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第65話:王宮への報告と新たな波紋
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忘れられた神殿から帰還した俺たちは、その足で、王宮へと向かった。聖域で起きたこと、制御装置の掌握、そして封印が限界に近づいているという衝撃的な事実は、一刻も早くエドワード王子に報告する必要があったからだ。アルフレッドを通じて緊急の謁見を求めると、王子は多忙な公務の合間を縫って、すぐに時間を作ってくれた。
再び、王宮の隠し部屋。エドワード王子は、俺たち(ユズル、クラウス、シャロン。リリアは疲労困憊のためセーフハウスで休んでいる)からの報告を、息を詰めて聞いていた。俺が制御装置から得た情報――暴走した動力炉、限界が近い封印結界、古代文明の失敗と諦観、そして『調律エネルギー』の可能性――を包み隠さず話すと、彼の顔からは血の気が引き、深い苦悩の色が浮かんだ。
「……なんと……王都の地下に、そのようなものが……そして、封印は、いずれ破綻するというのか……」
王子は、額に手を当て、重々しい溜息をついた。「カルト教団の目的が、その災厄の解放にあったとは……。そして、我々がそれを阻止できたのは、まさに奇跡だったのだな」
「はい」俺は頷く。「ですが、根本的な解決には至っていません。封印は、時間稼ぎに過ぎません」
「『調律エネルギー』……そして、ユズル殿のスキルが、その鍵となる可能性……か」王子は、俺の目をじっと見つめる。「あまりにも……あまりにも重すぎる責務だ。君一人に、それを背負わせるわけにはいかない」
「ですが、他に道がないのであれば……俺は、やるしかありません」俺は、決意を込めて言った。「この世界に来て、多くの人に出会い、助けられました。そして、俺には、この力がある。ならば、それを使うのが、俺の責任なのだと思います」
元SEとしての問題解決への意欲と、この世界で得た仲間たちへの想いが、俺を突き動かしていた。
俺の言葉に、王子は深く頷いた。
「……君の覚悟、しかと受け止めた。ならば、私も、王子として、いや、この国と世界の一員として、全力を尽くそう。君が必要とする支援は、惜しまない。研究資金、情報、人材……何でも言ってくれ」
「ありがとうございます、殿下」
「まず、当面の対策として、忘れられた神殿の『聖域』及び、制御装置の管理体制を強化しなければならない」王子は、具体的な指示を出し始めた。「アルフレッド、信頼できる騎士と魔法使いを選抜し、極秘裏に神殿へ派遣せよ。表向きは、古代遺跡の保護と調査という名目でな。ユズル殿たちが確保した制御装置の守りを固め、カルト教団の再侵入を防ぐのだ」
「はっ!」アルフレッドは恭しく頭を下げる。
「次に、カルト教団『深淵を覗く者たち』への対策だ」王子は、シャロンへと視線を向ける。「シャロン殿、君の情報網を最大限に活用し、彼らの潜伏先、活動内容、そして『主』と呼ばれる存在の正体を探ってほしい。必要であれば、私の直属の諜報部隊も動かそう」
「……お任せください、殿下」シャロンは、余裕の笑みを浮かべて請け負った。「ただし、彼らは狡猾で、尻尾を掴むのは容易ではないでしょう。時間はかかるかもしれませんわ」
「構わん。焦りは禁物だ。だが、彼らの次の『儀式』が実行される前に、必ず叩く」王子の目には、強い決意が宿っていた。
「そして、ユズル殿」王子は、再び俺に向き直る。「君には、その特異なスキルをさらに高め、『調律エネルギー』を生み出す方法を探求してもらう必要がある。王宮の書庫、魔法省の研究所、そして古代文明に関するあらゆる資料へのアクセスを許可しよう。必要な協力者がいれば、それも手配する。リリア嬢の才能も、きっと大きな助けとなるだろう」
「……ありがとうございます。全力を尽くします」
「クラウス殿」王子は、最後にクラウスへと声をかけた。「君には、騎士団内での立場を固めつつ、私とユズル殿たちとの連絡役、そして来るべき戦いに備えた『力』となってもらいたい。君の忠誠心と剣技は、我々にとって不可欠なものだ」
「御意!」クラウスは、力強く応えた。
こうして、王宮との連携体制は、より具体的かつ強固なものとなった。封印の管理、カルト教団への対策、そして俺自身のスキルアップ。それぞれの目標に向けて、俺たちは動き出すことになる。
◆
