異世界デバッガー ~不遇スキル【デバッガー】でバグ利用してたら、世界を救うことになった元SEの話~

夏見ナイ

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第48話:水晶の問いかけとシステムの残滓

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警備ゴーレムとの激戦を終えた広間に、静寂が戻る。しかし、その静寂はすぐに破られた。広間の中央に鎮座する巨大な水晶が、突如として強い光を放ち始めたのだ。淡く明滅する光は、まるで呼吸をしているかのようで、その表面には無数の古代文字が流れるように浮かび上がっては消えていく。

「な、なんだ!? 今度は何が始まるんだ!?」
クラウスは、倒したゴーレムの残骸から視線を移し、警戒心を露わにして水晶を睨みつける。

「わぁ……きれい……でも、何か言ってるみたい……?」
リリアは、その神秘的な光景に目を奪われながらも、不安そうな声を漏らす。

「……古代の認証システム、あるいは何かのメッセージかしら」
シャロンは冷静に状況を分析し、いつでも動けるように身構えている。

俺、ユズルもまた、目の前の現象に驚きつつ、即座に【デバッガー】スキルを発動させていた。対象は、光り輝く巨大な水晶とその表面に浮かぶ古代文字だ。

(これは……単なる装飾やエネルギー源じゃない。明確な『意志』のようなものを感じる……!)

『対象:遺跡管理システム・ノードXXVII(名称仮)
 分類:古代文明製システム>情報・制御端末?
 状態:限定的稼働中(エネルギー供給不安定)、外部アクセス(侵入者)検知、認証シーケンス起動
 機能:遺跡内環境制御(一部)、情報記録・検索(制限あり)、アクセス権限管理、防衛システム連携(一部稼働)
 備考:忘れられた地下道の広域管理システムの一部と思われる。長年の放置により機能の大部分が停止・劣化しているが、コア部分は稼働中。現在、侵入者(あなた達)に対し、アクセス資格を問う認証プロセスを実行中。認証失敗、または不正アクセス試行時には、防衛機構(残存ゴーレム、トラップ等)が作動する可能性あり。』

『対象:古代文字(認証キー要求)
 内容:解読不能(知識不足)。ただし、発光パターンと魔力波形から、特定の『思考パターン』または『キーワード(パスフレーズ)』の入力を要求していると推測される。要求される思考パターンは、「創造主への敬意」「システムの維持」「歪みの排除」などに関連する可能性が高い。』

(……やはり、認証システムか。しかも、パスワードは思考パターンやキーワード……厄介だな)
解析結果を仲間たちに伝える。

「どうやら、この水晶は遺跡の管理システムの一部で、俺たちに『資格』があるかどうか試しているようです。パスワードは、特定の考え方か、合言葉のようなものらしいですが……古代文字は読めません」

「資格を試すだと? ふざけたことを……」クラウスは不快そうに眉をひそめる。「我々は、この遺跡を荒らしに来たわけではない。むしろ、ここで悪事を働くカルト教団を追っているのだぞ」

「でもでも、すごいよ! 古代のコンピューターみたいなものかな!? ねぇ、ユズルさん、ハッキングできないの? 例えば、パスワードをバイパスするとか、管理者権限を乗っ取っちゃうとか!」リリアは、技術的な興味から目を輝かせている。

(ハッキング……か。確かに、【コード・ライティング】を使えば、あるいは……)
だが、前回の経験が頭をよぎる。古代のシステムに下手に干渉すれば、どんなペナルティが待っているか分からない。それに、備考欄には「不正アクセス試行時には防衛機構が作動」とあった。リスクが高すぎる。

「……落ち着いて、リリア」シャロンが彼女を制する。「下手に手を出せば、どうなるか分からないわ。ユズル、他に何か情報は? 例えば、認証に失敗した場合、どうなるのかしら?」

「最悪の場合、残っているゴーレムや罠が一斉に作動する可能性があります。それに、この水晶自体が何らかの攻撃機能を持っている可能性も否定できません」俺は答える。

「……進むも地獄、退くも地獄、というわけか」クラウスが苦々しく呟く。

「何か、ヒントはないのかしら?」シャロンが問う。「要求される思考パターン……『創造主への敬意』『システムの維持』『歪みの排除』……随分と抽象的ね」

俺は、もう一度水晶と古代文字の情報を深く読み込もうと試みる。【バグ発見】の意識を強め、システムそのものの「隙間」を探す。

(認証ロジック……キーワード照合……思考パターン解析……どこかに、抜け道は……? あった! これは……)

『……バグ検出:1件
 内容:【思考パターン認証における『ノイズ』許容閾値の異常設定】
  詳細:侵入者の思考パターンを解析し、正当なアクセス権限者(古代文明の関係者など)のものと一致するかを判定するロジックにおいて、ノイズ(無関係な思考や感情)に対する許容範囲が、経年劣化か設計ミスにより、異常に広く設定されている。
 影響:完全に一致する思考パターンでなくとも、要求されるキーワード(創造主、システム、歪み等)に関連する強い『意志』や『感情』を伴う思考であれば、認証をパスしてしまう可能性がある。例えば、「システム(世界)のバグ(歪み)を修正(排除)したい」という強い意志など。
 備考:ただし、悪意や破壊的な思考が混じると、即座に不正アクセスと判定されるリスクあり。純粋な『問題解決』への意志が重要。』

(……なるほど。完璧なパスワードは不要。関連する強い『意志』があれば、通る可能性がある、か。しかも、『バグを修正したい』という意志……まさに、俺のことじゃないか?)

