ヒーロー劣伝

山田結貴

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第二話 戦えヒーロー! デパ地下バトル

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 どうにか笑いのツボから脱却した美江は、KTHから徒歩十分程度の場所にある大手スーパーマーケット『金成かねなり』に足を運んでいた。
 最初は繁華街の空いている料理店にでも入って食事をしようと考えていたのだが、昼食時真っただ中だであることもあり、どこも混んでいて入店できなかった。
 その結果、惣菜が豊富に取り扱われているスーパーまで行くことにしたのだった。
「結構広いわね」
 店内は大手スーパーということもあってか、大変立派な内装をしていた。
 入口近くにはATMが三台。奥の方に目をやると、天井から複数の案内プレートがぶら下がっているのが見えた。その下にはずらりと商品が並んでいる陳列棚があり、訪れている客達が品定めをしている。
「さ、お惣菜。お惣菜」
 美江は案内の看板を頼りに、惣菜コーナーへと向かった。
「どれがいいかしら」
 惣菜コーナーの陳列棚には、多くの商品が並べられていた。
 それぞれおかずの違う種類豊富な幕の内弁当から、使い捨ての容器に入れられた天丼やカツ丼などといった丼類。コンビニでも売っているようなシンプルなおにぎりの他、パック寿司やカップみそ汁など、いちいち名を挙げていてはキリがないほどに品が充実している。
「私の料理のレパートリーより、種類多いかも」
「よし、次はこの……」
「?」
 圧倒的な品数にクラクラしていると、揚げ物コーナーの方からどこかで聞き覚えのある、特徴的な声が聞こえてきたような気がした。
「今のって……」
 嫌な予感を感じつつも、美江はすぐさま、そちらの方に顔を向けた。
「んー。前よりもちょっと味が落ちたんじゃねえか。担当者が変わったか?」
 その先にいたのは、試食品のメンチカツをブツブツ言いながら頬張っている永山だった。
 今日もあの高校時代からの使い回しと思われるボロジャージを、恥ずかしげもなく着ている。
 こんなところでヒーローと出くわしてしまうとは。何という忌々しい偶然だろうか。
「ちょ、ちょっとあんた。こんなところで何やってんのよ」
「あ? こんなところで会うとはな、地味女。KTHの回し者さんよ」
 美江が声をかけると、永山は嫌味ったらしい口調で言った。
 まだ口の中に食べ物が残っているらしく、若干聞き取りづらい。
「私の名前は地味女でも回し者でもないの。花咲美江っていうのよ」
「ふーん。花咲、ねえ」
 永山は冷たく言うと、ちらりと揚げ物コーナーのある部分に目を向ける。
 そこには、カニクリームコロッケがみっちりと並んでいた。
「何が言いたいのよ。名字とか名前とかで人をからかうのは、最低の部類に入るわよ」
「別に、何も言ってねえだろ。うん、こっちのポテトはなかなかいけるな」
 いくら睨みつけられようが永山は全く動じず、今度はメンチカツの隣りにある皮つきポテトの試食をつまようじでつついて食べ始めた。
「あのさ、試食品だからってちょっと食べ過ぎじゃないの」
「失礼な奴だな。俺は一種類の試食品につき二個までしか食わないってちゃんと決めてるんだよ。それ以上バクバクむさぼったりなんかしたら、スーパーの店員から目をつけられちまう」
「目をつけられるって。あんたまさか、いつもこのスーパーに来て試食品を漁ってたりするわけ」
「当然。暇な時に何軒かスーパーを回って試食品を食うことによって、食費が浮くんだ。どうだ、画期的な節約術だろ」
 こいつ、金の亡者なだけでなく守銭奴でもあったのか。こんな奴が地域の平和を守るヒーローなのかと思うと、本当に腹立たしい。
 美江は苦々しい顔で、目の前の永山をもう一度睨みつけた。
「ふふん。今日は朝の新聞配達と深夜の土木作業くらいしかバイトが入ってなかったから、優雅な試食巡りをするのにうってつけだったんだ。この前、特別手当を取り損ねさえしなかったら、ここまでセコいことを頻繁にやろうっていう気にはならなかったんだけどなあ」
 永山は試食に使っていたつまようじで口の中を掃除しながら、さらにねちっこく嫌味を吐いた。
 どうやら、先日のスクーター騒動のことをまだ根に持っているらしい。
「あんたさ、どんだけバイトしてるのよ。ねちねち倹約までして……そんなにお金が好きなわけ?」
「ああ、好きだよ。だーい好きだ。できることなら、札束と籍を入れたいくらいだ。さあ、今度はタダでデザートにありつくとするか」
「ちょ、ちょっとっ」
 ゴミ箱にひょいっとつまようじを捨て、足早に歩き始めた永山のことを美江は追いかける。
 その足取りや言動から判断すると、どうやら青果コーナーにでも向かうつもりらしい。
「何だよ、人の後ろについて来やがって。まだ何か用でもあるのか。今は怪人出てねえんだから、俺を監視する必要はねえだろ。てめえはストーカーか?」
