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第58話:遺跡のログと作られた世界
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忘れられた神殿の深部へと進むにつれて、遺跡の様相はさらに変化していった。最初の広間で遭遇したキメラ・スパイダーのような異形の魔物は、その後も時折現れたが、俺たちの連携と、リリアが開発した対抗策(対毒・対麻痺装備や、弱点を突く特殊弾など)によって、以前ほどの脅威ではなくなっていた。むしろ、厄介だったのは、古代文明が遺した高度な罠や、自律型の防衛システムだった。
通路に仕掛けられた不可視のレーザー網、特定の音や魔力パターンに反応して起動する石像兵、そして、空間そのものを歪ませて侵入者を閉じ込める結界トラップ……。これらの罠は、通常の探索スキルや魔法感知では発見・解除が困難なものが多く、俺の【デバッガー】スキルによる「バグ発見」と「限定的干渉」、あるいは【コード・ライティング】によるシステムへの直接介入がなければ、突破は不可能だっただろう。
「……ユズル殿の力がなければ、我々は一歩も進めなかったかもしれんな」
ある時、複雑な魔法結界の制御システムの「バグ」を利用して、結界を一時的に無効化した際、クラウスが感嘆とも畏敬ともつかない声で呟いた。彼の俺に対する信頼は、もはや揺るぎないものとなっていた。
「ふふ、まるで伝説の『鍵開け師』か、あるいは『神の指』を持つと言われた古代の賢者みたいね」
シャロンも、俺の活躍を面白そうに観察している。彼女にとっても、俺のスキルは未知の領域であり、強い興味の対象なのだろう。
「すごいよユズルさん! 私も、もっと頑張って、ユズルさんの力をサポートできるような魔道具を作らないと!」
リリアは、俺のスキル応用を目の当たりにするたびに、新たな開発意欲を燃やしているようだった。
俺自身も、これらの古代のシステムや罠を「デバッグ」していく中で、スキルの熟練度が上がり、応用力が向上していくのを感じていた。特に、【コード・ライティング】は、初級ながらも、使い方次第ではシステムの挙動を大きく変えることが可能であり、そのポテンシャルは計り知れない。ただし、失敗した時のリスクも依然として高いため、使用は慎重に行わなければならない。
(まるで、巨大なソフトウェアのデバッグ作業だな……。この神殿全体が、一つの巨大なプログラムなのかもしれない)
そんなことを考えながら、俺たちは神殿のさらに奥深く、中心部と思われるエリアへとたどり着いた。そこは、これまでのどの区画よりも保存状態が良く、そして明らかに重要な施設であったことを窺わせる場所だった。
広大なドーム状の空間。壁面には、やはり膨大な情報が記録されているであろう水晶板が埋め込まれ、床には複雑な幾何学模様の回路が走り、微かに光を放っている。そして、空間の中央には、巨大な球状の装置が、静かに浮遊していた。その表面は滑らかな金属で覆われ、内部からは強力な、しかし安定した魔力エネルギーが放出されている。
『対象:中央制御コア(名称仮)
分類:古代文明製システム>マスター制御ユニット?
