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終焉
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荒い呼吸とともに意識が覚醒する。
やっとすべてを思い出した。いや、本当はずっとわかっていたんだ。
なんてばからしい運命なのだろう。互いに騙しあっていたのだ。
お互いがお互いを守りたくて。ずっとわかっていたはずなのに。俺も由香もずっと変わることはないって。
由香は俺の身を案じていたのだ。俺が『迷宮』の器となったことをどうやってあいつが知ったのかはわからない。
もしかしたら、あの日の俺と村長の話を聞いていたのかもしれないし、幼いながらに事情を覚えていて、感ずいたのかもしれない。
だが、これだけはわかる。由香は俺を守ろうとしていたのだ。あの日初めて小屋であったときのままに。由香は変わってなどいなかった。俺を騙して、自分を殺させたかったのだ。
そうすれば、器となる俺と由香は一方が罪人、もう一方が鏡となる。
両親の内、父親は魂を奪われなかったことから察するに、罪人は器としての資格を失うのだろう。そして、鏡となった存在は罪人と関わるたびに黒く変色し、壊れていく。
きっと死者は罪人の脱出とともに消え去るのだろう。
これで『迷宮』は次なる器を失い完全に消滅する。そして、俺は呪いから解放され、自分の人生を歩めるようになる。
これがきっと由香と海場の狙いだったのだ。
俺も同じだったはずなのだ。
ただ由香を守りたかった。自分の人生を犠牲にしても守りたかった。それほどに由香を大切に思っていた。
だからこそ、殺してしまったのだ。由香のことが好きだったからこそ、あの笑顔が許せなかった。
俺の大好きだったものが初めから嘘だったように感じられたのだ。俺は憎かったから由香を殺したんじゃない。どうしようもなく好きだったから由香を殺したのだ。
本当に馬鹿らしい。でもきっとこの結末は避けられなかったのだと思う。互いが互いを想いあってこうなってしまったのだから。
あふれんばかりに涙がこぼれる。自分が許せない。
いっそのこと自分を殺してしまいたい。
こんなことなら知らないままの方がどれほど幸せだったか。慟哭が、嗚咽が口からあふれる。
足場が音を立てて崩れた。
裕翔は重力に身を任せた。涙が上へと上がっていく。
このまま沈んでしまいたい。
落下の最中、幾度も残骸に叩きつけられた。鈍い衝撃がジンジンと全身を蝕んでいく。
裕翔は甘いまどろみに意識を受け渡そうとする。
『ダメ!』
その声に消えかけた意識が再び覚醒した。
たった一言。でもその声が裕翔の心に空いた穴を確かに埋めた。
由香の声にこたえるように血と涙をぬぐいとる。
すると崩れ行く足場の中に、まだ一つ無事な物をが視界に入った。そこにある鏡はまるで裕翔を待つように凛と立ち誇っている。
「由香!」
裕翔は残骸を駆けた。足場など気にしない。壊れゆく世界など気にしない。裕翔の世界にあるのは裕翔と由香だけだった。
天井にひびが入り、黒く染まった偽りの空から本物の光が差し込む。それはまるで二人を祝福するかのように壊れた世界の中で二人を照らした。
『あなたは私を愛していましたか?』
文字を見て直感的にわかった。これが最後の質問であると。
皮肉な話だ。由香への思いがここに来た初めと今とでこうも違うとは。
だが、自信を持って言える。今の思いは決して偽物ではないと。自分のすべてを賭して言える。この気持ちこそが自分の本心だと。
「俺は……」
由香との思い出が頭をめぐる。初めての出会い。そして、周囲に嫌われる中、由香だけが自分を見捨てなかった日々。
「お前を……」
覚悟が思い出される。村長に真実を聞いた時、本気で由香のために人生をささげようと決意した。
「俺はお前を愛している!」
その瞬間世界が崩壊し、すべてが光に包まれる。あまりにまぶしさに目も開けられない。
だから、これは幻覚かもしれない。勘違いかもしれない。でも確かに感じた。由香が目の前に立っているのを。
