異世界デバッガー ~不遇スキル【デバッガー】でバグ利用してたら、世界を救うことになった元SEの話~

夏見ナイ

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第69話:竜脈汚染の攻防と浄化の光

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廃鉱山の最深部、汚染されつつある竜脈ノードの空洞。カルト教団「深淵を覗く者たち」と俺たちとの、最後の攻防が始まった。巨大な水晶柱に絡みつく黒い鎖、そこから溢れ出す禍々しい汚染魔力、そしてそれを操る狂信者たち。このまま放置すれば、竜脈は完全に汚染され、暴走し、王都周辺に未曾有の災害をもたらすだろう。

「儀式を止めろ! それ以上、竜脈を汚すな!」
クラウスが叫び、先陣を切って教団員たちへと突撃する! 彼の身体からは、【騎士の誓い】による強い意志のオーラが放たれ、周囲の負の残留思念を打ち払いながら、敵陣へと切り込んでいく。

「邪魔をするな、騎士崩れが!」
リーダー格の男(ローブの色から、中級幹部クラスだろうか)が、黒曜石の杖を構え、クラウスを迎え撃つ! 他の教団員たち(数は四人)も、それぞれ武器や呪詛魔法で応戦し、クラウスを包囲しようとする!

「クラウスさんを援護!」俺は指示を出す。「シャロンさん、後方の呪詛使いを! リリアさん、クラウスさんに防御支援と、あの黒い鎖への妨害を!」

「了解!」
「任せて!」
「うん!」

シャロンは、再び影のように動き、後方で呪文を唱えようとしていた教団員二人を瞬時に無力化する。リリアは、クラウスに防御魔法をかけつつ、汚染された水晶柱に絡みつく黒い鎖に向かって、特殊な魔道具(『魔力回路ディスラプター』と彼女は呼んでいた)から妨害電波(魔力波?)を発射する。鎖の表面がバチバチと火花を散らし、汚染魔力の流れが僅かに乱れた!

俺自身も、残る二人の教団員(どちらも歪んだ剣を使う戦士タイプ)と対峙する。相手のレベルは15前後。以前戦ったリーダー格ほどではないが、油断はできない。

(こいつらの動き……やはり、狂信者特有の予測不能な部分がある。だが、基本的な剣技には癖があるはずだ!)
俺は【デバッガー】スキルで、彼らの剣筋、ステップ、重心移動を高速で分析し、「バグ」を探す。

(一人目、大振りの際に右肩が下がる癖! 二人目、防御時に左足への体重移動が甘い!)

俺は、そのバグを利用し、的確なカウンターを狙う!
一人目が剣を振り下ろしてきた瞬間、その右肩が下がるタイミングに合わせて懐に潜り込み、魔鋼のダガーで脇腹を切り裂く!
二人目が防御の構えを取った瞬間、その体重が乗り切っていない左足を狙って蹴りを入れ、体勢を崩させる!

「ぐっ……!?」
「なっ……!?」
二人の教団員は、俺の予想外の動きに対応できず、致命的な隙を晒す! 俺は、その隙を見逃さず、追撃のダガーで確実に戦闘不能へと追い込んだ!

これで、残る敵はリーダー格の男一人! クラウスが、彼の猛攻を必死で受け止めている!

「しぶとい騎士め! だが、それも時間の問題だ!」
リーダー格の男は、杖から汚染魔力の弾丸を連射し、クラウスを圧倒しようとする!

「クラウスさん!」

(あの杖……汚染された竜脈エネルギーを直接引き出して使っているのか? だとしたら、エネルギー制御に何らかの『バグ』があるはずだ!)
俺は、リーダー格の男が持つ杖と、彼と水晶柱を繋ぐ魔力の流れに、【バグ発見】を集中させる! MPはまだ回復しきっていない。精神力への負荷も大きい。だが、やるしかない!

(……あった! エネルギー変換効率の不安定性! それに、オーバーロード保護回路の脆弱性!)

『……バグ検出:複数件
 ①【汚染魔力変換効率の揺らぎ】:竜脈エネルギーを汚染魔力へ変換する効率が、外部からの特定の魔力干渉(浄化属性、または高周波振動)によって大きく低下する。
 ②【オーバーロード保護回路の誤作動バグ】:杖が許容量以上のエネルギーを引き出そうとした際、保護回路が作動するはずだが、特定の条件下(急激なエネルギー変動時)で誤作動し、回路が焼き切れる、あるいは暴走エネルギーが術者に逆流する可能性がある。』

(これだ!)
俺は、リリアに叫んだ!
「リリアさん! あの杖に、もう一度『魔力回路ディスラプター』を! それと、『サンライト・ディスク』も! 同時に、最大出力で!」

「え!? 同時に!? 大丈夫かな……?」

「大丈夫です! 俺を信じて!」

「……うん! わかった!」
リリアは、二つの魔道具を構え、リーダー格の男が持つ杖に向けて、同時に起動させた! 魔力回路を乱す妨害波と、浄化の光エネルギーが、杖へと殺到する!

「な、なんだ!? この不快な光と振動は……!?」
リーダー格の男は、突然の複合的な干渉に動揺し、杖の制御が乱れる! 汚染された竜脈エネルギーの変換効率が急激に低下し、同時に、無理なエネルギー引き出しに対する保護回路が誤作動を起こした!

バヂヂヂヂィィィィィ!!!

