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第八話 奇襲、攪乱、そして
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リーダー格の男が振り下ろした斧。その切っ先が聖騎士の白銀の髪を掠めようとした、まさにその刹那。
森の空気が震えた。
「――今だ!」
俺が心の中で叫ぶと同時に、三つの影が動いた。魔術師の足元にあった木の根元が、弓使いの傍にあった岩塊が、神官の背後にあった茂みが、一斉に命を得たかのように躍動する。
「なっ!?」
最初に悲鳴を上げたのは魔術師だった。詠唱を終え、とどめの魔法を放とうとした彼の背中に、擬態スライムが張り付く。衝撃で詠唱が中断され、彼のHPが一気に削られた。
「ぐあっ!なんだこいつ!?」
弓使いも同様だった。狙いを定めようとした彼の足元の岩が突如ぬるりと動き、その体勢を崩す。バランスを失ったところに、擬態スライムの不意打ちが突き刺さった。
回復役の神官は、味方の異変に気づいて杖を構えた。だが、それより早く茂みから飛び出した擬態スライムが、彼の顔面に張り付いて視界を奪う。
『-62 CRITICAL!』
『-58 CRITICAL!』
後衛の脆い装甲を、奇襲ボーナスが乗った一撃が貫く。PK集団の後衛三人は、何が起こったのか理解できないまま、混乱の渦に叩き込まれた。
「なんだと!?」「敵襲か!?どこからだ!」
前衛の戦士二人が慌てて周囲を見回す。だが、攻撃の主はスライム。倒したはずの聖騎士以外に、敵影は見当たらない。その一瞬の動揺が、勝敗を分けるには十分すぎた。
絶体絶命の淵から生還した聖騎士。彼女は、この好機を逃すような半端なプレイヤーではなかった。男たちが後方を気にした瞬間、彼女は地面を蹴って跳躍していた。その動きは傷を負っているとは思えないほど鋭く、速い。
「甘い!」
レイピアの切っ先が、 أقربの戦士の鎧の隙間を正確に貫く。致命的な一撃。戦士のHPゲージが大きく削れ、苦悶の表情を浮かべた。
「このアマ!」
リーダーの男が我に返り、聖騎士に狙いを定める。だが、その進路上に、俺は最高の盾を送り込んだ。
「行け、オブシダン・スライム!」
茂みから転がり出た黒い塊。それはリーダーの男と聖騎士の間に、まるで鉄壁のように立ちはだかった。
「なんだこの黒いスライムは!?邪魔だ、どけ!」
男は苛立ち紛れに、持てる力の限り斧を振り下ろす。M.M.O.でもトップクラスの威力を誇るであろう両手斧の一撃。それが、黒曜石の体に叩きつけられた。
キィン!と、鍛冶場のような甲高い音が森に響く。
斧は、弾かれた。オブシダン・スライムの体には傷一つない。そして、男の頭上に表示されたダメージは、無慈悲な『-0』。
「……は?」
男の動きが、完全に止まった。信じられないという顔で、自分の斧と、傷一つないスライムを交互に見ている。その顔は、絶望に染まっていた。
俺は追撃の手を緩めない。アイテムボックスから、昨日実験で創っておいた『スティッキー・スライム』を数体、矢継ぎ早に射出する。それらは放物線を描いて飛び、PK集団の足元にべちゃり、べちゃりと着弾した。
「うわっ、なんだこれ!足が!」
「動けねえ!くそっ、粘着トラップか!」
PKたちの足が、地面に張り付いたように動かなくなる。前衛と後衛の連携は完全に断ち切られ、彼らの陣形はあってないようなものになった。
奇襲による後衛の無力化。
オブシダン・スライムによる前衛の足止め。
スティッキー・スライムによる移動の阻害。
俺のスライム軍団が、PK集団の機能を完全に麻痺させていた。
そして、戦場には一人の捕食者が解き放たれる。
白銀の聖騎士。
彼女はオブシダン・スライムという絶対的な盾を得て、もはや何の憂いもなくなった。その剣技は、先ほどまでとは比べ物にならないほどの輝きを放ち始める。
