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朽ち行く花の後悔
二人の少女
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「どうしてこうなっちゃったんだろう」
桜家は自室で一人マスコットのキーホルダーを握りしめていた。
それは雨車と一緒に買った思い出の物である。その一方で桜家にとってはもう一つ別の意味を持つものだった。
そもそもこのはぐモを桜家に教えてくれたのが沢谷だったのだ。
昔は勧められるがままに買っていたが、今ではかなりのゲテモノだったと理解している。
しかし、沢谷はそんなはぐモが好きだったらしい。
ガチャガチャで手に入るはぐモはごくまれに当たりと呼ばれる物があった。
一定確率で封入されたそれは、はぐモの成長した姿。蝶へと変化することで手に入れた美しい四肢は、もはやはぐモとは別物といえるほどのものだった。
きっと沢谷はそんなはぐモに自分を重ねていたのだと思う。今はどんなに苦しくても、貧しくてつらい生活でも、いつかは自分も蝶のように美しく舞える日が来ると。
桜家は自分の唇を噛みしめると頭から布団を被る。こうすると布団が自分を外の世界から切り離してくれる皮膜のように思えた。
それは桜家にとって現実と自分を切り離す一種の儀式のようなものだったかもしれない。
「ごめんなさい……雫ちゃん、沢谷さん」
自然と謝罪の言葉が震える口から漏れ出した。同時に涙が頬を伝う。
どうして私はあの日雫ちゃんについて行ってしまったのだろう……
ちゃんと考えれば何かあるはずだとわかったはずなのに……
私が行かなければ雫ちゃんは傷つかずに済んだのに……
そもそもあの日、五年生のあの日に私が……
自分と向き合えば向き合うほどにあふれてくる後悔の念。体がぬかるみにはまったように重かった。いっそこのまま沈んでしまいたい。
目を開け、被っていた布団から抜け出す。もう外は真っ暗だった。最近まともに眠れていないせいで、いつの間にか眠ってしまったのだろう。
まだ頭が重いのを極力無視して桜家は下の階のキッチンへと降りていった。
キッチンとリビングはつながっているためキッチンに入るにはまずリビングを通らなくてはならない。
桜家が扉を開くと真っ暗で冷たい空間が広がっていた。
桜家はいつも通り扉の横のスイッチを押し明かりをともした。照らされた広いリビングはきれいに整頓されてまるでショールームのようだ。
だが、それは生活感がないということでもあった。この部屋には思い出がない。
子供の時に何かを落としてできた床のへこみも、落書きも、昨日家族がくつろいでいた痕跡さえそこにはなかった。
リビングの机に目を落とすと紙幣とノートの切れ端が置かれていた。
『今日もこれで好きに食べて』
桜家はいつも通りお金を服のポケットにしまうと、キッチンに入って冷蔵庫を開いた。
仕事で忙しい両親は家にいる時間が少ない。それ故にどちらとも家事は自分の分をやるのが精いっぱいだ。
だからこそ、桜家の家では自由に使っていい食材を保管するスペースが決まっており、桜家はその食材で自分の分の食事を作っていた。
冷蔵庫からいくつか野菜を取り出し、水で軽く洗うと包丁で刻んでいく。
包丁の使い方は独学だ。親と一緒に料理をした記憶はほとんどないし、自分で料理ができるようになったと気づいた両親はこれで料理を教える必要はないと安心していた。
『本当に手のかからない子で助かるわ』
それは母親の口癖だった。両親は、良くも悪くもしっかりしていた桜家をよくほめて信頼してくれていた。
