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第31話:オークという名の暴れ牛と、会談へのカウントダウン
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新たに召喚された二体のオーク――彼らに仮名を付ける必要を感じ、体格の大きい方を「オークA(オーキチ)」、やや小柄(それでもゴブリンより遥かに大きい)な方を「オークB(オーゾウ)」と呼ぶことにした――は、予想通り、あるいはそれ以上に厄介な存在だった。
「ブモォォォ!」「グゴゴゴ!」
彼らは、コア安置室の隣に急遽設けたオーク専用の待機所(ゴブリンたちの待機所とは隔離されている。衛生観念の違いと、無用な衝突を避けるためだ)で、常に何かに苛立っているかのように唸り声を上げ、壁や床を無意味に殴りつけていた。そのパワーは凄まじく、早くも壁の一部にヒビが入っている。
「コア、待機所の壁、さらに強化しておけ。それと、オークたちのストレス軽減策として、何か殴っても壊れないような頑丈な『サンドバッグ』的なものを設置してやってくれ。」
『承知いたしました。壁面強化(対オーク仕様)、及びストレス軽減用オブジェクト(高耐久性素材)の設置を実行します。コスト30DP。』
DPがまた減っていく…オークの維持費は、食料だけでなく、こういう設備投資の面でも高くつきそうだ。
彼らへの「新人研修」も難航を極めた。ゴブリンたちには有効だったコアの威圧や電撃ペナルティも、オークに対しては効果が薄い。多少は怯むものの、すぐに逆上し、さらに凶暴性を増してしまうのだ。
「ブヒィィィ!!」
オーキチ(オークA)は、電撃を受けたことに逆上し、近くにあった訓練用の木人を、棍棒で粉々に破壊してしまった。
「おいおい、マジかよ…」
訓練の様子を見ていたジンが、呆れたように呟く。「こいつら、ゴブリン以上に頭が悪い上に、キレやすいときてる。どうやって使うんだ、こんな奴ら。」
(確かに、ゴブリンと同じような教育方法では無理だな…彼らの性質に合わせたアプローチが必要だ。)
俺は、オークの特性を再確認した。高い筋力、低い知性、高い凶暴性、そして旺盛な食欲。
彼らを動かすには、「恐怖」や「理性」に訴えるよりも、もっと原始的な「本能」に訴えかける方が効果的なのかもしれない。
「コア、オーク向けの訓練プログラムを変更する。複雑な命令や連携は後回しだ。まずは、単純な『条件反射』を叩き込む。『特定の合図(音や光)があったら、指定された方向に突撃する』『特定の場所で待機する』『食事の時間になったら、静かにおとなしく待つ』…これを、徹底的に反復させる。成功したら、報酬として大量の食事を与える。失敗したら…食事抜きだ。」
アメとムチ、というよりは、ほとんど動物の調教に近い。だが、彼らのような単純な思考回路の持ち主には、これくらい分かりやすい方が有効だろう。
『了解しました。オーク用訓練プログラムVer.0.1『条件反射と食欲制御』を開始します。』
訓練スペースでは、コアが発する特定のブザー音に合わせて突進する、指定された円の中に留まる、といった訓練が始まった。最初は無茶苦茶だったオークたちも、目の前にぶら下げられる大量の食料(主に、ダンジョン内で捕獲・処理した不味そうな獣肉)に釣られ、少しずつだが、条件反射的な動きを覚え始めた。
「ブヒッ…(メシ…)」
オーゾウ(オークB)が、よだれを垂らしながら、必死に待機サークルの中に留まろうとしている。その姿は、どこか滑稽だが、同時に、彼らを制御する糸口が見えた気がした。
(パワーはあるのだから、単純な『突撃兵』や『破壊工作員』としてなら、十分に使えるはずだ。問題は、そのパワーを、いかにして味方に被害を出さずに、敵だけに向けさせるかだな…)
オークの育成方針がある程度固まったところで、もう一つの懸案事項、ゴブゾウの様子を確認しに行った。
彼は、回復泉での治療を終え、意識を取り戻していた。だが、その様子は以前と全く変わらず、俺や他のゴブリンを見ると、ビクビクと怯えるばかりだった。
「ゴブゾウ、体の具合はどうだ? 何か覚えているか?」
俺が尋ねると、ゴブゾウは首を横に振るばかりだ。