レイピアが銀色の閃光となって舞う。粘着スライムに足を取られ、身動きができない戦士の喉元を正確に貫いた。一人目の戦士が、光の粒子となって消える。
彼女は休むことなく、次の標的である弓使いへと向かう。弓使いは擬態スライムに絡まれながらも必死に矢を放つが、その矢は全てオブシダン・スライムが吸い寄せて無効化する。聖騎士には、一本の矢も届かない。
近づいてくる銀色の死神に、弓使いの顔が恐怖に引きつる。そして、一閃。二人目が消えた。
戦況は、わずか数十秒で完全に覆っていた。
「ひ、ひいぃ!なんなんだよこいつら!」
顔面にスライムが張り付いていた神官が、ようやくそれを引き剥がして叫ぶ。だが、その時にはすでに聖騎士が彼の目の前に立っていた。三人目。
残るはリーダーの男と、詠唱を妨害され続けている魔術師だけだ。
「お、おい!どうなってやがる!なんで俺の攻撃が効かねえんだ!」
リーダーの男は、なおもオブシダン・スライムに斧を叩きつけているが、結果は変わらない。彼の自慢の攻撃力は、俺の創造物の前では完全に無力だった。
「クソが!クソがぁ!」
聖騎士が魔術師にとどめを刺し、ついにリーダーの男だけが残った。四方をスライムに囲まれ、目の前には氷の瞳を宿した聖騎士が静かに佇んでいる。
勝敗は、誰の目にも明らかだった。
「お、覚えてろよぉ!」
リーダーの男は、負け犬の常套句を吐き捨てると、懐から脱出用のアイテムである転移結晶を取り出した。アイテムの使用を妨害する間もなく、彼の体は光に包まれて消えていく。PK集団は、こうして森から完全に駆逐された。
森に、静寂が戻る。
残されたのは、俺のスライムたちと、そして、地に膝をつき、荒い息を繰り返す白銀の聖騎士だけだった。
俺はスライムたちをアイテムボックスに戻すと、茂みからゆっくりと姿を現した。
彼女は、俺の存在に気づくと、ハッとしたように顔を上げた。その青い瞳が、まっすぐに俺を捉える。警戒、驚愕、そして、わずかな困惑。様々な感情が入り混じった、複雑な色をしていた。
助けた側と、助けられた側。
戦闘能力ゼロのモンスターメイカーと、孤高の聖騎士。
およそ交わるはずのなかった二人のプレイヤーが、M.M.O.の片隅の森で、初めて顔を合わせた瞬間だった。
森の空気が震えた。
「――今だ!」
俺が心の中で叫ぶと同時に、三つの影が動いた。魔術師の足元にあった木の根元が、弓使いの傍にあった岩塊が、神官の背後にあった茂みが、一斉に命を得たかのように躍動する。
「なっ!?」
最初に悲鳴を上げたのは魔術師だった。詠唱を終え、とどめの魔法を放とうとした彼の背中に、擬態スライムが張り付く。衝撃で詠唱が中断され、彼のHPが一気に削られた。
「ぐあっ!なんだこいつ!?」
弓使いも同様だった。狙いを定めようとした彼の足元の岩が突如ぬるりと動き、その体勢を崩す。バランスを失ったところに、擬態スライムの不意打ちが突き刺さった。
回復役の神官は、味方の異変に気づいて杖を構えた。だが、それより早く茂みから飛び出した擬態スライムが、彼の顔面に張り付いて視界を奪う。
『-62 CRITICAL!』
『-58 CRITICAL!』
後衛の脆い装甲を、奇襲ボーナスが乗った一撃が貫く。PK集団の後衛三人は、何が起こったのか理解できないまま、混乱の渦に叩き込まれた。
「なんだと!?」「敵襲か!?どこからだ!」
前衛の戦士二人が慌てて周囲を見回す。だが、攻撃の主はスライム。倒したはずの聖騎士以外に、敵影は見当たらない。その一瞬の動揺が、勝敗を分けるには十分すぎた。
絶体絶命の淵から生還した聖騎士。彼女は、この好機を逃すような半端なプレイヤーではなかった。男たちが後方を気にした瞬間、彼女は地面を蹴って跳躍していた。その動きは傷を負っているとは思えないほど鋭く、速い。
「甘い!」
レイピアの切っ先が、 أقربの戦士の鎧の隙間を正確に貫く。致命的な一撃。戦士のHPゲージが大きく削れ、苦悶の表情を浮かべた。
「このアマ!」
リーダーの男が我に返り、聖騎士に狙いを定める。だが、その進路上に、俺は最高の盾を送り込んだ。
