元社畜、異世界でダンジョン経営始めます~ブラック企業式効率化による、最強ダンジョン構築計画~

夏見ナイ

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第23話:待機フェーズの日常と、内部リソースの最適化

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盗賊ジンがフロンティアの町へ向けて出発してから、五日が経過した。コアによる追跡・監視によれば、彼は特に問題なく道中を進み、昨日の夕方にはフロンティアに到着したらしい。最初の定時連絡では、「無事到着。町は思ったよりデカく、活気がある。ガルバス商会は町の中心部にデカい屋敷を構えてやがる。会長への接触方法は現在調査中。また連絡する」という、簡潔だが最低限の情報が送られてきた。

「まあ、焦りは禁物だな。相手は大商人だ、そう簡単には会えんだろう。」

俺はコア安置室でダッシュボードを眺めながら、ジンの報告を確認した。彼が裏切ったり、トラブルに巻き込まれたりしていないだけでも良しとしなければならない。今は、彼からの次の連絡を待ちつつ、ダンジョン内の運営を着実に進めるだけだ。

幸い、ダンジョン内は比較的平穏だった。ジンが出発して以来、目立った侵入者は現れていない。時折、迷い込んだゴブリンや小動物が罠にかかる程度で、第一階層の防衛システムは安定して機能している。そのおかげで、DPも順調に回復し、現在は740DPまで蓄積されていた。目標の1500DPにはまだ遠いが、着実な前進だ。

この待機フェーズを利用して、俺はダンジョン内のリソース最適化と、戦力育成に注力することにした。

まず、ミスリル銀の採掘。スケルトン採掘チームとゴブゾウの働きにより、銀色の鉱石が順調に集積されつつある。コアの分析によれば、あと数日でインゴット1本分(5000DP相当)の原石が確保できる見込みだ。これは大きい。

そして先日、採掘現場で新たな発見があった。ミスリル鉱脈の近くで、淡い青色の光を放つ水晶のような鉱石が見つかったのだ。

『マスター、分析結果が出ました。この鉱石は「魔力水晶」と呼ばれるもので、純粋な魔力が高密度で結晶化したものです。魔石の一種ですが、低品質魔石よりも遥かに魔力伝導率が高く、魔法具のコア素材や、高度な魔術の触媒として利用されます。希少価値はミスリル銀に匹敵、あるいはそれ以上です。』

ミスリル銀に加えて、魔力水晶まで! このダンジョン、思った以上にお宝が眠っているらしい。まるで、資源豊富な新興国のようなポテンシャルを秘めている。

「よし、魔力水晶も慎重に採掘を進めろ。ゴブゾウ、収集と管理を徹底するように。」

『ヒッ! は、はい! お任せください!』
ゴブゾウは、最近、後方支援業務に自信を持ち始めたのか、以前よりはハキハキと返事をするようになった。

次に、モンスターたちの育成状況。
リーダー候補のゴブキチは、相変わらずコアのスパルタ訓練に悲鳴を上げているが、スケルトン部隊の指揮には目覚ましい進歩を見せていた。
「スケルトン隊! 防御方陣! 前方の敵(訓練用の木人)の攻撃を防ぎつつ、左右に展開! 側面から回り込め!」
彼の指示で、8体のスケルトンが整然と動き、木人を包囲していく。以前のような混乱は見られない。

(よしよし、少しはリーダーらしくなってきたな。あとは、実戦での冷静さを身につければ…)

斥候役のゴブジは、ジンの(悪態混じりの)指導を受け、罠解除と隠密術のスキルをさらに伸ばしていた。
「ふん、まあまあだな。だが、まだ足音がデカい。気配の消し方も甘い。もっとこう、影に溶け込むようにだな…」
ジンは、松葉杖をつきながらも、自ら手本を見せる。その動きは、怪我をしているとは思えないほど滑らかで、音もなく、まるで存在感が消えるかのようだ。
「ヒ、ヒエ~…」
ゴブジは、ジンの動きに感嘆(と恐怖)の声を漏らしながらも、必死にその技術を学ぼうとしていた。彼がマスターすれば、ダンジョンの索敵・妨害能力は大きく向上するだろう。