状態:低出力稼働中(スリープモード?)、自己防衛システム作動中
機能:神殿全体の環境維持、情報記録・管理、防衛システムの統括制御、外部ネットワーク(?)への接続機能(現在オフライン)
備考:この神殿、あるいはより広範囲のシステムを制御する中枢ユニットである可能性が高い。内部には膨大な情報と、未知の機能が秘められている。アクセスには高レベルの権限、または特殊な手順が必要。不正アクセスは極めて危険。』
(……中央制御コア。やはり、この神殿は一つの巨大なシステムだったのか。そして、このコアがその心臓部……)
俺は息を呑む。このコアにアクセスできれば、神殿の全容、古代文明の秘密、そしてカルト教団が探していた「封印」や「制御装置」に関する情報も得られるかもしれない。
だが、同時に、強烈な警戒信号も感じていた。「自己防衛システム作動中」「アクセスには高レベル権限が必要」「不正アクセスは極めて危険」。下手に手を出せば、ただでは済まないだろう。
「……ここが、神殿の中心部のようね」シャロンが、周囲を見渡しながら言う。「カルト教団の痕跡は……ないわね。彼らは、まだここには到達していない、ということかしら?」
「だといいのですが……」俺は答える。「ですが、油断はできません。このコア自体が、強力な防衛システムを持っている可能性があります」
「ねぇ、ユズルさん、あの浮いてる玉っころ、すごいエネルギーを感じるよ!」リリアが、目を輝かせてコアを見つめる。「あれ、もしかして、この神殿全体の動力源なのかな? それとも、何かすごい計算とかしてるのかな?」
「おそらく、その両方でしょうね」俺は推測する。「問題は、どうやって安全にアクセスするか、ですが……」
俺は、コアの周囲を【デバッガー】スキルで慎重にスキャンしていく。アクセスポートのようなものは見当たらない。物理的な接触も危険そうだ。だが、コアの表面を流れる魔力パターンの中に、僅かな「揺らぎ」のようなものを見つけた。
(これは……通信プロトコルのようなものか? 外部からの情報を受け付けるための、待機状態? だとしたら、特定の『コマンド』を送れば、反応するかもしれない……)
俺は、ホログラフ・キューブのログや、カルト教団の研究日誌の解読で得た断片的な知識を元に、古代文明のシステムが使用していた可能性のあるコマンドパターンを推測する。そして、【コード・ライティング】スキルを使い、そのコマンドを、魔力に乗せてコアへと送信してみた。
『コマンド送信:システム状況照会(低レベル権限)』
すると、コアの表面の光が僅かに変化し、俺の脳内に、再びあの無機質な合成音声のような声が響いてきた。
『……アクセスコード確認。権限レベル3。照会要求受理。システム状況:準安定。エネルギーレベル:37%。メイン機能:スリープモード。サブシステム:一部稼働中(環境維持、記録保持、低レベル防衛)。警告:外部ネットワーク切断状態。原因不明のシステムノイズ(バグ)検知レベル上昇中……』
(……通じた! しかも、システム状況まで教えてくれるとは……!)
俺は、さらにいくつかのコマンドを試してみた。「記録ログ参照要求」「防衛システム詳細」「封印制御に関する情報」……。しかし、これらの要求に対しては、「権限レベル不足」という応答しか返ってこなかった。アクセス権限レベル3では、閲覧できる情報に限りがあるようだ。
(だが、ログの一部なら見れるかもしれない。『システムノイズ(バグ)』に関するログとか……)
俺は、コマンドを修正し、システムエラーやバグに関するログの参照を要求してみた。
『コマンド送信:システムエラーログ参照(権限レベル3範囲内)』
『……要求受理。ログ検索中……該当ログ表示……』
そして、俺の脳内に、断片的な、しかし衝撃的な情報が流れ込んできた。
『ログNo. AE-734:……原因不明の外部干渉により、時空連続体に微細な亀裂(バグ)発生。座標補正失敗。異次元からのノイズ流入を確認……』
『ログNo. AE-912:……『世界樹(仮称)』のルートシステムに異常増殖(バグ)を確認。魔素循環バランス崩壊の危険性。デバッグ担当チーム応答なし……』
『ログNo. BX-005:……管理AI『アルファ』による、被造物(人類種)への過剰干渉を確認。倫理コード違反の可能性。監査要求……却下……』
『ログNo. CX-108:……『転生者召喚システム』に予期せぬエラー。召喚対象の魂に、設計外の『ユニークスキル(バグ?)』が付与される事例報告多数。原因不明。監視レベル引き上げ……』
『ログNo. DX-404:……大規模システムエラー『大崩壊(ザ・クラック)』発生。コアシステム暴走。管理AI『アルファ』制御不能。封印プロトコル『プロジェクト・アーク』発動……世界再構築(リブート)シーケンス開始……失敗……部分封印に移行……』
『ログNo. EX-001:……封印後の世界(現行バージョン)における、システム安定化監視ログ。周期的な『歪み』発生を確認。封印された『負の遺産』からの影響か? 転生者による予期せぬシステム干渉(バグ利用?)多発……警告レベル上昇……』
「…………」
俺は、しばし呆然とその場に立ち尽くしていた。
今、俺が見たものは何だ?