謁見を終え、俺たちは王宮を後にした。セーフハウスに戻り、休んでいたリリアにも状況を報告する。彼女は、世界の危機という事実に青ざめながらも、すぐに「私にできることは何でもする! ユズルさんのスキルアップに必要な魔道具とか、封印を解析するための装置とか、作ってみせる!」と、持ち前の前向きさで意気込んだ。
俺たちの日常は、再び慌ただしくなった。
俺は、王宮の広大な書庫に通い詰め、古代文字や失われた魔法体系、そして古代文明に関する膨大な資料を読み漁った。【デバッガー】スキルで情報の真偽や重要度を判別しながら、効率的に知識を吸収していく。特に、「世界のシステム」「管理AI」「バグ」「封印」といったキーワードに関わる記述は、注意深くチェックした。解読中のカルト教団の研究日誌と照らし合わせることで、新たな発見があるかもしれない。
リリアは、王宮の研究所から提供された最新の設備と素材を使い、地下工房で昼夜を問わず開発に没頭していた。俺のスキルを補助するためのデバイス、封印や魔力汚染を計測・分析するためのセンサー、そして、来るべき戦いに備えた強力な武器や防具……。彼女の才能は、王宮の技術者たちをも驚かせ、一目置かれる存在となりつつあった。
クラウスは、騎士団内での活動を本格化させていた。王子からの後押しもあり、彼の復帰と昇進は現実味を帯びてきていた。彼は、持ち前の実直さと剣技で信頼を集める一方、俺が提供した情報を元に、腐敗した派閥の不正を巧みに牽制し、騎士団内部の「浄化」にも貢献し始めていた。彼の存在は、徐々にではあるが、確実に騎士団の勢力図を塗り替えつつあった。
シャロンは、その姿を見せないことが多かったが、時折もたらされる彼女からの情報は、常に的確で、そして時に衝撃的だった。「カルト教団の新たな潜伏先を発見した」「宰相派閥が、秘密裏にカルト教団と接触している可能性がある」「王都の地下深くで、再び奇妙なエネルギー反応が観測された」……。水面下では、依然としてきな臭い動きが続いていることを、彼女の情報は示唆していた。
俺たちは、それぞれの役割を果たしながら、着実に力を蓄え、情報を集めていた。しかし、平和な時間は長くは続かない。
ある日、王宮から緊急の連絡が入った。アルフレッドが、血相を変えてセーフハウスに駆け込んできたのだ。
「大変だ! ユズル殿! シャロン殿!」彼の声は、切迫していた。「宰相派閥が、不穏な動きを見せている! 彼らは、エドワード殿下と、そして君たちの存在を危険視し、排除しようと画策しているようだ!」
「……やはり、来ましたか」俺は冷静に受け止める。王子との協力関係が深まれば、いずれこうなることは予想していた。
「具体的には、どのような動きを?」シャロンが問う。
「彼らは、君たちを『王都の平和を乱す危険分子』として告発し、騎士団の一部(宰相派閥に属する者たち)を使って、強制的に拘束、あるいは排除しようとしているらしい! おそらく、近日中に、彼らは行動を起こすだろう!」
「……汚い手を」クラウスが、怒りに拳を震わせる。
「どうするの!? 逃げるの!?」リリアが、不安そうに俺たちを見る。
「逃げても、解決にはなりません」俺は首を振る。「むしろ、これはチャンスかもしれません。彼らが表立って動いてくるなら、こちらも正々堂々と迎え撃ち、彼らの不正と、我々の正当性を証明する機会です」
俺の頭の中では、既に反撃のシナリオが組み立てられ始めていた。【デバッガー】スキルで集めた、宰相派閥の「バグ情報」(不正の証拠)。クラウスが騎士団内で築きつつある人脈。リリアが開発した最新の魔道具。そして、シャロンの裏工作能力。これらを組み合わせれば、勝機はある。
「……面白いわね」シャロンが、不敵な笑みを浮かべる。「王宮を舞台にした『デバッグ』……やりがいがありそうだわ」
「望むところだ!」クラウスも、闘志を燃やす。「腐敗した権力に、正義の鉄槌を下す!」
「わ、私も、みんなと一緒に戦う!」リリアも、覚悟を決めた表情で頷く。
俺たちの前に、新たな戦いの舞台が用意された。相手は、カルト教団のような異形の存在ではなく、この国の権力の中枢に巣食う、巨大な「バグ」そのものだ。
王都グランフォールを揺るがすであろう、政変の嵐。
俺たち「王国のデバッガー」は、その嵐の中心へと、自ら飛び込んでいくことを決意した。
果たして、俺たちは、この国のシステムをも「デバッグ」し、未来を変えることができるのだろうか?
