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第30話:交渉の天秤と、オークという名の新たな「リソース」
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フロンティアのジン(分身)からの連絡を待つ日々は、ダンジョン内の着実な発展と並行して過ぎていった。工房ではゴブジがミスリルインゴットの生産に熟練度を増し、訓練スペースではゴブキチが(まだ悲鳴を上げながらも)指揮官としての体裁を整えつつあった。ミリアはリナに懐き、時折その秘めたる『鑑定眼』の片鱗を見せ、ダンジョンに僅かながらも彩りを与えていた。
DPも順調に回復し、980DPに到達。目標の1500DPにはまだ遠いが、地下二階層着工への道筋は、以前よりはっきりと見えてきている。
そして、ジンがガルバス会長との二度目の接触を試みてから三日後。コア安置室に、待ちわびた通信が入った。
『マスター! ジンより緊急連絡! 会長との再交渉、終了! 返答を得ました!』
俺は即座にダッシュボードの通信ログを開いた。リナとジン(本体)も、固唾を飲んで画面を見守る。
『解読完了。内容は以下の通り。
「マスターへ。ジンだ。会長との話、つけてきたぜ。ミリア嬢ちゃんの声、効果てきめんだったな。会長、涙ぐんでやがった。あんたの指示通り、こっちの素性は『辺境の力ある中立組織』ってことで通した。ミスリルのサンプルも効いたな。目がマジだったぜ。で、肝心の返答だが…『取引には前向きだ。だが、娘の安全をこの目で確認するまでは、全面的な信用はできん。そちらの代表者(前回のリナ殿のような)と、護衛若干名で、五日後、前回と同じ倉庫に来てほしい。そこで、娘と短時間でいい、直接話をさせろ。それが叶えば、具体的な交易条件…ミスリルや他の資源の買い取り価格、供給量、支払い方法などについて、正式に話し合おう。ただし、こちらの護衛も前回より増強させてもらう。不測の事態に備えてな』…だとさ。どうする? また俺とリナの姉ちゃん、ゴブジで行くか?」
』
「…娘との直接面会か。」
俺は腕を組み、唸った。会長側の要求は、ある意味当然だ。娘の安否を声だけでなく、直接確認したいというのは親心だろう。だが、ミリアをダンジョン外に出すのはリスクが高すぎる。彼女の身の安全もそうだが、ダンジョンの場所や内部情報が漏れる危険性が格段に上がる。
「ミリアちゃんを外に連れ出すのは、危険すぎます!」
リナが、案の定、心配そうな声を上げた。
「ああ、それは同感だ。だが、会長の要求を完全に突っぱねれば、交渉決裂の可能性もある。どうしたものか…」
「へっ、ならよぉ、マスター。」ジン(本体)が、悪知恵を働かせるように口を開いた。「会長の方を、こっち(ダンジョン)に呼び込むってのはどうだ? もちろん、場所は限定して、厳重な監視下でな。こっちのホームグラウンドなら、万が一の時も対処しやすいぜ?」
「会長をダンジョンに…?」
それは、大胆な提案だった。リスクは高い。ダンジョンマスターであることが露見する可能性もある。だが、成功すれば、相手にこちらの「力」を効果的に見せつけ、交渉を有利に進められるかもしれない。
(会長一人だけを、ダンジョン入口近くの、偽装した安全な部屋に招き入れる…護衛は外で待たせ、ミリアと短時間だけ面会させる。コアとゴブジ、そしてジン(本体)が、万全の警備体制を敷く。これなら、あるいは…?)