異次元からのノイズ。世界樹のバグ。管理AIの暴走。転生者召喚システムの不具合。そして、「大崩壊」と呼ばれるシステムエラーと、世界の再構築(リブート)の失敗、部分的な封印……。
(この世界は……本当に……作られたものだったのか……!? しかも、一度、崩壊しかけている……!?)
それは、俺がこれまで漠然と抱いていた疑念を、確信へと変えるのに十分な情報だった。この異世界は、古代文明によって創造され、管理されていた巨大なシステムであり、過去に深刻なエラーを起こし、不完全な状態で「封印」された世界なのだ。
そして、俺のような転生者や、その持つユニークスキル(【デバッガー】を含む)もまた、システムの予期せぬエラー(バグ)の一部として認識されている……。
「ユズル殿? どうかしたのか? 顔色が悪いぞ」
クラウスが、心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
「……いえ、なんでもありません。少し、衝撃的な情報を見てしまっただけで……」
俺は、まだ混乱している頭で、どうにか答えた。
今、俺が知った情報は、あまりにも重大すぎる。これを、仲間たちにどう伝えるべきか? そして、この真実を知った上で、俺たちはこれからどうすべきなのか?
(世界のバグを修正する……? いや、この世界そのものが、巨大なバグを抱えたまま、不完全に動いているシステムだとしたら……?)
俺の【デバッガー】としての役割、そして存在意義が、根底から揺らぎ始めるのを感じていた。
「……とにかく、今はここから情報を持ち帰ることが先決です」俺は、どうにか平静を取り繕い、仲間たちに告げた。「このコアから直接、全ての情報を引き出すのは危険です。ですが、ログの一部……特に、カルト教団が探している『封印』や『制御装置』に関する情報なら、もう少し引き出せるかもしれません」
俺は、再びコアにコマンドを送信し、ターゲットを絞った情報収集を試みる。
世界の真実の一端に触れてしまった衝撃は大きい。だが、今は目の前の任務に集中しなければならない。カルト教団の陰謀を阻止し、封印された災厄が解き放たれるのを防ぐ。それが、今の俺たちにできる、唯一のことなのだから。
俺は、古代のシステムが遺した、重すぎる「ログ」を背負いながら、次なる「デバッグ」へと意識を向ける。
この世界の真実に、俺たちはどう向き合っていくべきなのか?
答えは、まだ見えない。
通路に仕掛けられた不可視のレーザー網、特定の音や魔力パターンに反応して起動する石像兵、そして、空間そのものを歪ませて侵入者を閉じ込める結界トラップ……。これらの罠は、通常の探索スキルや魔法感知では発見・解除が困難なものが多く、俺の【デバッガー】スキルによる「バグ発見」と「限定的干渉」、あるいは【コード・ライティング】によるシステムへの直接介入がなければ、突破は不可能だっただろう。
「……ユズル殿の力がなければ、我々は一歩も進めなかったかもしれんな」
ある時、複雑な魔法結界の制御システムの「バグ」を利用して、結界を一時的に無効化した際、クラウスが感嘆とも畏敬ともつかない声で呟いた。彼の俺に対する信頼は、もはや揺るぎないものとなっていた。
「ふふ、まるで伝説の『鍵開け師』か、あるいは『神の指』を持つと言われた古代の賢者みたいね」
シャロンも、俺の活躍を面白そうに観察している。彼女にとっても、俺のスキルは未知の領域であり、強い興味の対象なのだろう。
「すごいよユズルさん! 私も、もっと頑張って、ユズルさんの力をサポートできるような魔道具を作らないと!」
リリアは、俺のスキル応用を目の当たりにするたびに、新たな開発意欲を燃やしているようだった。
俺自身も、これらの古代のシステムや罠を「デバッグ」していく中で、スキルの熟練度が上がり、応用力が向上していくのを感じていた。特に、【コード・ライティング】は、初級ながらも、使い方次第ではシステムの挙動を大きく変えることが可能であり、そのポテンシャルは計り知れない。ただし、失敗した時のリスクも依然として高いため、使用は慎重に行わなければならない。
(まるで、巨大なソフトウェアのデバッグ作業だな……。この神殿全体が、一つの巨大なプログラムなのかもしれない)
そんなことを考えながら、俺たちは神殿のさらに奥深く、中心部と思われるエリアへとたどり着いた。そこは、これまでのどの区画よりも保存状態が良く、そして明らかに重要な施設であったことを窺わせる場所だった。
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『対象:中央制御コア(名称仮)
分類:古代文明製システム>マスター制御ユニット?
