異世界デバッガー ~不遇スキル【デバッガー】でバグ利用してたら、世界を救うことになった元SEの話~

夏見ナイ

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第68話:竜脈ノードの異変と地下への再訪

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カルト教団「深淵を覗く者たち」が、世界の破滅にも繋がりかねない「竜脈」の汚染・暴走を計画している――その衝撃的な事実を知った俺たちは、一刻の猶予もないと判断し、すぐさま行動を開始した。

まずは、情報収集の強化だ。シャロンはその情報網をフル回転させ、王都近郊に点在するという「竜脈のノード」の位置と、カルト教団がそれらに接触しようとしている兆候がないかを探り始めた。クラウスも、騎士団内部のネットワークを活用し、不審な動きや報告がないか、注意深く監視する。リリアは、王宮の研究所の協力を得て、竜脈のエネルギー特性や、汚染された場合のシミュレーション、そして万が一の際の防御・浄化方法について研究を進める。

俺自身は、引き続き研究日誌の解読を進めると共に、【デバッガー】スキルを使って、王都周辺の広範囲な魔力パターンをスキャンし、竜脈のエネルギーの流れに異常がないかを監視する、という地道な作業を続けていた。それは、巨大なネットワークのトラフィックを監視するような、根気のいる作業だったが、わずかな「ノイズ」や「異常な変動」も見逃さないよう、全神経を集中させた。

数日後。それぞれの調査から、いくつかの懸念すべき情報が集まってきた。

「……王都の西部に位置する、古い鉱山跡。その地下深くに、比較的小規模ながら、活性化した竜脈のノードが存在するらしいわ」シャロンが、最新の情報をもたらした。「そして、最近になって、その鉱山跡周辺で、正体不明のローブの集団が目撃されている。カルト教団の可能性が高いわね」

「鉱山跡……あそこは、数年前に落盤事故があって以来、閉鎖されているはずだが……」クラウスが、自身の知識と照らし合わせる。「もし、奴らがそこを拠点にしているなら、外部からは気づかれにくいだろうな」

「その鉱山跡の周辺でね、最近、微弱だけど、奇妙な魔力の『揺らぎ』が観測されてるんだって!」リリアが、研究所のデータを示しながら付け加える。「普通の魔力とは違う、なんだか……不安定で、淀んだ感じの……もしかしたら、竜脈への干渉が、既に始まっているのかも……!」

(西部の鉱山跡……竜脈ノード……カルト教団の目撃情報……そして、魔力の揺らぎ……!)
全ての情報が、一つの危険な可能性を示唆していた。カルト教団は、既に竜脈ノードへの接触を開始し、汚染、あるいは暴走させるための準備を進めているのかもしれない。

「……行くしかありませんね」俺は、仲間たちを見回し、決断を告げた。「カルト教団が本格的な行動を起こす前に、その鉱山跡を調査し、彼らの計画を阻止しなければなりません」

「賛成だ」クラウスが力強く頷く。「これ以上の猶予はないだろう」
「私も行く! 今度こそ、役に立ってみせる!」リリアも、決意を固めた表情だ。
「ふふ、また退屈しない日々が始まりそうね」シャロンは、余裕の笑みで同意した。

俺たちは、エドワード王子とアルフレッドにもこの情報を伝え、王宮からの後方支援(周辺地域の警戒強化や、必要に応じた騎士団の派遣準備など)を取り付けた上で、西部の鉱山跡へと向かうことを決定した。



王都から西へ馬車で半日ほどの距離にある、その鉱山跡は、寂れた山間の地域に位置していた。かつては銅や銀を産出し、賑わいを見せていたらしいが、数年前の大規模な落盤事故で多くの犠牲者を出し、それ以来、完全に放棄されているという。入り口は板で塞がれ、「立入禁止」の看板が掲げられているが、その周辺には、確かに人の出入りしたような新しい痕跡が残されていた。

「……間違いないわね。ここが、彼らの活動拠点の一つよ」シャロンが、地面に残る足跡や、周囲の気配を探りながら断定する。

「内部の構造は分かりますか?」俺は尋ねる。

「古い地図はあるけれど、落盤事故で内部の状況は大きく変わっているはずよ。それに、カルト教団が、新たに通路を掘ったり、罠を仕掛けたりしている可能性も高いわ」

「まずは、内部の状況を探る必要がありそうですね」俺は【デバッガー】スキルを発動させ、鉱山の入り口とその奥へと意識を集中させる。(……入り口の封鎖は、見せかけだけだな。簡単に突破できる。内部は……複雑な坑道が広がっている。落盤箇所も多いが、奥へと続く道はあるようだ。そして……感じるぞ。地下深くから、強い魔力反応と……やはり、あの淀んだ、汚染された魔力の気配が……!)

「内部への侵入は可能です。ですが、かなり深い場所まで坑道が続いており、その最深部付近に、強い魔力反応と、汚染された気配があります。おそらく、そこが竜脈ノードであり、カルト教団の目的地でしょう」俺は解析結果を伝える。「道中には、落盤の危険だけでなく、カルト教団が仕掛けた罠や、あるいは汚染の影響で凶暴化した魔物が生息している可能性も高いです」

「……ならば、進むのみだ」クラウスが、剣を抜きながら言う。

俺たちは、入り口のバリケードを静かに取り払い、廃鉱山の内部へと足を踏み入れた。中は、ひんやりとした湿った空気が漂い、ツルハシの跡が生々しく残る岩肌が、かつての賑わいを物語っている。しかし、今は不気味な静寂と、そして奥から漂ってくる不穏な気配だけが、この場所を支配していた。

俺たちは、リリアのゴーグルと俺のスキルで周囲を警戒しながら、慎重に坑道を進んでいく。道は狭く、天井も低い箇所が多い。足元には、落盤で散らばった岩石や、打ち捨てられた古い機材などが散乱しており、歩きにくい。

