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第50話:狂信者たちの猛攻とデバッグの応用
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古代図書館のような広間で、俺たちとカルト教団「深淵を覗く者たち」との戦闘が始まった。相手はリーダー格(Lv 15)を含む五人の狂信者。レベルだけ見れば、決して歯が立たない相手ではない。だが、彼らの狂気と、予測不能な攻撃、そしてこの不安定な空間が、戦闘を困難なものにしていた。
「死ね! 異物どもめ! 深淵の贄となれ!」
リーダー格の男が叫び、禍々しい短剣を手に突進してくる。他の四人も、奇妙な呪文を唱えながら、あるいは歪んだ剣技で、四方から同時に襲いかかってきた!
「散開するな! 連携を保て!」クラウスが叫び、盾を構えてリーダー格の攻撃を受け止める!
ガキン! という激しい金属音。クラウスは数歩後退するが、確かに攻撃を受け止めた。彼の防御力と技量は、確実に向上している。
「シャロンさん、左の二人を!」俺は指示を出す。
「言われなくとも!」
シャロンは、まるで影が舞うように、左翼の教団員二人へと襲いかかる。彼女の双剣が、変幻自在の軌道を描き、相手を翻弄する。
「リリアさん、後方支援と、いつでも転移できるように準備を!」
「わ、わかってる!」リリアは、少し怯えながらも、杖を構えて防御魔法を展開し、携帯転移魔道具の起動準備を始める。
俺自身も、右翼から迫る二人の教団員と対峙する。魔鋼のダガーを構え、相手の動きを【デバッガー】スキルで読み取る。
(一人は短剣使い、もう一人は呪詛魔法か……! 短剣使いの動きは速いが、踏み込みが甘い。呪詛使いは、詠唱に僅かな隙がある!)
俺は、まず呪詛使いの詠唱を妨害するために、足元の瓦礫を蹴り飛ばす。注意が逸れた瞬間、短剣使いの懐へと踏み込み、ダガーでその腕を切り裂いた!
「ぐあっ!」
短剣使いが怯んだ隙に、俺は即座に離脱し、次の攻撃に備える。ヒットアンドアウェイ。俺の基本的な戦闘スタイルだ。
しかし、相手は狂信者だ。腕から血を流しながらも、痛みを感じていないかのように、再び襲いかかってくる。しかも、その動きは先ほどよりもさらに荒々しく、予測不能になっている!
(【狂信者の誓い】スキルか……! 痛覚鈍化と自己強化……厄介だ!)
俺は、相手の攻撃を避けながら、【バグ発見】で彼らの装備やスキル、動きの癖に「バグ」を探す。
(短剣使いの鎧、右肩の部分の留め具が緩んでいる! 強い衝撃で外れる可能性あり!)
(呪詛使いの魔法陣、構成に僅かな歪みが……特定のタイミングで魔力干渉すれば、暴発させられるか!?)
俺は、発見したバグ情報を、即座に実行に移す!
短剣使いが大きく振りかぶってきた瞬間、俺はその右肩の留め具目掛けて、ダガーの柄頭を叩きつける!
バキン!
狙い通り、留め具が外れ、肩当てがずり落ちる! 短剣使いの体勢が崩れた!
その隙に、呪詛使いが新たな呪文を唱え始めた!
(今だ! 【コード・ライティング】! 魔力干渉コード、書き込み!)
俺は、呪詛使いが描く魔法陣の「歪み」に向けて、ごく短時間で干渉コードを書き込む! 脳に軽い痛みが走るが、構わない!
瞬間、呪詛使いが描いていた魔法陣が、不安定に揺らぎ、バチバチと火花を散らし始めた!
「なっ!? コントロールが……!?」
呪詛使いは、自身の魔力を制御できなくなり、魔法は暴発! 彼の身体を、黒いエネルギーが逆流するように包み込み、彼は苦悶の叫び声を上げてその場に倒れた!
(よし! 二人、戦闘不能!)
