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小さなバス停

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 放課後。
 校舎から出てすぐ、まだ屋根があるにも関わらず顔がぬれる。外はザッバザッバと降る雨。前を歩く人もよく見えない。


 ポンという音と共に傘が開く。それを合図に、僕は降りしきる雨の中へ踏み出した。飛ばされないようしっかりと傘を握り、鞄を抱きかかえながら。


 僕は少し離れた所にあるバス停に向かう。


 空模様とは反対に、僕の足取りは軽い。こんな天気なのに、心は今にもスキップしそうな理由は…





 僕の作戦はこうだ。
 バス停の中で、バスを待つ間…


 むふふむふふふ…むふふのふっふ!





ーーーー


 剥がれていない面積の方が明らかに小さい、もはや何の宣伝かわからないポスター。
 飲料会社の日に焼けた原色ベンチが一つ。
 出入りする扉以外は薄暗いコンクリートで囲まれた三畳ほどのスペースで、僕はバスを待つ。


 すりガラスの扉越しに、白い半袖シャツが見えた。
 その後ろ姿は、傘に付いた雫を丁寧に落としているのだろう。僕はその知った背中を見つめる。


 ガラガラという音と共に、その人物が入ってきた。そして僕を見て開口一番。


「あ、旬くん!」


 僕の名前が呼ばれた嬉しさになんだか照れくさくなって…わかっていたのに気づいてないフリで、僕は返事をする。


「誰かなって思ったんだけど岬くんだったんだね!!」


 外は薄暗いのに相変わらず岬くんの笑顔はまぶしい。


「それにしてもすごい雨だねー」


 四角にキッチリと畳まれたタオルで、軽く髪を拭いながら言う岬くん。シャツはそんなに濡れてなさそうだけど、足元はさすがにビショビショだ。


「だね~。僕、パンツまでビショビショだよ~」

「え!?旬くん、傘差さなかったの?」

「差してたけど、バスの時間ギリだったからダッシュしたんだよ~。逃したら、一時間後だし」

「あ、そういうことか」

「結局乗れなかったので、今に至ります!!」

「ありゃりゃ…」


 岬くんの優しい笑顔とヘニョンって下がった眉毛が可愛い。





 僕たちはベンチに座ってバスを待つことにした。


 雨はまだまだ止まないらしい。周りの音をかきけすように、激しくコンクリート屋根に雨粒を打ち付けている。


 岬くんを真似して広げた教科書のしっとりした触り心地に、集中力が切れた頃。


「ヘ…ヘプチョンッ!!」

「旬くん、大丈夫?」


 膝に置いた教科書から顔を上げ、岬くんは僕の顔を覗き込む。

 僕の変なクシャミを突っ込むよりも先に、僕を心配してくれるなんてっ。さっすが、岬くん!!


「ちょっと、寒い…かも」


 鼻をすすりながら答える僕に、心配顔の岬くんは急いで鞄から体操服を出してくれた。


「ちょっと大きいかもしれないけど、旬くん、僕の体操服…ックシュ!!」


 取り出して標本にしたいくらいの、岬くんの丁寧なくしゃみ。くしゃみなのに。って聞き惚れてる場合じゃない!


「岬くん、大丈夫!?」


 よく見ると、岬くんの背中はビショビショだ。きっと荷物をかばいながら歩いてたんだ。


「ふふふ。僕も、ちょっと…寒い、かも」

「岬くんこそ着替えて!僕、自分の体操服持ってるから!!」


 岬くんが風邪引いちゃやだよ…!

 
 僕は差し出された手を体操服ごと押し返した。


「そうだね。バスが来る前に着替えちゃおうか」


 旬くんにはこっちだね、と僕にポケットティッシュを差し出しながら、にっこりほわわんと、岬くんが笑った。





 着替えるってことは…ことは……


 僕は、チラチラと、岬くんを見る。


 一つ一つ、細長い指で丁寧にシャツのボタンを外していく岬くん。


 僕はそこから目が離せない。
 だって!…あれがっ……!!


 雨に濡れて透けててくれないかなぁ…


 なーんて期待は、見事に外れましたぁぁ!
 白いTシャツさんこんにちは☆

 …

 残念。





 ボタンを全部を外した岬君は、シャツから片方ずつ腕を抜く。

 その仕草が男の人っぽくて。普段見えない二の腕が思ったよりも逞しくて。(透けてるのが見えなかった残念感を帳消しにはしなかったけど)
 僕の中の岬くんかっこいい度が爆上がりした。

 丁寧で大人っぽいのも、男の人っぽいのも…岬くん、好きだぁぁぁっ!


