異世界デバッガー ~不遇スキル【デバッガー】でバグ利用してたら、世界を救うことになった元SEの話~

夏見ナイ

文字の大きさ
49 / 80

第49話:深淵を覗く者たちのアジト

しおりを挟む
遺跡管理システムのノードである巨大水晶が開いた新たな通路。それは、これまで俺たちが進んできた崩落した遺跡とは異なり、明らかに保存状態が良く、そして何らかの目的を持って作られた区画へと続いていた。壁面は滑らかに研磨され、床には精密な幾何学模様が描かれている。そして、通路の壁には、あの青緑色に発光する「浄化石(仮称)」が等間隔に埋め込まれており、内部を明るく照らしていた。

「すごい……! こっちは、ほとんど損傷がないみたい!」リリアが、壁の構造や材質を食い入るように観察しながら、興奮した声を上げる。「使われている技術も、さっきまでのエリアとは全然違う……もっと高度で、洗練されてる!」

「確かに、空気が違うな」クラウスも、周囲の雰囲気に気づいたようだ。「先ほどまでの、淀んだ魔力汚染の気配が薄れている。この浄化石の効果か?」

「その可能性が高いですね」俺は【情報読取】で周囲の環境を確認しながら答える。「魔素濃度は安定しており、空間の歪みも感じられません。このエリアは、遺跡の中でも特に重要な区画で、浄化システムによって環境が維持されているのかもしれません」

「だとしたら、カルト教団がここにアジトを構えている可能性も高いわね」シャロンが、冷静に指摘する。「彼らも、この遺跡の重要性を理解しているはずだわ。そして、『星読みの羅針盤』のような貴重な遺物を保管するにも、都合が良い場所でしょう」

彼女の言葉に、俺たちは再び気を引き締める。この先に、カルト教団の主力、あるいは彼らが隠している「何か」が待ち受けている可能性が高いのだ。

俺たちは、以前にも増して慎重に、浄化された通路を進んでいく。道中、いくつかの分岐や扉があったが、水晶から付与された「アクセス権限レベル3」のおかげか、特定の扉は俺たちが近づくと自動的に開き、あるいは俺の【デバッガー】スキルによる簡単な認証操作(これもバグを利用したものだが)で解錠することができた。まるで、この遺跡自体が、俺たちを導いているかのようだ。

(……このアクセス権限、どこまで有効なんだろうか? そして、レベル3というのは、どの程度の権限なんだ?)
疑問は尽きないが、今は目の前の道を進むしかない。

しばらく進むと、通路は開けた場所へと繋がった。そこは、巨大な円形のホールのような空間だった。天井はドーム状で高く、壁面には無数の棚が設置されており、そこには膨大な数の巻物や、水晶板のような記録媒体が整然と並べられている。まるで、古代の図書館か、あるいはデータセンターのようだ。

「これは……すごい……!」リリアが、息を呑んで呟く。「古代文明の記録が、こんなに……!」
彼女だけでなく、俺も、そしておそらくクラウスやシャロンも、目の前の光景に圧倒されていた。ここにある情報量は、計り知れない。この世界の謎を解き明かす鍵が、この場所にあるのかもしれない。

だが、感嘆している場合ではなかった。
ホールの中心部には、先ほど見たものと同じような、粗末な祭壇が設置されていたのだ。そして、その周囲には、数人の黒ローブの姿があった。カルト教団「深淵を覗く者たち」のメンバーだ!

彼らは、祭壇の上で何かを行っているようだった。祭壇の上には、複雑な魔法陣が描かれ、その中央には、羅針盤のような形状をした、鈍い金色に輝く物体が置かれている。

(あれが……『星読みの羅針盤』!?)

間違いない。アルフレッドが言っていた、古代の遺物だ。カルト教団員たちは、その羅針盤に向かって、何やら呪文のようなものを唱え、黒い魔力を注ぎ込んでいるように見える。羅針盤は、その魔力を受けて不気味な光を放ち、周囲の空間を僅かに歪ませている。

「……見つけたわね、羅針盤と、ネズミどもを」シャロンが、低い声で言う。
「何をしようとしているんだ、奴らは……!」クラウスが、怒りを込めて呟く。

俺は【デバッガー】スキルで、状況を即座に解析する。

『対象:星読みの羅針盤(精神汚染影響下)
 分類:アーティファクト?>予知・探索系
 状態:強制起動中(不安定)、精神汚染(中)
 機能:星々の運行を読み解き、未来の出来事(限定的)、または特定の場所(隠された遺跡、次元の狭間など)の位置を示す。現在、カルト教団によって強制的に起動され、特定の『座標』を探索させられている模様。
 備考:本来の機能が汚染され、歪められている可能性あり。暴走のリスクも存在する。』

『対象:カルト教団員(儀式実行中)×5
 状態:狂信、儀式集中
 ステータス:Lv 12~15
 スキル:【呪詛魔法(中級)】【空間認識(補助)】【精神感応】
 備考:羅針盤を強制起動し、特定の座標を探す儀式を行っている。儀式に集中しており、周囲への警戒がやや疎かになっている。リーダー格は中央の男(Lv 15)。』