状態:低出力稼働中(スリープモード?)、自己防衛システム作動中
機能:神殿全体の環境維持、情報記録・管理、防衛システムの統括制御、外部ネットワーク(?)への接続機能(現在オフライン)
備考:この神殿、あるいはより広範囲のシステムを制御する中枢ユニットである可能性が高い。内部には膨大な情報と、未知の機能が秘められている。アクセスには高レベルの権限、または特殊な手順が必要。不正アクセスは極めて危険。』
(……中央制御コア。やはり、この神殿は一つの巨大なシステムだったのか。そして、このコアがその心臓部……)
俺は息を呑む。このコアにアクセスできれば、神殿の全容、古代文明の秘密、そしてカルト教団が探していた「封印」や「制御装置」に関する情報も得られるかもしれない。
だが、同時に、強烈な警戒信号も感じていた。「自己防衛システム作動中」「アクセスには高レベル権限が必要」「不正アクセスは極めて危険」。下手に手を出せば、ただでは済まないだろう。
「……ここが、神殿の中心部のようね」シャロンが、周囲を見渡しながら言う。「カルト教団の痕跡は……ないわね。彼らは、まだここには到達していない、ということかしら?」
「だといいのですが……」俺は答える。「ですが、油断はできません。このコア自体が、強力な防衛システムを持っている可能性があります」
「ねぇ、ユズルさん、あの浮いてる玉っころ、すごいエネルギーを感じるよ!」リリアが、目を輝かせてコアを見つめる。「あれ、もしかして、この神殿全体の動力源なのかな? それとも、何かすごい計算とかしてるのかな?」
「おそらく、その両方でしょうね」俺は推測する。「問題は、どうやって安全にアクセスするか、ですが……」
俺は、コアの周囲を【デバッガー】スキルで慎重にスキャンしていく。アクセスポートのようなものは見当たらない。物理的な接触も危険そうだ。だが、コアの表面を流れる魔力パターンの中に、僅かな「揺らぎ」のようなものを見つけた。
(これは……通信プロトコルのようなものか? 外部からの情報を受け付けるための、待機状態? だとしたら、特定の『コマンド』を送れば、反応するかもしれない……)
俺は、ホログラフ・キューブのログや、カルト教団の研究日誌の解読で得た断片的な知識を元に、古代文明のシステムが使用していた可能性のあるコマンドパターンを推測する。そして、【コード・ライティング】スキルを使い、そのコマンドを、魔力に乗せてコアへと送信してみた。
『コマンド送信:システム状況照会(低レベル権限)』
すると、コアの表面の光が僅かに変化し、俺の脳内に、再びあの無機質な合成音声のような声が響いてきた。
『……アクセスコード確認。権限レベル3。照会要求受理。システム状況:準安定。エネルギーレベル:37%。メイン機能:スリープモード。サブシステム:一部稼働中(環境維持、記録保持、低レベル防衛)。警告:外部ネットワーク切断状態。原因不明のシステムノイズ(バグ)検知レベル上昇中……』
(……通じた! しかも、システム状況まで教えてくれるとは……!)