リスクとリターンを天秤にかける。
リスク:ダンジョンマスターであることがバレる可能性。交渉決裂時の相手の報復。
リターン:交渉の主導権を握れる。相手に畏敬の念を与え、有利な条件を引き出せる可能性。ミリアを外に出すリスクを回避できる。
「…面白いかもしれんな。」
俺は、ジンの提案に乗ることに決めた。ハイリスク・ハイリターンだが、この膠着状態を打破するには、それくらいの賭けが必要だろう。
「よし、方針決定だ。コア、ジン(分身)への返信を作成しろ。」
『ジンへ。会長の要求は受け入れられない。ミリア嬢を危険なダンジョン外へ連れ出すことは、保護者として容認できない。代替案として、こちらから提案がある。五日後、会長『本人のみ』を、我々の拠点(ダンジョンのこととは言わない)の『入口付近の安全な一室』へ招待する。そこで、ミリア嬢と短時間面会させることを許可しよう。護衛は、指定した場所で待機してもらう。これが、我々が提示できる最大限の譲歩だ。この条件を呑むか否か、会長の最終判断を仰げ。もし呑めないというなら、今回の話はなかったことにする。ミリア嬢の身柄は、別の安全な方法で必ず家族の元へ返す、と付け加えろ。』
これは、強気の交渉だ。だが、こちらにはミリアの身柄と、ミスリルというカードがある。会長としても、この提案を無下にはできないはずだ。
「…いいのかい、マスター? そんな強気で。」ジン(本体)が面白そうに尋ねる。
「ああ。舐められたら終わりだ。対等な関係を築くためには、時には毅然とした態度も必要だ。」
『メッセージ送信完了しました。』
これで、ボールは再びガルバス会長へと渡った。彼の決断を待つしかない。
さて、交渉が次の段階へ進むことを見越して、俺は内部の準備を加速させる必要があった。特に、戦力の増強だ。Cランクパーティとの戦闘で露呈したように、ゴブリンとスケルトンだけでは、今後の脅威に対応しきれない可能性がある。
プロットにもあった、新たな中型モンスターの導入。その候補として、俺は「オーク」に注目していた。
「コア、オークの基本スペックと召喚コスト、メリット・デメリットを教えてくれ。」
『オーク:中型亜人種モンスター。豚に似た容貌を持つ。
* 召喚コスト:80DP
* メリット:
* ゴブリンを上回る高い筋力と耐久力を持つ。パワータイプの戦士として活躍が期待できる。
* ある程度の知性を持ち、単純な武器(棍棒、斧など)を扱うことができる。
* 群れで行動する習性があり、統率次第では集団戦術も可能。
* (一部の個体は)繁殖能力を持つ場合がある(ただし、ダンジョン内での繁殖制御は困難)。
* デメリット:
* 敏捷性は低い。
* 知性はゴブリンよりやや高い程度で、複雑な命令の理解は難しい。
* 凶暴性が高く、扱いを間違えると危険。
* 食欲旺盛で、食料コスト(維持費)がゴブリンより高い。
* 衛生観念が極めて低い。』
コスト80DP。ゴブリンの倍以上だが、そのパワーと耐久力は魅力的だ。単純な壁役や、突撃要員として使えそうだ。繁殖能力も、上手く管理できれば、DPを使わずに戦力を増やせる可能性がある。
だが、デメリットも大きい。凶暴性、低い知性、高い食料コスト、そして不潔さ。ゴブリン以上に、管理と教育が重要になるだろう。
(ゴブリン部隊を知性・技術担当、オーク部隊をパワー・突撃担当として、役割分担させるのはどうだろうか? 指揮官は…ゴブキチにオークまで統率させるのは荷が重いか。オークの中から、新たなリーダーを選抜する必要があるな。)
「よし、オークの導入を検討しよう。まずは少数…2体ほど召喚して、その性質と実用性をテストしてみるか。」
DPは811。オーク2体なら160DP。まだ余裕はある。
「コア、オークを2体召喚しろ。」
『承知いたしました。オークを2体召喚します。コスト160DP。』
コア安置室の中央に、ゴブリンよりも一回りも二回りも大きな、緑色の肌と豚のような鼻を持つ、筋骨隆々とした人型モンスターが2体出現した! 身長は2メートル近くありそうだ。手には、巨大な骨付き肉…ではなく、粗末な棍棒を握っている。