杖が、内部から弾けるような激しいスパークを発し、黒い煙を噴き上げた! そして、制御を失った暴走エネルギーの一部が、術者であるリーダー格の男自身へと逆流した!

「ぐ……ぎゃあああああああっ!!!」
男は、自身の力によって内側から焼き尽くされるような苦痛に身を捩らせ、絶叫と共にその場に崩れ落ち、黒い塵となって消滅していった……。

「…………」
再び、空洞に静寂が戻る。
俺たちは、なんとかカルト教団のリーダー格を倒し、竜脈ノードの汚染を食い止めることができた……かに思えた。

だが――

「……ま、まだ終わっていないぞ!」
クラウスが、苦しげな声で叫んだ。彼の視線は、中央の水晶柱へと向けられている。

見ると、リーダー格が倒れたにも関わらず、水晶柱に絡みつく黒い鎖は消えず、むしろ、さらに強く水晶柱を締め上げ、汚染を広げようとしていた! 儀式は中断されたが、既に竜脈ノード自体が、深刻な汚染状態に陥ってしまっているのだ!

「どうしよう……!? このままじゃ、やっぱり竜脈が……!」リリアが悲鳴を上げる。

「……浄化しなければ……」シャロンが、苦々しい表情で呟く。「だが、これほどの汚染を、どうやって……」

浄化魔法の使い手であるアルトは、ここにはいない。リリアのサンライト・ディスクも、この規模の汚染に対しては、焼け石に水だろう。

(……何か、方法はないのか? 【デバッガー】……いや、【システム・オーバーライド】か? でも、MPが……)
俺のMPは、先ほどの戦闘とスキル使用で、再び枯渇寸前だった。

その時、俺の脳裏に、聖域で得た情報が蘇った。
『封印結界強化プロトコル(未実装)』……『外部から清浄な魔力、または特定の『調律エネルギー』を供給することで、結界強度を回復・強化する』……。
そして、『スキル【デバッガー】による高度な『バグ・フィックス』または『システム・オーバーライド』が、副次的に類似のエネルギーを発生させる可能性……』

(調律エネルギー……! もしかしたら、今なら……!)
俺は、最後の賭けに出ることにした。

「皆さん! 俺に、少しだけ時間をください! そして、俺に力を……!」
俺は、汚染された水晶柱の前に立ち、仲間たちに呼びかけた。

「ユズル殿、何を……!?」

「説明している時間はありません! 俺を信じて、皆さんの魔力……あるいは、意志の力を、俺に集中させてください!」

仲間たちは、戸惑いながらも、俺の必死の形相に何かを感じ取ったのだろう。クラウスは剣を地に突き立てて祈るように、リリアは杖を俺に向けて魔力を送り、シャロンも、珍しく真剣な表情で、俺に意識を集中させているようだった。

彼らの温かい想い、力が、俺へと流れ込んでくるのを感じる。それは、MPとは違う、もっと純粋な「エネルギー」の奔流。

(これなら……いけるかもしれない!)

俺は、汚染された水晶柱……竜脈ノードそのものを対象として、【システム・オーバーライド(初級)】を発動! 目標は、汚染状態の「上書き」!

(システムの歪みを……汚染(バグ)を……修正(デバッグ)する! 世界を、調律するんだ!)

俺の全身から、これまでにないほどの強大なエネルギーが溢れ出す! それは、単なる魔力ではない。仲間たちの想いと、俺自身の「バグを修正したい」という強い意志が融合し、昇華したかのような、清浄で、力強い光!

その光は、俺の手を通じて、汚染された水晶柱へと流れ込んでいく!
黒い鎖が、光に触れて、悲鳴を上げるように霧散していく!
禍々しい紫色の紋様が、浄化され、消えていく!

水晶柱は、本来の輝きを取り戻し始めた。淡く、力強い、生命力に満ちた光。それが、空洞全体を満たしていく。周囲の淀んだ空気は浄化され、負の残留思念も掻き消えていく。

やがて、光が収まった時。
水晶柱は、完全に元の姿を取り戻し、清浄な魔力エネルギーを、安定して放っていた。竜脈ノードの汚染は、完全に浄化されたのだ。

「……やった……」
俺は、その場に膝から崩れ落ちた。今度こそ、本当に、一滴の力も残っていない。だが、心は、不思議なほどの達成感と、安堵感に満たされていた。

「……ユズル殿……君は……」
クラウスが、信じられないものを見るような目で、俺と浄化された水晶柱を交互に見ている。

「……すごい……本当に、浄化しちゃった……。あれが、『調律エネルギー』……?」
リリアも、呆然と呟いている。

「……ふふ。本当に、あなたは規格外ね」
シャロンだけは、いつもと変わらぬ笑みを浮かべていたが、その瞳の奥には、深い感嘆の色が浮かんでいた。

俺は、仲間たちに支えられながら、浄化された竜脈ノードを見上げた。
【システム・オーバーライド】の新たな可能性。そして、「調律エネルギー」の存在。俺の力は、また一つ、新たな段階へと進んだのかもしれない。

だが、同時に、この力が持つ意味と、責任の重さを、改めて痛感していた。
俺は、この力を、どう使っていくべきなのか?

答えを探す旅は、まだ続く。
俺たちは、疲労困憊の身体を引きずりながらも、確かな成果と、そして新たな希望(と課題)を胸に、廃鉱山からの帰路についた。

王都では、エドワード王子と、そして世界そのものが、俺たちの帰還と報告を待っているだろう。
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