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第47話:地下遺跡の守護者と古代の罠
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カルト教団の痕跡が残る祭壇を後にし、俺たちは忘れられた地下道(ロスト・アンダーパス)のさらに深部へと進んでいた。シャロンが入手した古地図と、俺の【デバッガー】スキルによるナビゲーションを頼りに、迷宮のような通路を進んでいく。先ほど発見した研究日誌が、彼らの目的や「星読みの羅針盤」の行方を知る鍵となるかもしれないという期待と、この先に待ち受けるであろう危険への警戒感が、パーティー全体を包んでいた。
地下深くに進むにつれて、周囲の雰囲気はますます異様になっていった。壁に刻まれたレリーフはより複雑怪奇なものとなり、空気中に漂う魔素濃度も上昇し、時折、空間そのものが僅かに歪むような感覚に襲われる。【デバッガー】スキルで探ると、古代の防御機構と思われるものが、今なお不完全に稼働している箇所が散見された。
「……この辺りから、古代のトラップや、遺跡を守るゴーレムが稼働している可能性が高いわ」シャロンが、地図を確認しながら警告する。「記録によれば、特に『警備ゴーレム・タイプγ(ガンマ)』と呼ばれる機種は、強力な魔力砲と自己修復機能を持つ厄介な相手らしいわよ」
「ゴーレムか……」クラウスが盾を構え直す。「以前、ユズル殿が起動させたものとは、わけが違うだろうな」
「うん、古代の戦闘用ゴーレムは、本当に強いからね……」リリアも、少し不安そうな顔をしている。
俺は【情報読取】を最大限に広げ、前方の気配を探る。
(……いる。前方、通路の先の広間。複数のエネルギー反応。大きさ、形状からして……ゴーレムだ。数は……三体!)
「前方、広間にゴーレムが三体います!」俺は即座に報告する。「おそらく、シャロンさんの言っていた警備ゴーレムです!」
俺の報告に、パーティーの緊張が一気に高まる。
「よし、迎撃態勢!」ボルガン……ではなく、今は俺がリーダーだ。状況を判断し、指示を出す。「クラウスさんは前衛、俺とシャロンさんで左右から撹乱、リリアさんは後方支援をお願いします!」
「了解!」
「分かった!」
「任せて!」
「……ふふ、面白くなってきたわね」
俺たちは、慎重に広間へと足を踏み入れた。そこは、天井の高いドーム状の空間で、中央には巨大な水晶のようなものが鎮座し、淡い光を放っている。そして、その水晶を守るように、三体の石造りの巨像――警備ゴーレム・タイプγが、静かに佇んでいた。
その姿は、俺が以前起動させたものよりも遥かに大きく、そして重厚な装甲に覆われている。両腕には、砲身のようなものが取り付けられており、目が赤く不気味に光っている。
『対象:警備ゴーレム・タイプγ ×3
分類:魔導兵器>自律型ゴーレム(古代文明製)
状態:警備モード(侵入者検知)
ステータス:Lv ??(推定Bランク冒険者パーティー相当)、HP ???、MP ???(内部魔力炉稼働中)
スキル:【魔力砲(中威力・連射可能)】【重装甲】【自己修復(小)】【連携行動(低)】
特性:物理・魔法耐性(高)、対侵入者プログラム、弱点:コア(胸部装甲内部)、関節部(比較的装甲が薄い)
備考:古代遺跡防衛用に量産されたゴーレム。単体でも強力だが、複数体での連携は脅威。魔力炉のオーバーヒート、あるいは制御系のバグを誘発できれば勝機あり。』
(Bランクパーティー相当が三体……! 正面からの戦闘は、かなり厳しいぞ……!)
俺は、解析結果に冷や汗をかく。
ピキュィィン!
俺たちが広間に足を踏み入れたのを感知したのか、ゴーレムたちの赤い目が一斉にこちらを向き、両腕の砲口がエネルギー充填を開始する音を発した。
「来るぞ! 回避!」
俺の叫びと同時に、三条の魔力光線が、凄まじい速度で放たれた!
俺たちは、咄嗟に左右の柱の影へと飛び込み、直撃を避ける。魔力砲が着弾した床や壁が、高熱で融解し、爆音と共に砕け散る。その威力は、ゴブリンキングの攻撃にも匹敵するかもしれない。
「くそっ、なんて威力だ……!」クラウスが、盾を構えながら呻く。
「あれを連続で撃たれたら、ひとたまりもないよ!」リリアが悲鳴に近い声を上げる。
(どうする……? 弱点はコアと関節部だが、あの重装甲を突破するのは容易じゃない。自己修復機能もある。魔力炉のオーバーヒートか、制御系のバグ……)
俺は、再び【バグ発見】スキルをゴーレムたちに集中させる。複数の対象、しかも古代の複雑な機械兵器。脳への負荷は尋常ではない。
(……あった! 連携行動プログラムのバグ! それと、魔力砲のエネルギー充填プロセスにも……!)