「ブヒィィ!」「グゴゴゴ!」
彼らは、出現するなり、周囲を威嚇するように唸り声を上げ、その目は凶暴な光を放っている。ゴブリンたちとは明らかに違う、野蛮で粗野な雰囲気だ。
(これは…ゴブリン以上に、躾が大変そうだな…)
俺は、コアの威圧と、報酬(大量の食料)と罰(電撃ペナルティ)を組み合わせた、オーク向けの「新人研修プログラム」を、新たに考案する必要性を感じていた。
新たなモンスター、オーク。彼らをどう育て、どう活用していくか。それは、今後のダンジョン運営における、新たな課題であり、楽しみでもあった。
工房ではミスリルが輝きを増し、訓練場ではゴブリンたちが汗を流し、そして今、新たなリソース(オーク)がダンジョンに加わった。内部は着実に強化されている。
あとは、外部との接続点――ガルバス商会との交渉が、どう転ぶか。
俺は、ダッシュボードに表示されたフロンティアのマップと、そこへ向かっているはずのジンのアイコンを眺めながら、静かに会長の返答を待った。
天秤は、どちらに傾くのか。その結果が、俺のホワイトダンジョン計画の未来を、大きく左右することになるだろう。
DPも順調に回復し、980DPに到達。目標の1500DPにはまだ遠いが、地下二階層着工への道筋は、以前よりはっきりと見えてきている。
そして、ジンがガルバス会長との二度目の接触を試みてから三日後。コア安置室に、待ちわびた通信が入った。
『マスター! ジンより緊急連絡! 会長との再交渉、終了! 返答を得ました!』
俺は即座にダッシュボードの通信ログを開いた。リナとジン(本体)も、固唾を飲んで画面を見守る。
『解読完了。内容は以下の通り。
「マスターへ。ジンだ。会長との話、つけてきたぜ。ミリア嬢ちゃんの声、効果てきめんだったな。会長、涙ぐんでやがった。あんたの指示通り、こっちの素性は『辺境の力ある中立組織』ってことで通した。ミスリルのサンプルも効いたな。目がマジだったぜ。で、肝心の返答だが…『取引には前向きだ。だが、娘の安全をこの目で確認するまでは、全面的な信用はできん。そちらの代表者(前回のリナ殿のような)と、護衛若干名で、五日後、前回と同じ倉庫に来てほしい。そこで、娘と短時間でいい、直接話をさせろ。それが叶えば、具体的な交易条件…ミスリルや他の資源の買い取り価格、供給量、支払い方法などについて、正式に話し合おう。ただし、こちらの護衛も前回より増強させてもらう。不測の事態に備えてな』…だとさ。どうする? また俺とリナの姉ちゃん、ゴブジで行くか?」
』
「…娘との直接面会か。」
俺は腕を組み、唸った。会長側の要求は、ある意味当然だ。娘の安否を声だけでなく、直接確認したいというのは親心だろう。だが、ミリアをダンジョン外に出すのはリスクが高すぎる。彼女の身の安全もそうだが、ダンジョンの場所や内部情報が漏れる危険性が格段に上がる。
「ミリアちゃんを外に連れ出すのは、危険すぎます!」
リナが、案の定、心配そうな声を上げた。
「ああ、それは同感だ。だが、会長の要求を完全に突っぱねれば、交渉決裂の可能性もある。どうしたものか…」
「へっ、ならよぉ、マスター。」ジン(本体)が、悪知恵を働かせるように口を開いた。「会長の方を、こっち(ダンジョン)に呼び込むってのはどうだ? もちろん、場所は限定して、厳重な監視下でな。こっちのホームグラウンドなら、万が一の時も対処しやすいぜ?」
「会長をダンジョンに…?」
それは、大胆な提案だった。リスクは高い。ダンジョンマスターであることが露見する可能性もある。だが、成功すれば、相手にこちらの「力」を効果的に見せつけ、交渉を有利に進められるかもしれない。
(会長一人だけを、ダンジョン入口近くの、偽装した安全な部屋に招き入れる…護衛は外で待たせ、ミリアと短時間だけ面会させる。コアとゴブジ、そしてジン(本体)が、万全の警備体制を敷く。これなら、あるいは…?)
