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第115話:声よ、届け
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飛行機『イカロス』の初飛行成功は、王国中に熱狂と、新しい時代の到来を告げる大きな希望をもたらした。
だがその一方で、俺の心の中には、一つの大きな課題が、より明確な形で浮かび上がっていた。
情報は速くなった。物は速くなった。そして人さえも、空を飛んで速く移動できるようになった。
だが、それらの情報をごく一部の専門家や権力者だけでなく、この国に住まう全ての民に、どうやって平等に、そして同時に届けることができるのか。
義務教育によって識字率は飛躍的に向上した。新聞や書籍も、以前よりは遥かに多くの人々に読まれるようになった。
だが、まだ足りない。
文字を読めない老人たち。
日々の労働に追われ、新聞を読む時間もない人々。
彼らにも届く、新しいメディア。
その答えが『ラジオ』であることは、俺のロードマップに初めから記されていた。
電信が点と線で文字を伝えたのに対し、ラジオは人間の「声」そのものを、電波という見えない翼に乗せて、遠く離れた場所まで瞬時に届けることができる。
それは真の意味でのマスメディアの誕生を意味していた。
プロジェクトは、王立魔導科学大学の情報通信学部の最も優秀な学生たちと、そしてマナと電気の密接な関係性を誰よりも深く理解しているシルフィを中心に進められた。
課題は山積みだった。
まず、人間の声を電気信号に変換するための「マイク」。
その微弱な電気信号を何千倍、何万倍にも増幅するための「増幅器」。
そして、その信号を電波として空中に放射するための「アンテナ」。
その全てが、この世界には存在しない未知の技術だった。
俺と学生たちは大学の図書館に籠り、電気学と音響学の基礎理論をゼロから構築していくことから始めた。
炭素の粉末が音の振動によって電気抵抗を変える性質を利用した、カーボンマイク。
そして、最大のブレークスルーとなったのが、シルフィの魔導科学的な発想の転換だった。
「ねえ、リオ。電気信号を『大きくする』のが難しいなら、マナの力で直接『助けて』あげればいいんじゃないかな?」
彼女のその一言が、俺たちに天啓を与えた。
俺たちは電気信号を増幅するために、前世の「真空管」に似た、ガラス管の中に電極を封入した装置を試作していた。だが、その増幅率はまだ微々たるものだった。
シルフィは、そのガラス管に特殊な加工を施したアーククリスタルを組み込むことを提案した。
そして、そのクリスタルに外部からごく微量のマナを安定して供給し続ける。
すると、どうだろう。
ガラス管を通過する微弱な電気信号は、マナのエネルギーと共鳴し、まるで魔法のように何万倍にも増幅されたのだ。
『魔導真空管』。
電子工学と魔導科学が完璧に融合した、奇跡のデバイスの誕生だった。
この魔導真空管の発明によって、ラジオの開発は一気に現実のものとなった。
数ヶ月後。
王都を見下ろす最も高い丘の上に、高さ百メートルにも及ぶ巨大な鉄塔がその姿を現した。
王立ラジオ放送局の送信アンテナ塔だ。
そして、その麓の放送スタジオには、歴史的な最初の放送を見守るために、国王アルベール三世を始めとする王国の全ての重鎮たちが集まっていた。
スタジオの中央には、一本の黒いマイクが静かに置かれている。
そのマイクの前に立つのは、国王ただ一人。
エリアーナが設立した国営の工場では、この日のために数千台の木箱に入った簡易的なラジオ受信機が生産され、王都の主要な広場や施設に無料で配布されていた。
人々は、その奇妙な箱の前に集まり、これから何が起きるのかと固唾をのんで見守っている。
放送開始の時刻。
スタジオの赤いランプが灯る。
俺は調整室のガラスの向こうから、国王に静かに合図を送った。
国王は深く息を吸い込むと、マイクに向かってその威厳に満ちた声で語り始めた。
「……我が愛する王国の民よ。聞こえるだろうか」
その声は魔導真空管によって増幅され、電波となってアンテナ塔から空へと放たれた。
そして、光の速さで王都中に降り注いだ。
王城前の広場。
役所のロビー。
大学の大講義室。
設置されたラジオ受信機のスピーカー――電磁石と紙の振動板で作られた装置――から、国王の声がクリアに響き渡った。
『……聞こえるだろうか。私は国王、アルベール三世である』
その瞬間、受信機の前に集まっていた人々から、どよめきが上がった。
「こ、声だ!」
「王様の、お声がこの箱から聞こえるぞ!」
「魔法だ……! これもリオ公爵様の新しい魔法なんだ!」
人々は、そのありえない奇跡に打ち震えた。
国王の演説は続いた。
彼はこれまでの王国の歩みを振り返り、内乱と大戦を乗り越え、新しい時代を共に築き上げてきた国民の労をねぎらった。
そして、彼は未来への力強いビジョンを語った。
誰もが豊かに、平和に、そして誇りを持って生きていける国を創るのだ、と。
その温かく、そして力強い声は、電波に乗って王都の隅々まで届けられた。
貴族も平民も、老人も子供も。
全ての国民が同じ瞬間に、同じ王の言葉をその耳で聞いていた。
それはこの国が初めて、一つの巨大な共同体としてその心を一つにした瞬間だった。
演説が終わると、王都の至る所から割れんばかりの熱狂的な拍手と歓声が巻き起こった。
俺は調整室で、その光景をモニターする装置の針が振り切れるのを見ながら、静かに微笑んでいた。
声よ、届け。
俺のその願いは、今、確かに叶えられた。
ラジオの誕生は、この国の情報伝達の形を永遠に変えるだろう。
