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復讐されるは我にあり
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私には、血の繋がらない弟がいる。
「まーくん、おはよう」
「……」
返事がない。
どうやら今日も、嫌われているようだ。
父と母の連れ子として私たちが姉弟になったとき、私は中学生で、まーくんは小学生だった。
多感な時期ではあったけど、それでもうまくやっていたと思う。
……今では、日常会話すらままならないけど。
「今日はゴミの日だから、まーくんの部屋のゴミ、出してくれる?」
「……」
返事はない。
それでも、ゴミ箱をドアの近くまで持ってきてくれたから、聞こえてはいるらしい。
部屋の前に無言で置かれるゴミ箱。ジッと見下ろす視線を感じながら、ゴミ袋の口を開き分別しながら詰めていく。
コーヒーの空き缶と紅茶のペットボトルは床に置き、スナック菓子の袋は資源物回収の別の袋へ。
……あ、このお菓子、食べてみたいと思っていたやつだ。ノベルティでウサギのキャラがデザインされたクリアファイルがもらえるのだけれど、いい年をした一端の社会人には憚られると思って自重したやつだ。
ファンシーグッズは好きだけど、オフィスで使用するには派手すぎる。なんにも考えずに済んだ学生の頃が懐かしい。
チョコに、クッキーに、グミ。どれも季節の果物や期間限定のもので、いかにも女子ウケしそうなものばかり。
……そういえば昨日の夕方帰宅したとき、玄関に女もののローファーが置いてあったっけ。
最後に、ゴミ箱の底に突っ込まれていたティッシュの塊を掴んだとき、手に違和感を抱いた。
十分に乾ききっていないそれは少し湿っている。……それに、イカクサイ。
いくつかに丸められたティッシュには、しぼんだ水風船のようなものを包んでいる感触もあったし、中途半端に封切られた……要するに、コンドームの袋もあった。
一瞬躊躇して動きを止めた私を、まーくんは冷めた目つきで――だけど、ほんの少しだけ口の端を持ち上げながら――見下ろしている。
弟は今日も私を嫌っている。
これは、私に対する嫌がらせだ。
女の存在を匂わせるの遺留物に、情事の痕跡。
それらにも、彼の視線にも気づかないふりをして、私は黙々と片付けを続けた。
好きだと言ってくれた彼を突き放したときから、弟は私を嫌うようになった。
当てつけのように、かわいらしい女の子をとっかえひっかえ家に連れ込む。頭も良くて見た目もいいまーくんは、通っている大学でも人気者らしい。弟の部屋から見ず知らずの女の喘ぎ声が漏れ聞こえたのは、一度や二度ではない。
同じ姉弟でも、社会人になっても恋人も作らずに実家暮らしを続けている私とは大違い。
……まあ、血が繋がっていないのだから当たり前か。
それでも、私たちは姉弟だ。
家族になるまでは他人だったとしても、私たちは姉弟だ。
*****
「え? 黛さんって、実家暮らしなの?」
飲み会のあとに送ってくれた同僚が、家の前まで着いた途端、驚いたように声を上げた。
遅い時間でないとはいえ、静かな住宅地であまり騒いでほしくない。声が通ると、家の中でも聞こえたりするんだから。
「言ってませんでしたっけ?」
「うん……知らなかった」
さほど親しくもないので、私の個人情報など知らなくても当然だろう。夜道は物騒だとしつこかったので大人しく送ってもらっただけの関係。
「一人暮らししたいとか思わない?」
「思いませんね。私、家族のことが大好きなんですよ」
父と母が再婚するまで寂しかったから、家族ができたときは嬉しかった。
家族そろってまーくんの小中学校の運動会の応援に行き、旅行に出かけたのも楽しかった。今では一緒に出かけなくなったけど、ラブラブな両親は二人だけで旅行に出かけたりもする。