俺が右翼の二人を無力化している間に、シャロンも左翼の二人を圧倒していた。彼女の暗殺術は、狂信者たちの予測不能な動きすらも先読みし、的確に急所を突いていく。既に一人を仕留め、もう一人も深手を負わせている。
問題は、中央のリーダー格と戦っているクラウスだった。
リーダー格の男は、レベル15の実力に加え、狂信者特有の捨て身の猛攻で、クラウスを徐々に追い詰めていた。クラウスの盾には無数の傷がつき、鎧も所々破損している。彼のHPも、かなり消耗しているはずだ。
「クラウスさん! 無理しないでください!」俺は叫ぶ。
「心配無用!」クラウスは、苦しい状況にも関わらず、力強く答える。「騎士の誇りにかけて、ここで退くわけにはいかん!」
彼は、渾身の力を込めて盾でリーダー格の攻撃を弾き返し、反撃の剣を繰り出す!
俺は、リーダー格の男に【デバッガー】スキルを集中させる。何か、決定的な弱点、あるいは利用可能なバグはないか!?
(……あった! あの禍々しい短剣! あれ自体が、何らかの『呪い』か『バグ』を内包している! しかも、持ち主の精神力、あるいは生命力を吸収して力を増しているようだ……! だが、その吸収プロセスに不安定な部分がある!)
『対象:呪われた短剣(名称不明)
分類:武器? 呪具?
状態:活性化(高)、精神汚染(強)、生命力吸収
特性:持ち主の負の感情(憎悪、狂気など)を増幅し、戦闘能力を向上させる。同時に、持ち主の生命力を吸収する。吸収した生命力を攻撃力に転換する。
備考:古代の邪悪な儀式によって作られた呪具の可能性。持ち主が消耗するか、あるいは外部から強い『生命エネルギー』を与えられると、吸収プロセスが暴走し、持ち主自身を喰らい尽くす危険性あり(バグ?)。』
(……持ち主の生命力を吸収し、暴走するバグ……! これだ!)
俺は、すぐさまアルト……ではなく、リリアに指示を出す!
「リリアさん! 何か、瞬間的に強い『生命エネルギー』を発生させられる魔道具はありますか!?」
「生命エネルギー? うーん……あ、あれなら!」リリアは、腰のベルトから、手のひらサイズの、太陽のような紋様が描かれた円盤状の魔道具を取り出した。「これは、『サンライト・ディスク』! 光属性の魔力を増幅して、アンデッドとかに効果があるんだけど、使い方によっては、一時的に強い生命エネルギー的な波動も出せるはずだよ!」
「それを、あのリーダーが持っている短剣に向けて、最大出力で! 俺が合図したら!」
「わ、わかった!」リリアは、サンライト・ディスクを構える。
俺は、クラウスに叫ぶ!
「クラウスさん! あと少しだけ、持ちこたえてください! 奴の武器を無力化します!」
「……信じているぞ、ユズル殿!」クラウスは、満身創痍ながらも、力強く答えた。
俺は、リーダー格の男の動きと、短剣のエネルギー吸収プロセスを注視する。吸収量が最大になり、システムが不安定になる瞬間を見極める……!
(……今だ!)
「リリアさん、撃て!!」
俺の合図と同時に、リリアがサンライト・ディスクを起動! 眩い太陽のような光が、短剣目掛けて照射される!
「なっ!? その光は……!?」
リーダー格の男が、驚きと苦痛の声を上げる。呪われた短剣が、サンライト・ディスクから放たれる強い生命エネルギー(光属性魔力)に反応し、異常なまでに輝き始めた! そして、まるで飢えた獣のように、持ち主であるリーダー格の男自身の生命力を、凄まじい勢いで吸い上げ始めたのだ!
