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3章 記憶の秘密と私の選択
14話 崩れた家で
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深呼吸をし、笑顔を作り、祐司はドアを叩いた。
トントントン
祐司「絵名、入るぞ」
浴室のドアを開ける。
絵名「私はまだいいよって言ってないよ。」
ふてくされた声がした。
祐司「ダメって言われても入る気だったからな。」
絵名「昔からデリカシーとか無かったからね。」
(祐司は両手で絵名の頭を大きく撫で回した。昔から良くやっていた、泣いているときの仕草だ)
祐司「超ブラコンの絵名は、少し元気になったかな。」ニヤニヤと見つめる。
絵名「なんか、ゆうくんは記憶が戻って性格が悪くなったね。記憶が無い時は、お布団の中であんなに私に優しくしてくれてたのに。」
ニヤニヤと見つめ返す。
祐司「う…お前、一番触れちゃいけないところ…。」
絵名「売られた喧嘩を買っただけですー。」
そこには昔からの家族としての空気が流れていた。
祐司「俺はさ、やっぱり怒れないよ。この半年間の森山祐司の記憶は過酷な環境の中でも、絵名のお陰で幸せだったと言っているから。」
絵名「そっか…そう言ってもらえると嬉しいよ。」
祐司「母さんの旧姓を付けるとか、よく考えたな。」
絵名「とっさに考えられる範囲で、馴染みのある姓を考えたら、それしか思いつかなかった。」
絵名「…美咲さんは私たちになんて言ってた?」
頭を伏せて話す。
祐司「許す、許さないの話はしていなかった。今後についての話をしていたから、すごい怒ってるって感じじゃなさそう。」
絵名「大人でカッコいい人だね。憧れちゃうよ。」
祐司「震災の後の絵名もすごいカッコよかったよ。明るく俺を引っ張ってくれていた。」
絵名「あれは、ゆうくんが大人の女性が好きだから、少しでも近づきたかっただけだよ。本当の私は、まだまだ子どもだよ。」
祐司は真剣な声で言った。
祐司「絵名、聞きたいことがあるんだ。震災の時、何が起きたか教えてくれないか?あの時の記憶が曖昧で思い出せないんだ。」
絵名「…そうだね。ゆうくうんも知らないとだね。」
絵名は小さく頷き、息を整え語り始めた。
(あの日のことを思い出していった)
ドン!ガラガラガラ、ドンドンドン!
いまだかつて体験したことのないような音が地のそこから響いた。長く大きい揺れが古い一軒家を襲った。
バリバリバリ。窓ガラスが飛散する。
祐司「絵名!座るんだ。動かないように、頭を抱えて!」
絵名「う・・・。」
絵名はあまりにも大きな揺れで体勢を崩し、ガラス片の上に転倒した。
絵名は右の腿に複数のガラス片が刺さり、あざやかな赤が床に広がった。
祐司「大丈夫か!?」
祐司は近づこうと、机の下を出た。
父親「祐司、危ない!棚が!!」
天井に大きな亀裂と歪みが入り、支えを失った棚が祐司に向かってた倒れ込もうとしていたが、父は祐司を突き飛ばした。
ドン!
鈍い音と共に父親の上に棚が覆いかぶさった。
祐司「父さん!!」
絵名「ゆうくん、うえ!」
天井の一部が崩落し祐司の頭を打った。祐司はその場で動かなくなった。
絵名「いやぁぁぁぁ!お父さん、ゆうくん」
絵名は、地震が少しゆるくなったことに気づき、2人に駆け寄った。
足から出血し十分に歩けない自分、棚の下敷きになっている父、頭から血を流して気を失っている兄。絶望的な状況だった。
助かる見込みがあったのは兄だけだった。兄の腕を肩にかけて立ち上がった。
猛烈な足の痛みを振り払うように絵名は叫んで、前に進んだ。
父を置き去りにする心の痛みを抱え。
「あああああああー!
