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~第1章~ 出逢いからの初仕事
第8話 日本食のルーツは、素敵な何かではなかった。
しおりを挟む「だから、神の領域に入るためよ。さっきも説明したでしょ。まぁ、もう飲んだから入ってるんだけど」
彦一の理解してない顔に、また同じことを言わせるの?的な若干苛立った態度で答えるアヤメ。
「ここが神の領域?一瞬ふらついた以外何も体に変化ないし、だいたい神の領域にしちゃあ、クスリ飲む前と比べても一つも周りの景色もなんも変わってませんが」
「あなたにはそう見えるかもしれないけどもう実際入ってるのよ。ここはもう現実とは似て非なるものなのよ。現実と非現実とは紙一重なのよ」
意外と普段と変わらないのね、神の領域。
もっとこう、世界全体がやわらかな光に包まれてる的な?大地は色鮮やかな草花に覆われてる的な?優しいハーブの音色が流れてる的な?もしくは全てぐにゃぐにゃ歪んでて上なのか下なのか、今立っている位置もよくわからない、今までの常識が通じなさそうな世界に飛ぶ的な?そんなイメージでいたんだけど神の領域って。
「なら、そこは譲るとしてもオレが先に飲んでたんだから先にオレが神の領域に入ってんじゃん?」
「まぁ、そうね」
「だったら、まだ飲んでなかったアヤメがなんでオレの事見えたり、オレを触れられたりしたん?矛盾が生じない?」
「やきとりくん、あなた意外とそんなちまちました細かいとこ気にするタイプなのね。モテないわよ。それに、あなたまだ解ってないのね」
ぐ。モテないとは聞き捨てならないが、まぁ、正解だ。ここは、ちょっと我慢して下手にでてみるか。
「申し訳ございません、不肖な下僕こと私めになにとぞ、なにとぞもう一度ご教授を!」
「さっきも言ったでしょ」
「もう一度教えてください!」
「私が神だからよ」
「そうでした!……って、ええっ!」
「以上」
そんな一言で説明づくと思ってるかこの女。まさに神がかり!それ以上、説明もしてくれなさそうだ。
「…あ、ありがとうございました」
「解ればいいのよ。じゃあ、さっさと山頂に行きましょ。神退治しに」
「う、うっす」
しかし神退治はいいけど、神いるんだろか。ここまで来てなんだけど、すんごい妄想に付き合わされてるだけとかっていうオチ?もし、そうであれば、神退治とか言って、祠みないなとこ着いて、清めの塩とか撒いて、なんか念仏的なこと唱えて、新しい水に取り替えてなんか適当な札を貼って終わり的な儀式的なことやって終わりだったりする?
だったら、楽そうなんだけど。しかし、このアヤメ『様』がそんなことするようには思えない。
絶対、破壊して無に帰す性格だよな。1か0か、明暗はっきりさせるタイプそうだなもんなぁ。なんかあったら片っ端から破壊しないと気がすまないというか。自分の気に入らないものは、全て握りつぶして、踏みにじるタイプだよな。
完全な絶対君主だな。恐ろしい。蹂躙されそう。跪かされた上に体の自由を奪うために縛り上げられそう…そ、そんなことされた日にゃあ……
「やたら嬉しそうな顔してるわね、やきとりくん。むしろ恍惚とした表情をしてたと言っても過言ではないわ。キモい」
「しておりません!決してそんな表情しておりません!」
ご主人様に尊敬語を忘れないオレ。
「マンガかアニメ化されたら、そういう表情になってるはずよ」
「え?うそ?マジ?メディア化された時、そんな表情嫌だー!」
「大丈夫よ、されないから」
「う。確かに」
こんな感じで結局全く理解ゼロのまま、何をやっていいかさっぱり解らない神退治とやらをしに改めて、山頂目指し続けてひたすら上り坂を歩く。田舎ぐらしでも山登りはきつい。つか、学生兼準引きこもりだしねオレ。
アヤメが言うには、神との遭遇には丑三つ時から明け方前がいいらしい。その時間帯が最も遭遇しやすい時間とのこと。釣りなら入れ食いだね。大漁大漁。
そんな訳で神の領域に入る為に深夜に起き、怪しいクスリを処方し、変なテンションの中、名も知らない山の山道を通り、アヤメがいう今回の目的の神の祠があるというその山の頂きをこのように目指してる訳だが。
彦一達が歩く山道は、ほぼ獣道。神はいなくても、幽霊や妖怪の類なら出てもおかしくない雰囲気だ。
「そーいやさぁー」
「なに?」
彦一の方に振り向きもせず、黙々と登りながら、答えるアヤメ。
「神退治ってなんの神を退治しに行くん?バチ当たらない?」
「神が神を倒してバチなんて当たるわけないでしょ?」
「な、なるほどー。たしかにそーすっよねー」
「人が人を成敗しても、バチなんて当たらないでしょ?だったら神が神を成敗してもバチなんて当たる訳がないわ。むしろ私がこれからバチを与えにいくのよ。フフッ。楽しみだわ。」
わ、悪い顔をしていらっしゃる…。その笑みが恐ろしい。この女はどっからそんな自信が湧き出てくるんだ。本当に神なのかと錯覚さえ覚える。
「それよりさっきの回答だったわね。ねぇ、やきとりくん、ウカノミタマとか、ウケモチって知ってる?もしくはオオゲツヒメとか?」
「何それ?ゲームのキャラかなんか?」
「ボキャブラリーもないのね」
確かにないかも。つか『も』って!まるで他にも色々足りないみたいじゃないか!