「…お、覚えてません…気づいたら、ここに…お、俺、何かしましたか…?」
どうやら、バーサーカー化していた間の記憶は、完全に失われているらしい。そして、自分が何をしでかしたのかも理解していないようだ。
(下手に刺激するのは、やはり危険だな…)
コアによる再検査でも、バーサーカー化の明確な原因やメカニズムは不明なままだった。ただ、「極度のストレス」や「仲間への危機」が引き金になる可能性が高い、という推測だけが残った。
「ゴブゾウ、お前はしばらく、工房の手伝いや清掃作業に専念してくれ。無理はするなよ。」
俺は、そう言って彼を後方支援任務に戻した。彼の処遇については、今後も慎重に検討していく必要がある。
そんな中、フロンティアのジン(分身)から、ついにガルバス会長の最終返答がもたらされた。
『マスター! ジンより最終報告! 会長、こちらの提案(会長本人のみ、ダンジョン入口付近での面会)を受け入れました! 日時は予定通り、明後日! ただし、条件として「面会場所の安全性を、事前にこちらで確認させろ」とのこと。どうやら、罠がないか調べたいらしい。』
「…罠がないか確認、だと? ずいぶんと用心深いことだ。」
まあ、当然の要求だろう。ダンジョン(と認識しているかは不明だが)の中に、丸腰で入るのだから。
「いいだろう、その条件も呑む。だが、確認できるのは、指定した面会用の部屋とその周辺だけだ。それ以上奥への立ち入りは許可しない。ジン、そう伝えろ。そして、面会場所の準備を開始する。」
『了解! 会長に伝える!』
ガルバス会長との直接会談が、正式に決定した。残り時間は、あと二日。
俺は、コアとジン(本体)、そしてリナも交えて、準備を急ピッチで進めた。
まず、面会場所の設営。ダンジョン入口から少し入ったところに、新たに小部屋を設けた。内部には、簡素なテーブルと椅子だけを置き、壁や床には一切の仕掛けがないことを示す(もちろん、コアの力で、隠し監視カメラや緊急時の防御フィールドなどは仕込んである)。この部屋と、そこに至る短い通路だけが、会長が立ち入り、そして事前に調査できるエリアとなる。
次に、警備体制。面会場所の周囲には、ゴブジと、新たに召喚したスケルトン数体(DPに余裕ができたので5体補充。コスト200DP。残りDPは600)を、気配を消して配置する。ジン(本体)も、万が一に備えて近くに待機させる。コアは、ダンジョン全体の監視レベルを最大にし、会長(と、おそらく外で待機するであろう護衛)の動きを常にモニターする。
そして、ミリアへの説明。
「ミリア、明後日、君のパパがここに会いに来てくれることになったよ。」
俺が告げると、ミリアは「ほんと!? やったー!」と飛び上がって喜んだ。
「ただし、会えるのは短い時間だけだ。それに、パパには、まだここのこと(ダンジョンのこと)は内緒にしておいてほしいんだ。君を安全に送り届けるために、必要なことなんだ。協力してくれるかい?」
ミリアは、少しだけ不思議そうな顔をしたが、「うん、わかった! パパに会えるなら、なんでもする!」と健気に頷いてくれた。
最後に、交渉役のリナへの最終ブリーフィング。
「リナ、君の役目は、ミリアと会長を引き合わせ、二人が話している間、場を和ませることだ。そして、会長からの質問には、正直に、しかしダンジョンの核心に触れない範囲で答える。難しい交渉はジンに任せろ。大丈夫、君ならできる。」
「は、はい…! ど、努力します…!」
リナは、深呼吸して覚悟を決めたようだった。
全ての準備が整い、あとは運命の日を待つだけとなった。
コア安置室の空気は、期待と緊張感で張り詰めている。
(この会談が成功すれば、ガルバス商会という強力なパイプラインが手に入る。ミスリルや魔力水晶を安定して換金できれば、DP問題は解決し、地下二階層の建設、さらなるダンジョンの発展へと繋がる。だが、もし失敗すれば…)
最悪の場合、ガルバス商会と敵対し、王国やギルドに情報が渡り、大規模な討伐隊が送り込まれる可能性もある。まさに、天国と地獄だ。
俺は、ダッシュボードに表示されたカウントダウン(会談までの残り時間)を睨みつけながら、あらゆる事態を想定し、シミュレーションを繰り返した。罠、モンスター、捕虜、資源、そして外部との交渉。ダンジョンマスターとしての判断が、今、試されようとしていた。
