悪魔と聖女

桧垣森輪

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8.月が消えた夜②※

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 次の瞬間、ハイネの身体は柔らかなシーツにボフッと跳ねていた。
 俯せの視界には、細かな意匠が施された深紅のベルベッドの海。真っ暗な外ではなく、灯の灯った室内らしい。
 だが、周囲を見渡す暇はなかった。大きくて上等な寝台に弾んだ身体は、背後からのしかかる悪魔によって沈められる。
 悪魔はハイネの腰の上に馬乗りになっていた。そのまま首の後ろに手を伸ばし、簡素なワンピースを一気に引き裂いた。
「ま、待って……!」
 悪魔の両手が脇の下から潜り込んで、ただの布きれと化したワンピースが腕を滑り落ちる。剥き出しになった肩に、唇が触れた。
 そのまま、悪魔はハイネの肩に牙を突き立てる。
「――っ、ああ……っ!」
 皮膚がプツ、と音を立てた。鋭い痛みに、ハイネは悲鳴を上げて背中を仰け反らせる。
「どうした、怖じ気づいたか?」
 悪魔の声が、肌を伝って直接響いた。
 ――ついに悪魔が、聖女に触れたのだ。
 愉悦を含んだ声に、ハイネは震える手でギュッとシーツを握りしめた。
「ごめんなさい……!」
 首だけ捻って、悪魔のほうを仰ぎ見る。至近距離で赤い目と視線がぶつかった。
「私に触れたのなら、もう、わかるでしょう? 私には、特別な霊力なんて、ないの」
 痛みと恐怖でハイネの碧い瞳が揺らぎ、すぐそこにある悪魔の目が滲んで見える。
 悪魔が聖女を欲したのは、より強い力を得るためだ。でもハイネは、自分が聖女でないことをわかっていた。わかっていても、悪魔には教えなかった。いくら悪魔が自分を食べたがっていても、どうせ結界に阻まれて叶うわけがない。自分に霊力があってもなくても、檻の外から見ているだけの悪魔には関係がない。触れられなければ、バレることはない。
 だから、真実を伝える必要はないと思っていた――このときまでは。
「私は、ただの生贄なの……だから、私を食べても……」
「ハッ、今さら、食われるのが怖くなっての命乞いか?」
 侮蔑した悪魔に、ハイネは首を横に振る。
「食べられるのは……怖いけれど、怖くない」
 あのとき――火口の縁から飛び降りたとき、ただ死ぬだけなら悪魔に食べられたかったと思ったのは、本心だ。
 でも、実際に死を目の前にすると、やはり怖い。牙の刺さった肩はジクジクと痛んで、生きたまま肉を裂かれる恐怖を突きつけられる。
 ――それでも、後悔はない。
 本当なら、自分はもう、魔物の腹に収まっていた。
 それを救ってくれたのは、この悪魔だ。命だけではない。ひとりぼっちのハイネには、この悪魔だけが救いだった。
 自分が聖女ではないと告げられなかったのは、彼の訪れがなくなるのが怖かったから。
 この世からも、誰からも、忘れられたくなかったから。
 ――だから、騙したままは、嫌。
「私を食べても、役には立てないけど……」
 悪魔に救われた命だから、彼の好きにすればいい。
 でもせめて、毒にも薬にもならない女を食らったと、記憶のどこかに留めてもらえるなら……。
「それでもよければ――食べて?」
 言い終えるのと同時に、悪魔が突き立てていた牙を引き抜いた。
「……っ、あっ!」
「おまえが、聖女ではない?」
 牙の開けた穴から、赤い血がドロリと流れ出る。悪魔はそれを舌で大きく舐めとり、先端を硬く尖らせて傷口を抉った。
「ひい……っ、ん、くっ」
「こんなに、甘い血をしているのに?」
 流れる血を貪りながら、膨らみを包んでいた手がさわさわと動き始める。それは羽根のように柔らかな手つきで、揉むというより形を確かめるような繊細なもので、産毛が逆立つくすぐったさに襲われる。
「肌も、匂いも、甘くて柔らかい」
 悪魔の指先が両胸の先端を軽く擦った途端、ジンと甘い痺れが広がった。
「ん、あっ」
「ああ、でも、ここは硬くなってきたな」