この家は私にとっての繋がりだから、実家を出ることは考えていない。まーくんも、大学に進学してもこの家を出て行こうとはしなかった。
残念そうな顔の同僚と別れて自宅に入ると、玄関にまーくんが立っていた。
「ただいま」
「……」
返事がない。今日も安定の嫌われっぷりだ。
諦めて靴を脱いでいると、頭の上から声がした。……今日は、女ものの靴は見当たらない。
「今日、親父もお袋もいない」
おお、めずらしい。まーくんが喋った。明日は雨になるかもしれない。
どうやらラブラブな両親は、また私たちを残して出かけてしまったらしい。いくら姉弟とはいえ、年頃の娘と息子を一つ屋根の下で二人きりにさせるなんて、不用心にも程がある。
「来いよ。久しぶりに、抱いてやるから」
――案の定、まーくんの顔が妖しく歪んでいた。
*****
「家の中に、好きなときにヤレる女がいるとか、サイコー」
――噓ばっかり。
昨日だって、他の女とヤったくせに。
多少なりともアルコールを摂取した身体は、さしたる抵抗もできないままあっという間に裸にされて、ベッドの上に転がされた。
ボフンと弾んだはずみに、シーツからは自分のものとは違う男の匂いがする。
私の部屋の隣にある弟の部屋。
昨日は違う女を抱いたベッドの上で、今日は私を抱く。
「さっきの男は、彼氏?」
背後から覆い被さってきたまーくんが、胸の膨らみを掬いながら耳元で囁く。
「はあ……っ、ん、や、違う……う、あんっ」
触れた唇から吐息がかかり、ぞくぞくとした痺れに身体が震えた。
伸ばした舌が耳の淵を丁寧になぞり、与えられなければ感じることのない刺激に肌が粟立って頭の中が白くなる。
吸われたり、しゃぶられたりして熱くなった耳たぶは、さらに熱い唇に挟まれて甘噛みされた。穴の中にねじ込まれた舌の奏でる音とぬるぬるとした感触に、息が乱れて甘い声が漏れる。
「あんたさ、自分にも彼氏ができるとか思ってんの?」
「ひ……っ」
緩く勃ちあがった乳首を抓られて、喉の奥から悲鳴のような声が出た。
痛みを感じるか否かのギリギリのラインを、まーくんはよく心得ている。
まーくんが私に好きだと言ってくれたとき、私たちは初めて身体を重ねた。
私は処女で、まーくんは童貞だった。
私たちは姉弟だけど、少し前までは他人だった。
いくら彼を小学生の頃から知っているとはいえ、自分とは違う造形に、日に日に男らしくなっていく顔と身体……
異性として意識するのに、そう時間はかからなかった。
それはきっと、まーくんも同じ。思春期を迎えた彼にとって、私は蜜にも毒にも見えただろう。
それに、父と母にとっては娘と息子である。どちらかが籍を抜いて他人に戻れば、社会的な建て前は守られる。それは、ようやくひとつに纏まった家族がまた壊れてしまうことでもあった。
事後になって、私は急に怖くなった。
自分たちのせいで、家族がバラバラになってしまうこと。
彼の私への気持ちが、一過性であること……
『まーくんのことは、弟としか思えない』
真っ白になった私が真っ青な顔をして告げたときから、まーくんは私を嫌いになった。
「弟とヤりまくってるのに、まともな男と付き合えるとか思ってんの?」
抓られた乳首はじんじんと熱を持ち、すっかり固く尖っていた。四つん這いになって垂れ下がった乳房が、手の動きに合わせてぐにぐにと形を変える。
焦らすみたいに乳輪の周りを擦られて、私は背中を軽く反らして悶えた。
すぐそこに唇があるけれど、それは決して、私の唇には落ちてこない。
キスをしたり、恋人のように甘い言葉を囁かれたりもしない。
彼はいつもこうやって、一方的に私を貪る。
本当は、一度だけキスを交わしたことはある。
まだこの行為が純粋だったときの話だ。