カウントダウンの数字が、刻一刻と減っていく。
その一秒一秒が、やけに長く感じられた。
果たして、この会談は、俺のホワイトダンジョン計画にとって、吉と出るか、凶と出るか。その答えが出るまで、あと僅かだった。
「ブモォォォ!」「グゴゴゴ!」
彼らは、コア安置室の隣に急遽設けたオーク専用の待機所(ゴブリンたちの待機所とは隔離されている。衛生観念の違いと、無用な衝突を避けるためだ)で、常に何かに苛立っているかのように唸り声を上げ、壁や床を無意味に殴りつけていた。そのパワーは凄まじく、早くも壁の一部にヒビが入っている。
「コア、待機所の壁、さらに強化しておけ。それと、オークたちのストレス軽減策として、何か殴っても壊れないような頑丈な『サンドバッグ』的なものを設置してやってくれ。」
『承知いたしました。壁面強化(対オーク仕様)、及びストレス軽減用オブジェクト(高耐久性素材)の設置を実行します。コスト30DP。』
DPがまた減っていく…オークの維持費は、食料だけでなく、こういう設備投資の面でも高くつきそうだ。
彼らへの「新人研修」も難航を極めた。ゴブリンたちには有効だったコアの威圧や電撃ペナルティも、オークに対しては効果が薄い。多少は怯むものの、すぐに逆上し、さらに凶暴性を増してしまうのだ。
「ブヒィィィ!!」
オーキチ(オークA)は、電撃を受けたことに逆上し、近くにあった訓練用の木人を、棍棒で粉々に破壊してしまった。
「おいおい、マジかよ…」
訓練の様子を見ていたジンが、呆れたように呟く。「こいつら、ゴブリン以上に頭が悪い上に、キレやすいときてる。どうやって使うんだ、こんな奴ら。」
(確かに、ゴブリンと同じような教育方法では無理だな…彼らの性質に合わせたアプローチが必要だ。)
俺は、オークの特性を再確認した。高い筋力、低い知性、高い凶暴性、そして旺盛な食欲。
彼らを動かすには、「恐怖」や「理性」に訴えるよりも、もっと原始的な「本能」に訴えかける方が効果的なのかもしれない。
「コア、オーク向けの訓練プログラムを変更する。複雑な命令や連携は後回しだ。まずは、単純な『条件反射』を叩き込む。『特定の合図(音や光)があったら、指定された方向に突撃する』『特定の場所で待機する』『食事の時間になったら、静かにおとなしく待つ』…これを、徹底的に反復させる。成功したら、報酬として大量の食事を与える。失敗したら…食事抜きだ。」
アメとムチ、というよりは、ほとんど動物の調教に近い。だが、彼らのような単純な思考回路の持ち主には、これくらい分かりやすい方が有効だろう。
『了解しました。オーク用訓練プログラムVer.0.1『条件反射と食欲制御』を開始します。』
訓練スペースでは、コアが発する特定のブザー音に合わせて突進する、指定された円の中に留まる、といった訓練が始まった。最初は無茶苦茶だったオークたちも、目の前にぶら下げられる大量の食料(主に、ダンジョン内で捕獲・処理した不味そうな獣肉)に釣られ、少しずつだが、条件反射的な動きを覚え始めた。
「ブヒッ…(メシ…)」
オーゾウ(オークB)が、よだれを垂らしながら、必死に待機サークルの中に留まろうとしている。その姿は、どこか滑稽だが、同時に、彼らを制御する糸口が見えた気がした。
(パワーはあるのだから、単純な『突撃兵』や『破壊工作員』としてなら、十分に使えるはずだ。問題は、そのパワーを、いかにして味方に被害を出さずに、敵だけに向けさせるかだな…)
オークの育成方針がある程度固まったところで、もう一つの懸案事項、ゴブゾウの様子を確認しに行った。
彼は、回復泉での治療を終え、意識を取り戻していた。だが、その様子は以前と全く変わらず、俺や他のゴブリンを見ると、ビクビクと怯えるばかりだった。
「ゴブゾウ、体の具合はどうだ? 何か覚えているか?」
俺が尋ねると、ゴブゾウは首を横に振るばかりだ。
「…お、覚えてません…気づいたら、ここに…お、俺、何かしましたか…?」
どうやら、バーサーカー化していた間の記憶は、完全に失われているらしい。そして、自分が何をしでかしたのかも理解していないようだ。
(下手に刺激するのは、やはり危険だな…)
コアによる再検査でも、バーサーカー化の明確な原因やメカニズムは不明なままだった。ただ、「極度のストレス」や「仲間への危機」が引き金になる可能性が高い、という推測だけが残った。