 ここ、と強調するように軽く突かれる。柔らかかったそこは芯を持ち始め、指の腹でくるくると円を描かれると、神経が集中して鋭く尖っていく感覚がした。
 硬くなった感触を楽しみながら、指先が突起を引っ掻いていく。だけど決して乱暴なものではなく、触れるか触れないかの絶妙な力加減に、ハイネの口から吐息が漏れる。
「ふ……ぁ……」
 それは自分でも聞いたことのない声色で、ハイネは慌てて手で口を覆った。
 それに気づいた悪魔が、愉快そうに嗤う。
「なんだ、声まで甘いのか。ほら、もっと聞かせろよ」
 口を覆っていた手を引き剥がされて、シーツに押しつけられた。片手でハイネの手を拘束しながら、もう片方の手はさらに突起を弄ぶ。
「あっ、や、だ……」
 指で突起をくにくにと摘まみながら、唇がうなじへと伝っていく。手や唇で触れられた肌がみるみるうちに粟立ち、背筋がぞくぞくして、反射的に喉を逸らす。
「んっ、あ、はあ……んっ」
 たちまち淫らな声が室内に響いて、羞恥心を煽られた。
 勝手に息が上がって、身体が震える。ほんの少し刺激されるだけで、触れられた場所に灯が灯っていくようだ。
 乳房から離れた手が、下胸を掠めて身体の横へと移動する。くびれをなぞられ、腰の辺りをゆっくりと辿り、尻の際をふわりと撫でられて腰がびくりと跳ねた。
「いい反応だな。そろそろこっちを向け」
 掴まれていた手が自由になると同時に視界が反転して、背中がシーツについた。
「あ……」
 ハイネの前には赤い目の悪魔、悪魔の前にはハイネの白い胸が晒される。
 咄嗟に手で隠そうとした。だがそれよりも早く動いた悪魔によって二の腕を抑えられ、かろうじて引っかかっていた布きれも取り払われる。
「ククッ、これはまた、いい眺めだ」
 ハイネに跨がって膝立ちしている悪魔は、悠然と獲物を見下ろした。
 下穿きだけを身につけた無防備な肌に、赤い目の視線が矢のように突き刺さる。不躾に視姦されて、羞恥で全身が染まっていく。
「み、見ないで」
「嫌だね。聖女の乱れた姿なんざ、そう拝めるもんでもない」
「だから、私は……っ」
 聖女ではないと否定する前に、悪魔の顔がハイネの胸へと沈んだ。
「おまえは俺の、俺の聖女ものだ」
 次の瞬間、勃ちあがっていた突起が、口の中に含まれた。
「やあ、あ……っ」
 周囲の空気から遮断された口腔内で、乳首がねっとりと舐められる。指とは違った生温かくて柔らかい感触に、一際大きな嬌声が上がった。
 ぬるぬるとした舌に転がされ、捏ねられ、さらに硬さが増していくようだ。口に含まれていないほうの胸は手で大きく揉みしだかれて、悪魔の指に合わせて形を変える。
「は、あん……っ、だめ……え」
 逃れようと身体を捩れば、咎めるように甘噛みされた。ぴちゃぴちゃと音を立てながら、悪魔は味見をするように乳首にしゃぶりついている。
 ――そうよ、味見をしているんだわ……。
 胸はハイネの身体でも柔らかな部位で、おそらく悪魔にとってのご馳走なのだろう。だから、ひと思いに齧りついたりせず、じわじわと嬲っているのだ。
 なのに、ハイネの身体は恐怖とは別のもので震えている。寒気のような痺れが身体中に広がって、足の奥の――下腹部の辺りからは、また別の疼きを感じる。
 こんなのは、知らない。このままでは、自分が自分ではなくなってしまう。
「いや……っ、もう、あっ、あん」
 もうやめてと言いたいのに、出てくるのは甘えた嬌声ばかりだ。それがまた情けなくて、ハイネの瞳から涙が零れる。
「んん? まだだ、もっと啼きわめけよ」
 反対に、悪魔は非常に楽しげな様子でハイネを蹂躙し続ける。たっぷりと胸を堪能しながら、片方の手をハイネの内腿へと滑らせた。
「ひゃあ……っ」
 下穿きの隙間から、長い指が入り込んだ。
「いやっ! そこは……!」
 茂みが揺れて、柔らかな丘をふにふにと刺激され、血の気が引いた。
 性に疎いハイネでも、そこがどういう場所かは知っている。月のものは当に迎えているし、知識としても教わった。
 ――子供を産むための大事なところまで、悪魔に犯されてしまう……!
