異世界デバッガー ~不遇スキル【デバッガー】でバグ利用してたら、世界を救うことになった元SEの話~

夏見ナイ

文字の大きさ
47 / 80

第47話:地下遺跡の守護者と古代の罠

しおりを挟む
カルト教団の痕跡が残る祭壇を後にし、俺たちは忘れられた地下道(ロスト・アンダーパス)のさらに深部へと進んでいた。シャロンが入手した古地図と、俺の【デバッガー】スキルによるナビゲーションを頼りに、迷宮のような通路を進んでいく。先ほど発見した研究日誌が、彼らの目的や「星読みの羅針盤」の行方を知る鍵となるかもしれないという期待と、この先に待ち受けるであろう危険への警戒感が、パーティー全体を包んでいた。

地下深くに進むにつれて、周囲の雰囲気はますます異様になっていった。壁に刻まれたレリーフはより複雑怪奇なものとなり、空気中に漂う魔素濃度も上昇し、時折、空間そのものが僅かに歪むような感覚に襲われる。【デバッガー】スキルで探ると、古代の防御機構と思われるものが、今なお不完全に稼働している箇所が散見された。

「……この辺りから、古代のトラップや、遺跡を守るゴーレムが稼働している可能性が高いわ」シャロンが、地図を確認しながら警告する。「記録によれば、特に『警備ゴーレム・タイプγ(ガンマ)』と呼ばれる機種は、強力な魔力砲と自己修復機能を持つ厄介な相手らしいわよ」

「ゴーレムか……」クラウスが盾を構え直す。「以前、ユズル殿が起動させたものとは、わけが違うだろうな」
「うん、古代の戦闘用ゴーレムは、本当に強いからね……」リリアも、少し不安そうな顔をしている。

俺は【情報読取】を最大限に広げ、前方の気配を探る。
(……いる。前方、通路の先の広間。複数のエネルギー反応。大きさ、形状からして……ゴーレムだ。数は……三体!)

「前方、広間にゴーレムが三体います!」俺は即座に報告する。「おそらく、シャロンさんの言っていた警備ゴーレムです!」

俺の報告に、パーティーの緊張が一気に高まる。
「よし、迎撃態勢!」ボルガン……ではなく、今は俺がリーダーだ。状況を判断し、指示を出す。「クラウスさんは前衛、俺とシャロンさんで左右から撹乱、リリアさんは後方支援をお願いします!」

「了解!」
「分かった!」
「任せて!」
「……ふふ、面白くなってきたわね」

俺たちは、慎重に広間へと足を踏み入れた。そこは、天井の高いドーム状の空間で、中央には巨大な水晶のようなものが鎮座し、淡い光を放っている。そして、その水晶を守るように、三体の石造りの巨像――警備ゴーレム・タイプγが、静かに佇んでいた。

その姿は、俺が以前起動させたものよりも遥かに大きく、そして重厚な装甲に覆われている。両腕には、砲身のようなものが取り付けられており、目が赤く不気味に光っている。

『対象:警備ゴーレム・タイプγ ×3
 分類:魔導兵器>自律型ゴーレム(古代文明製)
 状態:警備モード(侵入者検知)
 ステータス:Lv ??(推定Bランク冒険者パーティー相当)、HP ???、MP ???(内部魔力炉稼働中)
 スキル:【魔力砲(中威力・連射可能)】【重装甲】【自己修復(小)】【連携行動(低)】
 特性:物理・魔法耐性(高)、対侵入者プログラム、弱点:コア(胸部装甲内部)、関節部(比較的装甲が薄い)
 備考:古代遺跡防衛用に量産されたゴーレム。単体でも強力だが、複数体での連携は脅威。魔力炉のオーバーヒート、あるいは制御系のバグを誘発できれば勝機あり。』

(Bランクパーティー相当が三体……! 正面からの戦闘は、かなり厳しいぞ……!)
俺は、解析結果に冷や汗をかく。

ピキュィィン!

