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第102話:帝都への道
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帝国軍の崩壊は、もはや誰の目にも明らかだった。
だが、俺はまだ攻撃の手を緩めなかった。
「追撃を開始する。目標は、帝都」
最高司令部で俺は、次の作戦段階を冷静に告げた。
将軍たちが息をのむ。
「こ、公爵閣下! 敵はすでに戦意を喪失しております! これ以上の追撃は無用な殺戮を生むだけでは……」
老将軍の一人が恐る恐る進言した。
「無用ではない」
俺はきっぱりとその言葉を遮った。「蛇は、殺すなら完全に息の根を止めなければならない。中途半端に傷を負わせただけでは、いずれ回復し再び毒牙を剥いてくるだろう。この戦争を完全に、そして永遠に終わらせるために、我々は帝国の心臓、帝都そのものに我々の刃を突き立てる必要がある」
俺の言葉には微塵の情も揺らぎもなかった。
それは戦争という非情な現実に対する、冷徹なまでのリアリズムだった。
国王アルベール三世は、俺のその決断を黙って支持した。彼はこの若き公爵がただの天才発明家ではなく、国家の未来を百年先まで見据えることのできる真の戦略家であることを、もはや疑っていなかった。
王国軍の反攻作戦が開始された。
その進軍はもはや戦争と呼べるものではなかった。
鉄道網を占領した帝国領内へと驚異的なスピードで延長していく工兵部隊。
その鉄路の上を、兵員と物資を満載した軍用列車が絶え間なく前線へと送り届ける。
空からはイーグル号が、敵の残存兵力の動きを完全に監視し、いかなる奇襲の可能性も事前に摘み取ってしまう。
そして、その進軍の先頭に立つのは陸上装艦部隊だった。
彼らは帝国軍が最後の抵抗として築いた砦や要塞を、まるで子供の砂遊びを壊すかのように次々と粉砕していく。
帝国に残された兵士たちには、もはや戦う意志など残されていなかった。
彼らは王国軍の鋼鉄の軍靴の音を聞いただけで、武器を捨て城門を開け、白旗を掲げた。
抵抗すれば待っているのは、天から降る神の雷と地を這う鉄の怪物の無慈悲な蹂躙だけであることを、彼らは嫌というほど思い知らされていたからだ。
王国軍はほとんど血を流すことなく、破竹の勢いで帝国領内を進撃していった。
俺は占領した都市や村々に対して、厳命を下した。
『いかなる略奪、暴行も断じて許さない。帝国の民もまた我々と同じ人間である。彼らを恐怖で支配するのではなく、我々の統治の公正さと豊かさをもって懐柔せよ』
アシュフォード領で元グライフ領の民を融和させたのと同じやり方だ。
俺たちがもたらすのは破壊ではない。
新しい時代の秩序と繁栄なのだと、帝国の民に知らしめる必要があった。
飢えていた民には食料が配給された。
圧政に苦しんでいた村には新しい法律と公正な代官が派遣された。
アシュフォード商会は占領地の経済を瞬く間に立て直していく。
帝国の民は初め、王国軍を恐るべき侵略者として見ていた。
だが、その統治が自分たちの生活を以前よりも遥かに豊かで安全なものにすることを知るにつれて、その感情は驚きと、そして次第に歓迎の念へと変わっていった。
『王国軍は悪魔の軍隊ではなかったのか?』
『いや、彼らは我々を解放するために来てくれたのだ!』
帝国の皇帝への忠誠心は、内側から静かに、しかし確実に崩壊していった。
武力による制圧と、人心による懐柔。
俺の戦争は、その二つの車輪によって完璧にコントロールされていた。
そして開戦からわずか一ヶ月後。
王国軍の先鋒はついにガルニア帝国の首都、帝都の城壁が間近に見える丘の上に到達した。
眼下に広がるのは大陸で最も壮麗で、最も巨大な不落の都。
だが、その都を包む空気は活気ではなく、死を待つ者たちの深い絶望と静寂に支配されていた。
城壁の上には最後の抵抗を試みようとする、わずかな兵士たちの姿が見える。
だが、彼らの目にはもはや戦意の光はない。
俺は帝都を見下ろす丘の上に本陣を構えた。
バルガスが俺の隣に立ち、感慨深げに呟いた。
「……ついに、ここまで来ましたな、リオ様」
「ああ」
俺は静かに頷いた。「長かったようで、短かったな」
辺境の貧乏貴族の三男坊として目覚めてから数年。
俺は今、大陸最強の帝国のその心臓を目前にしている。
エリアーナもシルフィも、俺の隣に立っていた。
彼女たちはこの歴史的な光景を、それぞれの思いを胸にその目に焼き付けていた。
俺は攻撃の命令は下さなかった。
ただ静かに待つ。
最後の一手は相手に打たせる。
俺は列車砲の部隊に一つの命令だけを電信で送った。
『帝都の王城以外の全ての軍事施設を目標とせよ。ただし、発砲は我が合図があるまで待て』
それは無言の、しかし何よりも雄弁な圧力だった。
俺たちの神の雷は、お前たちの頭上に常に振り下ろされる準備ができているのだ、と。
帝都への道は開かれた。
そして、その道の終わりで一つの時代が、完全にその幕を下ろそうとしていた。
俺は帝都の高い城壁の向こうにいるであろう、一人の男の絶望を思い浮かべていた。