そして信頼されていたからこそ、両親は桜家をほとんど束縛しなかった。習い事を勧めたり、ちゃんと勉強しているのかの確認もなかった。
両親は、何か困ったときに支えてあげるだけで桜家には十分だと考えていたのかもしれない。
実際に桜家が言われなくても勉強していたことが両親のこの考えに拍車をかけていたのだろう。
桜家は出来上がった野菜スープの味を確認すると食器に盛り付けリビングへと運ぶ。
広い部屋でいただきますという小さな言葉がはっきり聞こえた。スプーンと食器の当たる音がはっきりと聞こえるのも、この部屋があまりにも静かすぎるからだろう。
桜家が結局この日リビングで言った言葉はいただきますとごちそうさまの二言だけだった。
携帯のアラームで目を覚ます。もう月曜日。また憂鬱な日常が始まる。
桜家は鉛のような体に鞭打って下の階へと足を速めた。
リビングは昨日見た通りのままだった。桜家は両親が忙しいと数日前に愚痴っていたのを思い出し、今日も泊まり込みだと察しを付ける。
はっきり言って親が泊まり込みだろうが特に桜家には影響はなかった。いつも通り自分のことは自分でするだけである。
昨日のスープの残りを喉に流し込むと、桜家は家を後にした。
そのまま誰ともしゃべらず学校にたどり着く。そして重い足取りで校門をくぐると、まずは靴箱の中を確認した。案の定上履きの中に画鋲が入っていた。
画鋲だけならまだいい方だ。上履き自体がなくなっていたら探さなくてはいけないし、ゴミ箱に入っていたら場合によっては洗わなくてはいけない。
桜家は呼吸を整えるとクラスの扉を開けた。クラスメイトは各々友達と話しており、桜家に注意を向ける人は誰一人としていなかった。
違う。正確には一人だけいた。雨車と目が合った桜家は慌てて目をそらした。その一瞬の間に悲しそうな眼をする雨車の顔が映りこむ。
雫ちゃんをこれ以上巻き込めない。
桜家は心の中で雨車に謝罪すると自分の席に向かう。心の中で何かがミシミシと音を立てている気がした。
それからお昼までは静かに過ぎていった。当たり前だ。誰も話しかけてくれる人がいないのだから。ぼんやりとした頭で授業を受けていればあっという間に時間は過ぎていく。
桜家は昨日親からもらった紙幣を持つと購買へと向かった。
廊下に出ると自分と同じように昼食を買おうとする人たちが目に入った。みんなキラキラしていて何を買うか楽しそうに話し合っている。
桜家は黙ったまま、その生徒とは反対向きに歩いて行った。
桜家の教室は四階にあり購買は二階である。そのため購買に行くには階段を下りる必要があるが、その階段は東階段、中央階段、西階段と三種類あった。
桜家が使った西階段は遠回りになるが、その分人はほとんどいない。桜家にとって心休まる場所だった。
今この時までは――
「ちょっと聞きたいことあるんだけど」
全身に震えが走った。その声の主が誰なのか一瞬で分かった。
「沢谷さん……どうして……」
膝がわなわなと震える。沢谷がさっき友達と購買へ向かったのを見た。なのになぜここにいるのだろうか?
「何驚いてんの? 少しくらい考えろよ、中央階段で三階まで下りて、そこから西階段に向かっただけだろ」
それは購買に行くふりをして桜家を待ち伏せたという発言と同意だった。つまり、沢谷には桜家と直接話す要件があるということ。
しかし、選ばれた場所が、この時間は人がめったに通らない西階段ということが、穏便に済ますつもりはないことを残酷なまでに示していた。
「あんたさぁ、雨車に何を吹き込んだの?」
桜家は何を言われたのかわからず混乱した。
どうしてここで雨車が出てくるのだろうか?
彼女には関わらないように告げたし、自分もこれ以上巻き込まないように関わらないでいたはずだ。
なのにどうして……?