「ぐ……あああああああっ! や、やめろ! 俺の力が……命が……吸われる……!!」
男は、自らの武器によって生命力を奪われ、みるみるうちに干からびていく! その姿は、あまりにもおぞましく、悲惨だった。
やがて、短剣の輝きが収まると同時に、リーダー格の男は、完全に生命力を失い、ミイラのような姿となって、その場に崩れ落ちた。呪われた短剣だけが、カタリカタリと音を立てて床に転がっている。
(……終わった)
呪具のバグを利用した、えげつない倒し方だったかもしれない。だが、これで脅威は去った。
戦闘が終わり、広間には再び静寂が戻った。残っていた教団員も、シャロンによって既に始末されていた。
「……はぁ、はぁ……」クラウスは、盾を床につき、荒い息をついている。「……また、君に助けられたな、ユズル殿」
彼の表情には、疲労と共に、俺の戦い方に対する、ある種の戸惑いのようなものも浮かんでいた。
「いえ、皆さんの協力があったからです」俺は答える。
「それにしても……今の、すごかったね!」リリアが、興奮した様子で駆け寄ってくる。「あの短剣、勝手に持ち主を……! ユズルさんの指示通りにしたら、あんなことになるなんて!」
「ええ、武器自体が抱えていた『バグ』を利用しただけですよ」俺は、簡潔に説明する。
シャロンは、床に転がる呪われた短剣を、注意深く観察している。
「……なるほど。呪具の暴走を誘発させたわけね。相変わらず、えげつない手を使うわね、あなたは」彼女は、面白そうに笑う。「でも、効果的だったわ」
俺たちは、戦闘の後始末(主にシャロンが担当)をしつつ、改めて広間の中央にある祭壇と、「星読みの羅針盤」に目を向けた。儀式は中断され、羅針盤の不気味な光も収まっている。
「さて、これをどうするか……」クラウスが、羅針盤を指して言う。「持ち帰るべきなのだろうが、下手に触れるのは危険かもしれん」
「そうね。精神汚染の可能性もあるし、まだ何か罠が仕掛けられているかもしれないわ」シャロンも同意する。
俺は、羅針盤に【情報読取】を使う。
『対象:星読みの羅針盤(休止状態)
状態:安定(強制起動中断)、精神汚染(軽微残留)、未解除のプロテクトあり
備考:現在は機能停止しているが、内部に強力なエネルギーと情報が封印されている。カルト教団が探していた『座標』に関する情報も記録されている可能性あり。安全に持ち運ぶには、特殊な封印処置が必要。』
「……今は安定しているようですが、まだ汚染が残っており、プロテクトもかかっています。持ち運ぶには、封印処置が必要とのことです」俺は報告する。
「封印処置か……私にできるかしら?」リリアが、自信なさげに言う。
「大丈夫よ」シャロンが、懐から小さな黒い護符のようなものを取り出した。「これは、私が持っていた古代の封印具。一時的なものだけど、これを使えば、安全に持ち運べるはずよ」
彼女は、用意周到にこんなものまで準備していたようだ。
シャロンが護符を使って羅針盤を慎重に封印し、それを特殊な耐魔力素材の袋に入れる。これで、ひとまずの目標は達成された。
「よし、羅針盤は確保したわ。長居は無用よ。早くここから脱出しましょう」シャロンが促す。
俺たちは、カルト教団の研究日誌と、封印された星読みの羅針盤を手に、古代図書館(データセンター?)を後にした。帰り道も、俺の【デバッガー】スキルとシャロンの隠密スキルを駆使し、罠や残存ゴーレムを避けながら、慎重に進んだ。
そして、数時間後。俺たちは、ついに忘れられた地下道の入り口(旧市街の下水道)へと無事に帰還することができた。
地上に出て、久しぶりに浴びる月明かりと新鮮な空気。地下での死闘が、まるで遠い昔のことのように感じられた。
「……これで、依頼は完了、ですね」俺は、安堵の息をつく。
「ええ。報酬は、依頼主のアルフレッドから、後日受け取ることになるでしょう」シャロンが頷く。「そして、私たちは、貴重な『遺物』と、カルト教団に関する重要な『情報』を手に入れたわ」
彼女は、羅針盤が入った袋と、研究日誌の束を交互に見る。
「これから、忙しくなりそうね」
その言葉通り、今回の地下遺跡探索は、俺たちに新たな謎と、そして新たな敵をもたらした。
星読みの羅針盤が示す「座標」とは何か? カルト教団の真の目的は? そして、彼らが崇拝する「邪神」や「深淵」とは?