ゆうくん、死なないで、死なないでええ。」
必死に祐司を家の外に運び、近くにいた女性に力を借りて、避難所まで向かった。
その時は、足の痛みは感じていなかった。ただ兄に生きてほしい、彼女が感じていたのはそれだけだった。
(浴室での会話)
祐司「そんなことがあったのか…。ごめん、ごめんな絵名、お前にそんなに辛いものを背負わせて。」
記憶が繋がり、祐司の頬を濡らした。
絵名「お礼ならお父さんに言わないとね。」
祐司「そうだね。父さんは今どこに?」
絵名「緑山町の仮安置所に骨壺がおいてあるよ。落ち着いたら、お墓に移そうかなって。」
祐司「ありがとう。本当は長男である俺がやらないといけなかったのに、苦労かけてしまったね。」
絵名「いいよ。緊急事態だったから仕方ないよ。」「気になっていることは、まだある?全部話すよ。」
祐司「大した話じゃないんだけど、みさちゃんはスマホのGPSを掴んでここを見つけたらしいんだ。
絵名は、俺とずっと恋人生活をしたいなら、俺のスマホを破棄したり、みさちゃんとのLINEのデータや写真を全て削除しなかったんだ?なんか行動に矛盾があるなって。」
絵名「美咲さん、そうやってここを掴んだんだ。すごい執念だね。
スマホのことだけど、破棄しようかとか色々思ったよ。でも、ゆうくんのこれまでの思いや努力が全部残っている。ゆうくんを否定するような感じでそこまでは出来なかったよ。
「行動の矛盾なんか振り返るといっぱいだよ。嘘を重ねたり、言う必要のない真実を話したり、上手に隠し通すテクニックなんて、私にはないんだなって何度も痛感した。」
祐司はそっと絵名の頭を再度優しく撫でた。
祐司「教えてくれてありがとう。絵名がスマホを大切にしていた理由は予想通りだった。お前は、本当に最高の妹だよ。」
絵名「いやいや、どう考えても最低の妹でしょ。」
祐司は何も言わず頭を撫で続けた。
トントントン
祐司「絵名、入るぞ」
浴室のドアを開ける。
絵名「私はまだいいよって言ってないよ。」
ふてくされた声がした。
祐司「ダメって言われても入る気だったからな。」
絵名「昔からデリカシーとか無かったからね。」
(祐司は両手で絵名の頭を大きく撫で回した。昔から良くやっていた、泣いているときの仕草だ)
祐司「超ブラコンの絵名は、少し元気になったかな。」ニヤニヤと見つめる。
絵名「なんか、ゆうくんは記憶が戻って性格が悪くなったね。記憶が無い時は、お布団の中であんなに私に優しくしてくれてたのに。」
ニヤニヤと見つめ返す。
祐司「う…お前、一番触れちゃいけないところ…。」
絵名「売られた喧嘩を買っただけですー。」
そこには昔からの家族としての空気が流れていた。
祐司「俺はさ、やっぱり怒れないよ。この半年間の森山祐司の記憶は過酷な環境の中でも、絵名のお陰で幸せだったと言っているから。」
絵名「そっか…そう言ってもらえると嬉しいよ。」
祐司「母さんの旧姓を付けるとか、よく考えたな。」
絵名「とっさに考えられる範囲で、馴染みのある姓を考えたら、それしか思いつかなかった。」
絵名「…美咲さんは私たちになんて言ってた?」
頭を伏せて話す。
祐司「許す、許さないの話はしていなかった。今後についての話をしていたから、すごい怒ってるって感じじゃなさそう。」
絵名「大人でカッコいい人だね。憧れちゃうよ。」
祐司「震災の後の絵名もすごいカッコよかったよ。明るく俺を引っ張ってくれていた。」
絵名「あれは、ゆうくんが大人の女性が好きだから、少しでも近づきたかっただけだよ。本当の私は、まだまだ子どもだよ。」
祐司は真剣な声で言った。
祐司「絵名、聞きたいことがあるんだ。震災の時、何が起きたか教えてくれないか?あの時の記憶が曖昧で思い出せないんだ。」
絵名「…そうだね。ゆうくうんも知らないとだね。」
絵名は小さく頷き、息を整え語り始めた。
(あの日のことを思い出していった)
ドン!ガラガラガラ、ドンドンドン!
