異世界デバッガー ~不遇スキル【デバッガー】でバグ利用してたら、世界を救うことになった元SEの話~

夏見ナイ

文字の大きさ
27 / 80

第27話:スキルシナジーと共同作業

しおりを挟む
「よーし! それじゃあ、早速この『解析不能の匣』、正式名称不明だから……仮に『ホログラフ・キューブ』って呼ぶことにして、共同解析プロジェクト、開始しよっか!」
リリアは、目をキラキラさせながら宣言した。その手には、既に様々な工具が握られており、完全にやる気満々だ。

「共同解析プロジェクト、ですか……まあ、いいでしょう」俺も、その熱意に引きずられるように頷く。「それで、具体的にどう進めますか?」

「まずは、ユズル師匠……じゃなくて、ユズルさんの『デバッグ・アイ』(仮称)で、キューブの内部構造とか、エネルギー回路とか、もっと詳しい情報を読み取ってもらうのが一番かな! 私が物理的に分解するのは、リスクが高すぎるからね」

「デバッグ・アイ……まあ、いいでしょう」いちいち訂正するのも面倒になってきた。「分かりました。もう一度、内部構造の解析を試みます。前回見つけた接触不良以外にも、何かバグや、あるいは機能に関するヒントが見つかるかもしれません」

俺は再びホログラフ・キューブに向き合い、【情報読取】と【バグ発見】を集中させる。前回よりもスキル熟練度が上がっているおかげか、あるいはリリアという協力者がいる安心感からか、以前ほどではないが、それでも脳への負荷は大きい。

(エネルギーの流れ、制御基盤、記憶領域らしき区画……構成要素は多岐にわたるな。接触不良以外にも、いくつか怪しい挙動をしている箇所がある……)

俺は、読み取った情報を口頭でリリアに伝えていく。
「内部には、複数のエネルギーラインが存在するようです。メインのラインとは別に、補助的なラインがいくつか……でも、そのうちの一本が、どうも機能していないように見えます。断線か、あるいは元々使われていない予備回路か……」

「補助ラインが機能停止? ふむふむ……」リリアは、俺の説明を聞きながら、手元の羊皮紙に素早くスケッチを描いていく。彼女の頭の中では、俺の言葉が具体的な回路図に変換されているのだろう。

「それから、中央付近に、球状のコアのようなものがあります。これが動力源か、あるいは制御の中枢か……ここから各回路へエネルギーが供給されているようですが、その供給量が不安定です。やはり、接触不良の影響が大きいかと」

「コアからの供給が不安定……なるほどね。それで全体の動作がおかしくなってるんだ」

「あと、気になるのは……記憶領域と思われる部分です。ホログラムの情報は、おそらくここから読み出されているのでしょうが、一部の領域にアクセスできない、あるいはデータが破損しているような兆候が見られます。これも、経年劣化か、あるいは何らかのプロテクトがかかっているのか……」

「データ破損!? それは大変! もしかしたら、もっと重要な情報が記録されてるかもしれないのに……」リリアは眉をひそめる。

俺は、解析中に見つけた新たな「バグ」についても報告する。
「それと、制御術式の中に、いくつか奇妙なコードが見つかりました。一つは、特定の外部魔力パターンに反応して、一時的に全機能を停止させる、一種の『緊急停止コード』のようなもの。もう一つは、逆に、特定の条件下で、内部エネルギーを暴走させて自壊するような……『自爆コード』?」

「緊急停止コードと、自爆コード!?」リリアは驚きの声を上げる。「なんでそんなものが……? もしかして、悪用を防ぐためのセキュリティ機能なのかな? それとも、元々兵器として作られたとか?」

「そこまでは分かりません。ただ、これらのコードが存在することは確かです。下手に刺激しない方がいいでしょう」

俺からの情報を元に、リリアはしばらく考え込んでいた。そして、ポン、と手を打った。
「……よし! なんとなく分かってきたぞ! このキューブ、思った以上に複雑だけど、ユズルさんの情報があれば、修理できるかもしれない!」

「修理できるんですか? 分解せずに?」

「うん! たぶんね!」リリアは自信満々に頷く。「接触不良が原因なら、外から高周波の魔力振動を与えて、内部の接点を強制的に繋げちゃう、っていう荒業があるんだ。もちろん、精密な制御が必要だけど……ユズルさんが正確な位置と必要な周波数を特定してくれれば、私の魔道具技術で、ピンポイントに振動を与える装置を作れると思う!」

(高周波の魔力振動で、接点を繋げる……? まるで、半田ごてを使わずに修理するようなものか。そんなことが可能なのか?)
この世界の魔道具技術は、俺の常識を超えているようだ。

「それと、データ破損の部分も気になるなぁ……これも、ユズルさんの力で、破損データを修復したり、読み取ったりできないかな? 例えば、データの『バグ』を利用して、プロテクトを解除するとか?」
リリアは、期待に満ちた目で俺を見る。

(データのバグを利用してプロテクト解除……まるで、ハッキングだな。可能かどうかは分からないが、試してみる価値はあるかもしれない)
俺の【デバッガー】スキルは、物理的なバグだけでなく、情報やシステムそのもののバグにもアクセスできるはずだ。

