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第30話:鉄のハリネズミ対騎士団
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「撃て」
俺の号令が、戦場に響き渡った。
次の瞬間、後方の丘から、ヒュンヒュンという空気を切り裂く音が無数に放たれる。百五十本の鉄の矢が、黒い群れとなって空を覆い、放物線を描きながら、突撃してくる騎士団の頭上へと降り注いでいった。
それは、彼らが経験したことのない攻撃だった。
弓矢は、通常ならもっと遠くから、あるいはもっと近くから、一人一人が狙いを定めて放たれるものだ。これほど大量の矢が、面となって一斉に襲いかかってくるなど、彼らの常識にはなかった。
「ぐわっ!」
「何だ、この矢の雨は!?」
矢は、馬上の騎士たちに次々と突き刺さる。アシュフォード鋼で作られた矢じりは、並の鎧など紙のように貫き、馬の体を深く抉った。
先頭を走っていた数騎が、悲鳴を上げて落馬する。後続の馬は、倒れた味方を避けきれずに次々と転倒し、戦場の只中に、最初の混乱が生まれた。
だが、傭兵団「鉄の爪」は、それで怯むような素人集団ではなかった。
「怯むな! 構わん、突っ込め! 歩兵の壁など、踏み潰してしまえ!」
隊長らしき男が叫び、生き残った騎士たちは、勢いを殺すことなく、ついにアシュフォード軍の最前列、パイク方陣へと激突した。
ドガァンッ!
凄まじい衝撃音と共に、血飛沫と、馬の悲痛ないななきが上がる。
だが、アシュフォード軍の陣形は、崩れなかった。
突撃してきた騎士たちの目に映ったのは、絶望的な光景だった。
目の前には、鋭い穂先が何列にも渡って突き出す、鉄の壁。馬は、その槍の穂先に自ら突っ込む形となり、胸や首を貫かれて次々と絶命していく。騎手は、勢い余って馬上から放り出され、槍の餌食になるか、地面に叩きつけられて動けなくなる。
「な、なんだ、この壁は!?」
「進めん! 前に進めんぞ!」
パイク方陣は、騎士の突撃という最強の戦術を、あまりにもあっさりと、そして無慈悲に受け止めていた。それはもはや、戦いではなく、一方的な衝突事故のようだった。
槍を構えたアシュフォードの兵士たちは、ただ耐えるだけだった。腕に伝わる衝撃は凄まじいが、槍の石突(いしづき)を地面にしっかり固定しているため、持ちこたえられないほどではない。
彼らは、ただ命令通り、壁となり続けていた。恐怖に震えながらも、一歩も引かずに。
「クロスボウ部隊、次弾装填、撃て!」
俺は、冷静に次の命令を下す。
丘の上のクロスボウ部隊は、訓練通りに機械的な動きを繰り返していた。てこ式の装置で次の矢を素早く装填し、再び矢の雨を降らせる。
今度の標的は、パイクの壁に阻まれ、動きを止めた騎士団の後続だ。
もはや、ただの的だった。
身動きが取れない状態で、頭上から一方的に矢を浴びせられる。馬は暴れ、騎士たちはなすすべもなく次々と落馬していく。
「馬鹿な……ありえん……」
後方で戦況を見ていたグライフ子爵が、呆然と呟いた。
彼の軍事常識では、二百騎の重装騎兵が、倍近くいる歩兵陣を突破できないなど、天地がひっくり返ってもありえないことだった。ましてや、相手は素人同然の農民兵のはずだ。
「退け! 一旦退け!」
傭兵団の隊長が、ようやく状況の異常さを悟り、退却の命令を叫んだ。
だが、それは悪手だった。
勢いよく突撃してきた部隊が、混乱の極みの中で向きを変え、退却しようとすれば、どうなるか。
隊列は完全に崩壊し、味方同士がぶつかり合い、ただでさえ混乱していた指揮系統は、完全に麻痺した。
そこへ、三度目の矢の雨が降り注ぐ。
もはや、組織的な抵抗は不可能だった。生き残った騎士たちは、我先にと逃げ出していく。
わずか十分ほどの攻防。
アシュフォード軍の損害は、敵の突撃の衝撃に耐えきれずに負傷した数名のみ。
対するグライフ軍の誇る精鋭騎士団は、その半数以上が死傷し、残りは散り散りになって潰走するという、壊滅的な打撃を受けていた。
「「「うおおおおおおっ!!」」」
信じられない勝利を目の当たりにしたアシュフォードの兵士たちから、地鳴りのような歓声が上がった。
恐怖は、熱狂的な興奮へと変わっていた。
勝てる。俺たちでも、勝てるんだ!
