異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ

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第28話:宣戦布告

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アシュフォード領が着々と戦争準備を進めている間も、グライフ子爵からの嫌がらせは執拗に続いていた。
境界線での小競り合いは日常茶飯事となり、アシュフォード商会の名を騙る偽の商人が、近隣の街で粗悪品を売りさばき、評判を落とそうとするなど、その手口は日に日に陰湿さを増していた。
エリアーナの情報網は、グライフ領の不穏な動きを正確に捉え続けていた。
「グライフ軍の総兵力は、およそ千五百。そのうち、傭兵団『鉄の爪』が二百。残りは、金で雇われたならず者や、強制的に徴兵された農民兵のようです」
商会のオフィスで、エリアーナは最新の報告書を読み上げる。
「対する私たちの兵力は三百五十。兵力差は、四倍以上ね」
その数字は、絶望的と言ってもよかった。普通の戦い方をすれば、勝敗は火を見るより明らかだ。
「装備はどうだ?」
「傭兵団は、王都の一流の鍛冶工房で作られた鋼鉄の鎧と剣で武装しています。他の兵士たちの装備は寄せ集めのようですが、それでも数で圧倒されれば、脅威であることに変わりはありません」
「……なるほどな」
俺は静かに頷いた。敵の戦力は、ほぼ予想通りだった。
父アルフォンスは、その報告を聞いて顔を青くした。
「四倍もの差があるのか……。リオ、本当にお前には勝算があるのだな?」
「あります、父上。兵の数など、飾りです。戦は、やり方次第でいくらでも覆る」
俺の自信に満ちた態度に、父は半信半疑ながらも、それ以上何も言わなかった。
シルフィは、会議の隅で黙って話を聞いていた。彼女の顔には、戦争という未知の恐怖に対する不安が浮かんでいたが、それでも彼女は、俺の隣にいることを選んでくれていた。

そして、冬の厳しい寒さが和らぎ、大地が雪解け水でぬかるみ始める頃。
その日は、ついにやってきた。
一人の伝令兵が、馬を泡立つばかりに駆って、アシュフォードの屋敷に駆け込んできたのだ。
「申し上げます! グライフ子爵より、書状が!」
届けられた羊皮紙には、傲慢で飾り立てた文字で、こう記されていた。

『アシュフォード子爵アルフォンス、並びにその子リオへ。
貴殿らの、我が領地に対する度重なる不当な挑発行為と、邪悪なる錬金術を用いて民を惑わす罪は、断じて許されるものではない。
よって、我らグライフ家は、神聖なる王国の秩序を守るため、貴殿らに懲罰を与えることをここに宣言する。
三日後、我が正義の軍勢が、貴殿らの罪深き領地を浄化するであろう。
もし、命が惜しいのならば、今すぐ城門を開け、全ての財産を差し出し、首を垂れて我が軍門に降るべし。さすれば、寛大なる我が配慮により、奴隷としての命だけは保証してやろう。
グライフ子爵、エドガー・フォン・グライフ』

