君は私の恋人なのか

Esente

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3章 記憶の秘密と私の選択

11話 終わりの足音

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(再開)
 その日、祐司は仮設スーパーのアルバイトを終え、帰宅をしてお昼ご飯を食べていた。

 ピンポーン。
 祐司の人生に大きな分岐点をもたらすドアのチャイムが鳴った。

 祐司は、ドアを開けて、そこには一人の女性が立っていた。

 美咲「あ…ゆうくん!!こんなところに…会いたかったよ。今までどうしてたの?」

 祐司「えっと、君は…誰?」

 美咲「…どういうこと?忘れちゃったの?私だよ、高瀬美咲だよ。」

 祐司「タカセ…ミサキ。その声、その顔、僕は君を知っている。」

 視界がぐるりと周った。祐司はその場に座り込んみ、過呼吸となった。

(頭が痛い、強烈な光が頭の中で暴れるようだ。断片的な映像が大量に入り込んでくる、息ができない。)

 美咲「…くん、…くん、…ゆうくん!!」
 美咲は叫び、祐司を抱きしめる。

 祐司「みさちゃん。大丈夫だ…。ちょっと待ってて。」

 美咲は祐司を抱き起こし、家の中のクッションに彼を寝かせた。

よみがえる記憶)
 しばらく経ち、祐司は呼吸が整うと、身体を起こした。

 祐司「みさちゃん。迷惑かけたね。ありがとう。元気だった?」

 美咲「何言っているのよ、もちろん全然元気じゃなかったよ。ゆうくんがいなかったんだから。」
 少し赤く腫れた目で彼を見つめて、少し笑って見せた。

 美咲「ひょっとして、記憶が無かったの?そうだとすると、LINEの返事がないのも納得できるね」

 祐司「どうやら、そうみたいだ。―――
 そうだったね。俺はメールしか見てないね。」
 震災前の自身の記憶と、自分の知らない震災後の記憶が頭の中で混ざる。

 美咲「そうなんだ。でも思い出したみたいで良かったよ。きっとが支えてくれていたのかな。」

 祐司「絵名が…そうだね。絵名が色々助けてくれてた。」
 祐司は、妹という言葉を聞き、手が震えた。
 妹と共に少した過酷な生活の記憶、お互いぶつかり合った記憶と共に、愛し合った記憶も蘇る。

 それはとても幸せであり、恋人の美咲を裏切った記憶だった。

 美咲「ゆうくん、ゆっくりで良いから何が起きたか教えてくれる?」
 さとすように、祐司に伝えた。
 美咲の中には既にある疑惑が脳裏によぎっていた。

 祐司「確か、俺は震災のあの日、父さんと絵名と過ごしていて。あ…父さん…もう。だから絵名は…。」
 大きな涙が彼の頬を濡らした。

 美咲「ゆうくん、大丈夫!?ごめんね、苦しいなら無理しなくて良いから。」

「そこからは、私が話すよ。」
 買い物袋を手に、一人の女性が玄関に立っていた。
 祐司の妹である山下絵名であった。

(対峙)
 美咲「妹さん…。」
 祐司「絵名…」

 絵名「美咲さん、お久しぶりです。」
「ゆうくん、記憶戻ったのかな。お父さんの話は後でゆっくりと話そう。無理に思い出さないで。心にすごい負担だから。」

 祐司「絵名…だいたい思い出した。少しまだごちゃごちゃしているけどね。」

 絵名「そっか…。さすが美咲さんだ、愛の奇跡ってやつだね。」
 絵名は下を向いていた。その声は涙ぐんでいた。
 彼女にとって、それは女としての敗北であった。

 美咲「妹さん、何があったか話してもらえる?」
 美咲の中の疑惑は、ほぼ確信に変わりつつあった。

 「うん、話すよ。でも、買ってきたものを冷蔵庫に入れるからちょっと待ってね。」

 絵名はゆっくりと部屋の奥に向かった。

 祐司は震える手を少し絵名の方に動かし、それをすぐに戻した。

 絵名の背中には黒い影が指し、その足音は静かに家の中に響いていた。
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