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第28話:オーバーテクノロジーの残滓と新たな企て
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「すごい、すごいよユズルさん! 見て、この星図! 私たちの知ってる星座とは全然違う! もしかして、この世界の、もっと古代の空なのかな? それとも……全く別の世界の?」
「こっちの設計図! 何かの動力炉みたいだけど、構造が複雑すぎる! 魔力循環のパターンも、現代の理論じゃ説明がつかないよ!」
「あっ、見て! 古代文字のテキストデータ! うわー、やっぱり読めないけど、量が膨大だよ! きっと、すごい秘密が書かれてるんだ!」
ホログラフ・キューブが投影する立体映像を前に、リリアは興奮しきって、子供のようにはしゃいでいた。次々と切り替わる未知の情報――古代の星図、複雑怪奇な機械の設計図、解読不能な文字で書かれた膨大なテキストデータ――それらは、彼女の知的好奇心を猛烈に刺激しているようだった。
俺もまた、目の前で展開されるオーバーテクノロジーの片鱗に圧倒されていた。ゴブリンキングがいたボス部屋の古代魔法も凄かったが、このキューブが内包する情報は、それとはまた別の次元の、高度な科学技術(あるいは魔法技術?)の存在を示唆している。
(これが、古代文明の遺物……。一体、どんな連中がこれを作ったんだ? そして、なぜこれほどの技術が失われてしまったのか……?)
謎は深まるばかりだ。俺は興奮するリリアをなだめつつ、【デバッガー】スキルで表示される情報を一つずつ冷静に分析しようと試みた。
「リリアさん、少し落ち着いてください。この情報量だと、一つずつ見ていってもキリがない。まずは、このキューブ自体の機能や目的を探るのが先決では?」
「むぅ……そうだけどぉ。でも、見てるだけでワクワクしちゃうんだもん!」
リリアは頬を膨らませるが、それでも俺の言葉に耳を傾け、ホログラムの表示を操作しようと試みる。しかし、操作インターフェースのようなものは見当たらず、情報の表示はランダム、あるいは何らかの法則に従って自動で切り替わっているようだった。
「操作方法も分からないのか……。となると、やはりデータ領域への直接アクセスを試みるしかないか」
俺は、前回確認した「データ破損領域」あるいは「アクセス不能領域」に意識を集中させる。ここに、このキューブの核心に迫る情報が眠っている可能性がある。
(【デバッガー】……いや、もっと深く、情報の構造そのものを読み解くイメージで……【コード・リーディング】!)
まだ習得したわけではないが、より深層の情報へとアクセスしようとする意識。それは、複雑なプログラムのバイナリコードを直接読み解こうとするような、高度な情報処理能力を要求される。脳への負荷は、通常の【バグ発見】とは比較にならない。ズキズキとした痛みが走り、視界が僅かに歪む。
だが、その負荷と引き換えに、俺はこれまで見えなかった情報の断片を捉えることに成功した。
『……アクセス試行中……プロテクト検知……回避シーケンス実行……』
『……破損データ領域への限定的アクセス成功……』
『……断片情報(ログ)取得:』
『……記録No.███:……システム稼働率低下……原因不明のノイズ(バグ?)増大……』
『……記録No.███:……第3次デバッグフェーズ失敗……汚染拡散率予測値を上方修正……』
『……記録No.███:……管理者権限による緊急シャットダウンプロセス起動……失敗……コア暴走……』
『……記録No.███:……最終プロトコル実行……世界座標固定……封印シーケンス……転生者管理システム……』
『……警告:不正アクセスを検知。ログへのアクセスを制限します……』
「ぐっ……!」
突然、脳へのアクセスが遮断され、俺は思わず呻き声を上げて後退った。激しい頭痛と目眩が襲う。
「ユズルさん!? 大丈夫!?」
リリアが心配そうに駆け寄ってくる。
「……ああ、なんとか。少し、無理をしすぎたようだ」
額の汗を拭いながら、俺は息を整える。今、読み取った情報の断片を反芻する。
システム……バグ……デバッグ……汚染……管理者……シャットダウン……コア暴走……封印……そして、転生者管理システム……?
断片的すぎて、全体像は全く掴めない。だが、そこには、この世界の成り立ちや、俺のような転生者の存在意義に関わる、とてつもなく重要な情報が含まれている気がした。そして、「バグ」や「デバッグ」という、俺のスキルと深く関連する言葉。
(この世界は、やはり何らかの『システム』によって作られ、管理されている……? そして、過去に大規模な『システムエラー(バグ)』が発生し、『管理者』はそれを収拾できずに『封印』した……? ゴブリンキングの変異や魔力汚染は、その時の名残……?)