そして、それは人々の意識そのものを変えていく大きな力となるはずだ。
俺たちの創世の物語は、また一つ輝かしい新しい章のページを開いたのだった。
だがその一方で、俺の心の中には、一つの大きな課題が、より明確な形で浮かび上がっていた。
情報は速くなった。物は速くなった。そして人さえも、空を飛んで速く移動できるようになった。
だが、それらの情報をごく一部の専門家や権力者だけでなく、この国に住まう全ての民に、どうやって平等に、そして同時に届けることができるのか。
義務教育によって識字率は飛躍的に向上した。新聞や書籍も、以前よりは遥かに多くの人々に読まれるようになった。
だが、まだ足りない。
文字を読めない老人たち。
日々の労働に追われ、新聞を読む時間もない人々。
彼らにも届く、新しいメディア。
その答えが『ラジオ』であることは、俺のロードマップに初めから記されていた。
電信が点と線で文字を伝えたのに対し、ラジオは人間の「声」そのものを、電波という見えない翼に乗せて、遠く離れた場所まで瞬時に届けることができる。
それは真の意味でのマスメディアの誕生を意味していた。
プロジェクトは、王立魔導科学大学の情報通信学部の最も優秀な学生たちと、そしてマナと電気の密接な関係性を誰よりも深く理解しているシルフィを中心に進められた。
課題は山積みだった。
まず、人間の声を電気信号に変換するための「マイク」。
その微弱な電気信号を何千倍、何万倍にも増幅するための「増幅器」。
そして、その信号を電波として空中に放射するための「アンテナ」。
その全てが、この世界には存在しない未知の技術だった。
俺と学生たちは大学の図書館に籠り、電気学と音響学の基礎理論をゼロから構築していくことから始めた。
炭素の粉末が音の振動によって電気抵抗を変える性質を利用した、カーボンマイク。
そして、最大のブレークスルーとなったのが、シルフィの魔導科学的な発想の転換だった。
「ねえ、リオ。電気信号を『大きくする』のが難しいなら、マナの力で直接『助けて』あげればいいんじゃないかな?」
彼女のその一言が、俺たちに天啓を与えた。
俺たちは電気信号を増幅するために、前世の「真空管」に似た、ガラス管の中に電極を封入した装置を試作していた。だが、その増幅率はまだ微々たるものだった。
シルフィは、そのガラス管に特殊な加工を施したアーククリスタルを組み込むことを提案した。
そして、そのクリスタルに外部からごく微量のマナを安定して供給し続ける。
すると、どうだろう。
ガラス管を通過する微弱な電気信号は、マナのエネルギーと共鳴し、まるで魔法のように何万倍にも増幅されたのだ。
『魔導真空管』。
電子工学と魔導科学が完璧に融合した、奇跡のデバイスの誕生だった。
この魔導真空管の発明によって、ラジオの開発は一気に現実のものとなった。
数ヶ月後。
王都を見下ろす最も高い丘の上に、高さ百メートルにも及ぶ巨大な鉄塔がその姿を現した。
王立ラジオ放送局の送信アンテナ塔だ。
そして、その麓の放送スタジオには、歴史的な最初の放送を見守るために、国王アルベール三世を始めとする王国の全ての重鎮たちが集まっていた。
スタジオの中央には、一本の黒いマイクが静かに置かれている。
そのマイクの前に立つのは、国王ただ一人。
エリアーナが設立した国営の工場では、この日のために数千台の木箱に入った簡易的なラジオ受信機が生産され、王都の主要な広場や施設に無料で配布されていた。
人々は、その奇妙な箱の前に集まり、これから何が起きるのかと固唾をのんで見守っている。
放送開始の時刻。
スタジオの赤いランプが灯る。
俺は調整室のガラスの向こうから、国王に静かに合図を送った。
国王は深く息を吸い込むと、マイクに向かってその威厳に満ちた声で語り始めた。
「……我が愛する王国の民よ。聞こえるだろうか」
その声は魔導真空管によって増幅され、電波となってアンテナ塔から空へと放たれた。
そして、光の速さで王都中に降り注いだ。
王城前の広場。
役所のロビー。
大学の大講義室。
設置されたラジオ受信機のスピーカー――電磁石と紙の振動板で作られた装置――から、国王の声がクリアに響き渡った。
『……聞こえるだろうか。私は国王、アルベール三世である』
その瞬間、受信機の前に集まっていた人々から、どよめきが上がった。
「こ、声だ!」
「王様の、お声がこの箱から聞こえるぞ!」
「魔法だ……! これもリオ公爵様の新しい魔法なんだ!」
人々は、そのありえない奇跡に打ち震えた。
国王の演説は続いた。
彼はこれまでの王国の歩みを振り返り、内乱と大戦を乗り越え、新しい時代を共に築き上げてきた国民の労をねぎらった。
そして、彼は未来への力強いビジョンを語った。
誰もが豊かに、平和に、そして誇りを持って生きていける国を創るのだ、と。
その温かく、そして力強い声は、電波に乗って王都の隅々まで届けられた。
貴族も平民も、老人も子供も。
全ての国民が同じ瞬間に、同じ王の言葉をその耳で聞いていた。
それはこの国が初めて、一つの巨大な共同体としてその心を一つにした瞬間だった。
演説が終わると、王都の至る所から割れんばかりの熱狂的な拍手と歓声が巻き起こった。
俺は調整室で、その光景をモニターする装置の針が振り切れるのを見ながら、静かに微笑んでいた。
声よ、届け。
俺のその願いは、今、確かに叶えられた。
ラジオの誕生は、この国の情報伝達の形を永遠に変えるだろう。
そして、それは人々の意識そのものを変えていく大きな力となるはずだ。
俺たちの創世の物語は、また一つ輝かしい新しい章のページを開いたのだった。
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