甘い果実

桧垣森輪

文字の大きさ
4 / 4

第4話

しおりを挟む
「あ、やあ…ん……っ」
 胸を揉む手にほんの少し力が入るだけで声が上がる。はしたなく勃ち上がった乳首を桃哉くんの指がかすめるたびに甘い痺れが広がり、無意識に身体をくねらせて足は床を掻いた。
「妃沙実さん、可愛い」
 耳元で囁かれる声にさえ反応してしまう。硬くなった突起をつままれると、びくりと大きく身体が仰け反った。
「可愛い声、もっと聞かせて……?」
 手馴れた様子からは想像もできないくらい、呟いた一言からは余裕を感じない。 
 片方の乳首を指で弄びながら、桃哉くんは私の耳朶に唇を寄せた。ねっとりと柔らかい舌に舐め上げられ、熱い吐息を感じるたびに肌が粟立ち、どうすることもできない熱が身体の奥から沸き上っていく。
 耳の上から下までを丁寧に愛撫した唇は、首筋へと移動していく。濡れた感触と首筋や鎖骨に触れる彼の髪がくすぐったくて身を捩ると、首の付け根にびりっとした刺激が走った。

 キスマークなんて、何年振りだろう。長い間一緒に居れば、セックスもただの性欲処理になってしまう。身体の上に所有印をつけられることも久しくなかった。
 ただ……。首の付け根の次は、鎖骨、左右の胸の上部と、膨らみの下。正確に数えていたわけではないけれど、少々数が多すぎる気がする。
 月曜日は出勤用の服にも気をつけなくてはいけないかもしれない。

 呆けた頭でそんなことを考える余裕があったのはそこまでで、桃哉くんが胸の頂を口に含んだ瞬間に、息を呑むような快感が突き抜けた。
「あ、あっ、んんっ」
 絡めるように吸い付かれ、左右に何度もこねられる度に、堪えきれない声が上がる。今さら彼に女をアピールするなんてできないはずなのに、鼻にかかったような甘く甲高いを抑えることができない。
「や、あああっ」
 それどころか、先端を甘噛みされると、一際大きな声まで出てしまった。
「気持ちいいですか?」
 荒い息の向こうからの声に素直に頷くと、桃哉くんは満足そうに微笑んだ。
「妃沙実さん、すごく綺麗です。やっぱり昨夜は我慢して良かった」
「……どうして、昨日、しなかったの?」
 私は昨日、一晩中桃哉くんの腕の中にいた。わざわざ朝を待たなくても、寝込みを襲って食べてしまう時間はいくらでもあったはず。
「だって、せっかく妃沙実さんを抱けるのに、意識がないなんて嫌じゃないですか」
 言いながら桃哉くんは、私の髪を優しくかきあげた。

 性感帯でもないのに、なぜだか、胸がどくんと鳴った。
 何度も何度も、彼の手は私の髪を優しく撫でる。

 まるで、大切なものにでも触れるように。
 
「妃沙実さんには、俺とのことをちゃんと覚えておいてもらいたかったんです」

 私を見る慈しみに満ちた瞳に、すっかり囚われてしまった。
 よく愛するよりも愛される方が幸せというが、こんなにも誰かに求められたことが、果たして今までにあっただろうか。

 ああ、彼にはとても、敵わない――。



 桃哉くんの手が腰骨をなぞり、潤んだ茂みの奥へと潜り込む。
 蜜壺は突き立てられた指を難なく咥え込むと、掻き回されるたびにぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てた。
「んぁっ、……ああっ……ああっ…ん…」
 もう片方の手と口は、私の胸を弄び続ける。膨らみを揉み上げたかと思えば乳首を摘まみ、舌で嬲られ、絶え間なく与えられる快感に喘ぎ、秘所からは溢れた蜜が零れ落ちた。 
「こんなに感じてくれて、嬉しいです」
 合間に囁かれる声も、垣間見える笑顔も、すべてが愛おしい。
 奥まで指を差し込まれ、強く突き上げられる。それとは別に、親指は隠れていた蕾を擦り上げた。
「ああっ……い、いや……あっ、ああ!」
 全身を駆け巡る電流のような刺激に腰が揺れて、涙で視界がぼやける。
 彼から与えられる全てに心が震えた。

 彼に愛されたい。
 満たされたい。いっぱいになりたい。

「っはぁ……、とう、やく……ん」
 掠れた声で縋るように彼の名前を呼び手を伸ばすと、桃哉くんは少し困ったような顔を見せた。
「あんまり煽らないでくれますか?これでも我慢してるんですから」
 不意に赤くなった桃哉くんは、緩んだ表情を隠すかのように横を向いてしまった。
 本当に、大人なのか子供なのか、わからない。
 だけど、そんな反応すらも、ますます私に火を点ける。