王都グランフォールは、俺たちが足を踏み入れたばかりだというのに、既にその深淵の一端を覗かせ始めていた。
俺は、仲間たちと共に、王都の夜景を見下ろしながら、これから始まるであろう、さらに大きな戦いと、「デバッグ」への覚悟を新たにするのだった。
「死ね! 異物どもめ! 深淵の贄となれ!」
リーダー格の男が叫び、禍々しい短剣を手に突進してくる。他の四人も、奇妙な呪文を唱えながら、あるいは歪んだ剣技で、四方から同時に襲いかかってきた!
「散開するな! 連携を保て!」クラウスが叫び、盾を構えてリーダー格の攻撃を受け止める!
ガキン! という激しい金属音。クラウスは数歩後退するが、確かに攻撃を受け止めた。彼の防御力と技量は、確実に向上している。
「シャロンさん、左の二人を!」俺は指示を出す。
「言われなくとも!」
シャロンは、まるで影が舞うように、左翼の教団員二人へと襲いかかる。彼女の双剣が、変幻自在の軌道を描き、相手を翻弄する。
「リリアさん、後方支援と、いつでも転移できるように準備を!」
「わ、わかってる!」リリアは、少し怯えながらも、杖を構えて防御魔法を展開し、携帯転移魔道具の起動準備を始める。
俺自身も、右翼から迫る二人の教団員と対峙する。魔鋼のダガーを構え、相手の動きを【デバッガー】スキルで読み取る。
(一人は短剣使い、もう一人は呪詛魔法か……! 短剣使いの動きは速いが、踏み込みが甘い。呪詛使いは、詠唱に僅かな隙がある!)
俺は、まず呪詛使いの詠唱を妨害するために、足元の瓦礫を蹴り飛ばす。注意が逸れた瞬間、短剣使いの懐へと踏み込み、ダガーでその腕を切り裂いた!
「ぐあっ!」
短剣使いが怯んだ隙に、俺は即座に離脱し、次の攻撃に備える。ヒットアンドアウェイ。俺の基本的な戦闘スタイルだ。
しかし、相手は狂信者だ。腕から血を流しながらも、痛みを感じていないかのように、再び襲いかかってくる。しかも、その動きは先ほどよりもさらに荒々しく、予測不能になっている!
(【狂信者の誓い】スキルか……! 痛覚鈍化と自己強化……厄介だ!)
俺は、相手の攻撃を避けながら、【バグ発見】で彼らの装備やスキル、動きの癖に「バグ」を探す。
(短剣使いの鎧、右肩の部分の留め具が緩んでいる! 強い衝撃で外れる可能性あり!)
(呪詛使いの魔法陣、構成に僅かな歪みが……特定のタイミングで魔力干渉すれば、暴発させられるか!?)
俺は、発見したバグ情報を、即座に実行に移す!
短剣使いが大きく振りかぶってきた瞬間、俺はその右肩の留め具目掛けて、ダガーの柄頭を叩きつける!
バキン!
狙い通り、留め具が外れ、肩当てがずり落ちる! 短剣使いの体勢が崩れた!
その隙に、呪詛使いが新たな呪文を唱え始めた!
(今だ! 【コード・ライティング】! 魔力干渉コード、書き込み!)
俺は、呪詛使いが描く魔法陣の「歪み」に向けて、ごく短時間で干渉コードを書き込む! 脳に軽い痛みが走るが、構わない!
瞬間、呪詛使いが描いていた魔法陣が、不安定に揺らぎ、バチバチと火花を散らし始めた!
「なっ!? コントロールが……!?」
呪詛使いは、自身の魔力を制御できなくなり、魔法は暴発! 彼の身体を、黒いエネルギーが逆流するように包み込み、彼は苦悶の叫び声を上げてその場に倒れた!
(よし! 二人、戦闘不能!)
