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1章 君は私の恋人なのか
3話 傷と告白
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絵名「ただいま♪見て見て仮設住宅の鍵だよ。
今日の夕方には家に入っても良いって。」
手に持つ小さな鍵を自慢気に見せていた。
祐司「おかえり。おー本当だ!!さっそく荷物の整理とか始めないとね。」
絵名が持つ小さな黒い鍵は、彼らの新生活の扉を開ける鍵でもあった。
絵名「これで全部まとめられたかな。」避難所生活から二ヶ月が経ち、2人の荷物はバック4個分になっていた。
絵名「じゃあ半分ずつ…。」
祐司「待って。僕が3つ持つよ。」
(彼女は足をケガしている)男性の言葉が脳裏によぎり、祐司は彼女から奪い取るようにバッグを一つ取った。
絵名「え…ありがとう…。」
女性なら喜ぶことが多いシーンだが、祐司は彼女の顔からは、彼女が抱くものが喜びなのかそれとも別の感情なのか分からなかった。
2人は仮設住宅に到着し、扉を開けた。
絵名「わーキレイ。これが新しい家か。キッチンあるよ!お風呂も!」
祐司「それもだけど、机やイスもあるよ。もう地べたじゃなくて良いんだよ。」
2人は大はしゃぎだった。
絵名「ゆうくんったら記憶を取り戻したみたいに明るいね。あ…ごめん。」絵名は言葉の失敗に気付いて口をつぐんだ。
祐司「いやいや、大丈夫だよ。気を使いすぎだよ。恋人同士なんだしもっと気楽でいいよ。」
絵名「ありがとう。ゆうくんから"恋人"って言ってもらえて、本当に嬉しい。」
絵名は祐司から視線を反らしたが、その声色からは確かに喜びが滲んでいた。
祐司「絵名は足とか痛くない?役所も行ってきたし、結構疲れてない?」祐司は平静を装いながら絵名に質問した。しかし、胸の内は荒れていた。
絵名「全然大丈夫だよー。私もバスケやってたしね。」絵名は得意気に答えたが、それは祐司が求めていた回答ではなかった。
祐司「でも、絵名は足をケガしているでしょ?」
(傷の真相)
絵名「誰から聞いたの?もしかして、あの物資の運搬をやっているおじさんかな。」声のトーンに明らかな変化があった。
祐司「そうだね。絵名が診療所で手当てを受けていたって聞いたよ。」祐司の言葉は止まらない。「何で隠していたの?どんな怪我なの?もしかして僕の記憶に関係するの?」絵名を信じているが、信じきれていない感情が前に出る。
絵名「落ち着いて…記憶とは関係ないよ。」そう言いながら絵名は立ち上がり、ゆっくりとズボンを脱ぎ始めた。
祐司「あ…。」祐司は声が出ない、ズボンから出てきたのは、右足の腿《もも》にクッキリ浮かぶ大きな切り傷だった。
突然大きなな不安が祐司を襲《おそ》う。今後に対する不安か、過去の記憶との関係か、彼自身にも分からない。
絵名「これは震災の時に、家から逃げようとして大きな割れたガラスの上で転倒して…そのガラス片がさ。」
自嘲気味に話す姿が事故の深刻さを際立たせた。
祐司「何で教えてくれなかったの?恋人同士に秘密は良くないじゃん。」この質問は祐司をすぐに後悔させた。
絵名「言えるわけないじゃん!恋人が記憶喪失で何もかも分からず不安になってるんだよ?」彼女から出た告白は止まらない。
「足に大きな傷があって、歩くと痛みがあるなんてとても言えないよ。記憶を失っても私に任せとけば大丈夫って、ゆうくんに思わせたいじゃん。安心させてゆうくんが笑顔を少しずつ増やして行きたかったんだよ。」
頬を伝う涙が、彼女のこれまでの苦労を語っていた。
祐司は慌てて彼女の肩を抱いて謝罪した。祐司はこれまでずっと自分のことしか考えていないことに気付いた。記憶喪失で不安な自分と同じように、支える側の絵名も不安だったのだ。
祐司「絵名…ありがとう」
祐司は彼女を抱きしめ、そっと唇を重ねた。
絵名は驚き少し時間が止まったように静止し、その後は唇を強く重ね返した。