「あいつさぁ、私が小五時のこと探っているらしいんだよね。昔の友達に手あたり次第連絡してたみたいで、その一人が教えてくれたよ」
恐ろしく低い声だった。悪意がにじみ出たような、体を芯から冷たくするような声に桜家は身震いする。
「ごめんなさい……私には何のことだか……」
次の瞬間、沢谷は桜家の胸ぐらをつかみ上げた。
「ふざけんなよ! お前以外に誰がやるっていうんだよ!」
桜家は罵声を受け止めることしかできなかった。一切口答えをせずにただ沢谷を見続ける。
それが気に入らなかったらしく、沢谷は顔をゆがめて桜家を床に押し倒した。
背中に鈍い衝撃が走る。頭も打ったらしく奥の方がずきずきと痛んだ。
「私をそんな顔でみるな! 憐れむような顔で見るな! 私より下の人間が、お前みたいなクズが私に同情なんて向けるな! 気持ち悪いんだよ!」
涙で歪む視界には憎悪に歪む沢谷の姿が映っていた。
沢谷の荒い息が頬にかかる。視界の端で、彼女の手が静かに自分の首に迫っていることに気づいた。
自分でも驚くくらい時間が過ぎるのが遅く感じられた。脳裏に死という言葉が浮かぶ。だが、同時にそれも悪くないと思った。
桜家はすべてを受け入れるように四肢の力を抜くと目をつぶった。
自分の体の上を動く沢谷の手がはっきりと認識できた。やがてその手は首に到達し、徐々に力が込められていく。
思い浮かんだのはやはり、どうしてこうなったのだろうという言葉。
失敗するのがいつも怖かった。だからちゃんと考えて行動しようといつもそう気を付けていた。
なのに結果はこのざまだ。もう何をどうすればよかったのかさえ全く分からない。
頭が白くなっていく。だんだんとぼんやりしてきて苦しさも感じられなくなっていく。やっと終われる。そう思った時だった。
「っハァっハァ!」
急にのどの締め付けがなくなり、体が反射的に酸素を求めて動き出した。空気が肺に入るたびにむせ返り、顔は涙でぐちゃぐちゃになっていく。
「ふざけるなよ……もしあの時、お前が……」
沢谷は静かにそういうと走ってその場を去っていった。
そして何が起こったかわからないままの桜家が一人取り残される。
この時の桜家の記憶は断片的なものだった。だからもしかしたら見間違いか桜家が自分に見せた幻覚だったのかもしれない。
その真意はもはや誰にもわからない。
しかし、手を緩められた瞬間目に入った沢谷の顔は、どこか悲しそうに見えた気がした。
桜家は自室で一人マスコットのキーホルダーを握りしめていた。
それは雨車と一緒に買った思い出の物である。その一方で桜家にとってはもう一つ別の意味を持つものだった。
そもそもこのはぐモを桜家に教えてくれたのが沢谷だったのだ。
昔は勧められるがままに買っていたが、今ではかなりのゲテモノだったと理解している。
しかし、沢谷はそんなはぐモが好きだったらしい。
ガチャガチャで手に入るはぐモはごくまれに当たりと呼ばれる物があった。
一定確率で封入されたそれは、はぐモの成長した姿。蝶へと変化することで手に入れた美しい四肢は、もはやはぐモとは別物といえるほどのものだった。
きっと沢谷はそんなはぐモに自分を重ねていたのだと思う。今はどんなに苦しくても、貧しくてつらい生活でも、いつかは自分も蝶のように美しく舞える日が来ると。
桜家は自分の唇を噛みしめると頭から布団を被る。こうすると布団が自分を外の世界から切り離してくれる皮膜のように思えた。
それは桜家にとって現実と自分を切り離す一種の儀式のようなものだったかもしれない。
「ごめんなさい……雫ちゃん、沢谷さん」
自然と謝罪の言葉が震える口から漏れ出した。同時に涙が頬を伝う。
どうして私はあの日雫ちゃんについて行ってしまったのだろう……
ちゃんと考えれば何かあるはずだとわかったはずなのに……
私が行かなければ雫ちゃんは傷つかずに済んだのに……
そもそもあの日、五年生のあの日に私が……
自分と向き合えば向き合うほどにあふれてくる後悔の念。体がぬかるみにはまったように重かった。いっそこのまま沈んでしまいたい。
目を開け、被っていた布団から抜け出す。もう外は真っ暗だった。最近まともに眠れていないせいで、いつの間にか眠ってしまったのだろう。
まだ頭が重いのを極力無視して桜家は下の階のキッチンへと降りていった。
キッチンとリビングはつながっているためキッチンに入るにはまずリビングを通らなくてはならない。