再び、王宮の隠し部屋。エドワード王子は、俺たち(ユズル、クラウス、シャロン。リリアは疲労困憊のためセーフハウスで休んでいる)からの報告を、息を詰めて聞いていた。俺が制御装置から得た情報――暴走した動力炉、限界が近い封印結界、古代文明の失敗と諦観、そして『調律エネルギー』の可能性――を包み隠さず話すと、彼の顔からは血の気が引き、深い苦悩の色が浮かんだ。
「……なんと……王都の地下に、そのようなものが……そして、封印は、いずれ破綻するというのか……」
王子は、額に手を当て、重々しい溜息をついた。「カルト教団の目的が、その災厄の解放にあったとは……。そして、我々がそれを阻止できたのは、まさに奇跡だったのだな」
「はい」俺は頷く。「ですが、根本的な解決には至っていません。封印は、時間稼ぎに過ぎません」
「『調律エネルギー』……そして、ユズル殿のスキルが、その鍵となる可能性……か」王子は、俺の目をじっと見つめる。「あまりにも……あまりにも重すぎる責務だ。君一人に、それを背負わせるわけにはいかない」
「ですが、他に道がないのであれば……俺は、やるしかありません」俺は、決意を込めて言った。「この世界に来て、多くの人に出会い、助けられました。そして、俺には、この力がある。ならば、それを使うのが、俺の責任なのだと思います」
元SEとしての問題解決への意欲と、この世界で得た仲間たちへの想いが、俺を突き動かしていた。
俺の言葉に、王子は深く頷いた。
「……君の覚悟、しかと受け止めた。ならば、私も、王子として、いや、この国と世界の一員として、全力を尽くそう。君が必要とする支援は、惜しまない。研究資金、情報、人材……何でも言ってくれ」
「ありがとうございます、殿下」
「まず、当面の対策として、忘れられた神殿の『聖域』及び、制御装置の管理体制を強化しなければならない」王子は、具体的な指示を出し始めた。「アルフレッド、信頼できる騎士と魔法使いを選抜し、極秘裏に神殿へ派遣せよ。表向きは、古代遺跡の保護と調査という名目でな。ユズル殿たちが確保した制御装置の守りを固め、カルト教団の再侵入を防ぐのだ」
「はっ!」アルフレッドは恭しく頭を下げる。
「次に、カルト教団『深淵を覗く者たち』への対策だ」王子は、シャロンへと視線を向ける。「シャロン殿、君の情報網を最大限に活用し、彼らの潜伏先、活動内容、そして『主』と呼ばれる存在の正体を探ってほしい。必要であれば、私の直属の諜報部隊も動かそう」
「……お任せください、殿下」シャロンは、余裕の笑みを浮かべて請け負った。「ただし、彼らは狡猾で、尻尾を掴むのは容易ではないでしょう。時間はかかるかもしれませんわ」
「構わん。焦りは禁物だ。だが、彼らの次の『儀式』が実行される前に、必ず叩く」王子の目には、強い決意が宿っていた。
「そして、ユズル殿」王子は、再び俺に向き直る。「君には、その特異なスキルをさらに高め、『調律エネルギー』を生み出す方法を探求してもらう必要がある。王宮の書庫、魔法省の研究所、そして古代文明に関するあらゆる資料へのアクセスを許可しよう。必要な協力者がいれば、それも手配する。リリア嬢の才能も、きっと大きな助けとなるだろう」
「……ありがとうございます。全力を尽くします」
「クラウス殿」王子は、最後にクラウスへと声をかけた。「君には、騎士団内での立場を固めつつ、私とユズル殿たちとの連絡役、そして来るべき戦いに備えた『力』となってもらいたい。君の忠誠心と剣技は、我々にとって不可欠なものだ」
「御意!」クラウスは、力強く応えた。
こうして、王宮との連携体制は、より具体的かつ強固なものとなった。封印の管理、カルト教団への対策、そして俺自身のスキルアップ。それぞれの目標に向けて、俺たちは動き出すことになる。
◆
謁見を終え、俺たちは王宮を後にした。セーフハウスに戻り、休んでいたリリアにも状況を報告する。彼女は、世界の危機という事実に青ざめながらも、すぐに「私にできることは何でもする! ユズルさんのスキルアップに必要な魔道具とか、封印を解析するための装置とか、作ってみせる!」と、持ち前の前向きさで意気込んだ。
