ジンは、最後に不敵な笑みを残し、森の中へと姿を消した。
『ジンの追跡・監視を開始します。現在位置、周辺状況、バイタルサインを常時モニター。異常があれば即座に報告します。』
コアの報告を聞きながら、俺はダンジョンへと戻った。
あとは、待つだけだ。フロンティアまでは三日の道のり。ジンが会長に接触し、返答を得るまでには、少なくとも一週間はかかるだろう。
その間、俺たちは俺たちのやるべきことを進めるだけだ。
ダンジョンの強化、モンスターの育成、そして資源の蓄積。
俺は、ミスリル銀の採掘現場の映像をチェックした。スケルトンたちは相変わらず黙々と働き、銀色の鉱石が少しずつだが着実に掘り出されている。その輝きは、まるで俺たちの未来を照らす希望の光のようにも見えた。
(頼むぞ、ジン…)
俺は、一抹の不安を抱えながらも、この賭けが成功することを願った。ガルバス商会との取引が実現すれば、俺のホワイトダンジョン計画は、大きく前進するはずだ。
だが、世の中、そうそう上手くいくとは限らない。それを、俺は前世で嫌というほど味わってきた。
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