『……バグ検出:複数件
①【連携行動時のターゲット重複エラー】:複数のゴーレムが同一ターゲットを狙う際、稀にターゲット情報が重複し、一時的に攻撃が集中しすぎる、あるいは逆に攻撃が手薄になる瞬間が発生する。再現性:低。
②【魔力砲エネルギー充填シーケンスの同期ズレバグ】:魔力砲の発射準備を行う際、内部クロックのズレにより、充填完了タイミングが個体ごとに僅かにズレることがある。このズレを利用すれば、一斉射撃を回避、あるいはカウンターの隙を突ける可能性。再現性:中。
③【自己修復機能の優先度設定ミス】:損傷箇所の修復を行う際、コアや制御系などの重要部位よりも、装甲などの表面的な損傷を優先して修復しようとする傾向がある。結果、内部的なダメージが蓄積しやすい。再現性:高。』
(使えるバグがいくつかある!)
俺は、即座に仲間たちへ指示を出す。
「クラウスさん! ゴーレムを引きつけてください! ただし、一箇所に留まらず、常に動き回って! 奴らの連携にはバグがあり、ターゲットが集中しすぎる瞬間があります!」
「リリアさん! 閃光玉か煙幕の準備を! 奴らの魔力砲の発射タイミングにはズレがあります! 俺の合図で、目眩ましをお願いします!」
「シャロンさん! あなたは関節部を狙ってください! 装甲は硬いですが、関節部分は比較的脆いはず! それと、奴らは表面的なダメージを優先して修復するバグがあるので、執拗に関節部を狙えば、内部ダメージを蓄積させられるかもしれません!」
「了解した!」
「わ、わかった!」
「……面白いわね。やってみましょう」
俺の指示を受け、再び戦闘が開始された。
クラウスは、持ち前の盾術と機動力で、三体のゴーレムの攻撃を引きつけながら、広間を縦横無尽に動き回る。彼の動きは、まるで猛獣を相手にする闘牛士のようだ。時折、ゴーレムたちの攻撃が一点に集中しすぎる瞬間があり、クラウスはそれを巧みに利用して回避し、反撃の隙を窺う。連携行動バグが、確かに機能しているようだ。
ピキュィィン……ピキュィィン……ピキュィィン……
ゴーレムたちが、再び魔力砲の充填を開始する。だが、俺が発見した通り、充填完了のタイミングが、三体それぞれで僅かにズレているのが【情報読取】で分かる。
「リリアさん、今です! 真ん中の奴が先に撃ちます!」
俺の合図で、リリアが特製の閃光玉を投げつける!
パァァァッ!
強烈な光が広間を満たし、ゴーレムたちの光学センサー(目)を一時的に麻痺させる! 真ん中のゴーレムが放った魔力砲は、あらぬ方向へと飛んでいき、他の二体も発射タイミングを乱された!
その隙を突き、シャロンが影の中から躍り出た! 彼女の動きは、まさに疾風迅雷。ゴーレムの巨体をするりと掻い潜り、狙いすました二本の短剣が、一体のゴーレムの膝関節の隙間へと深々と突き刺さる!
ガギィン! バチッ!
鈍い金属音と共に、火花が散る。シャロンは即座に離脱し、次のターゲットの関節部を狙う。攻撃を受けたゴーレムは、膝を押さえるようにして動きが鈍る。自己修復機能が作動し、表面の傷は塞がろうとするが、内部の関節機構へのダメージは残っているようだ。自己修復バグも有効だ!
「よし、いいぞ! このまま押し切る!」
俺は、さらに的確な指示を出し続ける。敵の攻撃タイミング、弱点、バグの発生状況……【デバッガー】スキルで得られる情報をリアルタイムで共有し、パーティー全体の動きを最適化していく。
まるで、複雑なリアルタイムストラテジーゲームをプレイしているかのようだ。俺が司令塔となり、仲間たちがそれぞれの役割を完璧にこなしていく。
クラウスが敵を引きつけ、シャロンが関節部を破壊し、リリアが妨害アイテムで隙を作り、そして俺が情報で全てを繋ぐ。攻撃魔法こそないが、俺たちの連携は、確実にBランク相当のゴーレム三体を追い詰めていた。
一体、また一体と、ゴーレムの関節部が破壊され、動きが鈍っていく。魔力砲の発射頻度も下がり、精度も落ちてきた。自己修復機能も、追いつかなくなってきている。
「とどめだ!」
クラウスが、動きの止まったゴーレムの一体の懐に飛び込み、胸部装甲の隙間から、渾身の力で剣を突き立てた! おそらく、コアがあるであろう位置だ!