桜家が扉を開くと真っ暗で冷たい空間が広がっていた。
桜家はいつも通り扉の横のスイッチを押し明かりをともした。照らされた広いリビングはきれいに整頓されてまるでショールームのようだ。
だが、それは生活感がないということでもあった。この部屋には思い出がない。
子供の時に何かを落としてできた床のへこみも、落書きも、昨日家族がくつろいでいた痕跡さえそこにはなかった。
リビングの机に目を落とすと紙幣とノートの切れ端が置かれていた。
『今日もこれで好きに食べて』
桜家はいつも通りお金を服のポケットにしまうと、キッチンに入って冷蔵庫を開いた。
仕事で忙しい両親は家にいる時間が少ない。それ故にどちらとも家事は自分の分をやるのが精いっぱいだ。
だからこそ、桜家の家では自由に使っていい食材を保管するスペースが決まっており、桜家はその食材で自分の分の食事を作っていた。
冷蔵庫からいくつか野菜を取り出し、水で軽く洗うと包丁で刻んでいく。
包丁の使い方は独学だ。親と一緒に料理をした記憶はほとんどないし、自分で料理ができるようになったと気づいた両親はこれで料理を教える必要はないと安心していた。
『本当に手のかからない子で助かるわ』
それは母親の口癖だった。両親は、良くも悪くもしっかりしていた桜家をよくほめて信頼してくれていた。
そして信頼されていたからこそ、両親は桜家をほとんど束縛しなかった。習い事を勧めたり、ちゃんと勉強しているのかの確認もなかった。
両親は、何か困ったときに支えてあげるだけで桜家には十分だと考えていたのかもしれない。
実際に桜家が言われなくても勉強していたことが両親のこの考えに拍車をかけていたのだろう。
桜家は出来上がった野菜スープの味を確認すると食器に盛り付けリビングへと運ぶ。
広い部屋でいただきますという小さな言葉がはっきり聞こえた。スプーンと食器の当たる音がはっきりと聞こえるのも、この部屋があまりにも静かすぎるからだろう。
桜家が結局この日リビングで言った言葉はいただきますとごちそうさまの二言だけだった。
携帯のアラームで目を覚ます。もう月曜日。また憂鬱な日常が始まる。
桜家は鉛のような体に鞭打って下の階へと足を速めた。
リビングは昨日見た通りのままだった。桜家は両親が忙しいと数日前に愚痴っていたのを思い出し、今日も泊まり込みだと察しを付ける。
はっきり言って親が泊まり込みだろうが特に桜家には影響はなかった。いつも通り自分のことは自分でするだけである。
昨日のスープの残りを喉に流し込むと、桜家は家を後にした。
そのまま誰ともしゃべらず学校にたどり着く。そして重い足取りで校門をくぐると、まずは靴箱の中を確認した。案の定上履きの中に画鋲が入っていた。
画鋲だけならまだいい方だ。上履き自体がなくなっていたら探さなくてはいけないし、ゴミ箱に入っていたら場合によっては洗わなくてはいけない。
桜家は呼吸を整えるとクラスの扉を開けた。クラスメイトは各々友達と話しており、桜家に注意を向ける人は誰一人としていなかった。
違う。正確には一人だけいた。雨車と目が合った桜家は慌てて目をそらした。その一瞬の間に悲しそうな眼をする雨車の顔が映りこむ。
雫ちゃんをこれ以上巻き込めない。
桜家は心の中で雨車に謝罪すると自分の席に向かう。心の中で何かがミシミシと音を立てている気がした。
それからお昼までは静かに過ぎていった。当たり前だ。誰も話しかけてくれる人がいないのだから。ぼんやりとした頭で授業を受けていればあっという間に時間は過ぎていく。
桜家は昨日親からもらった紙幣を持つと購買へと向かった。
廊下に出ると自分と同じように昼食を買おうとする人たちが目に入った。みんなキラキラしていて何を買うか楽しそうに話し合っている。
桜家は黙ったまま、その生徒とは反対向きに歩いて行った。
桜家の教室は四階にあり購買は二階である。そのため購買に行くには階段を下りる必要があるが、その階段は東階段、中央階段、西階段と三種類あった。
桜家が使った西階段は遠回りになるが、その分人はほとんどいない。桜家にとって心休まる場所だった。
今この時までは――
「ちょっと聞きたいことあるんだけど」
全身に震えが走った。その声の主が誰なのか一瞬で分かった。
「沢谷さん……どうして……」
膝がわなわなと震える。沢谷がさっき友達と購買へ向かったのを見た。なのになぜここにいるのだろうか?