「せっかくのチャンスを無駄にしたくないと言いましたけど、傷ついた貴女につけこんでいるという自覚はあるんです。だからせめて、優しくしたいと思っているんですから――」
 今度は彼が言い終わる前に、伸ばした腕を首に回して、力いっぱいに抱き締めた。
 
「いいよ……、私も、もう、桃哉くんが欲しいの」
 
「……本当に貴女は、平気でそういうことを言うんですね」

 桃哉くんは服を脱ぎ捨て、ズボンのポケットに入っていたお財布から銀色の包みを取り出す。
 心臓はさっきから煩いくらいに鳴り続け、ものすごい速さで鼓動を刻んでいる。
 動き出した気持ちは、もう止められそうにない。
 準備を整えた彼が再び私の上に覆いかぶさると、嗅ぎ慣れたものとは違う香りに包まれた。

「さっきの、もう一回言ってもらっていいですか?」
「さっきの……?」
「ほら、そういうところが子供なんですよ。それとも本当に計算ですか?」
 どちらが大人でどちらが子供かなんて、実際はいい勝負だと思うんだけど。
 それでもねだる様な視線に促されて、彼の欲している言葉を口にする。
「お願い、桃哉くんを頂戴?」
「いいですよ。俺にも、妃沙実さんをください」

 いいよ、桃哉くんが欲しいなら。
 だって、私も欲しい。
 私を包む腕が、身体が、体温が、匂いが、すべてが欲しい。

「もしも妃沙実さんが今日のことを許せないと思ったら、俺を利用して自分を慰めたことにしてください。例え遊びで終わったとしても、俺はこの時を後悔することはありませんから」

 ――桃哉くんは、どこまでも甘く優しかった。

 彼の首に回した手に力を込めると、それを合図に腰を掴まれ、割れ目には熱い塊が押し当てられた。
 硬い感触に、一瞬身体が強張った。
 十年も男が居たのだから、セックスだって数えきれないくらい経験している。

 ……だけどやっぱり、人によって違うのね。

「あっ、うそっ、……おおき、いっ」
「だから……そういうことを言うなって」

 思わず口に出てしまうくらい驚いた。いつも以上に押し広げられて、沈み込んでくる時の圧迫感も全然違う。別に元カレを陥れるつもりはないが、こればっかりは仕方がない。
 数だけこなした経験値は、畑が変わると通用しないものなのね。
「んんっ、ふあ……あああっ……」
 息の上がってしまった私をなだめるように、頬や唇にキスをしながら顔を覘き込んでは目で訴えてくる彼の方も、なんだか辛そうだ。
 何かに耐えているような顔は、きっと、私よりも色っぽいよ。
「妃沙実さんのナカ、すっごく気持ちいいけど、そろそろ、動いてもいいですか?」
 声にならずに二、三度頷くと、桃哉くんの腰がゆっくりと動き出した。
「あ、あ、……あん、ん、あっ……、んんっ」
 静かに前後に揺れていたかと思えば、円を描くようにゆるゆると回る。彼の動きに合わせて、私の口からは吐息交じりの切ない声が漏れる。
 まるで私の感じる場所を探すかのような動きにじりじりと追い詰められて、身体が熱を帯びていく。
 ――だけど、足りない。
 桃哉くんは自分のことを後回しにして、私を導くことを優先しているようだ。
 だけど身体は、もっと、違う何かを求めている。

 もっと奪って。私も、貴男を奪いたい。

「と……や、くんっ……もっと、もっとして……」
 奥へと導くように、ひとりでに腰が揺れた。
「……っああ、もう、貴方はっ。がっつかないようにしてたのに!!」
 言うなり片足を持ち上げられ、ずん、と奥まで力強く打ち付けられた。
「ひゃっ、あああっ、ん!!」
 急な刺激に、目の奥で火花が散った。
 一度先端まで引き抜くと、勢い任せに奥に叩きつけられる。
「煽った責任は、取ってくださいね……?」
 乱れた声で囁かれれば、また身体の奥に熱が帯びていく。疼きにも似た衝動を沈めたくて腰をくねらせれば、桃哉くんは私をより一層私を強く抱き寄せた。

 遊びでいいと貴男は言ったけれど、そんな大人な対応なんてできるはずもない。
 気がつけば、彼の背中に爪をたてて、必死に縋り付いていた。

 甘い、甘い、誘惑の香り。

 それはずっと近くにあって、蕾が開くのを待っていた。
 春に咲かせた花は、やがて熟した果実となる。
 鼻孔をくすぐる香りに痛みも忘れ、差し出された甘美な誘惑に、私は迷わず手を伸ばした。

 手にしたのは、善導の花か、悪魔の実か――。

 《 完 》
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

鍵山雛
2017.05.21 鍵山雛

う、カッコよすぎる
なんか大人な世界の中にもシリアス?なんというか、
そんな感じのものが混ざりあっていて面白かったです!
フリガナつけようとしたのかはわかりませんが、#がついている所がありました!

解除

あなたにおすすめの小説

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。