あのときの、なんとも形容しがたい幸せな気持ちをもう一度味わいたいなんて、思ってはいけない。
――当然だ。
私たちは「姉弟」で、「恋人」ではないのだから。
一番初めは、純粋な行為だった。
だけど次からは、彼を拒絶した私への縛めとして。
他の女を堂々と連れ込みながら、思い出したように私を抱く。
さっきのように、私が他の誰かと一緒にいるのを見たときには特に酷い。身体中に痕を散らして、人前で服など脱げない状態にさせられる。
「こんなに淫乱なくせに、普通の男で満足できんの?」
片手で乳首を弄びながら、もう片方の手が足の付け根へと伸ばされる。
行き着いた指の先で、くちゅりと卑猥な水音が響いた。
まーくんは、私の身体の弱いところを知り尽くしている。
彼しか知らない私の身体は、彼に触れられただけで簡単に火を灯す。
「すっかり俺に飼い慣らされてるのに、他の男で満足できんの?」
「ふ、あ、あ……っ」
「大したこともしてないのに、あんたのココ、もうグチャグチャじゃねぇか」
花芯へと突き立てられた指は、いとも簡単に飲み込まれていった。
言われるまでもなく、私のアソコはしとどに濡れている。
それは多分、服を脱がされるよりも前から。玄関で待っていた彼を見たときから。
……ううん、違う。
家の中に、彼がいるとわかったとき。
お義母さんから、『しばらく留守をします』というメールをもらったとき。
同僚には、わざと家まで送ってもらった。
そうしたらきっと、彼は私を抱きだがると知っていたから……
「は、相変わらず、やらしー女」
頂きを二本の指で摩りながら、埋めた指を動かしながら、まーくんが首筋に吸いつく。
「や……っ、そんなとこ、つけちゃダメぇ……!」
「うるさいな。隠したきゃ、勝手に隠せばいいだろ」
私の制止も無視して、わざと目立つところにキスマークをつけていく。
他人に見られるから困るんじゃない。
コンシーラーや、絆創膏なんかでは隠せない。
私が、思い出すたび切なくなるから。
蜜を纏った指が襞の間を掻き分ける。粘着質な水音を立てながら、小刻みに前後に動かされるたび、奥から零れたものが足の間を伝っていく。
ぐりぐりとかき混ぜられると、淫らな蜜で満たされたナカが波打っているようだった。
秘裂の上の蕾を親指で暴かれ、蜜を塗りつけられて、私は喉を反らして甲高い声を上げた。
指を増やされても、痛みすら感じることはない。むしろ、浸食される感覚に、悦びすら感じてしまう。
折り曲げた指の腹が、ざらざらとした一点を見つけて強く擦りつけた。
「あっ、ん、だめぇ、……そこ、いや、あ、あっ、ああ」
「だめ、じゃなくて、いい、の間違いだろ?」
あまりの快感にびくびくと揺れる腰を、まーくんは身体ごと押さえ込む。
「あー、指、食いちぎられそう……」
剥き出しのお尻にまーくんのジーンズが擦れて痛い。
だけど、その内側に隠された固いものを感じて、私の奥がきゅんと締まった。
「ひゃあっ、あ、……イク、ああ、イっちゃあああああ!」
どくんと身体が大きく波打って、目の前が、瞬く間に白く染まった――
大きく身体が浮いたかと思ったら、しばらくすると重力で身体がベッドに沈む。
腰だけを高く上げたまま力なく突っ伏していると、突然視界がぐるんと反転する。
「あ……」
ようやく見えたまーくんは、ジーンズに手をかけているところだった。
下着ごと引き下ろされたそこから、上向きにそそり立つ昂ぶりがぶるりと顔を出し、私は思わず身体を震わせた。
もちろん、寒気を感じたというわけではない。
私の期待は、とてもわかりやすかったのだろう。まーくんは緩く口の端を上げると、足の間にその身を落ち着かせる。
「……ひ、にん、は……?」
「ゴム、こないだ使い切ったんだよね。『彼女』だったら気ぃ使うけど、あんたは『彼女』じゃないから、忘れてたわ」