「やってみましょう」俺は答えた。「まずは、接触不良の修理からですね。俺が正確な位置と、必要な魔力振動の周波数・強度を特定します。リリアさんは、その情報を元に、装置を作ってください」

「任せて!」リリアはニッと笑う。「私の腕の見せ所だね! 素材は……工房にあるもので何とかなるかな? ちょっと待ってて!」
彼女は、再び工房の奥へと駆け込み、ガラクタの山(彼女にとっては宝の山なのだろう)を漁り始めた。

俺は、その間に、ホログラフ・キューブの接触不良箇所について、さらに詳細な解析を行う。【限定的干渉】の応用で、微弱な魔力パルスを送り込み、回路が正常に繋がる周波数と強度を探っていく。リスクは伴うが、前回のような強烈なペナルティを受けないよう、慎重に、ごく僅かな干渉に留める。

(……この周波数か? いや、もう少し高い方が……? 強度は、これくらいで……)
試行錯誤を繰り返す。それは、まるで難解なパズルを解くような、あるいは未知のAPIの仕様を探るような作業だった。

一方、リリアも作業に没頭していた。手際よく素材を選び出し、特殊な工具を使って加工していく。その指先の動きは、まさに神業と呼ぶにふさわしい精密さと速度だ。【魔道具作成】と【精密作業】スキルが、彼女の才能を遺憾なく発揮させている。

数時間後。
俺は、ついに最適な魔力振動のパラメータを特定することに成功した。そして、リリアも、手のひらサイズの、奇妙な形状をした魔道具を完成させていた。先端に細い針のようなものが付いた、ペンのような形の装置だ。

「できたよ! これが、『ピンポイント魔力振動ペン』(仮称)!」リリアは、誇らしげにその装置を掲げる。「ユズルさんが特定した周波数と強度で、狙った箇所にだけ魔力振動を与えられるはずだよ!」

『対象:ピンポイント魔力振動ペン(試作品)
 分類:魔道具>特殊工具
 状態:正常(試作段階)
 効果:指定された周波数・強度の魔力振動を、先端の針からピンポイントで発生させる。
 エネルギー源:内蔵小型魔石(交換可能)
 備考:リリア・クローバーによる特製品。古代魔道具の修理など、極めて精密な作業を想定して作られた。現時点では調整が必要。』

(……本当に、作ってしまった)
俺が情報を提示し、彼女がそれを形にする。まさに、理想的なスキルシナジーだ。

「じゃあ、早速試してみよう!」リリアは、目を輝かせながら振動ペンを構える。「ユズルさん、正確な位置を教えて!」

「はい。ここです。角度は……このくらいで」
俺は、キューブの表面、接触不良を起こしている箇所を正確に指し示す。

リリアは、ゴクリと喉を鳴らし、慎重に振動ペンの先端をその箇所に当てる。そして、スイッチを入れた。

ウィィィン……

微かな駆動音と共に、ペン先から目に見えない魔力振動が発生する。キューブの表面には、特に変化は見られない。

(……頼む、うまくいってくれ……!)

数秒間、振動を与え続ける。そして、リリアがスイッチを切った。

シーン……

工房内に、静寂が戻る。
キューブは、相変わらず沈黙したままだ。

「……あれ? ダメだったかな?」リリアが、不安そうな声を出す。

俺は、もう一度キューブに【情報読取】を使う。
(エネルギー回路の状態は……? 接触不良は……?)

『対象:ホログラフ・キューブ(修理試行後)
 状態:正常(エネルギー回路安定化)、機能回復
 備考:内部の接触不良が、外部からの魔力振動によって正常に接続された。本来の機能が利用可能になった。ただし、あくまで一時的な処置であり、根本的な解決には分解修理が必要。』

「……いえ、成功です、リリアさん!」俺は、興奮を隠しきれずに言った。「回路は安定し、機能が回復したようです!」

「本当!?」

俺は、キューブに意識を集中し、起動を試みる。すると、先ほどのようにカチリという音がし、表面が安定した青白い光を放ち始めた!

そして、再び、キューブの上空にホログラムが投影される。今度は、前回見た星図のようなものだけでなく、次々と別の情報が表示されていく。古代文字で書かれた文書、複雑な機械の設計図、未知の生物の生態記録……まるで、膨大なデータベースにアクセスしているかのようだ!

「うわあああ! 動いた! しかも、色々な情報が!」リリアは、歓声を上げて飛び跳ねている。「やったね、ユズルさん! 私たちの共同作業、大成功だよ!」

俺も、目の前の光景に感動していた。俺の「デバッグ」能力と、リリアの「技術」が見事に融合し、不可能と思われた古代の遺物を再起動させたのだ。

(これが、スキルシナジー……!)

一人では決して到達できなかった領域。仲間と協力することで、新たな可能性が開ける。そのことを、俺は改めて実感した。

だが、同時に、新たな疑問も湧き上がってくる。
このホログラフ・キューブは、一体何のために作られたのか? これほどの情報と技術を持つ古代文明は、なぜ滅びたのか? そして、アクセスできない、破損したデータ領域には、一体どんな秘密が隠されているのだろうか?

俺たちの共同プロジェクトは、まだ始まったばかりだ。
そして、この古代の遺物が、俺たちの、そしてこの世界の運命に、大きな影響を与えることになる予感が、強くしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!? これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。 日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

処理中です...