グシャァッ!
鈍い破壊音と共に、ゴーレムの赤い目が光を失い、その巨体がゆっくりと傾き、床に倒れ伏した。
「やった!」リリアが歓声を上げる。
残る二体も、時間の問題だった。シャロンがもう一体の関節を完全に破壊し、行動不能に陥らせる。最後の一体は、ボルガンから教わった重打撃の技を応用したクラウスと、俺が【コード・ライティング】で一時的に魔力炉の出力を不安定にさせた連携攻撃によって、内部から爆発四散した。
「……ふぅ。終わったか」
クラウスが、荒い息をつきながら剣を下ろす。彼の鎧は傷つき、額には汗が光っているが、その目には達成感が浮かんでいる。
「……なかなか、楽しませてくれたわね」シャロンは、短剣についたオイルのようなものを拭いながら、平然と言ってのける。
「はぁ……疲れたぁ……でも、すごかったね、みんな!」リリアは、興奮冷めやらぬ様子だ。
俺も、激しい情報処理と指示による精神的な疲労を感じながらも、確かな満足感を覚えていた。俺たちの連携は、確実に機能し、格上の敵をも打ち破ることができたのだ。
(【デバッガー】スキルは、単独で使うよりも、信頼できる仲間との連携の中でこそ、真価を発揮するのかもしれないな……)
この勝利は、俺たちのパーティーとしての絆を、さらに深めるきっかけとなっただろう。
俺たちは、倒したゴーレムの残骸(リリアが目を輝かせながら素材を回収していた)を後にし、広間の中央に鎮座する巨大な水晶へと近づいた。あれは一体何なのだろうか?
俺が【情報読取】を使おうとした、その時。
水晶が、突如として強い光を放ち始めた!
「な、なんだ!?」
そして、水晶の表面に、古代文字と思しき紋様が浮かび上がり、それはまるで、何かの「問いかけ」を発しているかのように、俺たちに向かって明滅を繰り返すのだった。
忘れられた地下道は、まだ俺たちに、その深淵を見せてはいなかった。
新たな謎と、試練が、俺たちを待ち受けている。
地下深くに進むにつれて、周囲の雰囲気はますます異様になっていった。壁に刻まれたレリーフはより複雑怪奇なものとなり、空気中に漂う魔素濃度も上昇し、時折、空間そのものが僅かに歪むような感覚に襲われる。【デバッガー】スキルで探ると、古代の防御機構と思われるものが、今なお不完全に稼働している箇所が散見された。
「……この辺りから、古代のトラップや、遺跡を守るゴーレムが稼働している可能性が高いわ」シャロンが、地図を確認しながら警告する。「記録によれば、特に『警備ゴーレム・タイプγ(ガンマ)』と呼ばれる機種は、強力な魔力砲と自己修復機能を持つ厄介な相手らしいわよ」
「ゴーレムか……」クラウスが盾を構え直す。「以前、ユズル殿が起動させたものとは、わけが違うだろうな」
「うん、古代の戦闘用ゴーレムは、本当に強いからね……」リリアも、少し不安そうな顔をしている。
俺は【情報読取】を最大限に広げ、前方の気配を探る。
(……いる。前方、通路の先の広間。複数のエネルギー反応。大きさ、形状からして……ゴーレムだ。数は……三体!)