『私もよ』
それが意識が途絶える前に聞こえた最後の言葉だった。
やっとすべてを思い出した。いや、本当はずっとわかっていたんだ。
なんてばからしい運命なのだろう。互いに騙しあっていたのだ。
お互いがお互いを守りたくて。ずっとわかっていたはずなのに。俺も由香もずっと変わることはないって。
由香は俺の身を案じていたのだ。俺が『迷宮』の器となったことをどうやってあいつが知ったのかはわからない。
もしかしたら、あの日の俺と村長の話を聞いていたのかもしれないし、幼いながらに事情を覚えていて、感ずいたのかもしれない。
だが、これだけはわかる。由香は俺を守ろうとしていたのだ。あの日初めて小屋であったときのままに。由香は変わってなどいなかった。俺を騙して、自分を殺させたかったのだ。
そうすれば、器となる俺と由香は一方が罪人、もう一方が鏡となる。
両親の内、父親は魂を奪われなかったことから察するに、罪人は器としての資格を失うのだろう。そして、鏡となった存在は罪人と関わるたびに黒く変色し、壊れていく。
きっと死者は罪人の脱出とともに消え去るのだろう。
これで『迷宮』は次なる器を失い完全に消滅する。そして、俺は呪いから解放され、自分の人生を歩めるようになる。
これがきっと由香と海場の狙いだったのだ。
俺も同じだったはずなのだ。
ただ由香を守りたかった。自分の人生を犠牲にしても守りたかった。それほどに由香を大切に思っていた。
だからこそ、殺してしまったのだ。由香のことが好きだったからこそ、あの笑顔が許せなかった。
俺の大好きだったものが初めから嘘だったように感じられたのだ。俺は憎かったから由香を殺したんじゃない。どうしようもなく好きだったから由香を殺したのだ。
本当に馬鹿らしい。でもきっとこの結末は避けられなかったのだと思う。互いが互いを想いあってこうなってしまったのだから。
あふれんばかりに涙がこぼれる。自分が許せない。
いっそのこと自分を殺してしまいたい。
こんなことなら知らないままの方がどれほど幸せだったか。慟哭が、嗚咽が口からあふれる。
足場が音を立てて崩れた。
裕翔は重力に身を任せた。涙が上へと上がっていく。
このまま沈んでしまいたい。
落下の最中、幾度も残骸に叩きつけられた。鈍い衝撃がジンジンと全身を蝕んでいく。
裕翔は甘いまどろみに意識を受け渡そうとする。
『ダメ!』
その声に消えかけた意識が再び覚醒した。
たった一言。でもその声が裕翔の心に空いた穴を確かに埋めた。
由香の声にこたえるように血と涙をぬぐいとる。
すると崩れ行く足場の中に、まだ一つ無事な物をが視界に入った。そこにある鏡はまるで裕翔を待つように凛と立ち誇っている。
「由香!」
裕翔は残骸を駆けた。足場など気にしない。壊れゆく世界など気にしない。裕翔の世界にあるのは裕翔と由香だけだった。
天井にひびが入り、黒く染まった偽りの空から本物の光が差し込む。それはまるで二人を祝福するかのように壊れた世界の中で二人を照らした。
『あなたは私を愛していましたか?』
文字を見て直感的にわかった。これが最後の質問であると。
皮肉な話だ。由香への思いがここに来た初めと今とでこうも違うとは。
だが、自信を持って言える。今の思いは決して偽物ではないと。自分のすべてを賭して言える。この気持ちこそが自分の本心だと。
「俺は……」
由香との思い出が頭をめぐる。初めての出会い。そして、周囲に嫌われる中、由香だけが自分を見捨てなかった日々。
「お前を……」
覚悟が思い出される。村長に真実を聞いた時、本気で由香のために人生をささげようと決意した。
「俺はお前を愛している!」
その瞬間世界が崩壊し、すべてが光に包まれる。あまりにまぶしさに目も開けられない。
だから、これは幻覚かもしれない。勘違いかもしれない。でも確かに感じた。由香が目の前に立っているのを。
『私もよ』
それが意識が途絶える前に聞こえた最後の言葉だった。
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