俺が右翼の二人を無力化している間に、シャロンも左翼の二人を圧倒していた。彼女の暗殺術は、狂信者たちの予測不能な動きすらも先読みし、的確に急所を突いていく。既に一人を仕留め、もう一人も深手を負わせている。
問題は、中央のリーダー格と戦っているクラウスだった。
リーダー格の男は、レベル15の実力に加え、狂信者特有の捨て身の猛攻で、クラウスを徐々に追い詰めていた。クラウスの盾には無数の傷がつき、鎧も所々破損している。彼のHPも、かなり消耗しているはずだ。
「クラウスさん! 無理しないでください!」俺は叫ぶ。
「心配無用!」クラウスは、苦しい状況にも関わらず、力強く答える。「騎士の誇りにかけて、ここで退くわけにはいかん!」
彼は、渾身の力を込めて盾でリーダー格の攻撃を弾き返し、反撃の剣を繰り出す!
俺は、リーダー格の男に【デバッガー】スキルを集中させる。何か、決定的な弱点、あるいは利用可能なバグはないか!?
(……あった! あの禍々しい短剣! あれ自体が、何らかの『呪い』か『バグ』を内包している! しかも、持ち主の精神力、あるいは生命力を吸収して力を増しているようだ……! だが、その吸収プロセスに不安定な部分がある!)
『対象:呪われた短剣(名称不明)
分類:武器? 呪具?
状態:活性化(高)、精神汚染(強)、生命力吸収
特性:持ち主の負の感情(憎悪、狂気など)を増幅し、戦闘能力を向上させる。同時に、持ち主の生命力を吸収する。吸収した生命力を攻撃力に転換する。
備考:古代の邪悪な儀式によって作られた呪具の可能性。持ち主が消耗するか、あるいは外部から強い『生命エネルギー』を与えられると、吸収プロセスが暴走し、持ち主自身を喰らい尽くす危険性あり(バグ?)。』
(……持ち主の生命力を吸収し、暴走するバグ……! これだ!)
俺は、すぐさまアルト……ではなく、リリアに指示を出す!
「リリアさん! 何か、瞬間的に強い『生命エネルギー』を発生させられる魔道具はありますか!?」
「生命エネルギー? うーん……あ、あれなら!」リリアは、腰のベルトから、手のひらサイズの、太陽のような紋様が描かれた円盤状の魔道具を取り出した。「これは、『サンライト・ディスク』! 光属性の魔力を増幅して、アンデッドとかに効果があるんだけど、使い方によっては、一時的に強い生命エネルギー的な波動も出せるはずだよ!」
「それを、あのリーダーが持っている短剣に向けて、最大出力で! 俺が合図したら!」
「わ、わかった!」リリアは、サンライト・ディスクを構える。
俺は、クラウスに叫ぶ!
「クラウスさん! あと少しだけ、持ちこたえてください! 奴の武器を無力化します!」
「……信じているぞ、ユズル殿!」クラウスは、満身創痍ながらも、力強く答えた。
俺は、リーダー格の男の動きと、短剣のエネルギー吸収プロセスを注視する。吸収量が最大になり、システムが不安定になる瞬間を見極める……!
(……今だ!)
「リリアさん、撃て!!」
俺の合図と同時に、リリアがサンライト・ディスクを起動! 眩い太陽のような光が、短剣目掛けて照射される!
「なっ!? その光は……!?」
リーダー格の男が、驚きと苦痛の声を上げる。呪われた短剣が、サンライト・ディスクから放たれる強い生命エネルギー(光属性魔力)に反応し、異常なまでに輝き始めた! そして、まるで飢えた獣のように、持ち主であるリーダー格の男自身の生命力を、凄まじい勢いで吸い上げ始めたのだ!