「ゴブゾウ、お前はしばらく、工房の手伝いや清掃作業に専念してくれ。無理はするなよ。」
俺は、そう言って彼を後方支援任務に戻した。彼の処遇については、今後も慎重に検討していく必要がある。
そんな中、フロンティアのジン(分身)から、ついにガルバス会長の最終返答がもたらされた。
『マスター! ジンより最終報告! 会長、こちらの提案(会長本人のみ、ダンジョン入口付近での面会)を受け入れました! 日時は予定通り、明後日! ただし、条件として「面会場所の安全性を、事前にこちらで確認させろ」とのこと。どうやら、罠がないか調べたいらしい。』
「…罠がないか確認、だと? ずいぶんと用心深いことだ。」
まあ、当然の要求だろう。ダンジョン(と認識しているかは不明だが)の中に、丸腰で入るのだから。
「いいだろう、その条件も呑む。だが、確認できるのは、指定した面会用の部屋とその周辺だけだ。それ以上奥への立ち入りは許可しない。ジン、そう伝えろ。そして、面会場所の準備を開始する。」
『了解! 会長に伝える!』
ガルバス会長との直接会談が、正式に決定した。残り時間は、あと二日。
俺は、コアとジン(本体)、そしてリナも交えて、準備を急ピッチで進めた。
まず、面会場所の設営。ダンジョン入口から少し入ったところに、新たに小部屋を設けた。内部には、簡素なテーブルと椅子だけを置き、壁や床には一切の仕掛けがないことを示す(もちろん、コアの力で、隠し監視カメラや緊急時の防御フィールドなどは仕込んである)。この部屋と、そこに至る短い通路だけが、会長が立ち入り、そして事前に調査できるエリアとなる。
次に、警備体制。面会場所の周囲には、ゴブジと、新たに召喚したスケルトン数体(DPに余裕ができたので5体補充。コスト200DP。残りDPは600)を、気配を消して配置する。ジン(本体)も、万が一に備えて近くに待機させる。コアは、ダンジョン全体の監視レベルを最大にし、会長(と、おそらく外で待機するであろう護衛)の動きを常にモニターする。
そして、ミリアへの説明。
「ミリア、明後日、君のパパがここに会いに来てくれることになったよ。」
俺が告げると、ミリアは「ほんと!? やったー!」と飛び上がって喜んだ。
「ただし、会えるのは短い時間だけだ。それに、パパには、まだここのこと(ダンジョンのこと)は内緒にしておいてほしいんだ。君を安全に送り届けるために、必要なことなんだ。協力してくれるかい?」
ミリアは、少しだけ不思議そうな顔をしたが、「うん、わかった! パパに会えるなら、なんでもする!」と健気に頷いてくれた。
最後に、交渉役のリナへの最終ブリーフィング。
「リナ、君の役目は、ミリアと会長を引き合わせ、二人が話している間、場を和ませることだ。そして、会長からの質問には、正直に、しかしダンジョンの核心に触れない範囲で答える。難しい交渉はジンに任せろ。大丈夫、君ならできる。」
「は、はい…! ど、努力します…!」
リナは、深呼吸して覚悟を決めたようだった。
全ての準備が整い、あとは運命の日を待つだけとなった。
コア安置室の空気は、期待と緊張感で張り詰めている。
(この会談が成功すれば、ガルバス商会という強力なパイプラインが手に入る。ミスリルや魔力水晶を安定して換金できれば、DP問題は解決し、地下二階層の建設、さらなるダンジョンの発展へと繋がる。だが、もし失敗すれば…)
最悪の場合、ガルバス商会と敵対し、王国やギルドに情報が渡り、大規模な討伐隊が送り込まれる可能性もある。まさに、天国と地獄だ。
俺は、ダッシュボードに表示されたカウントダウン(会談までの残り時間)を睨みつけながら、あらゆる事態を想定し、シミュレーションを繰り返した。罠、モンスター、捕虜、資源、そして外部との交渉。ダンジョンマスターとしての判断が、今、試されようとしていた。
カウントダウンの数字が、刻一刻と減っていく。
その一秒一秒が、やけに長く感じられた。
果たして、この会談は、俺のホワイトダンジョン計画にとって、吉と出るか、凶と出るか。その答えが出るまで、あと僅かだった。
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