 こんなことなら、ひと思いに肉をかじられるほうがよっぽどマシだ。
「大人しくしてろ、すぐに好くなる」
 バタバタと足を動かして暴れるハイネだったが、悪魔は一度指を下穿きから抜き出し、腰に止めてあった紐を外してしまった。
 はらり、と、ハイネの身体を覆っていた最後の一枚が落ちていく。
「いやっ、だめぇ……!」
 太腿にギュッと力を込めても、震える足にはそれほど力が入らない。悪魔はハイネの横に並ぶように寝転がると、大きな手で太腿を撫でた。そして、たやすく茂みの先へと指を侵入させる。
 くちり、と長い指が閉じた割れ目を下から上へとなぞった。
「ふうっ、ん……っ」
 秘裂が開き、内側の肉をゆるゆると撫でられる。奥から、とろりと、なにかがこぼれた気がした。
「え……?」
 ――なに、今の……。
「ちゃんと濡れてるじゃねぇか」
 濡れている、ということは……。
 粗相をした、と思った。でもそれはほんの一瞬で、なのに今も、身体の奥からじわじわ湧き上がってくるような気もする。
「聞こえるか? これは、おまえが気持ちよくなっている証拠だ。俺に貪られて、感じているんだろう?」
「か……っ、違う、そんな」
「違わない」
 悪魔はわざと浅いところを掻き回して、奏でる水音を強くする。羞恥が耳からも襲ってきた。
「やあっ、は、あん、や、あっ」
 指摘されたことで、余計に意識してしまう。ぬるぬると滑る指を、気持ちいいと考えてしまって、ハイネは激しく首を振る。
「認めろ、おまえはもう俺に溺れているんだ」
 乱れるハイネに、悪魔は口を歪ませた。
 溺れるとの言葉の通り、水音は激しさを増す一方で、触れられている場所からは快感がどんどんと広がっていく。
 零れた蜜を存分に指に纏わせ、悪魔は秘裂の奥へとそれを突き立てた。
「――いっ、ああ……っ!」
 なにも受け入れたことのない場所に指を入れられ、ハイネが悲鳴を上げる。喉を逸らせ顎を上げた瞬間、悪魔の唇がハイネのそれを塞いだ。
「ん、んんぅ……っ」
 大きく開けた唇にぴったりと唇をつけて、伸びてきた舌がハイネの舌を絡め取る。指はなおも強引に奥へとを進み、息も悲鳴も、なにもかもが悪魔に吸い取られていく。
 悪魔の舌はハイネの舌を根元からしごいて、離れたと思えば舌先で表面をなぞる。痛くて熱くて、なのにそれを感じている頭の中が溶かされる。下半身には痛みを与えられているのに、舌はなだめるように優しくて、ハイネはますます混乱した。
 ――なん、で……どうして……?