俺たちが広間に足を踏み入れたのを感知したのか、ゴーレムたちの赤い目が一斉にこちらを向き、両腕の砲口がエネルギー充填を開始する音を発した。

「来るぞ! 回避!」
俺の叫びと同時に、三条の魔力光線が、凄まじい速度で放たれた!

俺たちは、咄嗟に左右の柱の影へと飛び込み、直撃を避ける。魔力砲が着弾した床や壁が、高熱で融解し、爆音と共に砕け散る。その威力は、ゴブリンキングの攻撃にも匹敵するかもしれない。

「くそっ、なんて威力だ……!」クラウスが、盾を構えながら呻く。
「あれを連続で撃たれたら、ひとたまりもないよ!」リリアが悲鳴に近い声を上げる。

(どうする……? 弱点はコアと関節部だが、あの重装甲を突破するのは容易じゃない。自己修復機能もある。魔力炉のオーバーヒートか、制御系のバグ……)

俺は、再び【バグ発見】スキルをゴーレムたちに集中させる。複数の対象、しかも古代の複雑な機械兵器。脳への負荷は尋常ではない。

(……あった! 連携行動プログラムのバグ! それと、魔力砲のエネルギー充填プロセスにも……!)

『……バグ検出:複数件
 ①【連携行動時のターゲット重複エラー】:複数のゴーレムが同一ターゲットを狙う際、稀にターゲット情報が重複し、一時的に攻撃が集中しすぎる、あるいは逆に攻撃が手薄になる瞬間が発生する。再現性:低。
 ②【魔力砲エネルギー充填シーケンスの同期ズレバグ】:魔力砲の発射準備を行う際、内部クロックのズレにより、充填完了タイミングが個体ごとに僅かにズレることがある。このズレを利用すれば、一斉射撃を回避、あるいはカウンターの隙を突ける可能性。再現性:中。
 ③【自己修復機能の優先度設定ミス】:損傷箇所の修復を行う際、コアや制御系などの重要部位よりも、装甲などの表面的な損傷を優先して修復しようとする傾向がある。結果、内部的なダメージが蓄積しやすい。再現性:高。』

(使えるバグがいくつかある!)
俺は、即座に仲間たちへ指示を出す。
「クラウスさん! ゴーレムを引きつけてください! ただし、一箇所に留まらず、常に動き回って! 奴らの連携にはバグがあり、ターゲットが集中しすぎる瞬間があります!」
「リリアさん! 閃光玉か煙幕の準備を! 奴らの魔力砲の発射タイミングにはズレがあります! 俺の合図で、目眩ましをお願いします!」
「シャロンさん! あなたは関節部を狙ってください! 装甲は硬いですが、関節部分は比較的脆いはず! それと、奴らは表面的なダメージを優先して修復するバグがあるので、執拗に関節部を狙えば、内部ダメージを蓄積させられるかもしれません!」

「了解した!」
「わ、わかった!」
「……面白いわね。やってみましょう」

俺の指示を受け、再び戦闘が開始された。
クラウスは、持ち前の盾術と機動力で、三体のゴーレムの攻撃を引きつけながら、広間を縦横無尽に動き回る。彼の動きは、まるで猛獣を相手にする闘牛士のようだ。時折、ゴーレムたちの攻撃が一点に集中しすぎる瞬間があり、クラウスはそれを巧みに利用して回避し、反撃の隙を窺う。連携行動バグが、確かに機能しているようだ。

ピキュィィン……ピキュィィン……ピキュィィン……

ゴーレムたちが、再び魔力砲の充填を開始する。だが、俺が発見した通り、充填完了のタイミングが、三体それぞれで僅かにズレているのが【情報読取】で分かる。

「リリアさん、今です! 真ん中の奴が先に撃ちます!」
俺の合図で、リリアが特製の閃光玉を投げつける!

パァァァッ!

強烈な光が広間を満たし、ゴーレムたちの光学センサー(目)を一時的に麻痺させる! 真ん中のゴーレムが放った魔力砲は、あらぬ方向へと飛んでいき、他の二体も発射タイミングを乱された!