――彼女でもない相手とする行為では、ないのに。
それどころか、「他人」を妊娠させるほうがよっぽど取り返しがつかない。
だけど、まーくんが私にそんな気遣いをしてくれることはない。
彼女には配慮されることも、私にはわざと与えてもらえない。
まーくんは私のことを「あんた」と呼ぶ。
それまでは、「お姉ちゃん」と呼ばれることも、「紘乃」と名前で呼んでくれることもあった。
だけど今では、「あんた」と呼ぶ。
両親に咎められても、頑なに私を他人にしようとする。
姉弟ではないと、家族ではないと、言い聞かせるように。
――だからこれは、姉であることをやめようしない私への、弟からの復讐なんだ。
ぐずぐずに解れた蜜口に、太くて熱いものが押し当てられる。
狭い膣道を自分の形に広げながら、ゆっくりと、奥まで入ってくる。
「ひ……っ、あああっ!」
「あー、いい気分」
かみ合わない心とは裏腹に、隔たりのない身体はぴたりと重なった。
緩く腰を打ちながら、濡れた唇から出た真っ赤な舌が色づいた乳首を下から上にべろりと舐め、口に含んで強めに吸い上げられ、身体の奥がまた蠢いた。
「あん、あっ、……あ、あっ、はあ、あっ」
「だから、締めんな。出しちまうぞ?」
そんな動きじゃ、イケないくせに……
まーくんは、じっくりと私のナカに自分自身を馴染ませようとしている。
そんなことをしなくても、もう彼の形は覚えてしまっている。
「なんか言いたいこと、ある?」
ほんの少し顎を上げれば唇と唇が触れる距離で、まーくんが私に問う。
視界に、彼の潤んだ切ない瞳と、そこに映る私の蕩けきった顔が広がる。
こんな顔をして抱かれているのだから、私の気持ちなんてすでにわかりきっているのだろう。
口調は厳しいのに。手つきは乱暴なのに。
私を見つめる瞳だけはいつも優しい。
鎖骨に、肩に、首筋に、頬に――唇以外に、触れるだけのキスが落とされる。
早く言葉に出してしまえと、催促する。
好きと言えば、キスしてくれるの?
好きと言えば、名前で呼んでくれるの?
好きと言えば、彼女として大切にしてくれるの?
――そんなの嘘だ。
彼女なんかになったって、使い捨てされるだけ。
恋人同士なんて所詮は他人で、いつかは離れていってしまう。
新しい相手を次から次に取り替える彼が、私だけを選んでくれるはずがない。
だったら、私は姉弟の――家族のままでいい。
血が繋がらなくとも、いびつな関係でも、家族でいる間は私たちの絆が切れることはないのだから。
「まーくんは……弟、だよ……」
「まだそんなこと言うのかよ」
今日もまた繰り返されたやり取りに、まーくんの顔が苦しげに歪んだ。
「あっ、あ、んあっ、ん、は、あ、あっ」
律動が、速さを増していく。
いろいろな感情を混ぜながら、腰が激しく打ち付けられる。
彼の悔しさや、悲しさや、苦しさや、その奥に見える愛情を感じながら、私はひたすら喘ぎ続ける。
高みで果てるまでの間だけは、なにも考えなくていい。
彼の身体にしがみつくこのときが、一番幸せな時間だから――
「ああっ、……ま、さき……っ、将紀……っ、あああ、あああああああっ」
「……う、あっ」
掠れた声とともに、私のナカの彼自身が小さく震えて、熱いものが広がった。
「このまま、孕んじまえばいいのに……」
ぼんやりとした意識の向こうでまーくんの呟きが聞こえたけれど、あり得ない。
酷い生理痛に悩まされていた私は、数年前からピルを愛用している。
仕事に支障の出ないようにと理由で処方を受けているが、そんなことは建て前で、本当は避妊をしようとしなくなった弟に対する防衛策だ。
まーくんは、そのことを知らない。
弟は私に復讐している。
姉であることを後悔させようと、飽きもせずに腰を振る。
だけど私は、「好き」だなんて絶対に言わない。
私たちは、これでいい。