 悪魔に食べられるはずなのに。実際に貪られているのに。
 どうして彼を、こんなにも愛しいと思ってしまうのだろう。
 角度を変えながら、何度も唇と唇を擦り合わせ、舌と舌を絡ませる。指は根元まで埋め込まれ、ずきずきと熱を発しているのに、なぜだか切なくも感じてしまう。
 ハイネの口の中には唾液が溜まり、合間合間でこくりと飲み下した。それでも、悪魔の唇が離れると、飲みきれなかったものが口の端からだらしなく流れていく。
 悪魔の唇は、丁寧にそれを舐め取った。それから、頬を流れるハイネの涙も。
「いいぜ、その顔。すげぇそそる。堪んねぇな」
 自分がどんな顔をしているか、ハイネにはわからない。どこもかしこも蕩けてしまって、考えるのも億劫だった。
 ――たぶん、悪魔の毒に侵されてしまったんだ。
 悪魔の唾液も、自分のものと一緒にたくさん飲み込んだ。あれは媚薬のようなもので、だからいつの間か、足の間の痛みも薄くなっているんだろう。
 無意識に、腰が揺れた。違和感は相変わらずなのに、なぜか疼いて仕方がない。
 ふいに、悪魔が埋めた指を折り曲げた。
「んっ、ああっ」
 びくんと身体が震えて、悲鳴とは違う甲高い声が上がる。擦られたところが疼きを散らして、甘い痺れだけを余韻として残す。
「そうだ……いい子だ。もっと感じろ」
 ぐちゅっ、と、指が動き始める。そうなるともう、本格的になにも考えられなくなった。
「ああっ、あ……ん、んっ、はあ、あ……あっ、あ」
 内襞を擦りながら、奥から入り口、入り口からまた奥へと指が往復する。すぐに狭くなる膣を抉るように、動きは徐々に勢いを増した。先ほど零れたものはどうやら最奥から滲み出るらしく、抜き差しされるたびに外へと押し出され、とろとろと流れていく。
「思っていた以上にいやらしくて、淫乱だな。俺の指をきゅうきゅうに締め付けて、気持ちよくて堪らないんだろう?」
 卑猥な言葉を囁かれ、耳朶を食まれた。耳の穴に差し込まれた舌が、そこでもぺちゃぺちゃと音を立てる。
「あ……ん、っあ、や、やあ……あ」
 反論のしようもなかった。ハイネは悪魔の望むままに嬌声を上げ、淫らに身体をくねらせ続ける。そして指がある一点を掠めたとき、ハイネの身体がひときわ大きく跳ねた。
「え……あっ、ああ!」
 それを狙っていたように、もう一本指が埋め込まれる。圧迫感が増しても抗うこともできず、無理矢理に押し上げられていく。
 さらには、伸びた親指が割れ目の少し上の辺りを刺激した。小さく膨らんだ蕾を、指の腹がぐりぐりと捏ねるように押し込んだ。
「あっ! あ、ああああああ……っ!」
 急激な衝動に襲われて、頭が真っ白になった。
 手も足もビクンと跳ねて、ハイネの背中が弓なりにしなる。
 すぐさま指を引き抜いた悪魔が、足元へと回り込んだ。
「……っ、あっ、あっ、え、ええっ!?」
 ぐいっと足を大きく広げられたと思ったら、露わになった秘裂に唇が寄せられ――勢いよく吸いついた。
「ええっ、あ、なに、やめ……っ、ひい……っ、あ、やだ、あ、やあっ、あ、あああああああ……っ!」
 全身の血液が沸騰したように脈を打つ。勝手に腰が浮いて、びくびくと痙攣を始めた。それでも、その浮いた腰を捕まえられて、これでもかと引き寄せられる。
 身体の中が蠢いて、なにかが溢れてくるのを、悪魔がじゅるじゅると吸い上げていくのだ。
 世界が白いとか、どうでもいい。上も下もわからない。激流の中に巻き込まれている。
 ハイネは目を見開いたまま、ただ身体を震わせた。

「……ふう。やっぱり、おまえはどこもかしこも甘いな」
 恥ずかしい蜜を一滴残らず飲み干して、悪魔は狡猾な表情で顔を上げる。
 ハイネは手足を弛緩させて、ベッドの上にだらしなく投げ出していた。濡れた口元を拭っている悪魔を、まだ意識が在るという事実として、淡々と見ている。
 ――てっきり、あのまま、食べられたと思ったのに……。
 悪魔は拭った手までも意地汚く舐めていて、無性に腹が立った。
「……へ、ん、たい……」
 掠れた声を絞り出して、精一杯に睨みつける。
 そんなハイネの悪態に、悪魔はニヤリと口の端を持ち上げた。
「その変態に身も心も愛されて、幸せだろう?」
「あ、い……?」
 呆けているハイネの前で、悪魔は唐突に服を脱ぎ始めた。
 ジャケットの前が開き、シャツは時間が惜しいのか、ボタンが引きちぎられて飛んでいった。それらが脱ぎ捨てられて、あっという間に悪魔の上半身が露わになる。
 ――背中に、羽根があるのに……?