仮説が頭の中を駆け巡る。もしこれが真実なら、俺の【デバッガー】スキルは、この世界の根幹に関わる、とんでもない力ということになる。
「……何か分かったの?」リリアが、心配そうに俺の顔を覗き込む。
「……断片的な情報ですが、このキューブは、単なる情報記録装置ではないようです。もっと大きな……世界の『システム』のようなものに関わる、重要な装置だったのかもしれません」俺は、慎重に言葉を選びながら答える。「そして、データが破損しているのではなく、意図的にアクセスが制限されている可能性が高い。強力なプロテクトがかかっているようです」
「世界のシステム……プロテクト……」リリアはゴクリと喉を鳴らす。「ますます興味深いね……。そのプロテクト、ユズルさんの力で解除できないの? 例えば、その『バグ』を利用してさ!」
彼女の目は、再び好奇心で爛々と輝き始めていた。俺の能力の本質を理解し、それをどう応用できるか、瞬時に思考を巡らせているのだろう。
「……試してみる価値はあるかもしれません。ですが、リスクも高いでしょう。下手に手を出せば、キューブ自体を完全に破壊してしまうか、あるいは、俺自身がまた強烈なペナルティを受ける可能性もある」
「むぅ……それは困るね」リリアは顎に手を当てて考える。「でも、諦めるのはもったいないなぁ……。そうだ! プロテクト解除は一旦置いておいて、別の『バグ利用』を考えてみるのはどうかな?」
「別のバグ利用、ですか?」
「うん!」リリアは、悪戯っぽく笑う。「例えばさ、ユズルさんのスキルって、物の『情報』を読み取れるんでしょ? アイテムの容量とか、構造とかも。そこに『バグ』を見つけて、干渉できれば……」
彼女の言葉に、俺はハッとした。
(容量のバグ……構造のバグ……!)
それは、まさに俺が漠然と考えていた、「バグ利用魔道具」のアイデアに繋がるものだった。
「もしかして……アイテムの収納容量を、バグを利用して無限にするとか?」俺が尋ねると、リリアは目を輝かせて頷いた。
「そう! それ! 例えば、普通の収納バッグの『容量データ』にバグを見つけて、そこに『オーバーフロー』を起こさせるような干渉ができれば、理論上は無限に物が入るバッグが作れるかもしれないでしょ!?」
「……無限収納バッグ」
なんて魅力的な響きだろうか。冒険者にとって、これほど便利な道具はないだろう。大量の物資や戦利品を持ち運べるようになれば、活動範囲も効率も格段に上がる。
「他にも!」リリアのアイデアは止まらない。「魔法属性の付与確率とか、ゴーレムの命令認識ルーチンとか……そういうシステム的な部分にだって、きっと『バグ』はあるはずだよ! ユズルさんの『目』でそれを見つけて、私の『技術』でそのバグを突くような特殊な魔道具を作れば……常識外れの、とんでもないものが作れるんじゃないかな!?」
彼女の発想は、まさに俺が求めていたものだった。俺の【デバッガー】スキルは、単独では限定的な効果しか発揮できない場面も多い。だが、リリアの魔道具技術と組み合わせることで、その可能性は無限に広がる。バグの発見・解析(デバッグ)と、それを悪用(エクスプロイト)するためのツール開発。まさに、元SEと天才技師の最強タッグだ。
「……面白いですね」俺は、抑えきれない興奮を感じながら言った。「やりましょう、リリアさん。その『バグ利用魔道具』開発、ぜひ協力させてください」
「やったー! 話が早くて助かるよ!」リリアは満面の笑みだ。「まずは、手始めに『無限収納バッグ』から挑戦してみようか! 材料になる普通の収納バッグと、あとは……ユズルさんのスキルで『容量バグ』を見つけてもらわないとね!」
「分かりました。ですが、そのためには、まず資金と、安定した作業場所が必要ですね。この工房も、少し手狭になってきたようですし」
俺は、散らかった工房を見渡しながら言った。本格的な魔道具開発を行うには、もっと広いスペースと、充実した設備が必要になるだろう。
「あ……う、うん、そうだね……」リリアは、少しバツが悪そうに頭を掻く。「片付けは苦手なんだよね……。でも、大丈夫! ユズルさんが協力してくれるなら、私も本気出すよ! お金なら、今回のキューブ解析の成果をギルドに報告すれば、研究費くらいは出るかもしれないし! ダメなら、ユズルさんが稼いだお金で……」