あまりにも身勝手で、一方的な宣戦布告だった。
挑発行為を繰り返してきたのは、どちらの方か。邪悪な錬金術など、言いがかりにも程がある。全ては、我々の領地を奪うための、薄っぺらな大義名分でしかなかった。
父は、侮辱に満ちた書状を読んで、わなわなと拳を震わせた。
「……ふざけるな! あの男、どこまで我らを愚弄すれば気が済むのだ!」
「落ち着いてください、父上。相手の思う壺です」
俺は、父をなだめながら、書状をもう一度読み返した。
三日後。準備期間としては十分だ。
「エリアーナ、領民の避難準備を。万が一に備え、女子供と老人は、森に近い西の村へと移動させる」
「分かったわ。すぐに手配する」
「バルガス、兵士たちに最後の準備をさせろ。武器と食料を配給し、いつでも出撃できるように」
「はっ! ただちに!」
俺の指示に、皆が迅速に動き出す。屋敷の中は、一気に戦時体制へと移行した。
兄のダリウスとゲオルグも、さすがにこの状況では軽口を叩いている場合ではないと悟ったのか、青い顔で避難の指示を手伝っている。
その夜、最後の軍議が開かれた。
広げられた地図を前に、バルガスが懸念を口にした。
「リオ様、やはり籠城するのが最善かと。屋敷は頑丈ではありませんが、塀や堀を利用すれば、多少の時間は稼げます。その間に、王都へ援軍を要請するという手も……」
籠城。それは、兵力差がある場合の、最も基本的な戦術だった。
だが、俺は静かに首を振った。
「いや、籠城はしない。我々は、野戦で敵を迎え撃つ」
「なっ……!?」
バルガスだけでなく、その場にいた全員が、驚愕の声を上げた。
「正気ですか、リオ様! 四倍の敵を相手に、平原で戦うなど、自殺行為に等しい!」
バルガスの言う通りだった。常識的に考えれば、野戦は最も避けるべき選択肢だ。
「いや、野戦でなければならないんだ」
俺は、地図の一点を指差した。それは、グライフ領からアシュフォード領へと続く、唯一の街道が通る、なだらかな平原だった。
「考えてもみろ。籠城すれば、確かに時間は稼げるかもしれない。だが、その間に何が起きる? 領地は敵兵に蹂躙され、畑は焼かれ、家畜は奪われる。我々が必死で築き上げてきた全てが、目の前で破壊されていくんだ。兵士たちの士気は下がり、領民は絶望するだろう」
俺の言葉に、皆が押し黙る。
「それに、援軍など期待できない。王都がこの辺境の小競り合いに、すぐに軍を派遣してくれるほど甘くはない。我々は、我々自身の力で、この戦いを終わらせなければならないんだ」
俺は、全員の顔を一人ずつ見渡した。
「俺たちの目的は、時間を稼ぐことじゃない。敵を、完膚なきまでに叩き潰し、二度と我々に刃向かう気をなくさせることだ。そのためには、この平原こそが、最高の舞台になる」
俺の目には、狂気とも思えるほどの、絶対的な自信が宿っていた。
パイク方陣とクロスボウ部隊。焼夷手榴弾と煙幕弾。そして、シルフィの魔法。俺が用意した全ての兵器と戦術は、この開けた平原でこそ、その真価を最大限に発揮するように設計されていた。
バルガスは、俺のその自信に満ちた瞳を見て、ゴクリと喉を鳴らした。彼は、これまで俺が数々の不可能を可能にしてきた様を、誰よりも近くで見てきた。
「……分かりました」
長い沈黙の後、バルガスは覚悟を決めたように、深く頭を下げた。
「リオ様の作戦を、信じます。このバルガス、全霊を以て、あなた様の指揮下で戦い抜きましょう」
彼の言葉が、会議の結論となった。

三日後の早朝。
アシュフォード領の軍勢三百五十は、静かに領都を出発した。
女子供や老人たちは、すでに安全な場所へと避難を終えている。残った領民たちは、家の窓から、不安と祈りの入り混じった表情で、出征する兵士たちを見送っていた。
俺は、馬上から自軍を見渡す。
二百のパイク兵が、五メートルの長槍を森のように突き立たせ、整然と行進していく。その後ろには、百五十のクロスボウ兵が、静かに続く。
彼らの顔に、初めの頃のような怯えはない。あるのは、故郷を守るという決意と、若き指揮官への信頼だけだ。
シルフィは、俺のすぐ後ろの馬車の中にいた。彼女は、不安げに唇を噛み締めながらも、俺から視線を逸らさなかった。
決戦の地は、領境の平原。
誰もが、無謀な戦いだと思っているだろう。
だが、俺だけは、この戦いの結末を、はっきりと見通していた。
歴史が変わる瞬間を、俺はこの目で見届けることになる。
剣と魔法の時代の常識が、俺の生み出した、新しい時代の戦術の前に、音を立てて崩れ去る、その瞬間を。
俺は、迫り来る戦火の匂いを嗅ぎながら、不敵に口の端を吊り上げた。
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