「前方、広間にゴーレムが三体います!」俺は即座に報告する。「おそらく、シャロンさんの言っていた警備ゴーレムです!」
俺の報告に、パーティーの緊張が一気に高まる。
「よし、迎撃態勢!」ボルガン……ではなく、今は俺がリーダーだ。状況を判断し、指示を出す。「クラウスさんは前衛、俺とシャロンさんで左右から撹乱、リリアさんは後方支援をお願いします!」
「了解!」
「分かった!」
「任せて!」
「……ふふ、面白くなってきたわね」
俺たちは、慎重に広間へと足を踏み入れた。そこは、天井の高いドーム状の空間で、中央には巨大な水晶のようなものが鎮座し、淡い光を放っている。そして、その水晶を守るように、三体の石造りの巨像――警備ゴーレム・タイプγが、静かに佇んでいた。
その姿は、俺が以前起動させたものよりも遥かに大きく、そして重厚な装甲に覆われている。両腕には、砲身のようなものが取り付けられており、目が赤く不気味に光っている。
『対象:警備ゴーレム・タイプγ ×3
分類:魔導兵器>自律型ゴーレム(古代文明製)
状態:警備モード(侵入者検知)
ステータス:Lv ??(推定Bランク冒険者パーティー相当)、HP ???、MP ???(内部魔力炉稼働中)
スキル:【魔力砲(中威力・連射可能)】【重装甲】【自己修復(小)】【連携行動(低)】
特性:物理・魔法耐性(高)、対侵入者プログラム、弱点:コア(胸部装甲内部)、関節部(比較的装甲が薄い)
備考:古代遺跡防衛用に量産されたゴーレム。単体でも強力だが、複数体での連携は脅威。魔力炉のオーバーヒート、あるいは制御系のバグを誘発できれば勝機あり。』
(Bランクパーティー相当が三体……! 正面からの戦闘は、かなり厳しいぞ……!)
俺は、解析結果に冷や汗をかく。
ピキュィィン!
俺たちが広間に足を踏み入れたのを感知したのか、ゴーレムたちの赤い目が一斉にこちらを向き、両腕の砲口がエネルギー充填を開始する音を発した。
「来るぞ! 回避!」
俺の叫びと同時に、三条の魔力光線が、凄まじい速度で放たれた!
俺たちは、咄嗟に左右の柱の影へと飛び込み、直撃を避ける。魔力砲が着弾した床や壁が、高熱で融解し、爆音と共に砕け散る。その威力は、ゴブリンキングの攻撃にも匹敵するかもしれない。
「くそっ、なんて威力だ……!」クラウスが、盾を構えながら呻く。
「あれを連続で撃たれたら、ひとたまりもないよ!」リリアが悲鳴に近い声を上げる。
(どうする……? 弱点はコアと関節部だが、あの重装甲を突破するのは容易じゃない。自己修復機能もある。魔力炉のオーバーヒートか、制御系のバグ……)
俺は、再び【バグ発見】スキルをゴーレムたちに集中させる。複数の対象、しかも古代の複雑な機械兵器。脳への負荷は尋常ではない。
(……あった! 連携行動プログラムのバグ! それと、魔力砲のエネルギー充填プロセスにも……!)
『……バグ検出:複数件
①【連携行動時のターゲット重複エラー】:複数のゴーレムが同一ターゲットを狙う際、稀にターゲット情報が重複し、一時的に攻撃が集中しすぎる、あるいは逆に攻撃が手薄になる瞬間が発生する。再現性:低。
②【魔力砲エネルギー充填シーケンスの同期ズレバグ】:魔力砲の発射準備を行う際、内部クロックのズレにより、充填完了タイミングが個体ごとに僅かにズレることがある。このズレを利用すれば、一斉射撃を回避、あるいはカウンターの隙を突ける可能性。再現性:中。
③【自己修復機能の優先度設定ミス】:損傷箇所の修復を行う際、コアや制御系などの重要部位よりも、装甲などの表面的な損傷を優先して修復しようとする傾向がある。結果、内部的なダメージが蓄積しやすい。再現性:高。』
(使えるバグがいくつかある!)
俺は、即座に仲間たちへ指示を出す。
「クラウスさん! ゴーレムを引きつけてください! ただし、一箇所に留まらず、常に動き回って! 奴らの連携にはバグがあり、ターゲットが集中しすぎる瞬間があります!」
「リリアさん! 閃光玉か煙幕の準備を! 奴らの魔力砲の発射タイミングにはズレがあります! 俺の合図で、目眩ましをお願いします!」
「シャロンさん! あなたは関節部を狙ってください! 装甲は硬いですが、関節部分は比較的脆いはず! それと、奴らは表面的なダメージを優先して修復するバグがあるので、執拗に関節部を狙えば、内部ダメージを蓄積させられるかもしれません!」
「了解した!」
「わ、わかった!」
「……面白いわね。やってみましょう」
俺の指示を受け、再び戦闘が開始された。
クラウスは、持ち前の盾術と機動力で、三体のゴーレムの攻撃を引きつけながら、広間を縦横無尽に動き回る。彼の動きは、まるで猛獣を相手にする闘牛士のようだ。時折、ゴーレムたちの攻撃が一点に集中しすぎる瞬間があり、クラウスはそれを巧みに利用して回避し、反撃の隙を窺う。連携行動バグが、確かに機能しているようだ。
ピキュィィン……ピキュィィン……ピキュィィン……
ゴーレムたちが、再び魔力砲の充填を開始する。だが、俺が発見した通り、充填完了のタイミングが、三体それぞれで僅かにズレているのが【情報読取】で分かる。
「リリアさん、今です! 真ん中の奴が先に撃ちます!」
俺の合図で、リリアが特製の閃光玉を投げつける!