「ゆうくん…大好き。」
震災の日から二ヶ月経ち、2人は始めて恋人と呼べる関係になった。
今日の夕方には家に入っても良いって。」
手に持つ小さな鍵を自慢気に見せていた。
祐司「おかえり。おー本当だ!!さっそく荷物の整理とか始めないとね。」
絵名が持つ小さな黒い鍵は、彼らの新生活の扉を開ける鍵でもあった。
絵名「これで全部まとめられたかな。」避難所生活から二ヶ月が経ち、2人の荷物はバック4個分になっていた。
絵名「じゃあ半分ずつ…。」
祐司「待って。僕が3つ持つよ。」
(彼女は足をケガしている)男性の言葉が脳裏によぎり、祐司は彼女から奪い取るようにバッグを一つ取った。
絵名「え…ありがとう…。」
女性なら喜ぶことが多いシーンだが、祐司は彼女の顔からは、彼女が抱くものが喜びなのかそれとも別の感情なのか分からなかった。
2人は仮設住宅に到着し、扉を開けた。
絵名「わーキレイ。これが新しい家か。キッチンあるよ!お風呂も!」
祐司「それもだけど、机やイスもあるよ。もう地べたじゃなくて良いんだよ。」
2人は大はしゃぎだった。
絵名「ゆうくんったら記憶を取り戻したみたいに明るいね。あ…ごめん。」絵名は言葉の失敗に気付いて口をつぐんだ。
祐司「いやいや、大丈夫だよ。気を使いすぎだよ。恋人同士なんだしもっと気楽でいいよ。」
絵名「ありがとう。ゆうくんから"恋人"って言ってもらえて、本当に嬉しい。」
絵名は祐司から視線を反らしたが、その声色からは確かに喜びが滲んでいた。
祐司「絵名は足とか痛くない?役所も行ってきたし、結構疲れてない?」祐司は平静を装いながら絵名に質問した。しかし、胸の内は荒れていた。
絵名「全然大丈夫だよー。私もバスケやってたしね。」絵名は得意気に答えたが、それは祐司が求めていた回答ではなかった。
祐司「でも、絵名は足をケガしているでしょ?」
(傷の真相)
絵名「誰から聞いたの?もしかして、あの物資の運搬をやっているおじさんかな。」声のトーンに明らかな変化があった。
祐司「そうだね。絵名が診療所で手当てを受けていたって聞いたよ。」祐司の言葉は止まらない。「何で隠していたの?どんな怪我なの?もしかして僕の記憶に関係するの?」絵名を信じているが、信じきれていない感情が前に出る。
絵名「落ち着いて…記憶とは関係ないよ。」そう言いながら絵名は立ち上がり、ゆっくりとズボンを脱ぎ始めた。
祐司「あ…。」祐司は声が出ない、ズボンから出てきたのは、右足の腿《もも》にクッキリ浮かぶ大きな切り傷だった。
突然大きなな不安が祐司を襲《おそ》う。今後に対する不安か、過去の記憶との関係か、彼自身にも分からない。
絵名「これは震災の時に、家から逃げようとして大きな割れたガラスの上で転倒して…そのガラス片がさ。」
自嘲気味に話す姿が事故の深刻さを際立たせた。
祐司「何で教えてくれなかったの?恋人同士に秘密は良くないじゃん。」この質問は祐司をすぐに後悔させた。
絵名「言えるわけないじゃん!恋人が記憶喪失で何もかも分からず不安になってるんだよ?」彼女から出た告白は止まらない。
「足に大きな傷があって、歩くと痛みがあるなんてとても言えないよ。記憶を失っても私に任せとけば大丈夫って、ゆうくんに思わせたいじゃん。安心させてゆうくんが笑顔を少しずつ増やして行きたかったんだよ。」
頬を伝う涙が、彼女のこれまでの苦労を語っていた。
祐司は慌てて彼女の肩を抱いて謝罪した。祐司はこれまでずっと自分のことしか考えていないことに気付いた。記憶喪失で不安な自分と同じように、支える側の絵名も不安だったのだ。
祐司「絵名…ありがとう」
祐司は彼女を抱きしめ、そっと唇を重ねた。
絵名は驚き少し時間が止まったように静止し、その後は唇を強く重ね返した。
「ゆうくん…大好き。」
震災の日から二ヶ月経ち、2人は始めて恋人と呼べる関係になった。
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