その確信が、軍全体の士気を爆発的に高めていく。
「やった……やったぞ、リオ様!」
バルガスが、興奮で顔を紅潮させながら俺の元へ駆け寄ってきた。彼の目には、もはや俺に対する疑念など微塵もない。あるのは、絶対的な信頼と、畏敬の念だけだった。
エリアーナも、シルフィも、目の前で起きた「ありえない勝利」に、言葉を失っていた。
だが、俺の表情は、まだ緩まなかった。
「まだだ。まだ、終わっていない」
俺は、後方で混乱しているグライフ軍の歩兵部隊を見据えた。
「敵の前衛は崩壊した。だが、まだ頭は残っている。ここで、奴らの心を完全にへし折る」
俺は、本陣に控えていた伝令兵に向かって、次の命令を下した。
「投石器、準備!」
いよいよ、俺が用意した本当の切り札を使う時が来たのだ。
錬金術師の秘密兵器が、この戦場に、本当の地獄を現出させる。
俺は、静かに、そして冷徹に、次の段階へと駒を進めた。
俺の号令が、戦場に響き渡った。
次の瞬間、後方の丘から、ヒュンヒュンという空気を切り裂く音が無数に放たれる。百五十本の鉄の矢が、黒い群れとなって空を覆い、放物線を描きながら、突撃してくる騎士団の頭上へと降り注いでいった。
それは、彼らが経験したことのない攻撃だった。
弓矢は、通常ならもっと遠くから、あるいはもっと近くから、一人一人が狙いを定めて放たれるものだ。これほど大量の矢が、面となって一斉に襲いかかってくるなど、彼らの常識にはなかった。
「ぐわっ!」
「何だ、この矢の雨は!?」
矢は、馬上の騎士たちに次々と突き刺さる。アシュフォード鋼で作られた矢じりは、並の鎧など紙のように貫き、馬の体を深く抉った。
先頭を走っていた数騎が、悲鳴を上げて落馬する。後続の馬は、倒れた味方を避けきれずに次々と転倒し、戦場の只中に、最初の混乱が生まれた。
だが、傭兵団「鉄の爪」は、それで怯むような素人集団ではなかった。
「怯むな! 構わん、突っ込め! 歩兵の壁など、踏み潰してしまえ!」
隊長らしき男が叫び、生き残った騎士たちは、勢いを殺すことなく、ついにアシュフォード軍の最前列、パイク方陣へと激突した。
ドガァンッ!
凄まじい衝撃音と共に、血飛沫と、馬の悲痛ないななきが上がる。
だが、アシュフォード軍の陣形は、崩れなかった。
突撃してきた騎士たちの目に映ったのは、絶望的な光景だった。
目の前には、鋭い穂先が何列にも渡って突き出す、鉄の壁。馬は、その槍の穂先に自ら突っ込む形となり、胸や首を貫かれて次々と絶命していく。騎手は、勢い余って馬上から放り出され、槍の餌食になるか、地面に叩きつけられて動けなくなる。
「な、なんだ、この壁は!?」
「進めん! 前に進めんぞ!」
パイク方陣は、騎士の突撃という最強の戦術を、あまりにもあっさりと、そして無慈悲に受け止めていた。それはもはや、戦いではなく、一方的な衝突事故のようだった。
槍を構えたアシュフォードの兵士たちは、ただ耐えるだけだった。腕に伝わる衝撃は凄まじいが、槍の石突(いしづき)を地面にしっかり固定しているため、持ちこたえられないほどではない。
彼らは、ただ命令通り、壁となり続けていた。恐怖に震えながらも、一歩も引かずに。
「クロスボウ部隊、次弾装填、撃て!」
俺は、冷静に次の命令を下す。
丘の上のクロスボウ部隊は、訓練通りに機械的な動きを繰り返していた。てこ式の装置で次の矢を素早く装填し、再び矢の雨を降らせる。
今度の標的は、パイクの壁に阻まれ、動きを止めた騎士団の後続だ。
もはや、ただの的だった。
身動きが取れない状態で、頭上から一方的に矢を浴びせられる。馬は暴れ、騎士たちはなすすべもなく次々と落馬していく。
「馬鹿な……ありえん……」
後方で戦況を見ていたグライフ子爵が、呆然と呟いた。
彼の軍事常識では、二百騎の重装騎兵が、倍近くいる歩兵陣を突破できないなど、天地がひっくり返ってもありえないことだった。ましてや、相手は素人同然の農民兵のはずだ。
「退け! 一旦退け!」
傭兵団の隊長が、ようやく状況の異常さを悟り、退却の命令を叫んだ。
だが、それは悪手だった。
勢いよく突撃してきた部隊が、混乱の極みの中で向きを変え、退却しようとすれば、どうなるか。
隊列は完全に崩壊し、味方同士がぶつかり合い、ただでさえ混乱していた指揮系統は、完全に麻痺した。
そこへ、三度目の矢の雨が降り注ぐ。
もはや、組織的な抵抗は不可能だった。生き残った騎士たちは、我先にと逃げ出していく。
わずか十分ほどの攻防。
アシュフォード軍の損害は、敵の突撃の衝撃に耐えきれずに負傷した数名のみ。
対するグライフ軍の誇る精鋭騎士団は、その半数以上が死傷し、残りは散り散りになって潰走するという、壊滅的な打撃を受けていた。
「「「うおおおおおおっ!!」」」
信じられない勝利を目の当たりにしたアシュフォードの兵士たちから、地鳴りのような歓声が上がった。
恐怖は、熱狂的な興奮へと変わっていた。
勝てる。俺たちでも、勝てるんだ!
その確信が、軍全体の士気を爆発的に高めていく。
「やった……やったぞ、リオ様!」
バルガスが、興奮で顔を紅潮させながら俺の元へ駆け寄ってきた。彼の目には、もはや俺に対する疑念など微塵もない。あるのは、絶対的な信頼と、畏敬の念だけだった。
エリアーナも、シルフィも、目の前で起きた「ありえない勝利」に、言葉を失っていた。
だが、俺の表情は、まだ緩まなかった。
「まだだ。まだ、終わっていない」
俺は、後方で混乱しているグライフ軍の歩兵部隊を見据えた。
「敵の前衛は崩壊した。だが、まだ頭は残っている。ここで、奴らの心を完全にへし折る」
俺は、本陣に控えていた伝令兵に向かって、次の命令を下した。
「投石器、準備!」
いよいよ、俺が用意した本当の切り札を使う時が来たのだ。
錬金術師の秘密兵器が、この戦場に、本当の地獄を現出させる。
俺は、静かに、そして冷徹に、次の段階へと駒を進めた。
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