「……まあ、資金については、俺も当てがありますから、大丈夫でしょう」金貨100枚の報酬は、まだほとんど手付かずだ。これを元手にすれば、工房の拡張や設備の購入も可能だろう。
こうして、俺とリリアの新たな目標――「バグ利用魔道具」の開発――が、具体的な計画として動き始めた。ホログラフ・キューブの完全解析は一旦保留とし、まずは実用的なアイテム開発で、俺たちの連携の成果を示すことにしたのだ。
時刻は、既に深夜を回っていた。興奮と疲労で、二人とも目は充血している。だが、その表情は、これからの活動への期待感で輝いていた。
「今日は、もう遅いですし、ここまでにしましょうか」俺が提案する。
「うん、そうだね。流石に眠い……」リリアは大きなあくびをした。「ユズルさん、今日は本当にありがとう! すっごく楽しかった!」
「こちらこそ。リリアさんのおかげで、新しい可能性が見えました」
俺は、リリアに礼を言い、工房を後にした。外は、すっかり闇に包まれ、月明かりだけが道を照らしている。
リリアの工房の窓から漏れる明かりを見上げながら、俺は今日の成果を噛み締めていた。古代の遺物の起動、世界の秘密への僅かな接触、そして、天才技師との本格的な協力関係の始まり。
(リリアとなら、本当に、何かすごいことができるかもしれない)
彼女の技術と発想力、そして俺の【デバッガー】スキル。この組み合わせは、この世界の常識を覆す可能性を秘めている。
しかし、同時に、一抹の不安も感じていた。
俺たちのやろうとしていることは、世界の法則やシステムの「穴」を突く、極めて危険な行為だ。それが、どのような結果を招くのか? 世界の「管理者」や、あるいは他の勢力に目をつけられるリスクはないのか?
そして、工房の外の闇の中に、微かに動く影が見えたような気がした。気のせいか? それとも……。
俺は、軽く首を振り、不安を打ち消すように、リューンの街の夜道を歩き始めた。
今は、目の前の目標に集中しよう。リリアと共に、誰も見たことのない魔道具を作り出す。その第一歩を踏み出すために。
元SEの異世界での挑戦は、新たな協力者を得て、さらに加速していく。
その先に、どんな「バグ」と「未来」が待ち受けているのか、まだ誰にも分からない。
「こっちの設計図! 何かの動力炉みたいだけど、構造が複雑すぎる! 魔力循環のパターンも、現代の理論じゃ説明がつかないよ!」
「あっ、見て! 古代文字のテキストデータ! うわー、やっぱり読めないけど、量が膨大だよ! きっと、すごい秘密が書かれてるんだ!」
ホログラフ・キューブが投影する立体映像を前に、リリアは興奮しきって、子供のようにはしゃいでいた。次々と切り替わる未知の情報――古代の星図、複雑怪奇な機械の設計図、解読不能な文字で書かれた膨大なテキストデータ――それらは、彼女の知的好奇心を猛烈に刺激しているようだった。
俺もまた、目の前で展開されるオーバーテクノロジーの片鱗に圧倒されていた。ゴブリンキングがいたボス部屋の古代魔法も凄かったが、このキューブが内包する情報は、それとはまた別の次元の、高度な科学技術(あるいは魔法技術?)の存在を示唆している。
(これが、古代文明の遺物……。一体、どんな連中がこれを作ったんだ? そして、なぜこれほどの技術が失われてしまったのか……?)
謎は深まるばかりだ。俺は興奮するリリアをなだめつつ、【デバッガー】スキルで表示される情報を一つずつ冷静に分析しようと試みた。
「リリアさん、少し落ち着いてください。この情報量だと、一つずつ見ていってもキリがない。まずは、このキューブ自体の機能や目的を探るのが先決では?」
「むぅ……そうだけどぉ。でも、見てるだけでワクワクしちゃうんだもん!」
リリアは頬を膨らませるが、それでも俺の言葉に耳を傾け、ホログラムの表示を操作しようと試みる。しかし、操作インターフェースのようなものは見当たらず、情報の表示はランダム、あるいは何らかの法則に従って自動で切り替わっているようだった。
「操作方法も分からないのか……。となると、やはりデータ領域への直接アクセスを試みるしかないか」
俺は、前回確認した「データ破損領域」あるいは「アクセス不能領域」に意識を集中させる。ここに、このキューブの核心に迫る情報が眠っている可能性がある。
(【デバッガー】……いや、もっと深く、情報の構造そのものを読み解くイメージで……【コード・リーディング】!)