「行け、オブシダン・スライム!」
茂みから転がり出た黒い塊。それはリーダーの男と聖騎士の間に、まるで鉄壁のように立ちはだかった。
「なんだこの黒いスライムは!?邪魔だ、どけ!」
男は苛立ち紛れに、持てる力の限り斧を振り下ろす。M.M.O.でもトップクラスの威力を誇るであろう両手斧の一撃。それが、黒曜石の体に叩きつけられた。
キィン!と、鍛冶場のような甲高い音が森に響く。
斧は、弾かれた。オブシダン・スライムの体には傷一つない。そして、男の頭上に表示されたダメージは、無慈悲な『-0』。
「……は?」
男の動きが、完全に止まった。信じられないという顔で、自分の斧と、傷一つないスライムを交互に見ている。その顔は、絶望に染まっていた。
俺は追撃の手を緩めない。アイテムボックスから、昨日実験で創っておいた『スティッキー・スライム』を数体、矢継ぎ早に射出する。それらは放物線を描いて飛び、PK集団の足元にべちゃり、べちゃりと着弾した。
「うわっ、なんだこれ!足が!」
「動けねえ!くそっ、粘着トラップか!」
PKたちの足が、地面に張り付いたように動かなくなる。前衛と後衛の連携は完全に断ち切られ、彼らの陣形はあってないようなものになった。
奇襲による後衛の無力化。
オブシダン・スライムによる前衛の足止め。
スティッキー・スライムによる移動の阻害。
俺のスライム軍団が、PK集団の機能を完全に麻痺させていた。
そして、戦場には一人の捕食者が解き放たれる。
白銀の聖騎士。
彼女はオブシダン・スライムという絶対的な盾を得て、もはや何の憂いもなくなった。その剣技は、先ほどまでとは比べ物にならないほどの輝きを放ち始める。
レイピアが銀色の閃光となって舞う。粘着スライムに足を取られ、身動きができない戦士の喉元を正確に貫いた。一人目の戦士が、光の粒子となって消える。
彼女は休むことなく、次の標的である弓使いへと向かう。弓使いは擬態スライムに絡まれながらも必死に矢を放つが、その矢は全てオブシダン・スライムが吸い寄せて無効化する。聖騎士には、一本の矢も届かない。
近づいてくる銀色の死神に、弓使いの顔が恐怖に引きつる。そして、一閃。二人目が消えた。
戦況は、わずか数十秒で完全に覆っていた。
「ひ、ひいぃ!なんなんだよこいつら!」
顔面にスライムが張り付いていた神官が、ようやくそれを引き剥がして叫ぶ。だが、その時にはすでに聖騎士が彼の目の前に立っていた。三人目。
残るはリーダーの男と、詠唱を妨害され続けている魔術師だけだ。
「お、おい!どうなってやがる!なんで俺の攻撃が効かねえんだ!」
リーダーの男は、なおもオブシダン・スライムに斧を叩きつけているが、結果は変わらない。彼の自慢の攻撃力は、俺の創造物の前では完全に無力だった。
「クソが!クソがぁ!」
聖騎士が魔術師にとどめを刺し、ついにリーダーの男だけが残った。四方をスライムに囲まれ、目の前には氷の瞳を宿した聖騎士が静かに佇んでいる。
勝敗は、誰の目にも明らかだった。
「お、覚えてろよぉ!」
リーダーの男は、負け犬の常套句を吐き捨てると、懐から脱出用のアイテムである転移結晶を取り出した。アイテムの使用を妨害する間もなく、彼の体は光に包まれて消えていく。PK集団は、こうして森から完全に駆逐された。
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残されたのは、俺のスライムたちと、そして、地に膝をつき、荒い息を繰り返す白銀の聖騎士だけだった。
俺はスライムたちをアイテムボックスに戻すと、茂みからゆっくりと姿を現した。
彼女は、俺の存在に気づくと、ハッとしたように顔を上げた。その青い瞳が、まっすぐに俺を捉える。警戒、驚愕、そして、わずかな困惑。様々な感情が入り混じった、複雑な色をしていた。
助けた側と、助けられた側。
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