「ぐ……あああああああっ! や、やめろ! 俺の力が……命が……吸われる……!!」
男は、自らの武器によって生命力を奪われ、みるみるうちに干からびていく! その姿は、あまりにもおぞましく、悲惨だった。
やがて、短剣の輝きが収まると同時に、リーダー格の男は、完全に生命力を失い、ミイラのような姿となって、その場に崩れ落ちた。呪われた短剣だけが、カタリカタリと音を立てて床に転がっている。
(……終わった)
呪具のバグを利用した、えげつない倒し方だったかもしれない。だが、これで脅威は去った。
戦闘が終わり、広間には再び静寂が戻った。残っていた教団員も、シャロンによって既に始末されていた。
「……はぁ、はぁ……」クラウスは、盾を床につき、荒い息をついている。「……また、君に助けられたな、ユズル殿」
彼の表情には、疲労と共に、俺の戦い方に対する、ある種の戸惑いのようなものも浮かんでいた。
「いえ、皆さんの協力があったからです」俺は答える。
「それにしても……今の、すごかったね!」リリアが、興奮した様子で駆け寄ってくる。「あの短剣、勝手に持ち主を……! ユズルさんの指示通りにしたら、あんなことになるなんて!」
「ええ、武器自体が抱えていた『バグ』を利用しただけですよ」俺は、簡潔に説明する。
シャロンは、床に転がる呪われた短剣を、注意深く観察している。
「……なるほど。呪具の暴走を誘発させたわけね。相変わらず、えげつない手を使うわね、あなたは」彼女は、面白そうに笑う。「でも、効果的だったわ」
俺たちは、戦闘の後始末(主にシャロンが担当)をしつつ、改めて広間の中央にある祭壇と、「星読みの羅針盤」に目を向けた。儀式は中断され、羅針盤の不気味な光も収まっている。
「さて、これをどうするか……」クラウスが、羅針盤を指して言う。「持ち帰るべきなのだろうが、下手に触れるのは危険かもしれん」
「そうね。精神汚染の可能性もあるし、まだ何か罠が仕掛けられているかもしれないわ」シャロンも同意する。
俺は、羅針盤に【情報読取】を使う。
『対象:星読みの羅針盤(休止状態)
状態:安定(強制起動中断)、精神汚染(軽微残留)、未解除のプロテクトあり
備考:現在は機能停止しているが、内部に強力なエネルギーと情報が封印されている。カルト教団が探していた『座標』に関する情報も記録されている可能性あり。安全に持ち運ぶには、特殊な封印処置が必要。』
「……今は安定しているようですが、まだ汚染が残っており、プロテクトもかかっています。持ち運ぶには、封印処置が必要とのことです」俺は報告する。
「封印処置か……私にできるかしら?」リリアが、自信なさげに言う。
「大丈夫よ」シャロンが、懐から小さな黒い護符のようなものを取り出した。「これは、私が持っていた古代の封印具。一時的なものだけど、これを使えば、安全に持ち運べるはずよ」
彼女は、用意周到にこんなものまで準備していたようだ。
シャロンが護符を使って羅針盤を慎重に封印し、それを特殊な耐魔力素材の袋に入れる。これで、ひとまずの目標は達成された。
「よし、羅針盤は確保したわ。長居は無用よ。早くここから脱出しましょう」シャロンが促す。
俺たちは、カルト教団の研究日誌と、封印された星読みの羅針盤を手に、古代図書館(データセンター?)を後にした。帰り道も、俺の【デバッガー】スキルとシャロンの隠密スキルを駆使し、罠や残存ゴーレムを避けながら、慎重に進んだ。
そして、数時間後。俺たちは、ついに忘れられた地下道の入り口(旧市街の下水道)へと無事に帰還することができた。
地上に出て、久しぶりに浴びる月明かりと新鮮な空気。地下での死闘が、まるで遠い昔のことのように感じられた。
「……これで、依頼は完了、ですね」俺は、安堵の息をつく。
「ええ。報酬は、依頼主のアルフレッドから、後日受け取ることになるでしょう」シャロンが頷く。「そして、私たちは、貴重な『遺物』と、カルト教団に関する重要な『情報』を手に入れたわ」
彼女は、羅針盤が入った袋と、研究日誌の束を交互に見る。
「これから、忙しくなりそうね」
その言葉通り、今回の地下遺跡探索は、俺たちに新たな謎と、そして新たな敵をもたらした。
星読みの羅針盤が示す「座標」とは何か? カルト教団の真の目的は? そして、彼らが崇拝する「邪神」や「深淵」とは?
王都グランフォールは、俺たちが足を踏み入れたばかりだというのに、既にその深淵の一端を覗かせ始めていた。
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