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襲撃
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海場の忠告を受けて数日間は人と関わらないようにしていた。
もともと村の人たちとの交流は皆無に等しかったし、唯一自分を受け入れてくれた由香とはまだ仲直りできていない。
ならば、小屋にこもるのが得策だろう。今までとは違い、村の帳簿といった仕事もある。
「俺が村に何かすると思っているのか?」
思い出されるのは海場の最後の言葉だった。海場は村を守ることに誰よりも心血を注いでいる。そんな海場が噂でしかない『迷宮』の話を口に出すことには何か大きな意味があるように思えた。
『迷宮』のことは由香に教えられたが、あくまで直接『迷宮』を見たのは罪人だけである。
罪人が行方不明になる現象には気味の悪さを感じるが、『迷宮』なんてものは噂としか思えなかった。
帳簿の作業がひと段落付き、手を後方について重心を預ける。そのまま首を軽く回すと、凝り固まった筋肉が多少和らぐのを感じた。
ちらっとろうそくの方へ眼を向けるとほとんど解けかかっていた。夜も更けたのだろう。
布団を準備しようと腕に力を入れたその時、背筋の凍る感覚とともに誰かが扉をけり破って部屋に入った。
とっさに横に転がると、さっきまで自分がいたところをナイフが貫いていた。
血流が耳の中で脈打つ。
襲ってきた男は自分が空振りをしたとわかるやいなや、ナイフを横なぎにふるう。
裕翔は低い姿勢からタックルするように男に飛びついた。
ナイフが頭上をかする。あと少しでも判断が遅ければ、顔を切り裂かれていいただろう。
とびかかった勢いのまま、裕翔は男を床に押し倒す。
男は床に叩きつけられても呻くことなく、ナイフをふるおうとする。
裕翔は左腕でナイフを持つ手をはじくと、男の顔にこぶしを叩き込んだ。
男はくぐもった声をあげるが気にせずに顔を何度も殴りつけた。
しばらくたった頃には、男はぴくぴくと痙攣するばかりで全く動かなくなっていた。
裕翔は息を整えると男の手からナイフを奪う。男の手にはもう力が入っておらずあっさりと奪い取ることができた。
「よそ者が……」
かすれた声で毒づく男に、奪ったナイフを向ける。
「何が目的だ」
嫌われていることはわかっているし、喧嘩を売らることなんてしょっちゅうあるが、命を狙われたことは今日が初めてだった。
「俺たちは、お前の魂胆に気づいているぞ」
痛みに顔をしかめながら男は語る。
「魂胆?何のことだ?」
「とぼけるな!」
憎悪のこもった目が裕翔の顔を凝視した。
「俺たちの村を……奪う気だろ」
裕翔は訳が分からず首を傾げた。
「何を言ってるんだ?」
「村長をたぶらかし村に入り込んだ。今度は弱った由香様に付け込んで村を支配するつもりだろう!」
裕翔は訳が分からず呆然と男を見つめた。間違いなく男の殺意は本物だ。
村で過ごしていくうちに、相手がどれほど自分に憎しみを抱いているかは感覚的にわかるようになっていった。
それが表すことはただ一つ。男が本当に俺が村を奪う気だと信じているということだ。
「どうなんだ!答えろ!」
裕翔は何も答えられなかった。十中八九、こいつは誰かに扇動されている。ならば、俺がなにをいっても信じないだろう。
混乱する頭の中に浮かんだのは海場だった。
あいつは知っていたのだろうか?だからあんな言葉を残したのか?
考えるまでもない。間違いなく海場は何かを知っているはずだ。ならば、一刻も早く海場のところに行かなくてはならない。
とりあえず、今目の前にいる男を気絶させようとしたその時だった。
「何をしている!」
上ずった叫び声とともに大人たちが小屋に入り込んだ。
今までになかった事態に、裕翔は大人たちをただ見ていることしかできなかった。
その隙を、男は逃がさない。
男は裕翔の意識がそれたのを見て、ナイフを持つ裕翔の手を抑えると、横に転がり裕翔の上に馬乗になる。
しまったと思う頃には、男を裕翔の手ごとナイフの切っ先を裕翔へ向けていた。
このままだとまずいと思い、雄たけびを上げてナイフを押し返す。
筋肉にはちきれんばかりに力がみなぎった。裕翔はその力に身を任せ男を押し返す。
「っ!」
男は小さな声を上げると糸が切れたようにぐったりとした。
「ぇ……」
呼吸することも忘れて男を見る。
男の腹にはナイフが深々と突き刺さっていた。それから数秒は沈黙が小屋を支配した。
ぞっとするほど誰も何も言わなかった。しかし、その沈黙は一人の叫び声によって絶叫にとって代わる。
裕翔が男を刺す瞬間を見ていた男たちは、全員が目を血走らせて裕翔に襲い掛かってきた。
裕翔でなくても、今目の前にいる全員が裕翔に憎しみを持っていることに気づけただろう。それくらい小屋には殺意があふれかえっていった。
とっさに裕翔は、最もがたいが悪そうな男に飛びかかり、その腹に膝蹴りを叩き込む。そして、膝蹴りをきめた男が崩れ落ちたスペースを使って一気に小屋から飛び出した。
小屋の中から怒声と足音が聞こえる。裕翔は一切振り返らずに、一目散に森へと走り抜けた。そして村を出る瞬間、一度だけ由香のいる方へと目を向ける。