これは、賭けてみる価値があるかもしれない。リスクはあるが、成功すれば道が開ける。

俺は、仲間たちにこのバグについて説明した。
「……どうやら、完璧な答えは必要ないようです。関連するキーワードを含む、強い『意志』を示せば、認証をパスできるかもしれません。例えば……俺が持つ、『この世界のバグを修正したい』という意志とか」

「バグを修正したい、という意志……?」クラウスが訝しげな顔をする。「それは、一体どういう……」

「説明は後です」俺はクラウスを遮る。「問題は、どうやってその『意志』を水晶に伝えるかです。念じるだけでいいのか、それとも……」

「おそらく、魔力を介して思考を読み取っているのでしょう」セレスティアが……いや、ここに彼女はいなかった。代わりに、リリアが推測する。「だったら、ユズルさんが水晶に直接触れて、強く念じれば、伝わるんじゃないかな?」

「……そうかもしれないわね」シャロンも同意する。「ただし、『悪意』が混じればアウトよ。純粋な『問題解決』への意志……あなたに、それがあるかしら?」
彼女の赤い瞳が、俺の心を見透かすように見つめる。

(純粋な問題解決への意志……か)
俺の動機は、必ずしも純粋とは言えないかもしれない。好奇心、自己満足、あるいは元SEとしての職業病。だが、ゴブリンキングやマルクス子爵の事件を経て、この世界の「歪み」を放置しておけない、という気持ちが強くなっているのも事実だ。

「……やってみます」俺は、決意を固めた。「俺の意志が、この古代のシステムに通用するかどうか、試してみましょう」

俺は、仲間たちが見守る中、ゆっくりと巨大な水晶へと近づいた。水晶から放たれる光と、微弱な魔力の波動が、肌をピリピリと刺激する。

水晶の表面に、そっと手を触れる。ひんやりとした、滑らかな感触。
そして、意識を集中させる。これまでの経験、見てきたバグ、感じてきた歪み、そして、それを正したいという想い。

(俺は、この世界のシステムを理解したい。そして、そこに潜むバグを見つけ出し、修正したい。それが、俺がこの世界でやるべきことだと信じているからだ……!)

強く、純粋に、その意志を念じる。俺自身の魔力が、手のひらを通じて水晶へと流れ込んでいく感覚がある。

すると、水晶の光が、さらに強く輝き始めた! 表面を流れていた古代文字の動きが速まり、一つの巨大な紋様へと収束していく。

ゴゴゴゴゴ……

広間全体が、地響きのような音と共に振動し始める。認証が成功したのか? それとも、失敗して防衛機構が作動したのか!?

俺たちが身構えた瞬間、水晶の輝きが最高潮に達し、その光が一直線に、広間の一方の壁へと照射された!

光が当たった壁の部分が、まるで融解するように形を変え、新たな通路が出現したのだ!

「……道が、開いた……?」リリアが、呆然と呟く。

『認証成功。アクセス権限レベル3を付与。内部エリアへの進入を許可します』

水晶から、直接脳内に響くような、合成音声のような声が聞こえた。それは、転生時に聞いたシステム音声とは違う、もっと古く、無機質な響きを持っていた。

「……やった! 成功したみたいです!」俺は、安堵の息をつきながら、仲間たちに告げた。

「信じられん……君の『意志』が、この古代のシステムに認められたというのか……」クラウスは、驚きと畏敬の念が入り混じった表情で俺を見ている。
「すごいよユズルさん! まるで魔法使いみたい!」リリアは、手放しで喜んでいる。
「……ふふ、やはりあなたは面白いわね、ユズル」シャロンは、満足そうに微笑んでいた。

俺の持つ【デバッガー】としての資質、あるいは「バグを修正したい」という意志そのものが、この古代遺跡のシステムにとって、ある種の「正当なアクセスキー」として機能したのかもしれない。

いずれにせよ、道は開かれた。水晶が開いた新たな通路は、遺跡のさらに深部へと続いている。その先には、「星読みの羅針盤」が、そしてカルト教団の核心が待ち受けているのだろうか?

俺たちは、互いに顔を見合わせ、決意を新たにする。
「行きましょう」

古代のシステムが認めた(?)デバッガーと、その仲間たち。
俺たちの、忘れられた地下道攻略は、新たな局面を迎えた。システムの残滓が示す道の先に、一体何が待っているのか。期待と不安を胸に、俺たちは、光差す新たな通路へと、足を踏み入れた。

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