ドラゴンスレイヤーズ Zero Fighter

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第1章

分析で混乱する龍国軍部

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  対外的には非常に強硬な対応を繰り返している龍国政府であったが、政権上層部のその様な動きに反して各軍区の上層部はパニックに近い反応をしていた。

  特に今回の騒動で軍の一部を出していた上海をベースにした東部軍区(東洋艦隊の本拠地)では今回の遠征で突然出てきた「ゼロ戦」に対して積極的な討論がなされていた。

  彼らが特に問題としたのは、あれだけ遅く飛んでいた ただのプロペラ機がなぜ『核』を積む必要があったのかということだった。

  当時の龍国では、原子力を動力源とした巡航ミサイルや爆撃機用の大型のエンジンの開発にほぼ成功していたが、これは核を使って発生した巨大な熱を利用してタービンを回す、どちらかというとジェット機に近い構造を持つものだったのだが、先日登場してきた「ゼロ戦」はジェットエンジンに見られる排気が何処にも見られない。

  機首に搭載されているエンジン(モーター?)の後方にスリットがあるのでそこからターボプロップジェットの排気をしているのかと思われたが、排気煤が全く見受けられないので、ターボプロップという説も否定された。



  また当時の様子を記録した動画を解析してみると、その稼働音からどうやらプロペラを回している動力は電動モーターであるということが分かった。

  当然電力でモーターを回すことで推進力を得ているのだが、2040年現在でもバッテリーだけに頼って戦闘機を飛ばすには航続距離や重量面で問題があると考えられていた。

  「電気を貯める」という方式には基本的にはかなり無理があり、高高度で運用している無人機やドローンで運用している事例があるのだが、何千馬力もあるモーターを搭載した戦闘機をバッテリーで駆動させるとなると航続距離が300km程度になってしまうとか、バッテリーだけで3tほどにもなってしまい運動性が極めて悪化するなどの理由もあり採用には至っていないのが現状だった。


  川北グループは2020年ごろに核融合による発電に成功していて、20tコンテナに収まるサイズの小型化にも成功していることを考えると、あながち「核融合炉」が戦闘機に載っていても不思議ではないと結論づけられた。

  仮に本当に核融合炉が使われていると仮定するなら、『核』は電気を発電される目的で使われていて、直接 熱を使ってタービンを回して発生する強力な排気圧力で推進力を得る従来の方式とは明らかに違う物なわけだ。

  川北重工というのは戦前から戦闘機を作っていた会社で、戦後も中型の旅客機を開発していた時期もあったり、自衛隊に納入している戦闘機にもジェットエンジンを納入していた。

  15tクラスの推力を持つジェットエンジンを作る技術があるにも関わらず、全く違う技術が開発され、他国や諜報員などに全く知られないうちに実用化まで進んでいたということに龍国の軍部は大きな衝撃を受けていた。

  ジェット機を作る技術があるのに、なぜ今頃プロペラ機なのか?

  それも、よりによってなぜ「ゼロ戦」の形をしていたのか?

  あれだけ速度の遅いプロペラ機になぜ自国の戦闘機のミサイルが一発も当たらなかったのか?

  なぜ最新鋭のステルス戦闘機が全くと言っていいほど、旧態然とした100年前の戦闘機に歯が立たなかったのか?

  多少なりとも被弾していたゼロ戦がなぜ一機も堕ちていないのか?

  個人の携行用の対空ミサイルHN-6(赤外線熱源誘導)だけでなく、目視による司令誘導と光学誘導が可能な艦対空ミサイルHQ-7まで全く当てることが出来なかったという点。