まだ習得したわけではないが、より深層の情報へとアクセスしようとする意識。それは、複雑なプログラムのバイナリコードを直接読み解こうとするような、高度な情報処理能力を要求される。脳への負荷は、通常の【バグ発見】とは比較にならない。ズキズキとした痛みが走り、視界が僅かに歪む。
だが、その負荷と引き換えに、俺はこれまで見えなかった情報の断片を捉えることに成功した。
『……アクセス試行中……プロテクト検知……回避シーケンス実行……』
『……破損データ領域への限定的アクセス成功……』
『……断片情報(ログ)取得:』
『……記録No.███:……システム稼働率低下……原因不明のノイズ(バグ?)増大……』
『……記録No.███:……第3次デバッグフェーズ失敗……汚染拡散率予測値を上方修正……』
『……記録No.███:……管理者権限による緊急シャットダウンプロセス起動……失敗……コア暴走……』
『……記録No.███:……最終プロトコル実行……世界座標固定……封印シーケンス……転生者管理システム……』
『……警告:不正アクセスを検知。ログへのアクセスを制限します……』
「ぐっ……!」
突然、脳へのアクセスが遮断され、俺は思わず呻き声を上げて後退った。激しい頭痛と目眩が襲う。
「ユズルさん!? 大丈夫!?」
リリアが心配そうに駆け寄ってくる。
「……ああ、なんとか。少し、無理をしすぎたようだ」
額の汗を拭いながら、俺は息を整える。今、読み取った情報の断片を反芻する。
システム……バグ……デバッグ……汚染……管理者……シャットダウン……コア暴走……封印……そして、転生者管理システム……?
断片的すぎて、全体像は全く掴めない。だが、そこには、この世界の成り立ちや、俺のような転生者の存在意義に関わる、とてつもなく重要な情報が含まれている気がした。そして、「バグ」や「デバッグ」という、俺のスキルと深く関連する言葉。
(この世界は、やはり何らかの『システム』によって作られ、管理されている……? そして、過去に大規模な『システムエラー(バグ)』が発生し、『管理者』はそれを収拾できずに『封印』した……? ゴブリンキングの変異や魔力汚染は、その時の名残……?)
仮説が頭の中を駆け巡る。もしこれが真実なら、俺の【デバッガー】スキルは、この世界の根幹に関わる、とんでもない力ということになる。
「……何か分かったの?」リリアが、心配そうに俺の顔を覗き込む。
「……断片的な情報ですが、このキューブは、単なる情報記録装置ではないようです。もっと大きな……世界の『システム』のようなものに関わる、重要な装置だったのかもしれません」俺は、慎重に言葉を選びながら答える。「そして、データが破損しているのではなく、意図的にアクセスが制限されている可能性が高い。強力なプロテクトがかかっているようです」
「世界のシステム……プロテクト……」リリアはゴクリと喉を鳴らす。「ますます興味深いね……。そのプロテクト、ユズルさんの力で解除できないの? 例えば、その『バグ』を利用してさ!」
彼女の目は、再び好奇心で爛々と輝き始めていた。俺の能力の本質を理解し、それをどう応用できるか、瞬時に思考を巡らせているのだろう。
「……試してみる価値はあるかもしれません。ですが、リスクも高いでしょう。下手に手を出せば、キューブ自体を完全に破壊してしまうか、あるいは、俺自身がまた強烈なペナルティを受ける可能性もある」
「むぅ……それは困るね」リリアは顎に手を当てて考える。「でも、諦めるのはもったいないなぁ……。そうだ! プロテクト解除は一旦置いておいて、別の『バグ利用』を考えてみるのはどうかな?」
「別のバグ利用、ですか?」
「うん!」リリアは、悪戯っぽく笑う。「例えばさ、ユズルさんのスキルって、物の『情報』を読み取れるんでしょ? アイテムの容量とか、構造とかも。そこに『バグ』を見つけて、干渉できれば……」
彼女の言葉に、俺はハッとした。
(容量のバグ……構造のバグ……!)