「アヤメ様だって似たような年齢なんだからあんまし変わんねーだろーが!」
と、負け惜しみを言ってみるオレ。
「年齢が近かろうが、貴方よりは教養あるわ」
超高速で鋭利な返答が返ってきた。
「…きょ、教養はあるかも知れないが、確実に一般常識はないぞ!確実に!」
「私が発した言葉が常識なのよ。全ての中心は私なのよ」
「この世界の神はこんなに傲慢だったのか!」
「全てはジャイアニズムに通じるのよ」
「普段は自分本意で傲慢極まりないのに映画の時はやたらと仲間思いな歌下手ガキ大将が神に参考にされていた!」
「で、やきとりくん。お稲荷さんなら知ってるわよね?」
「酢飯を甘く煮付けたお揚げで包んだ寿司の?」
「神社で祀られてる狐の偶像の方よ」
「それなら知ってる」
「元々その狐は、保食神の使いだったんだけど、いつのまにやら狐が崇められる対象にすり替わっちゃったわ。いまじゃ、狐が神として扱われてると言っても過言じゃないわ」
「主人公よりサブキャラの方が人気出ちゃった的な?」
「ま、そんなとこね」
「なんか他人事とは思えないよーな…」
「貴方は主人公なんだから、シッカリしなさい」
「そうだよね!そうだよね!オレ主人公だもんね!そしてアヤメがヒロインだよね?」
「いいえ。違うわ」
「違うのかよ!」
「私は、主人公のご主人様よ。いい加減覚えなさい!」
「初めて知らされたキャラ設定の真実をあたかも当たり前の様に怒られた!薄々感じてはいたけれども!」
「気づいていたなら素直にその気持ちに従いなさい。変なプライドは邪魔だから捨てなさい。それが大人に成るってことよ」
「そうだったのか!」
「変なプライドは人を過ちに貶めるわ」
「こんな生てることもおこがましい卑しい下等微生物如きに、目からウロコ級の有難いお言葉を掛けて頂き、感無量です!さすがは、ご主人様!」
「これからは私に従順に従い、己れの立場をわきまえ、慎ましく生きなさい。さすれば道は開かんことを」
「ああ!こんなご主人様に仕えることができて私はなんて幸せなんだろう!有難うございます!感謝の気持ちでイッパイです!」
「残念ながら、感謝の気持ちだけでは神である私にはその忠誠心は伝わりきれないのよ」
「なんと!ではどのようにすれば神である貴方にこの想いが伝わるのですか!」
「仕方がないわね。従順たる下僕であるやきとりくんだけに、特別に教えてあげるわ」
「ぜひ!」
「普段は、それこそ辛い修行の末、悟りを開いたものだけが、私のもと、真の幸せを掴むのだけど、やきとりくんだけには早く悟って、少しでも早く私に近づいて欲しいから教えてあげるのよ」
「ありがとうございます!なにをすればよろしいのでしょうか!」
「この壺に毎日朝晩、「アヤメ様は最高です」と拝むのよ」
そう説明しつつ、アヤメはどっからか古ぼけた壺をオレの目の前にだした。
「この壺は由緒正しき、それこそ神の創世記からある壺なのよ。この壺に毎日拝むこと三週間で驚きの効果よ」
「ぜひ譲って下さい!」
「では壺代として1000万円のお布施を」
「高っ!」
「三週間で一生分の幸せが手に入るとすれば?」
「安い!買います!買わせてください!」
こうしてオレは幸せになるという壺を手に入れた。大満足だ。
勿論、お金はない。
「じゃあ、その薄汚い体で払って貰うしかないわね」
こうしてめでたく、オレはアヤメの奴隷となった。
双方同意、後腐れも何もない。フェアな取引だった。
これでオレは三週間、壺に拝めば幸せが手に入る!完璧なライフプランだ!
