君は私の恋人なのか

Esente

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3章 記憶の秘密と私の選択

12話 願いと罪の狭間

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(告白と懺悔《ざんげ》)
 絵名は冷蔵庫からお茶を取り出し、三つのコップに注いで運んできた。

 絵名「どうぞ。」

 美咲「ありがとう。」
 美咲は自分の指先が震えていた。

 絵名「さて…もう隠しても無駄だから、一大事なところから話すね。」絵名は深呼吸して話を続けた。

 絵名「…美咲さん、ごめんなさい。私は兄の記憶がないことを利用して、自分のことを恋人だと刷り込んでいました。最低よね。」

「でも、ゆうくん、兄には怒らないでください。全部私が悪いんです。兄は本当に自分が恋人なのか何度も疑っていました。その度に私が上手くはぐらかして、今の関係を続けていたんです。」

 祐司「絵名!お前だけが悪いわけじゃない。気づけなかった俺も悪いんだ。」

 絵名「違うよ。ゆうくんは記憶がないんだから私の言葉を信じるしかなかったの。私は、ゆうくんが疑ってきたとき、隠していた本当の話を少し混ぜて、一番隠したい話は伏せて話したの。人ってそうやっって真実を少し掴むと、安堵あんどしてそれ以上の真実があることになかなか気付けなくなるんだよ。」

 美咲「それは…ずるい伝え方ね。なんで、そんなことをしたの?」美咲は核心に切り込んだ。

 絵名「震災の時に父が死んで、私の心も死にそうだったの。そういったとき、やっぱり男のぬくもりって安心するじゃない。記憶喪失の兄がうってつけの存在だったの。」

 絵名は一度唇を噛み、首を振った。。

 絵名「ごめんなさい、強がって嘘をつきました。」絵名はすぐに訂正をし、震える声で続けた。

 絵名「本当は、震災前からゆうくんのことは男性として少し意識してしまっていました。片親で、ゆうくんと一緒にいる時間が長かったからかも。でも、別に恋人になりたいとかは全然なかった。」
「ゆうくんは美咲さんのことが本当に好きだったし、私は後ろから2人を応援していました。あの時は。」

 絵名「でも…震災の時に父を眼の前に失い、ゆうくんだけが私の最後の支えだったのです。誰にも渡したくなかった。ひとりが嫌だった。ゆうくんに正しい記憶を教えると、美咲さんを思い出し、いつか美咲さんのところに行ってしまう。それが…どうしても…どうしても嫌だった。」

 絵名「記憶喪失の今なら…、私が…恋人になって…ずっと一緒に…いられると思ったの。心の中にあった…小さな想いの暴走を…止められなかった。」
 絵名は、涙で言葉が崩れた。

 祐司「絵名、少し落ち着こうか。」

 絵名「止めないで!私の罪なの、倫理的におかしいのは分かっていた。でも…ゆうくんとの日々が幸せで、ずっと本当のことが言えなかった。美咲さん、本当にごめんなさい。ゆうくんも本当にごめんなさい。」
 頭を大きく下げる絵名。涙が床に落ちる。

 美咲「…」

 祐司「絵名。俺は戸惑いは確かにあるけど、怒っていない。記憶が無く、何も分からず怖かったのに、絵名が明るく支えてくれた。感謝している。」

 絵名「優しくしないで!!もっと責めてよ!!…あんなに好きだった美咲さんとの関係に、大きなヒビを入れちゃったんだよ。妹と…浮気みたいな最低な関係にあったんだよ。」

 絵名は、走って浴室に駆け込みドアを締めた。彼女の悲しみの声が響いた。

(美咲の願い)
 祐司「みさちゃん、本当にごめんね。どんな事情があれ、俺は最低なことをしてしまった。」

 美咲「…自分の中でよく感情の整理ができていないよ。妹さんのしたことは許せないって気持ちもある。でも、ゆうくんと離れ離れになって気付いた。大切だった人と別れるってすごい悲しいってこと。」
「私がもし、妹さんの立場だった時に絶対に同じことをしないと断言できないかも。」

 祐司「ありがとう。その言葉、あとで伝えておくね。」

 美咲「私は、今回は色々な悲劇が重なって起きてしまった事故だと思う。これ以上話を掘っても全員傷つくだけだから…だからもう流して、今後の話をするほうが嬉しいかな。」

「今後の…話。」
 祐司は、その言葉のあとに続くさらなる苦しみに気づき、浴室のドアを見た。
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