それは、まさに俺が漠然と考えていた、「バグ利用魔道具」のアイデアに繋がるものだった。
「もしかして……アイテムの収納容量を、バグを利用して無限にするとか?」俺が尋ねると、リリアは目を輝かせて頷いた。
「そう! それ! 例えば、普通の収納バッグの『容量データ』にバグを見つけて、そこに『オーバーフロー』を起こさせるような干渉ができれば、理論上は無限に物が入るバッグが作れるかもしれないでしょ!?」
「……無限収納バッグ」
なんて魅力的な響きだろうか。冒険者にとって、これほど便利な道具はないだろう。大量の物資や戦利品を持ち運べるようになれば、活動範囲も効率も格段に上がる。
「他にも!」リリアのアイデアは止まらない。「魔法属性の付与確率とか、ゴーレムの命令認識ルーチンとか……そういうシステム的な部分にだって、きっと『バグ』はあるはずだよ! ユズルさんの『目』でそれを見つけて、私の『技術』でそのバグを突くような特殊な魔道具を作れば……常識外れの、とんでもないものが作れるんじゃないかな!?」
彼女の発想は、まさに俺が求めていたものだった。俺の【デバッガー】スキルは、単独では限定的な効果しか発揮できない場面も多い。だが、リリアの魔道具技術と組み合わせることで、その可能性は無限に広がる。バグの発見・解析(デバッグ)と、それを悪用(エクスプロイト)するためのツール開発。まさに、元SEと天才技師の最強タッグだ。
「……面白いですね」俺は、抑えきれない興奮を感じながら言った。「やりましょう、リリアさん。その『バグ利用魔道具』開発、ぜひ協力させてください」
「やったー! 話が早くて助かるよ!」リリアは満面の笑みだ。「まずは、手始めに『無限収納バッグ』から挑戦してみようか! 材料になる普通の収納バッグと、あとは……ユズルさんのスキルで『容量バグ』を見つけてもらわないとね!」
「分かりました。ですが、そのためには、まず資金と、安定した作業場所が必要ですね。この工房も、少し手狭になってきたようですし」
俺は、散らかった工房を見渡しながら言った。本格的な魔道具開発を行うには、もっと広いスペースと、充実した設備が必要になるだろう。
「あ……う、うん、そうだね……」リリアは、少しバツが悪そうに頭を掻く。「片付けは苦手なんだよね……。でも、大丈夫! ユズルさんが協力してくれるなら、私も本気出すよ! お金なら、今回のキューブ解析の成果をギルドに報告すれば、研究費くらいは出るかもしれないし! ダメなら、ユズルさんが稼いだお金で……」
「……まあ、資金については、俺も当てがありますから、大丈夫でしょう」金貨100枚の報酬は、まだほとんど手付かずだ。これを元手にすれば、工房の拡張や設備の購入も可能だろう。
こうして、俺とリリアの新たな目標――「バグ利用魔道具」の開発――が、具体的な計画として動き始めた。ホログラフ・キューブの完全解析は一旦保留とし、まずは実用的なアイテム開発で、俺たちの連携の成果を示すことにしたのだ。
時刻は、既に深夜を回っていた。興奮と疲労で、二人とも目は充血している。だが、その表情は、これからの活動への期待感で輝いていた。
「今日は、もう遅いですし、ここまでにしましょうか」俺が提案する。
「うん、そうだね。流石に眠い……」リリアは大きなあくびをした。「ユズルさん、今日は本当にありがとう! すっごく楽しかった!」
「こちらこそ。リリアさんのおかげで、新しい可能性が見えました」
俺は、リリアに礼を言い、工房を後にした。外は、すっかり闇に包まれ、月明かりだけが道を照らしている。
リリアの工房の窓から漏れる明かりを見上げながら、俺は今日の成果を噛み締めていた。古代の遺物の起動、世界の秘密への僅かな接触、そして、天才技師との本格的な協力関係の始まり。
(リリアとなら、本当に、何かすごいことができるかもしれない)
彼女の技術と発想力、そして俺の【デバッガー】スキル。この組み合わせは、この世界の常識を覆す可能性を秘めている。
しかし、同時に、一抹の不安も感じていた。
俺たちのやろうとしていることは、世界の法則やシステムの「穴」を突く、極めて危険な行為だ。それが、どのような結果を招くのか? 世界の「管理者」や、あるいは他の勢力に目をつけられるリスクはないのか?
そして、工房の外の闇の中に、微かに動く影が見えたような気がした。気のせいか? それとも……。
俺は、軽く首を振り、不安を打ち消すように、リューンの街の夜道を歩き始めた。
今は、目の前の目標に集中しよう。リリアと共に、誰も見たことのない魔道具を作り出す。その第一歩を踏み出すために。
元SEの異世界での挑戦は、新たな協力者を得て、さらに加速していく。
その先に、どんな「バグ」と「未来」が待ち受けているのか、まだ誰にも分からない。
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