俺たちの日常は、再び慌ただしくなった。
俺は、王宮の広大な書庫に通い詰め、古代文字や失われた魔法体系、そして古代文明に関する膨大な資料を読み漁った。【デバッガー】スキルで情報の真偽や重要度を判別しながら、効率的に知識を吸収していく。特に、「世界のシステム」「管理AI」「バグ」「封印」といったキーワードに関わる記述は、注意深くチェックした。解読中のカルト教団の研究日誌と照らし合わせることで、新たな発見があるかもしれない。
リリアは、王宮の研究所から提供された最新の設備と素材を使い、地下工房で昼夜を問わず開発に没頭していた。俺のスキルを補助するためのデバイス、封印や魔力汚染を計測・分析するためのセンサー、そして、来るべき戦いに備えた強力な武器や防具……。彼女の才能は、王宮の技術者たちをも驚かせ、一目置かれる存在となりつつあった。
クラウスは、騎士団内での活動を本格化させていた。王子からの後押しもあり、彼の復帰と昇進は現実味を帯びてきていた。彼は、持ち前の実直さと剣技で信頼を集める一方、俺が提供した情報を元に、腐敗した派閥の不正を巧みに牽制し、騎士団内部の「浄化」にも貢献し始めていた。彼の存在は、徐々にではあるが、確実に騎士団の勢力図を塗り替えつつあった。
シャロンは、その姿を見せないことが多かったが、時折もたらされる彼女からの情報は、常に的確で、そして時に衝撃的だった。「カルト教団の新たな潜伏先を発見した」「宰相派閥が、秘密裏にカルト教団と接触している可能性がある」「王都の地下深くで、再び奇妙なエネルギー反応が観測された」……。水面下では、依然としてきな臭い動きが続いていることを、彼女の情報は示唆していた。
俺たちは、それぞれの役割を果たしながら、着実に力を蓄え、情報を集めていた。しかし、平和な時間は長くは続かない。
ある日、王宮から緊急の連絡が入った。アルフレッドが、血相を変えてセーフハウスに駆け込んできたのだ。
「大変だ! ユズル殿! シャロン殿!」彼の声は、切迫していた。「宰相派閥が、不穏な動きを見せている! 彼らは、エドワード殿下と、そして君たちの存在を危険視し、排除しようと画策しているようだ!」
「……やはり、来ましたか」俺は冷静に受け止める。王子との協力関係が深まれば、いずれこうなることは予想していた。
「具体的には、どのような動きを?」シャロンが問う。
「彼らは、君たちを『王都の平和を乱す危険分子』として告発し、騎士団の一部(宰相派閥に属する者たち)を使って、強制的に拘束、あるいは排除しようとしているらしい! おそらく、近日中に、彼らは行動を起こすだろう!」
「……汚い手を」クラウスが、怒りに拳を震わせる。
「どうするの!? 逃げるの!?」リリアが、不安そうに俺たちを見る。
「逃げても、解決にはなりません」俺は首を振る。「むしろ、これはチャンスかもしれません。彼らが表立って動いてくるなら、こちらも正々堂々と迎え撃ち、彼らの不正と、我々の正当性を証明する機会です」
俺の頭の中では、既に反撃のシナリオが組み立てられ始めていた。【デバッガー】スキルで集めた、宰相派閥の「バグ情報」(不正の証拠)。クラウスが騎士団内で築きつつある人脈。リリアが開発した最新の魔道具。そして、シャロンの裏工作能力。これらを組み合わせれば、勝機はある。
「……面白いわね」シャロンが、不敵な笑みを浮かべる。「王宮を舞台にした『デバッグ』……やりがいがありそうだわ」
「望むところだ!」クラウスも、闘志を燃やす。「腐敗した権力に、正義の鉄槌を下す!」
「わ、私も、みんなと一緒に戦う!」リリアも、覚悟を決めた表情で頷く。
俺たちの前に、新たな戦いの舞台が用意された。相手は、カルト教団のような異形の存在ではなく、この国の権力の中枢に巣食う、巨大な「バグ」そのものだ。
王都グランフォールを揺るがすであろう、政変の嵐。
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