弟が復讐に燃えている間、彼は私に夢中だから……
「まーくん、おはよう」
「……」
返事がない。
どうやら今日も、嫌われているようだ。
父と母の連れ子として私たちが姉弟になったとき、私は中学生で、まーくんは小学生だった。
多感な時期ではあったけど、それでもうまくやっていたと思う。
……今では、日常会話すらままならないけど。
「今日はゴミの日だから、まーくんの部屋のゴミ、出してくれる?」
「……」
返事はない。
それでも、ゴミ箱をドアの近くまで持ってきてくれたから、聞こえてはいるらしい。
部屋の前に無言で置かれるゴミ箱。ジッと見下ろす視線を感じながら、ゴミ袋の口を開き分別しながら詰めていく。
コーヒーの空き缶と紅茶のペットボトルは床に置き、スナック菓子の袋は資源物回収の別の袋へ。
……あ、このお菓子、食べてみたいと思っていたやつだ。ノベルティでウサギのキャラがデザインされたクリアファイルがもらえるのだけれど、いい年をした一端の社会人には憚られると思って自重したやつだ。
ファンシーグッズは好きだけど、オフィスで使用するには派手すぎる。なんにも考えずに済んだ学生の頃が懐かしい。
チョコに、クッキーに、グミ。どれも季節の果物や期間限定のもので、いかにも女子ウケしそうなものばかり。
……そういえば昨日の夕方帰宅したとき、玄関に女もののローファーが置いてあったっけ。
最後に、ゴミ箱の底に突っ込まれていたティッシュの塊を掴んだとき、手に違和感を抱いた。
十分に乾ききっていないそれは少し湿っている。……それに、イカクサイ。
いくつかに丸められたティッシュには、しぼんだ水風船のようなものを包んでいる感触もあったし、中途半端に封切られた……要するに、コンドームの袋もあった。
一瞬躊躇して動きを止めた私を、まーくんは冷めた目つきで――だけど、ほんの少しだけ口の端を持ち上げながら――見下ろしている。
弟は今日も私を嫌っている。
これは、私に対する嫌がらせだ。
女の存在を匂わせるの遺留物に、情事の痕跡。
それらにも、彼の視線にも気づかないふりをして、私は黙々と片付けを続けた。
好きだと言ってくれた彼を突き放したときから、弟は私を嫌うようになった。
当てつけのように、かわいらしい女の子をとっかえひっかえ家に連れ込む。頭も良くて見た目もいいまーくんは、通っている大学でも人気者らしい。弟の部屋から見ず知らずの女の喘ぎ声が漏れ聞こえたのは、一度や二度ではない。
同じ姉弟でも、社会人になっても恋人も作らずに実家暮らしを続けている私とは大違い。
……まあ、血が繋がっていないのだから当たり前か。
それでも、私たちは姉弟だ。
家族になるまでは他人だったとしても、私たちは姉弟だ。
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「え? 黛さんって、実家暮らしなの?」
飲み会のあとに送ってくれた同僚が、家の前まで着いた途端、驚いたように声を上げた。
遅い時間でないとはいえ、静かな住宅地であまり騒いでほしくない。声が通ると、家の中でも聞こえたりするんだから。
「言ってませんでしたっけ?」
「うん……知らなかった」
さほど親しくもないので、私の個人情報など知らなくても当然だろう。夜道は物騒だとしつこかったので大人しく送ってもらっただけの関係。
「一人暮らししたいとか思わない?」
「思いませんね。私、家族のことが大好きなんですよ」
父と母が再婚するまで寂しかったから、家族ができたときは嬉しかった。
家族そろってまーくんの小中学校の運動会の応援に行き、旅行に出かけたのも楽しかった。今では一緒に出かけなくなったけど、ラブラブな両親は二人だけで旅行に出かけたりもする。
この家は私にとっての繋がりだから、実家を出ることは考えていない。まーくんも、大学に進学してもこの家を出て行こうとはしなかった。
