異世界転生したので、文明レベルを21世紀まで引き上げてみた ~前世の膨大な知識を元手に、貧乏貴族から世界を変える“近代化の父”になります~

夏見ナイ

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第87話:鋼鉄の浮城

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空の偵察者『イーグル』の成功は、俺たちに情報戦における絶大なアドバンテージをもたらした。
だが、俺はまだ満足していなかった。
帝国の脅威は空からだけではない。我が王国は東と南を広大な海に面している。そして帝国の海軍力は、我が王国を遥かに凌駕すると言われていた。
彼らがもし、海から上陸作戦を仕掛けてきた場合。
港湾都市はなすすべもなく蹂躙され、そこから王都まで一気に攻め込まれる可能性すらある。
「陸と空の守りが固まっても、海ががら空きでは意味がない」
俺はクラウスとの軍事会議で、新たな国防計画を提示した。
「我が国の海軍を根本から作り変える必要がある。もはや風と人力に頼る旧時代の木造船では、帝国の艦隊には対抗できない」
俺がテーブルの上に広げたのは、一隻の巨大な船の設計図だった。
その姿は、この世界の誰もが見たことのない異様なものだった。
帆がない。代わりに、船体の中央には二本の巨大な煙突が天に向かって突き立っている。
船体は木ではなく、全てが黒光りする鉄の板で覆われている。
そして甲板には巨大な砲塔がいくつも設置され、その長い砲身を威嚇するように突き出していた。
「……リオ殿、これは、船なのか?」
海軍の提督が、信じられないという顔でその設計図を覗き込んだ。
「そうだ。俺はこれを『装甲艦』と名付けた」
俺は、その鋼鉄の船の革命的な構造を説明し始めた。
「動力は帆ではない。船体内部に搭載された、超大型の魔導蒸気機関だ。この機関が生み出す力でスクリュープロペラを回転させ、風向きに関係なく高速で航行することができる」
「船体は木ではなく、アシュフォード鋼を何層にも重ねた分厚い装甲板で覆われている。並の砲弾では傷一つ付けることはできないだろう」
「そして主砲となるのは、俺たちが開発した後装式のカノン砲をさらに大型化、長射程化させた新型艦載砲だ。これを三百六十度回転可能な『砲塔』に搭載することで、あらゆる方向の敵に精密な砲撃を加えることができる」
それはもはや船ではなかった。
自らの力で航行し、鉄の装甲で身を守り、そして絶大な火力で敵を殲滅する、海に浮かぶ鋼鉄の要塞。
すなわち「戦艦」の原型だった。
会議室は静まり返っていた。
提督たちは、そのあまりにも常識からかけ離れた未来の軍艦の姿に言葉を失っていた。
風も人力ももはや必要ない。ただ、圧倒的な技術力だけが海を支配する。
その事実は、帆船と共に生きてきた彼らの誇りを根底から揺さぶるものだった。
「……そんな化け物が、本当に作れるとでも言うのかね」
老提督の一人が、絞り出すように言った。
「作れます」
俺はきっぱりと答えた。「俺たちの技術とアシュフォード鋼があれば、必ず。問題はそれを建造するための巨大な施設と時間だけです」
国王アルベール三世は、その設計図を深い興奮を宿した目で見つめていた。
彼は陸と空に続き、ついに海までも俺の技術が支配しようとしているのを肌で感じていた。
「……よかろう」
国王は決断した。「直ちに東の港湾都市に、この『鋼鉄の浮城』を建造するための巨大な造船所(ドック)の建設を開始せよ! 国の全ての資源を、この計画に注ぎ込むことを許可する!」

プロジェクトは、国家の最優先事項として秘密裏に、そして急ピッチで進められた。
東の港湾都市、ティルダ。
その一角に、これまでにない規模の巨大な乾ドックが昼夜を問わない突貫工事で建設されていく。
俺は王都とティルダを、鉄道と、そして完成したばかりのイーグル号で何度も往復しながら造船の指揮を執った。
船の設計と建造は、プラントエンジニアリングのまさに集大成とも言える分野だ。
竜骨の設置、肋骨フレームの組み立て、そして巨大な装甲板のリベット接合。
何万という部品が寸分の狂いもなく、一つの巨大な構造物へと組み上げられていく。
アシュフォード領から鉄道で運び込まれた何千トンものアシュフォード鋼が、巨大な船の骨格へと姿を変えていった。
船大工たちは、初めて扱う鉄という素材に戸惑いながらも、俺が教える新しい造船技術を驚異的な速さで習得していった。
彼らの職人としての誇りが、不可能を可能にさせていた。

そしてプロジェクト開始から一年半後。
ティルダの港には、王国の全ての重鎮と、噂を聞きつけた数万の民衆が集まっていた。
彼らの視線の先には、巨大な乾ドックの中にその黒い巨体を横たえる一隻の船がいた。
それは彼らが知るどんな船よりも、巨大で、異様で、そして恐ろしいほどに力強いオーラを放っていた。
進水式の日だった。
エリアーナが船首に設けられた台の上で、高らかにその船の名を宣言した。
「この船に、我が王国の不沈の守護神となることを願い、その名を『レヴィアタン』と命名します!」
聖書の、海を支配する巨大な怪物の名。
その名が告げられると同時に、船体を支えていた最後の支えが外され、乾ドックに海水が勢いよく流れ込み始めた。
ギ、ギギギ……。
巨大な船体が軋むような音を立てて、ゆっくりと初めて水にその身を浮かべる。
そして、ついに完全に海の上へとその巨体を解き放った。
その瞬間、港を埋め尽くした観衆から地鳴りのような大歓声が巻き起こった。
「「「うおおおおおおおおっ!!」」」
鋼鉄の浮城は、沈まなかった。
それは物理法則に従って、当たり前のように、しかし人々の目には奇跡のように、悠然と港の水面に浮かんでいた。
俺は船のブリッジに立ち、進水の成功を告げる汽笛を鳴らした。
ブオオオオオオオオッ!
力強い汽笛の音が、港中に響き渡る。
魔導蒸気機関が唸りを上げる。
船体後部の巨大なスクリューが回転を始め、白い航跡を海面に描き出した。
レヴィアタンは、帆も櫂もなしに、自らの力でゆっくりと、しかし確実に港の中を航行し始めたのだ。
その光景は、一つの時代の終わりと新しい時代の始まりを、誰の目にも明らかに示す決定的な証だった。
木造帆船の時代は終わった。
これからは鋼鉄と蒸気が、海を支配する時代なのだ。
俺はブリッジの窓から、熱狂する民衆の姿を見下ろしながら、静かに北東の海を見据えていた。
ガルニア帝国の旧式な木造艦隊。
彼らがこの鋼鉄の怪物と海の上で出会う時。
彼らは自分たちの信じてきた海の常識が、全て幻想であったことを思い知ることになるだろう。
来るべき決戦に向けて、俺たちは陸、空、そして海、その全てにおいて絶対的な切り札を手に入れたのだ。
俺たちの鋼鉄の浮城は、今、静かにその牙を研ぎ始めていた。
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