「すまない」
一人少女を取り残してしまう、罪悪感とともに裕翔は村から出ていった。
もともと村の人たちとの交流は皆無に等しかったし、唯一自分を受け入れてくれた由香とはまだ仲直りできていない。
ならば、小屋にこもるのが得策だろう。今までとは違い、村の帳簿といった仕事もある。
「俺が村に何かすると思っているのか?」
思い出されるのは海場の最後の言葉だった。海場は村を守ることに誰よりも心血を注いでいる。そんな海場が噂でしかない『迷宮』の話を口に出すことには何か大きな意味があるように思えた。
『迷宮』のことは由香に教えられたが、あくまで直接『迷宮』を見たのは罪人だけである。
罪人が行方不明になる現象には気味の悪さを感じるが、『迷宮』なんてものは噂としか思えなかった。
帳簿の作業がひと段落付き、手を後方について重心を預ける。そのまま首を軽く回すと、凝り固まった筋肉が多少和らぐのを感じた。
ちらっとろうそくの方へ眼を向けるとほとんど解けかかっていた。夜も更けたのだろう。
布団を準備しようと腕に力を入れたその時、背筋の凍る感覚とともに誰かが扉をけり破って部屋に入った。
とっさに横に転がると、さっきまで自分がいたところをナイフが貫いていた。
血流が耳の中で脈打つ。
襲ってきた男は自分が空振りをしたとわかるやいなや、ナイフを横なぎにふるう。
裕翔は低い姿勢からタックルするように男に飛びついた。
ナイフが頭上をかする。あと少しでも判断が遅ければ、顔を切り裂かれていいただろう。
とびかかった勢いのまま、裕翔は男を床に押し倒す。
男は床に叩きつけられても呻くことなく、ナイフをふるおうとする。
裕翔は左腕でナイフを持つ手をはじくと、男の顔にこぶしを叩き込んだ。
男はくぐもった声をあげるが気にせずに顔を何度も殴りつけた。
しばらくたった頃には、男はぴくぴくと痙攣するばかりで全く動かなくなっていた。
裕翔は息を整えると男の手からナイフを奪う。男の手にはもう力が入っておらずあっさりと奪い取ることができた。
「よそ者が……」
かすれた声で毒づく男に、奪ったナイフを向ける。
「何が目的だ」
嫌われていることはわかっているし、喧嘩を売らることなんてしょっちゅうあるが、命を狙われたことは今日が初めてだった。
「俺たちは、お前の魂胆に気づいているぞ」
痛みに顔をしかめながら男は語る。
「魂胆?何のことだ?」
「とぼけるな!」
憎悪のこもった目が裕翔の顔を凝視した。
「俺たちの村を……奪う気だろ」
裕翔は訳が分からず首を傾げた。
「何を言ってるんだ?」
「村長をたぶらかし村に入り込んだ。今度は弱った由香様に付け込んで村を支配するつもりだろう!」
裕翔は訳が分からず呆然と男を見つめた。間違いなく男の殺意は本物だ。
村で過ごしていくうちに、相手がどれほど自分に憎しみを抱いているかは感覚的にわかるようになっていった。
それが表すことはただ一つ。男が本当に俺が村を奪う気だと信じているということだ。
「どうなんだ!答えろ!」
裕翔は何も答えられなかった。十中八九、こいつは誰かに扇動されている。ならば、俺がなにをいっても信じないだろう。
混乱する頭の中に浮かんだのは海場だった。
あいつは知っていたのだろうか?だからあんな言葉を残したのか?
考えるまでもない。間違いなく海場は何かを知っているはずだ。ならば、一刻も早く海場のところに行かなくてはならない。
とりあえず、今目の前にいる男を気絶させようとしたその時だった。
「何をしている!」
上ずった叫び声とともに大人たちが小屋に入り込んだ。
今までになかった事態に、裕翔は大人たちをただ見ていることしかできなかった。
その隙を、男は逃がさない。
男は裕翔の意識がそれたのを見て、ナイフを持つ裕翔の手を抑えると、横に転がり裕翔の上に馬乗になる。
しまったと思う頃には、男を裕翔の手ごとナイフの切っ先を裕翔へ向けていた。
このままだとまずいと思い、雄たけびを上げてナイフを押し返す。
筋肉にはちきれんばかりに力がみなぎった。裕翔はその力に身を任せ男を押し返す。
「っ!」
男は小さな声を上げると糸が切れたようにぐったりとした。
「ぇ……」
呼吸することも忘れて男を見る。
男の腹にはナイフが深々と突き刺さっていた。それから数秒は沈黙が小屋を支配した。
ぞっとするほど誰も何も言わなかった。しかし、その沈黙は一人の叫び声によって絶叫にとって代わる。
裕翔が男を刺す瞬間を見ていた男たちは、全員が目を血走らせて裕翔に襲い掛かってきた。
裕翔でなくても、今目の前にいる全員が裕翔に憎しみを持っていることに気づけただろう。それくらい小屋には殺意があふれかえっていった。
とっさに裕翔は、最もがたいが悪そうな男に飛びかかり、その腹に膝蹴りを叩き込む。そして、膝蹴りをきめた男が崩れ落ちたスペースを使って一気に小屋から飛び出した。
小屋の中から怒声と足音が聞こえる。裕翔は一切振り返らずに、一目散に森へと走り抜けた。そして村を出る瞬間、一度だけ由香のいる方へと目を向ける。
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