その隙を突き、シャロンが影の中から躍り出た! 彼女の動きは、まさに疾風迅雷。ゴーレムの巨体をするりと掻い潜り、狙いすました二本の短剣が、一体のゴーレムの膝関節の隙間へと深々と突き刺さる!

ガギィン! バチッ!

鈍い金属音と共に、火花が散る。シャロンは即座に離脱し、次のターゲットの関節部を狙う。攻撃を受けたゴーレムは、膝を押さえるようにして動きが鈍る。自己修復機能が作動し、表面の傷は塞がろうとするが、内部の関節機構へのダメージは残っているようだ。自己修復バグも有効だ!

「よし、いいぞ! このまま押し切る!」
俺は、さらに的確な指示を出し続ける。敵の攻撃タイミング、弱点、バグの発生状況……【デバッガー】スキルで得られる情報をリアルタイムで共有し、パーティー全体の動きを最適化していく。

まるで、複雑なリアルタイムストラテジーゲームをプレイしているかのようだ。俺が司令塔となり、仲間たちがそれぞれの役割を完璧にこなしていく。

クラウスが敵を引きつけ、シャロンが関節部を破壊し、リリアが妨害アイテムで隙を作り、そして俺が情報で全てを繋ぐ。攻撃魔法こそないが、俺たちの連携は、確実にBランク相当のゴーレム三体を追い詰めていた。

一体、また一体と、ゴーレムの関節部が破壊され、動きが鈍っていく。魔力砲の発射頻度も下がり、精度も落ちてきた。自己修復機能も、追いつかなくなってきている。

「とどめだ!」
クラウスが、動きの止まったゴーレムの一体の懐に飛び込み、胸部装甲の隙間から、渾身の力で剣を突き立てた! おそらく、コアがあるであろう位置だ!

グシャァッ!

鈍い破壊音と共に、ゴーレムの赤い目が光を失い、その巨体がゆっくりと傾き、床に倒れ伏した。

「やった!」リリアが歓声を上げる。

残る二体も、時間の問題だった。シャロンがもう一体の関節を完全に破壊し、行動不能に陥らせる。最後の一体は、ボルガンから教わった重打撃の技を応用したクラウスと、俺が【コード・ライティング】で一時的に魔力炉の出力を不安定にさせた連携攻撃によって、内部から爆発四散した。

「……ふぅ。終わったか」
クラウスが、荒い息をつきながら剣を下ろす。彼の鎧は傷つき、額には汗が光っているが、その目には達成感が浮かんでいる。

「……なかなか、楽しませてくれたわね」シャロンは、短剣についたオイルのようなものを拭いながら、平然と言ってのける。
「はぁ……疲れたぁ……でも、すごかったね、みんな!」リリアは、興奮冷めやらぬ様子だ。

俺も、激しい情報処理と指示による精神的な疲労を感じながらも、確かな満足感を覚えていた。俺たちの連携は、確実に機能し、格上の敵をも打ち破ることができたのだ。

(【デバッガー】スキルは、単独で使うよりも、信頼できる仲間との連携の中でこそ、真価を発揮するのかもしれないな……)

この勝利は、俺たちのパーティーとしての絆を、さらに深めるきっかけとなっただろう。

俺たちは、倒したゴーレムの残骸(リリアが目を輝かせながら素材を回収していた)を後にし、広間の中央に鎮座する巨大な水晶へと近づいた。あれは一体何なのだろうか?

俺が【情報読取】を使おうとした、その時。
水晶が、突如として強い光を放ち始めた!

「な、なんだ!?」

そして、水晶の表面に、古代文字と思しき紋様が浮かび上がり、それはまるで、何かの「問いかけ」を発しているかのように、俺たちに向かって明滅を繰り返すのだった。

忘れられた地下道は、まだ俺たちに、その深淵を見せてはいなかった。
新たな謎と、試練が、俺たちを待ち受けている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!? これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。 日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

処理中です...