 思わずキャーっ!!と言いそうになるのは、ぐっと我慢。


「旬くん、着替えないの?」

「あ、ハイっ、じゃない…うんっ!着替える~」


 ついつい見惚れちゃったよ~。


 僕は素早くシャツを脱いだ。
それをぐるぐるっと丸めてると、目の端に映る、三角形の白いもの。


「良かったらこれ。使って?」


 丁寧に畳まれた三角のビニル袋だ。自分が体操服を着るよりも先に、僕にそれを差し出してくれていた。
 岬くんの顔にはにっこりほんわか笑顔。


 きっちりしてて気が利いて丁寧で男らしくてかっこよくて可愛くて優しい岬くん!


 すっきだぁぁあああぁ…!





 もうもうもうっ!みっさっきっくっんっ!!


「岬くんっっっ!」


 僕は思わず、岬くんのTシャツの胸に飛び込んだ。
 

「うわぁっ!」


 頭上とTシャツにくっつけた頬から、岬くんの驚く声が聞こえる。


岬くん…


 薄いTシャツからは、ぬくもりがすぐに伝わってくる。僕はたまらず両腕でぎゅっとした。


「旬くんったら…」


 しょうがないなぁと言いながら、岬くんは、僕の頭をぽんぽんっとしてくれた。


 もう~もう~っっ!だいすきっ!!





 僕の右頬に、ほんの少しの感触。雨に濡れてTシャツから透けててくれないかなって期待したあれ。
あれが、僕の頬に…

 ぷくっとしてて、Tシャツをほんの少しだけ持ち上げている…2つのあれ。


 シャツを脱いで少し冷えたのか、さっき見たときよりもほんのり固くなって頬に当たる。

 僕は、その突起を鼻でツンツンとした。


「っ…」


 短い声が、岬くんの口から漏れる。

 その小さな粒に、今度はゆっくり舌を近づけた。まずは、そっと舌先で。


 何か付けたのかな?って聞きたくなるくらい甘い。まるでキャンディーみたいに、甘さがじわっと舌先から広がる。

 僕は夢中で吸い付いた。


「ぁ…」


 短い声が、岬くんの口から漏れる。
 その声は、舌から僕の全身、足先までビビーっと伝わった。


 岬くん…


 僕は夢中で粒をころころする。

 もっと聞きたくて。もっと身体中に欲しくて。





 僕は左手を、そっと岬くんの下半身にのばした。


「んっ」


 舌のリズムに合わせて、指を動かす。少し熱くなってるそれは、僕の手の中でどんどん大きくなる。


「ん、んっ、んぁっ」


 手の中のものと一緒に、岬くんの声も大きくなる。


「岬くん…」


 僕の吸い付いた形に、岬くんの乳首が透けている。張り付いたTシャツからピンと立ち上がったそれは、僕を魅了して離さない。

 僕はもういてもたってもいられないって感じで、大好きなそこにまたちゅっと吸い付いた。唇を細くして、強く吸う。

 どんどん大きくなる岬くんの声が、僕の舌先を通して全身に…そして、僕の、お腹の下のほうに、ぐわっと集まってきた。


 僕が岬くんを気持ちよくしてるはずなんだけど…なんでかな、僕も…


 僕は我慢できず、ベルトを緩めた自分のズボンの中へ右手を突っ込んだ。

 身体の筋がピキーンとなりそうなくらい無理な体勢だ。だけどそんなこと全然気にしていられない。


「んっ、あ、あんっ…」


 岬くんが声を上げるたびに、僕も右手の中がどくんどくんって熱くなる。


んっ、んっ…岬くん…


 唾を口いっぱいに貯めて、吸い付きながら舌で転がす。
 すくい上げるように動かす左手は、さっきよりもヌルヌル動く。


「ん、あっ、あっ」

「ん…」

「っ、も、もう、しゅ、旬く…」


岬くん…僕も…


 岬くんが僕の左手にぐっと押し付けると同時に、両手にじんわり温かいものが広がった。





 きっちりしてて気が利いて丁寧で男らしくてかっこよくて可愛くて優しくて素敵な声の岬くん!


 すきだぁぁああぁぁっ!!





ーー以下現実ーー

 僕は、目の高さまである画面をタッチした。この天気でどうやらバスは5分遅れるらしい。今どこを走っているのかも、リアルタイムでわかる。

 四隅をキッチリと留められたポスター。座面しかない小さなベンチ。カギカッコみたいな屋根。

 大きなタッチパネルがスイスイと動く最新式のバス停を前に、僕の妄想はあっという間に散っていく。


 これもそれも、全部おにいのせいだ!!


 たまたま見た雑誌に載っていた、田舎町のバス停。雪に埋もれないよう、小さな小屋が建てられている。目の前には山や川が広がり、近くには温泉で有名な村があるらしい。

 旅行に行くおにいが、たまたま家に旅行雑誌を置いていたのを、たまたま僕が見てしまったのだ。


 こんな所に雑誌を置いとくなんて!!

 んもう!!


 …

 むむむむむ。



 こんなふうに、岬くんのそばで一緒にいられる場所があったらなぁ…なぁ……なぁ………
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