残念そうな顔の同僚と別れて自宅に入ると、玄関にまーくんが立っていた。
「ただいま」
「……」
返事がない。今日も安定の嫌われっぷりだ。
諦めて靴を脱いでいると、頭の上から声がした。……今日は、女ものの靴は見当たらない。
「今日、親父もお袋もいない」
おお、めずらしい。まーくんが喋った。明日は雨になるかもしれない。
どうやらラブラブな両親は、また私たちを残して出かけてしまったらしい。いくら姉弟とはいえ、年頃の娘と息子を一つ屋根の下で二人きりにさせるなんて、不用心にも程がある。
「来いよ。久しぶりに、抱いてやるから」
――案の定、まーくんの顔が妖しく歪んでいた。
*****
「家の中に、好きなときにヤレる女がいるとか、サイコー」
――噓ばっかり。
昨日だって、他の女とヤったくせに。
多少なりともアルコールを摂取した身体は、さしたる抵抗もできないままあっという間に裸にされて、ベッドの上に転がされた。
ボフンと弾んだはずみに、シーツからは自分のものとは違う男の匂いがする。
私の部屋の隣にある弟の部屋。
昨日は違う女を抱いたベッドの上で、今日は私を抱く。
「さっきの男は、彼氏?」
背後から覆い被さってきたまーくんが、胸の膨らみを掬いながら耳元で囁く。
「はあ……っ、ん、や、違う……う、あんっ」
触れた唇から吐息がかかり、ぞくぞくとした痺れに身体が震えた。
伸ばした舌が耳の淵を丁寧になぞり、与えられなければ感じることのない刺激に肌が粟立って頭の中が白くなる。
吸われたり、しゃぶられたりして熱くなった耳たぶは、さらに熱い唇に挟まれて甘噛みされた。穴の中にねじ込まれた舌の奏でる音とぬるぬるとした感触に、息が乱れて甘い声が漏れる。
「あんたさ、自分にも彼氏ができるとか思ってんの?」
「ひ……っ」
緩く勃ちあがった乳首を抓られて、喉の奥から悲鳴のような声が出た。
痛みを感じるか否かのギリギリのラインを、まーくんはよく心得ている。
まーくんが私に好きだと言ってくれたとき、私たちは初めて身体を重ねた。
私は処女で、まーくんは童貞だった。
私たちは姉弟だけど、少し前までは他人だった。
いくら彼を小学生の頃から知っているとはいえ、自分とは違う造形に、日に日に男らしくなっていく顔と身体……
異性として意識するのに、そう時間はかからなかった。
それはきっと、まーくんも同じ。思春期を迎えた彼にとって、私は蜜にも毒にも見えただろう。
それに、父と母にとっては娘と息子である。どちらかが籍を抜いて他人に戻れば、社会的な建て前は守られる。それは、ようやくひとつに纏まった家族がまた壊れてしまうことでもあった。
事後になって、私は急に怖くなった。
自分たちのせいで、家族がバラバラになってしまうこと。
彼の私への気持ちが、一過性であること……
『まーくんのことは、弟としか思えない』
真っ白になった私が真っ青な顔をして告げたときから、まーくんは私を嫌いになった。
「弟とヤりまくってるのに、まともな男と付き合えるとか思ってんの?」
抓られた乳首はじんじんと熱を持ち、すっかり固く尖っていた。四つん這いになって垂れ下がった乳房が、手の動きに合わせてぐにぐにと形を変える。
焦らすみたいに乳輪の周りを擦られて、私は背中を軽く反らして悶えた。
すぐそこに唇があるけれど、それは決して、私の唇には落ちてこない。
キスをしたり、恋人のように甘い言葉を囁かれたりもしない。
彼はいつもこうやって、一方的に私を貪る。
本当は、一度だけキスを交わしたことはある。
まだこの行為が純粋だったときの話だ。
あのときの、なんとも形容しがたい幸せな気持ちをもう一度味わいたいなんて、思ってはいけない。
――当然だ。
私たちは「姉弟」で、「恋人」ではないのだから。