  特に近接信管のミサイルが全く反応せず、接近したミサイルですら素通りしてしまった点。

  生き残った駆逐艦のレーダー手へのヒアリングによると、レーダーによる索敵データにゼロ戦や月光などは全く感知されていなかったということも分かった。

  これらを総合的に判断して以下のような結論に至った。

  『彼らはなんらかの方法でレーダー波による索敵をほぼ無効にする技術を確立させている』

  この結論は東洋艦隊の上層部がたどり着くことになったのだが、龍国の政権上層部や他の軍区などへの情報共有はされなかった。

  また、レーダーに映らないという事以外にも「核を搭載している」という点に対しても非常に活発な検討が行われた。

  「本当に核が搭載されているのか?」という点には上層部内部でも意見が真っ二つに別れた。

  肯定派は、航空機を推進させることが可能な電力を供給するには石油燃料を使った内燃機関では不可能だから核を使って何らかの方法で発電している、という見方をしていた。

  否定派は、赤外線誘導のミサイルも捉えられない程度の熱量しか発生させない核による発電などは技術的に不可能だ、という意見を持っていた。

  「では推定で3000馬力を超える推進力を発揮する電動モーターを稼働させている電力の供給はどうやっているのか?」

  「電動モーターと見せかけているだけで、実は従来通りの内燃機関を使ったエンジンを搭載しているのではないか?それならこの状態を全て説明出来る」

  「それならなぜわざわざそんな面倒なことをする必要があったのか?プロペラ機にわざわざした意味が分からない」

  「なぜジェット推進としなかったのかを論じる方がいいのではないか?」

  「ジェットエンジンを作る技術がないのでは?」

  「馬鹿言え、川北は15tクラスの小型エンジンの開発に成功しているのだぞ。プロペラ機にしたということは何か特別な理由があるはずだ」

  「ここは彼らが言っているようにまずは『核を持っている』という前提で最悪を想定して対策を考えるべきでは?」

  ・・・このように会議は完全に空転状態になってしまうのだった。

  さらに彼らは「敵の新型のゼロ戦がレーダーに全く写っていなかった」という点を極めて深刻に受け止めていた。

  龍国のステルス技術は基本的には、日本やアメリカに潜り込ませていたヒューミットを使ったスパイ工作で盗み出した情報を元に独自開発したものなのだが、基本的には機体の形状と電波吸収塗料との2つによってレーダーに映りにくくするようなものだった。

  そこで現代のステルス機は独特な形状をしているのであるが、今回、川北が繰り出してきていた新型戦闘機は見た目、全く電波の反射を抑えるような形にはなっていないのだ。

  レーダー波を反射しやすい垂直尾翼は普通に真っ直ぐ立っているし、レーダー波を反射させ易いプロペラなどは全くレーダー反射を考えられずに放置されている。

  普通に考えたらレーダーにバンバン映るようなものなのだが、それがなぜか全く映らない。

  ステルス機といっても通常は極めて小さく映ったり、下方や上方などから照射されたレーダー波は普通に反射するので対ステルス機用レーダーアンテナなども独自の進化を遂げているものなのだが、この「ゼロ戦」はこれまでの常識で考えられないほど映らないのだ。

  これについても何らかの対策が必要だということで一時保留となった。


  また彼らが大きな問題だとしたのは、ゼロ戦が発射していた超高速の小型ミサイルと思しき存在だった。

  異常な非撃墜率に驚いた龍国軍部上層部はゼロ戦が左右の翼の中頃から発射される高速弾の軌道を撮影したビデオ動画で解析したところ、通常の弾丸並みの速度で飛翔しているにも関わらず、着弾寸前に「カクッ」と軌道を修正してヒットしているということが判明した。

  場合によっては複数回の軌道修正が行われている例もあることから「この高速飛翔体はなんらかの方法で目標物へ誘導されている」という結論に至った。

  当初は航跡を描いているので大口径銃の曳光弾か何かかと思われていたのだが、高速で撃ち出された後に弾体の後部に点火し更に加速や方向転換を行なっているということが明らかになった。

  結局、彼らはこのような結論を出すことになる。

1:『核』による発電によるモーター推進で飛行していると想定される

2:旧式な見た目は擬態の可能性があり、我々を油断させるためだと推測される

3:現在の我が軍の持つ最新鋭の戦闘機やミサイル、戦術では彼の戦闘機を堕とすことは不可能だ


  ゼロ戦への対応についてはこのような方針を打ち出すことになる。

1:敵戦闘機(ゼロ戦と呼称することに)への効果的な対策が確定するまではこちらからは積極的に手を出すことはしない

2:ミサイルが封じられている間は、近接防空兵器である20mm機関砲、12.7mm機関砲などを大量調達し、接近を弾幕によって防ぐ

3:ドローンを活用した自爆兵器や対空機銃を載せた新兵器を活用する

4:早急に「ゼロ戦」の情報を入手する、もしくはサンプル機体を手に入れる

  軍の判断と対応はこのように比較的冷静で妥当なものであった。

  南京軍区の上層部はこのように対策を決めたのだがそれで収まらないのが龍国政府なのであった。

  ・・・彼らはとてもお怒りだったのだ。
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