大陸の覇者、ガルニア帝国皇帝。
彼がどのような決断を下すのか。
その答えを俺は、ただ静かに待っていた。
だが、俺はまだ攻撃の手を緩めなかった。
「追撃を開始する。目標は、帝都」
最高司令部で俺は、次の作戦段階を冷静に告げた。
将軍たちが息をのむ。
「こ、公爵閣下! 敵はすでに戦意を喪失しております! これ以上の追撃は無用な殺戮を生むだけでは……」
老将軍の一人が恐る恐る進言した。
「無用ではない」
俺はきっぱりとその言葉を遮った。「蛇は、殺すなら完全に息の根を止めなければならない。中途半端に傷を負わせただけでは、いずれ回復し再び毒牙を剥いてくるだろう。この戦争を完全に、そして永遠に終わらせるために、我々は帝国の心臓、帝都そのものに我々の刃を突き立てる必要がある」
俺の言葉には微塵の情も揺らぎもなかった。
それは戦争という非情な現実に対する、冷徹なまでのリアリズムだった。
国王アルベール三世は、俺のその決断を黙って支持した。彼はこの若き公爵がただの天才発明家ではなく、国家の未来を百年先まで見据えることのできる真の戦略家であることを、もはや疑っていなかった。
王国軍の反攻作戦が開始された。
その進軍はもはや戦争と呼べるものではなかった。
鉄道網を占領した帝国領内へと驚異的なスピードで延長していく工兵部隊。
その鉄路の上を、兵員と物資を満載した軍用列車が絶え間なく前線へと送り届ける。
空からはイーグル号が、敵の残存兵力の動きを完全に監視し、いかなる奇襲の可能性も事前に摘み取ってしまう。
そして、その進軍の先頭に立つのは陸上装艦部隊だった。
彼らは帝国軍が最後の抵抗として築いた砦や要塞を、まるで子供の砂遊びを壊すかのように次々と粉砕していく。
帝国に残された兵士たちには、もはや戦う意志など残されていなかった。
彼らは王国軍の鋼鉄の軍靴の音を聞いただけで、武器を捨て城門を開け、白旗を掲げた。
抵抗すれば待っているのは、天から降る神の雷と地を這う鉄の怪物の無慈悲な蹂躙だけであることを、彼らは嫌というほど思い知らされていたからだ。
王国軍はほとんど血を流すことなく、破竹の勢いで帝国領内を進撃していった。
俺は占領した都市や村々に対して、厳命を下した。
『いかなる略奪、暴行も断じて許さない。帝国の民もまた我々と同じ人間である。彼らを恐怖で支配するのではなく、我々の統治の公正さと豊かさをもって懐柔せよ』
アシュフォード領で元グライフ領の民を融和させたのと同じやり方だ。
俺たちがもたらすのは破壊ではない。
新しい時代の秩序と繁栄なのだと、帝国の民に知らしめる必要があった。
飢えていた民には食料が配給された。
圧政に苦しんでいた村には新しい法律と公正な代官が派遣された。
アシュフォード商会は占領地の経済を瞬く間に立て直していく。
帝国の民は初め、王国軍を恐るべき侵略者として見ていた。
だが、その統治が自分たちの生活を以前よりも遥かに豊かで安全なものにすることを知るにつれて、その感情は驚きと、そして次第に歓迎の念へと変わっていった。
『王国軍は悪魔の軍隊ではなかったのか?』
『いや、彼らは我々を解放するために来てくれたのだ!』
帝国の皇帝への忠誠心は、内側から静かに、しかし確実に崩壊していった。
武力による制圧と、人心による懐柔。
俺の戦争は、その二つの車輪によって完璧にコントロールされていた。
そして開戦からわずか一ヶ月後。
王国軍の先鋒はついにガルニア帝国の首都、帝都の城壁が間近に見える丘の上に到達した。
眼下に広がるのは大陸で最も壮麗で、最も巨大な不落の都。
だが、その都を包む空気は活気ではなく、死を待つ者たちの深い絶望と静寂に支配されていた。
城壁の上には最後の抵抗を試みようとする、わずかな兵士たちの姿が見える。
だが、彼らの目にはもはや戦意の光はない。
俺は帝都を見下ろす丘の上に本陣を構えた。
バルガスが俺の隣に立ち、感慨深げに呟いた。
「……ついに、ここまで来ましたな、リオ様」
「ああ」
俺は静かに頷いた。「長かったようで、短かったな」
辺境の貧乏貴族の三男坊として目覚めてから数年。
俺は今、大陸最強の帝国のその心臓を目前にしている。
エリアーナもシルフィも、俺の隣に立っていた。
彼女たちはこの歴史的な光景を、それぞれの思いを胸にその目に焼き付けていた。
俺は攻撃の命令は下さなかった。
ただ静かに待つ。
最後の一手は相手に打たせる。
俺は列車砲の部隊に一つの命令だけを電信で送った。
『帝都の王城以外の全ての軍事施設を目標とせよ。ただし、発砲は我が合図があるまで待て』
それは無言の、しかし何よりも雄弁な圧力だった。
俺たちの神の雷は、お前たちの頭上に常に振り下ろされる準備ができているのだ、と。
帝都への道は開かれた。
そして、その道の終わりで一つの時代が、完全にその幕を下ろそうとしていた。
俺は帝都の高い城壁の向こうにいるであろう、一人の男の絶望を思い浮かべていた。
大陸の覇者、ガルニア帝国皇帝。
彼がどのような決断を下すのか。
その答えを俺は、ただ静かに待っていた。
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