一番初めは、純粋な行為だった。
だけど次からは、彼を拒絶した私への縛めとして。
他の女を堂々と連れ込みながら、思い出したように私を抱く。
さっきのように、私が他の誰かと一緒にいるのを見たときには特に酷い。身体中に痕を散らして、人前で服など脱げない状態にさせられる。
「こんなに淫乱なくせに、普通の男で満足できんの?」
片手で乳首を弄びながら、もう片方の手が足の付け根へと伸ばされる。
行き着いた指の先で、くちゅりと卑猥な水音が響いた。
まーくんは、私の身体の弱いところを知り尽くしている。
彼しか知らない私の身体は、彼に触れられただけで簡単に火を灯す。
「すっかり俺に飼い慣らされてるのに、他の男で満足できんの?」
「ふ、あ、あ……っ」
「大したこともしてないのに、あんたのココ、もうグチャグチャじゃねぇか」
花芯へと突き立てられた指は、いとも簡単に飲み込まれていった。
言われるまでもなく、私のアソコはしとどに濡れている。
それは多分、服を脱がされるよりも前から。玄関で待っていた彼を見たときから。
……ううん、違う。
家の中に、彼がいるとわかったとき。
お義母さんから、『しばらく留守をします』というメールをもらったとき。
同僚には、わざと家まで送ってもらった。
そうしたらきっと、彼は私を抱きだがると知っていたから……
「は、相変わらず、やらしー女」
頂きを二本の指で摩りながら、埋めた指を動かしながら、まーくんが首筋に吸いつく。
「や……っ、そんなとこ、つけちゃダメぇ……!」
「うるさいな。隠したきゃ、勝手に隠せばいいだろ」
私の制止も無視して、わざと目立つところにキスマークをつけていく。
他人に見られるから困るんじゃない。
コンシーラーや、絆創膏なんかでは隠せない。
私が、思い出すたび切なくなるから。
蜜を纏った指が襞の間を掻き分ける。粘着質な水音を立てながら、小刻みに前後に動かされるたび、奥から零れたものが足の間を伝っていく。
ぐりぐりとかき混ぜられると、淫らな蜜で満たされたナカが波打っているようだった。
秘裂の上の蕾を親指で暴かれ、蜜を塗りつけられて、私は喉を反らして甲高い声を上げた。
指を増やされても、痛みすら感じることはない。むしろ、浸食される感覚に、悦びすら感じてしまう。
折り曲げた指の腹が、ざらざらとした一点を見つけて強く擦りつけた。
「あっ、ん、だめぇ、……そこ、いや、あ、あっ、ああ」
「だめ、じゃなくて、いい、の間違いだろ?」
あまりの快感にびくびくと揺れる腰を、まーくんは身体ごと押さえ込む。
「あー、指、食いちぎられそう……」
剥き出しのお尻にまーくんのジーンズが擦れて痛い。
だけど、その内側に隠された固いものを感じて、私の奥がきゅんと締まった。
「ひゃあっ、あ、……イク、ああ、イっちゃあああああ!」
どくんと身体が大きく波打って、目の前が、瞬く間に白く染まった――
大きく身体が浮いたかと思ったら、しばらくすると重力で身体がベッドに沈む。
腰だけを高く上げたまま力なく突っ伏していると、突然視界がぐるんと反転する。
「あ……」
ようやく見えたまーくんは、ジーンズに手をかけているところだった。
下着ごと引き下ろされたそこから、上向きにそそり立つ昂ぶりがぶるりと顔を出し、私は思わず身体を震わせた。
もちろん、寒気を感じたというわけではない。
私の期待は、とてもわかりやすかったのだろう。まーくんは緩く口の端を上げると、足の間にその身を落ち着かせる。
「……ひ、にん、は……?」
「ゴム、こないだ使い切ったんだよね。『彼女』だったら気ぃ使うけど、あんたは『彼女』じゃないから、忘れてたわ」
――彼女でもない相手とする行為では、ないのに。
それどころか、「他人」を妊娠させるほうがよっぽど取り返しがつかない。
だけど、まーくんが私にそんな気遣いをしてくれることはない。