「何驚いてんの? 少しくらい考えろよ、中央階段で三階まで下りて、そこから西階段に向かっただけだろ」
それは購買に行くふりをして桜家を待ち伏せたという発言と同意だった。つまり、沢谷には桜家と直接話す要件があるということ。
しかし、選ばれた場所が、この時間は人がめったに通らない西階段ということが、穏便に済ますつもりはないことを残酷なまでに示していた。
「あんたさぁ、雨車に何を吹き込んだの?」
桜家は何を言われたのかわからず混乱した。
どうしてここで雨車が出てくるのだろうか?
彼女には関わらないように告げたし、自分もこれ以上巻き込まないように関わらないでいたはずだ。
なのにどうして……?
「あいつさぁ、私が小五時のこと探っているらしいんだよね。昔の友達に手あたり次第連絡してたみたいで、その一人が教えてくれたよ」
恐ろしく低い声だった。悪意がにじみ出たような、体を芯から冷たくするような声に桜家は身震いする。
「ごめんなさい……私には何のことだか……」
次の瞬間、沢谷は桜家の胸ぐらをつかみ上げた。
「ふざけんなよ! お前以外に誰がやるっていうんだよ!」
桜家は罵声を受け止めることしかできなかった。一切口答えをせずにただ沢谷を見続ける。
それが気に入らなかったらしく、沢谷は顔をゆがめて桜家を床に押し倒した。
背中に鈍い衝撃が走る。頭も打ったらしく奥の方がずきずきと痛んだ。
「私をそんな顔でみるな! 憐れむような顔で見るな! 私より下の人間が、お前みたいなクズが私に同情なんて向けるな! 気持ち悪いんだよ!」
涙で歪む視界には憎悪に歪む沢谷の姿が映っていた。
沢谷の荒い息が頬にかかる。視界の端で、彼女の手が静かに自分の首に迫っていることに気づいた。
自分でも驚くくらい時間が過ぎるのが遅く感じられた。脳裏に死という言葉が浮かぶ。だが、同時にそれも悪くないと思った。
桜家はすべてを受け入れるように四肢の力を抜くと目をつぶった。
自分の体の上を動く沢谷の手がはっきりと認識できた。やがてその手は首に到達し、徐々に力が込められていく。
思い浮かんだのはやはり、どうしてこうなったのだろうという言葉。
失敗するのがいつも怖かった。だからちゃんと考えて行動しようといつもそう気を付けていた。
なのに結果はこのざまだ。もう何をどうすればよかったのかさえ全く分からない。
頭が白くなっていく。だんだんとぼんやりしてきて苦しさも感じられなくなっていく。やっと終われる。そう思った時だった。
「っハァっハァ!」
急にのどの締め付けがなくなり、体が反射的に酸素を求めて動き出した。空気が肺に入るたびにむせ返り、顔は涙でぐちゃぐちゃになっていく。
「ふざけるなよ……もしあの時、お前が……」
沢谷は静かにそういうと走ってその場を去っていった。
そして何が起こったかわからないままの桜家が一人取り残される。
この時の桜家の記憶は断片的なものだった。だからもしかしたら見間違いか桜家が自分に見せた幻覚だったのかもしれない。
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