 悪魔の服はどういった造りなのかと、どうでもいいことが気になった。
 細身の身体にはほどよく筋肉がついていて、肩や胸板はそれなりに厚く、引き締まった腹筋にはいくつかの溝がある。
 それから悪魔は、腰で締めたベルトに手をかけた。カチャカチャと音を立てて緩められ、引き下げられたスラックスから――凶悪なものが現れた。
「――ヒッ」
 蛙の化け物もグロテスクだったが、こっちもかなり禍々しい。大蛇が鎌首をもたげているような風貌に、ハイネは短い悲鳴を上げて、逃げようとした。でも、手にも足にも力が入らず、ただシーツの上を滑るだけだ。
「逃げるな」
 悪魔がハイネの足首を掴んで引き寄せる。片足が大きく持ち上げられ、禍々しいものがぴたりと押し当てられた。
「た、食べない、の……!?」
 なおも腰をずらして逃げようとしたが、ぐちゅんとさらに押しつけられ、媚肉が切っ先の形に広がる。
「んん? 見てわからないのか? 今が食事の真っ最中だ」
 なぜか微笑んでいるが、ハイネにはわけがわからない。
 まだどこも食いちぎられてもいない。唯一傷つけられた肩の血も止まり、吸い尽くされたと思ったところも、どうしてか再び潤っている。
「散々飲ませてもらったからな。今度は俺が、たっぷりと注いでやる」
 微笑みが一変して、赤い目が怪しく光った。広げた媚肉をぐりんと抉って、亀頭が中へと差し込まれた。
「あ、あああ……っ!」
 それは指とは比べものにならない大きさで、長くて、熱くて、硬い。太すぎるものは一度には進めず、入り口の辺りを何度も往復する。摩擦で火が出たと思うほどの激しい痛みに、ハイネは悲鳴を上げる。
「ひっ、……や、あっ、……っ、たぁ……いぃ」
 まだ先端しか埋まっていないのに、全部に貫かれたら、引き裂かれてバラバラにされるのだと、本気で思った。
「さすがに、狭いな……おい、もっと、力を抜け」
 悪魔の辛そうな声がしたが、それどころではない。
 元より痛みで強張った身体から力を抜く術も知らず、抜いた途端に身体が二つに割れる気がして、なおさらできない。
「いやぁ……っ、いた……い、た……ぁ」
 固く結んだ両目からぽろぽろと涙が溢れ、幾筋も頬を流れ落ちる。
 明らかに容量の違う太い楔をねじ込まれて、淫路がメリメリと引き剥がされていく。圧迫感で、内臓も潰されてしまいそうだ。
「泣くな、もったいない。息を吐くんだ」
「やだぁ……、むり、むり……ぃぃ」
 吐くどころか吸うのもままならず、ますます呼吸が苦しくなる。しゃくり上げるハイネに、悪魔は眉間に寄せていた眉を僅かに緩ませ、ハイネの足首から手を離した。
 両手がそっと頬を包んで、流れる涙を舌が掬い取る。頬やこめかみや瞼にも口づけをして、唇の上にも落とされた。
「……っ、ん……んぅ」
「ん、そうだ。ゆっくり息を吐いて、吸って」
 呼吸のタイミングを指示しながら、唇を軽く擦り合わせる。
 ハイネが息を吐き出すたび、猛った熱が少しずつ奥へと進む。痛みで顔を顰めると、やさしいキスが降ってくる。
 さすがは悪魔だ、魔物にひと呑みにされるのとは訳が違う。血も肌も体液も味わって、あらゆる快楽を与えて、蕩けきったところを食べるんだ。天国から地獄へと突き落とされた絶望は、悪魔にとって最高のスパイスなのだろう。
 そうしてようやく、熱の塊が膣の奥まで届いた。
 ――引き裂かれ、て、ない……?