彼女には配慮されることも、私にはわざと与えてもらえない。
まーくんは私のことを「あんた」と呼ぶ。
それまでは、「お姉ちゃん」と呼ばれることも、「紘乃」と名前で呼んでくれることもあった。
だけど今では、「あんた」と呼ぶ。
両親に咎められても、頑なに私を他人にしようとする。
姉弟ではないと、家族ではないと、言い聞かせるように。
――だからこれは、姉であることをやめようしない私への、弟からの復讐なんだ。
ぐずぐずに解れた蜜口に、太くて熱いものが押し当てられる。
狭い膣道を自分の形に広げながら、ゆっくりと、奥まで入ってくる。
「ひ……っ、あああっ!」
「あー、いい気分」
かみ合わない心とは裏腹に、隔たりのない身体はぴたりと重なった。
緩く腰を打ちながら、濡れた唇から出た真っ赤な舌が色づいた乳首を下から上にべろりと舐め、口に含んで強めに吸い上げられ、身体の奥がまた蠢いた。
「あん、あっ、……あ、あっ、はあ、あっ」
「だから、締めんな。出しちまうぞ?」
そんな動きじゃ、イケないくせに……
まーくんは、じっくりと私のナカに自分自身を馴染ませようとしている。
そんなことをしなくても、もう彼の形は覚えてしまっている。
「なんか言いたいこと、ある?」
ほんの少し顎を上げれば唇と唇が触れる距離で、まーくんが私に問う。
視界に、彼の潤んだ切ない瞳と、そこに映る私の蕩けきった顔が広がる。
こんな顔をして抱かれているのだから、私の気持ちなんてすでにわかりきっているのだろう。
口調は厳しいのに。手つきは乱暴なのに。
私を見つめる瞳だけはいつも優しい。
鎖骨に、肩に、首筋に、頬に――唇以外に、触れるだけのキスが落とされる。
早く言葉に出してしまえと、催促する。
好きと言えば、キスしてくれるの?
好きと言えば、名前で呼んでくれるの?
好きと言えば、彼女として大切にしてくれるの?
――そんなの嘘だ。
彼女なんかになったって、使い捨てされるだけ。
恋人同士なんて所詮は他人で、いつかは離れていってしまう。
新しい相手を次から次に取り替える彼が、私だけを選んでくれるはずがない。
だったら、私は姉弟の――家族のままでいい。
血が繋がらなくとも、いびつな関係でも、家族でいる間は私たちの絆が切れることはないのだから。
「まーくんは……弟、だよ……」
「まだそんなこと言うのかよ」
今日もまた繰り返されたやり取りに、まーくんの顔が苦しげに歪んだ。
「あっ、あ、んあっ、ん、は、あ、あっ」
律動が、速さを増していく。
いろいろな感情を混ぜながら、腰が激しく打ち付けられる。
彼の悔しさや、悲しさや、苦しさや、その奥に見える愛情を感じながら、私はひたすら喘ぎ続ける。
高みで果てるまでの間だけは、なにも考えなくていい。
彼の身体にしがみつくこのときが、一番幸せな時間だから――
「ああっ、……ま、さき……っ、将紀……っ、あああ、あああああああっ」
「……う、あっ」
掠れた声とともに、私のナカの彼自身が小さく震えて、熱いものが広がった。
「このまま、孕んじまえばいいのに……」
ぼんやりとした意識の向こうでまーくんの呟きが聞こえたけれど、あり得ない。
酷い生理痛に悩まされていた私は、数年前からピルを愛用している。
仕事に支障の出ないようにと理由で処方を受けているが、そんなことは建て前で、本当は避妊をしようとしなくなった弟に対する防衛策だ。
まーくんは、そのことを知らない。
弟は私に復讐している。
姉であることを後悔させようと、飽きもせずに腰を振る。
だけど私は、「好き」だなんて絶対に言わない。
私たちは、これでいい。
弟が復讐に燃えている間、彼は私に夢中だから……
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