待ってろオレの明るい未来!
「ってどんだけオレ前向きなんだよ!しかもどんだけ騙され上手だよ!」
「そこが貴方の素敵なとこよ。」
「そ、そう?」
素敵って、素敵な響きだよなぁ。言われたの初めてかも。なんか言われると気恥ずかしいが決して悪い気はしない。
「素敵なところはもっと伸ばすものよ。それがやがて才能になるのよ」
「なるほど!オレもっと素敵ポイント伸ばしたい!」
「そこでそんなあなたにこの高級羽毛布団――」
「どんだけ悪徳業者だよ!しかもセレクトアイテム古っ!今時、ご老体な方々も騙せないわ!」
「あなたは騙せたわ」
「うっ。そうでした」
「やきとりくんが私の奴隷になったところで、本題に戻すわよ」
その奴隷契約は有効なのかよ。
「今回の相手はそのお稲荷が相手よ」
「つか、そもそもそのお稲荷な狐に主役を奪われたウケモチ?の神様ってなんの神様なん?オレ、信心全くないんでさっぱり」
「簡単に言えば、食べ物の神様よ。古事記や日本書紀に載ってるわ。ウケモチノカミのお話は、なかなかぶっ飛んだお話しよ」
「なになに?どんなお話?」
「ウケモチは、料理を振る舞うのが、とても好きで色んな料理をみんなにご馳走するんだけど」
「いい神様じゃん!」
「その料理の素材の取得方法が斬新すぎてね」
「ま、神様だからなんでもアリだろうけど。斬新?無限の収納チートスキルが付いている脱着可能な白いポケット的なものから出す的な?」
「ま、近いわね。自分の目から鼻から、口から肛門から陰部からと穴という穴からいろんな食べ物をだして周りの神々をもてなしたらしいわ。しかも新鮮。取れたて野菜からピチピチ鮮魚まで色んな穴から出ちゃうわ」
「排出物を料理として美味しく食べるって!どんなスカトロプレイだよ!」
「それでね、最終的にはツキヨミに料理を振る舞おうとした時に素材を出してるところを見られちゃって、その厳選素材取得方法にツキヨミが激怒し、ウケモチは斬殺されたのよ」
「そりゃ、そんなスカトロ料理出されたら怒るわ!つか、ひくね。完全にひく。オレだったら、その場から速攻で離れるわ!電光石火のごとく全速力で!」
「でも、悪気はなかったのよ。そうやって調理素材を入手するのが本人にとっては当たり前だったし、持て成して喜んでもらいたくてやったことなのよ?」
「…そういわれるといたたまれないけども。でもやっぱオレは無理だね。無理でしょ。」
「私が同じ方法で食べ物を出したら?」
「美味しく頂きます!」
「このド腐れ鬼畜が」
「ありがとうございます!」
誉め言葉をご主人様から頂いて、素直に喜ぶオレだった。
「その後の話には続きがあってね、その殺されたウケモチの死体から馬やら牛やら、豆やら穀物が湧いて出てきて、その苗を元に日本の稲作や酪農が始まったのよ。なかなか素敵なルーツでしょ」
「神様の死肉から湧き出た怪しい食べ物の種が日本の食文化のルーツの始まりだったんだね!ありがとう神様!って食欲わかねー!ホント頭ぶっとんでなぁーそのお話」
「ま、この話は数ある話の一説なんだけど、そういうのが元で食べ物の神様として崇められてる訳よ」
「そしてその食べ物の神であるお稲荷さんが今回のオレ達の相手ってわけか」
「そうよ。お稲荷はお稲荷でも悪くなったお稲荷よ」
「そりゃ、また腹壊しそう!」
「人が死んじゃう程にね」
「ブラックだなー」
意外な日本の食材ルーツと今回の仕事とやらの目的を知った彦一だった。
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