 腰と腰が密着しても、ハイネの身体はそのままだった。繋がったせいで身動きはとれず、悪魔との距離も近すぎるが、今のところ無事に残っている。
 だが、痛みと苦しさは相変わらず変わらない。悪魔の媚薬も、強すぎる痛みには効果が薄いのかもしれない。
「……辛いか?」
 優しく声をかけられて、もしかしたらと期待した。でも、やはり相手は悪魔だ。
「何度かしたら、じきに収まる。それまで我慢しろ」
 そう言って、悪魔は腰を引く。入り口近くまで引き抜かれた楔は、すぐにまた押し込まれた。
「んあ、やあっ、やだ、あ……ぁっ」
 ずちゅん、と身体に振動が伝わる。まるで灼熱の剣で貫かれているように、擦られたところが火が点いたように熱く燃えている。
 ひと突きされるたびに身体の奥が戦慄いて、狭すぎる膣は押し込まれたものをぎちぎちと締め付ける。
「くそ……こっちが食いちぎられそうだ」
 悪魔が呻いたが、苦しいのはハイネのほうだ。
「おねが……い、もう、ゆるして……ぇ」
 いつまでこんな責め苦を受けなければならないのかと、気が遠くなる。だが、悪魔はそれすら許さなかった。緩急をつけた抽挿で容赦なく身体を揺り動かして、ハイネの意識を何度も引き戻す。
「駄目だ。おまえが誰のものになったのか、しっかり身体で覚えるんだ」
 荒い息で囁いたのは――まさに『悪魔の囁き』だ。
 ハイネの思考も身体も、なにもかもが悪魔に奪われていく。
 抽挿に合わせて淫液が引きずり出される。潤滑油を纏った楔は滑らかになり、奥まで太くて長いもので貫かれるごとに、別の熱もこみ上げてくる。
「やあ、なんか、変……っ」
「ハッ、そろそろ、馴染んできたか?」
 息を弾ませた悪魔が大きく腰を回して、ぐちゅぐちゅと卑猥な水音がよりいっそう響いた。硬さを増したものに違う場所を擦られて、身体中がビリビリした。
「あ……っ、ん、んんっ」
「ここか」
 先ほどよりも強く、悪魔はハイネの反応した場所を突き上げる。
「はあっ、いや、だめぇ……そこ、や、ああっ」
 どっと蜜が溢れ出した。とろとろに潤っているのに、熱も痛みも一向に鎮火してくれない。溜まった熱は今にも弾けそうなほど膨らんで、身体が火照って、溶けてしまいそうだ。
「やあ、もう、むり……ぃ」
 ぎゅうっ、と奥が締まる。そこを一際大きく突き上げられて、ついに限界を迎えた。
「ああああああああああ」
 びくんと身体が大きく跳ねて、弓なりになった身体をなおも深くまで貫かれる。
「……っ、出すぞ」
 中が痙攣するのとは別のものが、どくどくと脈打つ。
 迸った飛沫が、身体の奥でじわりと広がった。
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