そして、懸案事項だったリナとミリアの関係。
コア安置室から少し離れた、ミリアに与えられた部屋からは、最近、楽しそうな声が聞こえてくるようになった。

「いい? これは『花』。こっちは『鳥』。じゃあ、これはなあに?」
リナが、コアが用意した絵本のような教材を使って、ミリアに文字を教えている。
「えっと…『木』!」
「正解! よくできたわね、ミリアちゃん!」
「えへへー!」

当初はぎこちなかった二人だが、リナの根気強い世話と、ミリアの子供らしい素直さによって、姉妹のような関係が築かれつつあった。ミリアの表情も明るくなり、笑顔を見せる時間が増えた。鑑定眼の兆候も、時折見られる。例えば、リナが淹れた薬草茶を飲んで、「これ、なんだか体がポカポカする匂いがするね」と言ったり(実際に、軽い血行促進効果のある薬草だった)、俺がDPで購入したゴブリン用の干し肉を見て、「こっちのお肉より、ゴブジさんがもらってたお肉の方が、なんだか元気が出そうな味がしそう」と呟いたり(ゴブジには、特別報酬として少し上質な肉を与えていた)。その観察眼は、ますます鋭くなっているようだ。

(彼女の才能は、やはり本物だな…だが、今はまだ伏せておくべきだ。)

俺は、二人の微笑ましい(?)様子を監視カメラ越しに確認し、少しだけ安堵した。ミリアの精神的な安定は、今後の計画を進める上で重要だ。

そんな、比較的穏やかな日常の中で、俺はもう一つの内部リソース最適化に着手していた。それは、ダンジョン内で回収される「低品質素材」の再利用だ。

ゴブリンの牙や爪、スケルトンの骨(特に強度のある部分)、鉄鉱石や銅鉱石の欠片、そして低品質魔石。これらは、外部に売却しても大した価値にはならないが、ダンジョン内で加工・利用すれば、DPの節約に繋がる可能性がある。

「コア、これらの低品質素材を使って、ゴブリン用の簡易な装備品を生産することは可能か? 例えば、骨を加工した矢じりとか、鉄鉱石から作った粗末な鎧とか。」

『素材加工機能の導入ですね。簡易的な溶解炉、鍛冶設備、作業台などを設置すれば可能です。加工プロセスには、ある程度の魔力(DP)と、作業を担当するモンスター(手先の器用なゴブリンや、あるいはゴーレムなど)が必要になります。』

「ゴーレム…か。それもいずれは導入したいが、今はまだDPが足りないな。とりあえず、簡易な設備だけでいい。コストは?」

『最低限の素材加工設備一式で、約100DPと試算されます。』

100DPか…現在のDP(740DP)なら問題ない。これで、ゴブリンたちの装備を少しでも強化できれば、戦力の底上げになるし、DPの節約にも繋がる。投資する価値はありそうだ。

「よし、設置を頼む。場所は、訓練スペースの隣の空き区画だ。作業は…当面、手先の器用そうなゴブリン(ゴブジあたりか?)に、訓練の合間にやらせてみるか。」

『承知いたしました。素材加工設備を設置します。』

こうして、ダンジョン内にささやかな「工房」が誕生した。これで、資源採掘(スケルトン、ゴブゾウ)→素材加工(ゴブジ?)→装備強化(ゴブキチ、他ゴブリン)→戦闘力向上、という内部での経済循環(?)のサイクルが、少しずつ回り始めることになる。

DP収入を増やすだけでなく、DP支出を抑え、内部リソースを最大限に活用する。これもまた、効率化を追求する上で重要な視点だ。

全ての歯車が、少しずつ、しかし確実に噛み合い始めている。ダンジョンというシステムが、自己進化していくような感覚。それは、システムエンジニアとしての本能をくすぐる、たまらない面白さがあった。

俺は、改良されたダッシュボードに表示される、様々なパラメータの緩やかな上昇カーブを眺めながら、満足げに頷いた。

「よし、この調子だ。ジンからの次の連絡が来るまで、内部固めを着実に進めよう。」

フロンティアからの連絡が、吉報であることを祈りつつ。そして、その連絡が、この順調な内部発展に、どんな影響を与えることになるのか、一抹の不安も感じながら。

安定は、いつまでも続くとは限らないのだから。俺は、気を引き締め直し、次なる「最適化」のターゲットを探し始めた。ホワイトダンジョンへの道は、常に改善の連続なのだ。
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