「ストーカーじゃないわよ。あんたのことなんて、個人としてはこれっぽっちも興味ないんだから。ただ、色々と聞いておきたいことがあるってだけで」
 この最低な人格の持ち主と長く関わるにおいて、精神的負担というものは絶対かかるに決まっている。ならば、それを少しでも軽減するために、この男のことをなるべく理解しておかなければ。
 美江は、そういった理由で永山について来たのだった。
 例え監視中に辛辣な言葉を吐かれたとしても、相手の行動や思考のパターンを把握しておけば、「ああ、こいつはこういう奴だから」と割り切ることができる。そうなれば、仕事がぐっと楽になるに違いない。
「聞きたいこと? 相談だったら、一分につき千円よこせ」
「……は?」
 おい。今、下手な弁護士への相談料よりも滅茶苦茶高い金額をサラッと言わなかったか。
 一瞬聞き間違いかと思ったが、永山の平然とした態度を見た限りそうではないらしい。
「聞こえなかったのか。相談なら、一分につき千円だ」
「あ、あのね。私がしたいのは相談じゃなくて、質問なんだけど」
「ふーん。そうか、質問か。なら、一回につき二千円だな」
「……は? どうしてあんたに質問するのに、二千円も払わなきゃならないのよ!」
 あまりに理不尽な物言いに対し美江は憤慨する。しかし、永山は足も止めないままニヤッと笑った。
「今のは質問か? これで、二千円は確定だな」
「ふ、ふざけないでよ。どうしてあんたなんかに」
「はい、四千円」
「人の話を聞きなさいよ。何で質問しただけで、こんな法外な額を」
「六千円だな」
「どうしてって言ってるでしょうが!」
「八千円かなあ」
「だーかーらーっ!」
「はい、一万円達成だ。おめでとうございまーす」
「……」
 この外道。性格が悪いのは重々承知していたが、これほどまでにひどいとは。ここまでたちが悪いからかい方は、生意気な小学生でも実行しないだろうに。
 「ああ、こいつはこういう奴だから」という心理に持っていく前に、想定外の発言の数々のせいで泥沼にはめられた美江はすっかり疲れ果ててしまった。
「ふん。やっと黙る気になったか。あーこれで優雅なデザートタイムを満喫できる」
 青果コーナーに着くと、永山はきょろきょろしながら辺りをほっつき歩き始めた。
「今日もなかなかいい試食がそろってんなあ」
 扱っている商品が多いだけに、用意されている試食品もまた目移りするほどに豊富であった。
 永山はしばらくフラフラした後、みかんの試食の前で足を止めた。
「呆れた」
 この男は、いい歳をして毎日のようにこんなことを繰り返しているのだろうか。ヒーローとしてうんぬん言われる以前に、まずは人としてもどうなのか。
 無邪気な子供達に混じって試食品をむさぼる永山の背中を美江が軽蔑の眼差しで睨んだ、その時であった。
「お、お客様。困りますっ。おやめ下さい!」
「!」
 女性の悲鳴が突如響き渡り、店内の和やかな雰囲気が一変した。
 周囲の客達は皆、何事かと悲鳴のした方に顔を向けたり、その先に行ったりと人間の心理としては妥当であると考えられる反応や行動をし始めた。だが。
「うん? 今のは別に、俺に対して叫んだわけじゃねえんだな。だったら、どうでもいいや」
 永山はそう一言発しただけで、また試食品の方へと向き直ってしまった。
 みかんの次は、グレープフルーツに手をつけている。
「あんた、悲鳴が聞こえたってのに、駆けつけようとか思わないわけ? 仮にも、地域を守るヒーローでしょ」
 美江は、永山のヒーローとしてあるまじきリアクションを強くとがめた。
 それでも彼は関心のなさそうに、果物にしゃぶりついている。
「俺はヒーローと言っても、怪人退治専門のヒーローだから。どうせ今のは、女の店員がドスケベでキモいオヤジに尻でも触られただけだろ。そういう奴への対処はな、警察か警備員の仕事だ」
「そうかもしれないけど、人としてそれはどうなのよ。専門以外のトラブルだったとしても、ヒーローと名のつく存在としてどうにかしてあげようとか思わないわけ?」
「ヒーローは便利な雑用係にあらず。そんな心情、ゴミ屑ほども湧かねえな。無料奉仕ってのは、ボランティア団体とアンパンマンくらいしかやらないものと思え」
 こいつの発想は、どこまで下衆な構造になっているのだ。ここまで貫かれると、逆に笑えてくる。
 美江が心の中で毒づいていると、永山の手首についている通信機から音程が外れ気味のクラシック曲が流れてきた。
「ちっ。黒沢か。どいつもこいつも、人のデザートタイムを邪魔しやがって」
 永山は露骨に不愉快そうな顔をしながら舌打ちをすると、試食品の横にある布で指先を拭き、慣れた手つきで通信機のタッチパネルを操作した。
「永山君、出るのが遅いよ。一体、何してたんだい」
 通信機から、黒沢の声が聞こえてきた。
 美江が背伸びをして横からのぞき込むと、画面の中に不機嫌そうな作り笑いがあるのを確認できた。