『対象:周辺空間
 状態:魔力乱流発生、空間座標不安定化(軽微)
 備考:儀式の影響により、空間が不安定になっている。長時間この場に留まるのは危険。』

(……羅針盤を使って、何かを探しているのか? 特定の座標……それは、一体どこなんだ? そして、儀式の影響で空間まで不安定になっている……)

「シャロンさん、彼らは羅針盤を使って、何か特定の場所を探しているようです。儀式の影響で空間も不安定になっています。長居は危険です!」俺は報告する。

「特定の場所……? まさか、『深淵への扉』でも探しているのかしら……」シャロンが、忌々しげに呟く。
「いずれにせよ、奴らの好きにはさせん!」クラウスが剣を抜く。「突入するぞ!」

「待ってください、クラウスさん!」俺は彼を制止する。「相手は儀式に集中しており、警戒が疎かになっています。奇襲を仕掛けるチャンスです!」

俺は、即座に作戦を立て、仲間たちに伝える。
「俺とシャロンさんで、左右から隠密接近し、儀式を妨害します。クラウスさんは正面から突入し、敵の注意を引きつけてください。リリアさんは後方から、援護と、万が一の際の脱出ルート確保をお願いします!」

「了解した!」
「わ、わかった!」
「ふふ、面白くなってきたわね」

作戦は決まった。俺とシャロンは【隠密】スキルを最大限に発動させ、ホールの左右の壁際、棚の影を利用しながら、音もなく祭壇へと近づいていく。クラウスは、俺たちが十分な距離まで近づくのを待ち、タイミングを計っている。リリアは、後方で携帯型の転移魔道具(これも彼女の試作品だ)を準備している。

祭壇まであと十数メートル。カルト教団員たちは、未だ儀式に没頭しており、俺たちの接近に気づいていない。羅針盤から放たれる不気味な光が、彼らの仮面を照らし出している。

(今だ……!)
俺は、シャロンとアイコンタクトを取り、同時に行動を開始した!

「者ども! ここまでだ!」
クラウスが、ホールの入り口から堂々と名乗りを上げ、剣を構えて突入する! その声に、カルト教団員たちは一斉に驚き、儀式を中断してクラウスの方を振り向いた!

注意が逸れた、その一瞬の隙!
俺は、祭壇の左側から飛び出し、リーダー格の男(Lv 15)の懐へと潜り込む! 狙うは、儀式に使用している呪杖! 【コード・ライティング】で一時的に機能を停止させる!

(【コード・ライティング】! 呪杖の魔力回路、強制シャットダウン!)

同時に、シャロンは祭壇の右側から、羅針盤そのものに狙いを定めていた! 彼女は、羅針盤から放たれる精神汚染の波動をものともせず、特殊な手袋(おそらく対魔力・対精神汚染用)をした手で、羅針盤を掴み取ろうとする!

「なっ!? 侵入者!?」
「リーダー! 羅針盤が!」
カルト教団員たちが、ようやく状況を理解し、慌てて応戦しようとする!

俺が放った【コード・ライティング】は、リーダー格の男の呪杖に確かに命中した! 杖から放たれていた魔力が途絶え、儀式が強制的に中断される!
「ぐっ……! 俺の杖が……!?」リーダー格の男が驚愕の声を上げる。

しかし、シャロンの方は、うまくいかなかった。羅針盤に触れようとした瞬間、羅針盤から強烈な拒絶反応のようなエネルギー波が放たれ、シャロンは僅かに後退を余儀なくされたのだ!
「……ちっ! 単純な物理接触だけではダメか! 何か特殊なプロテクトがかかっている……!」

儀式は中断されたが、羅針盤の確保には失敗。そして、俺たちの奇襲は完全に露見した。カルト教団員たちは、怒りと狂気に満ちた目で、俺たちを睨みつけている。

「……よくも、我らの神聖な儀式を邪魔してくれたな、異物どもめ!」リーダー格の男が、憎悪を込めて言い放つ。「だが、好都合だ。貴様らを生贄として捧げれば、儀式はより完全なものとなるだろう!」

彼は、機能停止した呪杖を捨て、代わりに懐から禍々しいオーラを放つ短剣を取り出した。他の教団員たちも、それぞれ武器を構え、俺たちを取り囲むように陣形を組む。

「……どうやら、お喋りの時間は終わりのようね」シャロンが、短剣を構え直す。
「望むところだ!」クラウスも、剣と盾を構える。

数では、こちらが四人、相手が五人。ほぼ互角だ。しかし、相手は狂信者であり、何をしてくるか分からない。そして、この空間自体が、儀式の影響で不安定になっている。

(厳しい戦いになる……!)

俺は、魔鋼のダガーを抜き、仲間たちと背中合わせになるように位置取る。
古代遺跡の深部、謎の古代図書館(データセンター?)を舞台に、カルト教団との本格的な戦闘が、今、始まろうとしていた。

俺の【デバッガー】スキルは、この狂信者たちの「バグ」をも見抜き、勝利へと導くことができるだろうか?
それとも、彼らの狂気と、この遺跡の闇に、飲み込まれてしまうのだろうか?

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!? これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。 日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

処理中です...