リスクとリターンを天秤にかける。
リスク:ダンジョンマスターであることがバレる可能性。交渉決裂時の相手の報復。
リターン:交渉の主導権を握れる。相手に畏敬の念を与え、有利な条件を引き出せる可能性。ミリアを外に出すリスクを回避できる。
「…面白いかもしれんな。」
俺は、ジンの提案に乗ることに決めた。ハイリスク・ハイリターンだが、この膠着状態を打破するには、それくらいの賭けが必要だろう。
「よし、方針決定だ。コア、ジン(分身)への返信を作成しろ。」
『ジンへ。会長の要求は受け入れられない。ミリア嬢を危険なダンジョン外へ連れ出すことは、保護者として容認できない。代替案として、こちらから提案がある。五日後、会長『本人のみ』を、我々の拠点(ダンジョンのこととは言わない)の『入口付近の安全な一室』へ招待する。そこで、ミリア嬢と短時間面会させることを許可しよう。護衛は、指定した場所で待機してもらう。これが、我々が提示できる最大限の譲歩だ。この条件を呑むか否か、会長の最終判断を仰げ。もし呑めないというなら、今回の話はなかったことにする。ミリア嬢の身柄は、別の安全な方法で必ず家族の元へ返す、と付け加えろ。』
これは、強気の交渉だ。だが、こちらにはミリアの身柄と、ミスリルというカードがある。会長としても、この提案を無下にはできないはずだ。
「…いいのかい、マスター? そんな強気で。」ジン(本体)が面白そうに尋ねる。
「ああ。舐められたら終わりだ。対等な関係を築くためには、時には毅然とした態度も必要だ。」
『メッセージ送信完了しました。』
これで、ボールは再びガルバス会長へと渡った。彼の決断を待つしかない。
さて、交渉が次の段階へ進むことを見越して、俺は内部の準備を加速させる必要があった。特に、戦力の増強だ。Cランクパーティとの戦闘で露呈したように、ゴブリンとスケルトンだけでは、今後の脅威に対応しきれない可能性がある。
プロットにもあった、新たな中型モンスターの導入。その候補として、俺は「オーク」に注目していた。
「コア、オークの基本スペックと召喚コスト、メリット・デメリットを教えてくれ。」
『オーク:中型亜人種モンスター。豚に似た容貌を持つ。
* 召喚コスト:80DP
* メリット:
* ゴブリンを上回る高い筋力と耐久力を持つ。パワータイプの戦士として活躍が期待できる。
* ある程度の知性を持ち、単純な武器(棍棒、斧など)を扱うことができる。
* 群れで行動する習性があり、統率次第では集団戦術も可能。
* (一部の個体は)繁殖能力を持つ場合がある(ただし、ダンジョン内での繁殖制御は困難)。
* デメリット:
* 敏捷性は低い。
* 知性はゴブリンよりやや高い程度で、複雑な命令の理解は難しい。
* 凶暴性が高く、扱いを間違えると危険。
* 食欲旺盛で、食料コスト(維持費)がゴブリンより高い。
* 衛生観念が極めて低い。』
コスト80DP。ゴブリンの倍以上だが、そのパワーと耐久力は魅力的だ。単純な壁役や、突撃要員として使えそうだ。繁殖能力も、上手く管理できれば、DPを使わずに戦力を増やせる可能性がある。
だが、デメリットも大きい。凶暴性、低い知性、高い食料コスト、そして不潔さ。ゴブリン以上に、管理と教育が重要になるだろう。
(ゴブリン部隊を知性・技術担当、オーク部隊をパワー・突撃担当として、役割分担させるのはどうだろうか? 指揮官は…ゴブキチにオークまで統率させるのは荷が重いか。オークの中から、新たなリーダーを選抜する必要があるな。)
「よし、オークの導入を検討しよう。まずは少数…2体ほど召喚して、その性質と実用性をテストしてみるか。」
DPは811。オーク2体なら160DP。まだ余裕はある。
「コア、オークを2体召喚しろ。」
『承知いたしました。オークを2体召喚します。コスト160DP。』
コア安置室の中央に、ゴブリンよりも一回りも二回りも大きな、緑色の肌と豚のような鼻を持つ、筋骨隆々とした人型モンスターが2体出現した! 身長は2メートル近くありそうだ。手には、巨大な骨付き肉…ではなく、粗末な棍棒を握っている。
「ブヒィィ!」「グゴゴゴ!」
彼らは、出現するなり、周囲を威嚇するように唸り声を上げ、その目は凶暴な光を放っている。ゴブリンたちとは明らかに違う、野蛮で粗野な雰囲気だ。
(これは…ゴブリン以上に、躾が大変そうだな…)
俺は、コアの威圧と、報酬(大量の食料)と罰(電撃ペナルティ)を組み合わせた、オーク向けの「新人研修プログラム」を、新たに考案する必要性を感じていた。
新たなモンスター、オーク。彼らをどう育て、どう活用していくか。それは、今後のダンジョン運営における、新たな課題であり、楽しみでもあった。
工房ではミスリルが輝きを増し、訓練場ではゴブリンたちが汗を流し、そして今、新たなリソース(オーク)がダンジョンに加わった。内部は着実に強化されている。
あとは、外部との接続点――ガルバス商会との交渉が、どう転ぶか。
俺は、ダッシュボードに表示されたフロンティアのマップと、そこへ向かっているはずのジンのアイコンを眺めながら、静かに会長の返答を待った。
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