「……注意! 前方、落盤の危険あり!」
俺は、天井の亀裂から読み取った構造的な「バグ」を警告する。俺たちは、慎重にその箇所を迂回した。

「待って! この辺り、魔力の流れがおかしい……罠かも!」
リリアが、ゴーグルのセンサー情報を元に警告を発する。俺が【バグ発見】で探ると、壁に巧妙に隠された魔力感知式の爆破トラップが見つかった。シャロンが、音もなくその罠を解除する。

道中、凶暴化した巨大蝙蝠(ジャイアントバット)の群れや、鉱石に寄生するスライム系の魔物などにも遭遇したが、これまでの経験を活かした連携で、危なげなく撃退していく。クラウスの剣技はさらに冴え渡り、リリアの援護魔道具も的確に機能し、シャロンは常に死角から敵の急所を突く。俺も、敵の弱点やバグ情報を提供することで、戦闘を有利に進めることができた。

しかし、坑道の奥深くへ進むにつれて、周囲の汚染された魔力の気配は、ますます強くなっていった。壁には、黒いシミのようなものが広がり、空気は重く、淀んでいる。時折、どこからともなく、不気味な囁き声のようなものが聞こえてくる気もする。

(……精神汚染が始まっているのか? いや、これは……?)

俺は【情報読取】で、その囁き声の正体を探る。
『……残留思念(負の感情集合体)検知:鉱山事故の犠牲者たちのもの? 強い苦痛、恐怖、怨嗟……。汚染魔力と共鳴し、増幅されている可能性。精神抵抗力の低い者は、幻覚・幻聴、または精神錯乱を引き起こす危険性あり。』

(事故の犠牲者たちの残留思念……! それが、汚染魔力で増幅されている……!)
ここは、単なる廃鉱山ではない。悲劇の記憶と、負の感情が渦巻く、呪われた場所でもあるのだ。

「みんな、しっかり! 何か聞こえても、気にしないで!」リリアが、自分に言い聞かせるように叫ぶ。彼女も、この不気味な気配を感じ取っているのだろう。
クラウスは、眉間に皺を寄せながらも、黙々と前進を続ける。騎士としての強い精神力が、彼を支えている。シャロンは、表情を変えないが、その赤い瞳は、より一層鋭く周囲を警戒している。

俺も、精神を集中させ、負の思念に意識を持っていかれないように努める。同時に、【デバッガー】スキルで、この残留思念の「バグ」……例えば、特定の音や光、あるいは感情に反応するパターンなどがないかを探る。

(……ある! 強い『希望』や『決意』といった、正の感情エネルギーに対して、僅かに反発・減衰する傾向が……!)

「クラウスさん!」俺は呼びかける。「あなたの『騎士の誓い』スキル……あれは、強い意志の力ですよね? それを、もっと強く意識して、前に進んでください! それが、この悪しき気配を打ち払う力になるかもしれません!」

「……騎士の誓い、か」クラウスは、俺の言葉に一瞬驚いたようだったが、すぐに力強く頷いた。「……承知した! 我が信念、我が誓いにかけて、この闇を切り拓かん!」
彼は、胸に手を当て、目を閉じ、深く息を吸い込んだ。そして、再び目を開いた時、その瞳には、迷いのない、燃えるような決意の光が宿っていた。彼から放たれるオーラが、周囲の淀んだ空気を、僅かに押し返しているように感じられた。

(……効いている!)

クラウスの強い意志が、負の残留思念の干渉を和らげているようだ。俺たちは、彼を先頭に、再び前進を開始した。

そして、ついに俺たちは、坑道の最深部と思われる、広大な空洞へとたどり着いた。
そこには、想像を絶する光景が広がっていた。

空洞の中央には、大地から突き出すようにして、巨大な水晶柱がそびえ立っていた。それは、淡く、しかし力強い生命力を感じさせる光を放っており、大地を流れる膨大な魔力エネルギー――竜脈――の集積点(ノード)であることが一目で分かった。

だが、その神聖なはずの水晶柱は、無数の黒い鎖のようなものに縛られ、その表面には、禍々しい紫色の紋様が、まるで病巣のように広がっていたのだ。そして、その紋様からは、周囲の空間を蝕む、濃密な汚染魔力が放出されている!

「……あれが、竜脈のノード……! なんて酷いことを……!」
リリアが、悲痛な声を上げる。

水晶柱の周囲には、数人のカルト教団員たちがおり、何らかの儀式を行っているようだった。彼らは、汚染された水晶柱からエネルギーを引き出し、それを黒曜石の杖のようなものに溜め込んでいる。おそらく、これを持ち帰り、次の計画――封印解除の儀式――に利用するつもりなのだろう。

「……見つけたぞ、邪教徒ども!」
クラウスが、怒りに満ちた声で叫び、剣を構えた!

カルト教団員たちは、俺たちの出現に気づき、一斉にこちらを振り向いた! その中の一人、リーダー格と思われる男(ドクトル・シュナーベルではなかったが、それに次ぐ地位の者だろう)が、歪んだ笑みを浮かべた。

「……ほう。嗅ぎつけてきたか、邪魔者ども。だが、もう遅い。竜脈の『調整』は、最終段階に入っている。お前たちも、この聖なる汚染の贄となるがいい!」

男が杖を掲げると、汚染された水晶柱が、さらに禍々しい光を放ち始めた! 周囲の空間が歪み、足元の岩盤が震える!

竜脈ノードを舞台にした、カルト教団との最終決戦(少なくとも、この鉱山における)の火蓋が、今、切って落とされた!
俺たちは、この汚染を食い止め、彼らの計画を阻止することができるのだろうか?

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