いまだかつて体験したことのないような音が地のそこから響いた。長く大きい揺れが古い一軒家を襲った。
バリバリバリ。窓ガラスが飛散する。
祐司「絵名!座るんだ。動かないように、頭を抱えて!」
絵名「う・・・。」
絵名はあまりにも大きな揺れで体勢を崩し、ガラス片の上に転倒した。
絵名は右の腿に複数のガラス片が刺さり、あざやかな赤が床に広がった。
祐司「大丈夫か!?」
祐司は近づこうと、机の下を出た。
父親「祐司、危ない!棚が!!」
天井に大きな亀裂と歪みが入り、支えを失った棚が祐司に向かってた倒れ込もうとしていたが、父は祐司を突き飛ばした。
ドン!
鈍い音と共に父親の上に棚が覆いかぶさった。
祐司「父さん!!」
絵名「ゆうくん、うえ!」
天井の一部が崩落し祐司の頭を打った。祐司はその場で動かなくなった。
絵名「いやぁぁぁぁ!お父さん、ゆうくん」
絵名は、地震が少しゆるくなったことに気づき、2人に駆け寄った。
足から出血し十分に歩けない自分、棚の下敷きになっている父、頭から血を流して気を失っている兄。絶望的な状況だった。
助かる見込みがあったのは兄だけだった。兄の腕を肩にかけて立ち上がった。
猛烈な足の痛みを振り払うように絵名は叫んで、前に進んだ。
父を置き去りにする心の痛みを抱え。
「あああああああー!
ゆうくん、死なないで、死なないでええ。」
必死に祐司を家の外に運び、近くにいた女性に力を借りて、避難所まで向かった。
その時は、足の痛みは感じていなかった。ただ兄に生きてほしい、彼女が感じていたのはそれだけだった。
(浴室での会話)
祐司「そんなことがあったのか…。ごめん、ごめんな絵名、お前にそんなに辛いものを背負わせて。」
記憶が繋がり、祐司の頬を濡らした。
絵名「お礼ならお父さんに言わないとね。」
祐司「そうだね。父さんは今どこに?」
絵名「緑山町の仮安置所に骨壺がおいてあるよ。落ち着いたら、お墓に移そうかなって。」
祐司「ありがとう。本当は長男である俺がやらないといけなかったのに、苦労かけてしまったね。」
絵名「いいよ。緊急事態だったから仕方ないよ。」「気になっていることは、まだある?全部話すよ。」
祐司「大した話じゃないんだけど、みさちゃんはスマホのGPSを掴んでここを見つけたらしいんだ。
絵名は、俺とずっと恋人生活をしたいなら、俺のスマホを破棄したり、みさちゃんとのLINEのデータや写真を全て削除しなかったんだ?なんか行動に矛盾があるなって。」
絵名「美咲さん、そうやってここを掴んだんだ。すごい執念だね。
スマホのことだけど、破棄しようかとか色々思ったよ。でも、ゆうくんのこれまでの思いや努力が全部残っている。ゆうくんを否定するような感じでそこまでは出来なかったよ。
「行動の矛盾なんか振り返るといっぱいだよ。嘘を重ねたり、言う必要のない真実を話したり、上手に隠し通すテクニックなんて、私にはないんだなって何度も痛感した。」
祐司はそっと絵名の頭を再度優しく撫でた。
祐司「教えてくれてありがとう。絵名がスマホを大切にしていた理由は予想通りだった。お前は、本当に最高の妹だよ。」
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祐司は何も言わず頭を撫で続けた。
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