俺は、さらにいくつかのコマンドを試してみた。「記録ログ参照要求」「防衛システム詳細」「封印制御に関する情報」……。しかし、これらの要求に対しては、「権限レベル不足」という応答しか返ってこなかった。アクセス権限レベル3では、閲覧できる情報に限りがあるようだ。
(だが、ログの一部なら見れるかもしれない。『システムノイズ(バグ)』に関するログとか……)
俺は、コマンドを修正し、システムエラーやバグに関するログの参照を要求してみた。
『コマンド送信:システムエラーログ参照(権限レベル3範囲内)』
『……要求受理。ログ検索中……該当ログ表示……』
そして、俺の脳内に、断片的な、しかし衝撃的な情報が流れ込んできた。
『ログNo. AE-734:……原因不明の外部干渉により、時空連続体に微細な亀裂(バグ)発生。座標補正失敗。異次元からのノイズ流入を確認……』
『ログNo. AE-912:……『世界樹(仮称)』のルートシステムに異常増殖(バグ)を確認。魔素循環バランス崩壊の危険性。デバッグ担当チーム応答なし……』
『ログNo. BX-005:……管理AI『アルファ』による、被造物(人類種)への過剰干渉を確認。倫理コード違反の可能性。監査要求……却下……』
『ログNo. CX-108:……『転生者召喚システム』に予期せぬエラー。召喚対象の魂に、設計外の『ユニークスキル(バグ?)』が付与される事例報告多数。原因不明。監視レベル引き上げ……』
『ログNo. DX-404:……大規模システムエラー『大崩壊(ザ・クラック)』発生。コアシステム暴走。管理AI『アルファ』制御不能。封印プロトコル『プロジェクト・アーク』発動……世界再構築(リブート)シーケンス開始……失敗……部分封印に移行……』
『ログNo. EX-001:……封印後の世界(現行バージョン)における、システム安定化監視ログ。周期的な『歪み』発生を確認。封印された『負の遺産』からの影響か? 転生者による予期せぬシステム干渉(バグ利用?)多発……警告レベル上昇……』
「…………」
俺は、しばし呆然とその場に立ち尽くしていた。
今、俺が見たものは何だ?
異次元からのノイズ。世界樹のバグ。管理AIの暴走。転生者召喚システムの不具合。そして、「大崩壊」と呼ばれるシステムエラーと、世界の再構築(リブート)の失敗、部分的な封印……。
(この世界は……本当に……作られたものだったのか……!? しかも、一度、崩壊しかけている……!?)
それは、俺がこれまで漠然と抱いていた疑念を、確信へと変えるのに十分な情報だった。この異世界は、古代文明によって創造され、管理されていた巨大なシステムであり、過去に深刻なエラーを起こし、不完全な状態で「封印」された世界なのだ。
そして、俺のような転生者や、その持つユニークスキル(【デバッガー】を含む)もまた、システムの予期せぬエラー(バグ)の一部として認識されている……。
「ユズル殿? どうかしたのか? 顔色が悪いぞ」
クラウスが、心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。
「……いえ、なんでもありません。少し、衝撃的な情報を見てしまっただけで……」
俺は、まだ混乱している頭で、どうにか答えた。
今、俺が知った情報は、あまりにも重大すぎる。これを、仲間たちにどう伝えるべきか? そして、この真実を知った上で、俺たちはこれからどうすべきなのか?
(世界のバグを修正する……? いや、この世界そのものが、巨大なバグを抱えたまま、不完全に動いているシステムだとしたら……?)
俺の【デバッガー】としての役割、そして存在意義が、根底から揺らぎ始めるのを感じていた。
「……とにかく、今はここから情報を持ち帰ることが先決です」俺は、どうにか平静を取り繕い、仲間たちに告げた。「このコアから直接、全ての情報を引き出すのは危険です。ですが、ログの一部……特に、カルト教団が探している『封印』や『制御装置』に関する情報なら、もう少し引き出せるかもしれません」
俺は、再びコアにコマンドを送信し、ターゲットを絞った情報収集を試みる。
世界の真実の一端に触れてしまった衝撃は大きい。だが、今は目の前の任務に集中しなければならない。カルト教団の陰謀を阻止し、封印された災厄が解き放たれるのを防ぐ。それが、今の俺たちにできる、唯一のことなのだから。
俺は、古代のシステムが遺した、重すぎる「ログ」を背負いながら、次なる「デバッグ」へと意識を向ける。
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