パァァァッ!
強烈な光が広間を満たし、ゴーレムたちの光学センサー(目)を一時的に麻痺させる! 真ん中のゴーレムが放った魔力砲は、あらぬ方向へと飛んでいき、他の二体も発射タイミングを乱された!
その隙を突き、シャロンが影の中から躍り出た! 彼女の動きは、まさに疾風迅雷。ゴーレムの巨体をするりと掻い潜り、狙いすました二本の短剣が、一体のゴーレムの膝関節の隙間へと深々と突き刺さる!
ガギィン! バチッ!
鈍い金属音と共に、火花が散る。シャロンは即座に離脱し、次のターゲットの関節部を狙う。攻撃を受けたゴーレムは、膝を押さえるようにして動きが鈍る。自己修復機能が作動し、表面の傷は塞がろうとするが、内部の関節機構へのダメージは残っているようだ。自己修復バグも有効だ!
「よし、いいぞ! このまま押し切る!」
俺は、さらに的確な指示を出し続ける。敵の攻撃タイミング、弱点、バグの発生状況……【デバッガー】スキルで得られる情報をリアルタイムで共有し、パーティー全体の動きを最適化していく。
まるで、複雑なリアルタイムストラテジーゲームをプレイしているかのようだ。俺が司令塔となり、仲間たちがそれぞれの役割を完璧にこなしていく。
クラウスが敵を引きつけ、シャロンが関節部を破壊し、リリアが妨害アイテムで隙を作り、そして俺が情報で全てを繋ぐ。攻撃魔法こそないが、俺たちの連携は、確実にBランク相当のゴーレム三体を追い詰めていた。
一体、また一体と、ゴーレムの関節部が破壊され、動きが鈍っていく。魔力砲の発射頻度も下がり、精度も落ちてきた。自己修復機能も、追いつかなくなってきている。
「とどめだ!」
クラウスが、動きの止まったゴーレムの一体の懐に飛び込み、胸部装甲の隙間から、渾身の力で剣を突き立てた! おそらく、コアがあるであろう位置だ!
グシャァッ!
鈍い破壊音と共に、ゴーレムの赤い目が光を失い、その巨体がゆっくりと傾き、床に倒れ伏した。
「やった!」リリアが歓声を上げる。
残る二体も、時間の問題だった。シャロンがもう一体の関節を完全に破壊し、行動不能に陥らせる。最後の一体は、ボルガンから教わった重打撃の技を応用したクラウスと、俺が【コード・ライティング】で一時的に魔力炉の出力を不安定にさせた連携攻撃によって、内部から爆発四散した。
「……ふぅ。終わったか」
クラウスが、荒い息をつきながら剣を下ろす。彼の鎧は傷つき、額には汗が光っているが、その目には達成感が浮かんでいる。
「……なかなか、楽しませてくれたわね」シャロンは、短剣についたオイルのようなものを拭いながら、平然と言ってのける。
「はぁ……疲れたぁ……でも、すごかったね、みんな!」リリアは、興奮冷めやらぬ様子だ。
俺も、激しい情報処理と指示による精神的な疲労を感じながらも、確かな満足感を覚えていた。俺たちの連携は、確実に機能し、格上の敵をも打ち破ることができたのだ。
(【デバッガー】スキルは、単独で使うよりも、信頼できる仲間との連携の中でこそ、真価を発揮するのかもしれないな……)
この勝利は、俺たちのパーティーとしての絆を、さらに深めるきっかけとなっただろう。
俺たちは、倒したゴーレムの残骸(リリアが目を輝かせながら素材を回収していた)を後にし、広間の中央に鎮座する巨大な水晶へと近づいた。あれは一体何なのだろうか?
俺が【情報読取】を使おうとした、その時。
水晶が、突如として強い光を放ち始めた!
「な、なんだ!?」
そして、水晶の表面に、古代文字と思しき紋様が浮かび上がり、それはまるで、何かの「問いかけ」を発しているかのように、俺たちに向かって明滅を繰り返すのだった。
忘れられた地下道は、まだ俺たちに、その深淵を見せてはいなかった。
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