「バイトですよ、バイト。俺はね、毎日忙しいんです」
 永山は、かったるそうな口調で大ぼらを吹いてみせた。
 本来ならば、この機械にはテレビ電話のような機能があるはずなのだが、カメラがついていると思われる部分にはしっかりとガムテープが貼りつけられているので、通信相手はその嘘を簡単には見破れそうにない。
「はいはい、いつも勝手にご苦労様。で、本題に入るよ。ついさっき、KTHの近くにある『金成』っていうスーパーに怪人が現れたって情報が入ったんだ。早急に向かって」
 何という偶然だろう。ちょうど『金成』にいるところなのだが。
 それはつまり、先程の悲鳴は怪人によるものであった可能性が高いということだ。
 一般的な感性の持ち主のヒーローならば、これだけ聞けばすぐに怪人の元へ向かい、任務の遂行を速やかに行うのだろう。
 ……普通はそうなのだろうが、この外道は一味違った。
「え、『金成』ですか? ここからだとめっちゃ遠いんですけど。バイトは昼休み中だから中抜けしようと思えばできますけど、交通費という問題が生じますねえ。タクシーで飛ばしていくらになるやら……当然、そちらの方でお支払いしてくれるんですよね?」
 永山は自分がどこにいるのかを知られていないのをいいことに、交通費という名目で特別手当を要求し始めた。
 この男、最低だ。最低にもほどがある。
「すみません、黒沢さん。私です、花咲です。聞こえますか?」
 ついに我慢しきれなくなった美江は、通信機に向かって声を張り上げ始めた。
 永山はそれを見て「げっ! や、やめろっ!」と言いながらどうにか制止しようとしたものの、それでもなお美江は「聞こえますかー!」を連呼する。
 店内の客が悲鳴よりも二人の珍妙なやりとりの方に注目し始めたのだが、そんなことは気にしていなかった。
「え、花咲君? 永山君と一緒にいるのかい」
 ようやく美江の声が届くと、黒沢はキョトンとした様子で首をひねった。
「ええ。ついさっき偶然出くわしたんです。スーパー『金成』で、彼が試食コーナーを漁っているところに」
「ほほーう。永山君、君は今『金成』にいるんだね。聞いた話とずいぶん違うようだけど?」
 黒沢は、モニター越しに冷淡な眼差しを向けた。
 永山はというと、大変ばつが悪そうにしながら束ねている後ろ髪をいじっている。
「君って、そういう嘘も平気でつくんだね。いつもプライバシーがどうこう言ってくるから、通信手段であるKTシーバーにGPS機能をつけてはいなかったけど、どうやらそれを検討する日が来たようだね」
 以前小耳にはさんだ『KTシーバー』というのは、永山が手首につけているハイテク通信機の名前だったらしい。
 この状況で思うことではないのかもしれないが、『KTシーバー』といい、『ナーゾノ星』といい、KTHに所属してからまともな固有名詞を聞かないように感じられるのだが。
 美江が余計なことを考えている間にも、男二人の会話は続いていく。
「ま、まあ、今回のはほんの出来心ですよ。スクーターの修理費とかで、出費が重なったものですから。しかし、よかったですねえ。大変優秀な監視役を雇えたようで」
「僕はこう見えても、人を見る目はある方だと思ってるから。人選ミスだって、一回くらいしかしたことないし」
「おやまあ、そうですか。たった一度しかミスをしたことがないなんて、大変うらやましい限りですよ。俺なんて、今までに数えきれないくらいのミスをしてしまいましたからね。まず、黒沢さんみたいに嫌味な人を上司に持ってしまったこと。次に、黒沢さんみたいな皮肉屋を上司に持ってしまったこと。極めつけは、黒沢さんみたいな方と人生のうちに出会ってしまったことでしょうかね。ああ、ヒーローと言う名の肩書きに踊らされ、サラリーマンに毛が生えた程度の給料で日夜命がけで怪人退治をさせられている俺は、何てかわいそうな人間なのでしょうか!」
「き、君って奴は」
 永山が不意打ちの如く一気にまくし立てると、黒沢の表情が引きつったまま凝固した。
 いくら内容が屁理屈に限りなく近く、道理に適っていないものだったとしても、まとめて罵声を浴びせられれば心が折れて当然だ。
「い、嫌味と皮肉がひどいのは僕じゃなくて永山君の方だろう。そんな口の悪い人、どこを探したってなかなかいるもんじゃないよ。うう……」
 KTシーバーから涙声がもれる。これでは、せっかくの美声が台無しだ。
「素敵な褒め言葉、まことにありがとうございます。ま、怪人退治の方は渋々ながらヒーローとして遂行させていただきますので、黒沢さんはその若作りの老体にムチでも打って情報収集以下等々にご従事下さいませ」
「わ、若作りって言わないでくれないかな。僕はねえ」
「以上」
 永山は黒沢の年齢ネタに触れてとどめを刺してから、強引に通信を切ってしまった。
 何気に気になってはいるのだが、黒沢は一体何歳なのだろうか。
「さーてと、程よくむしゃくしゃしてきたところで怪人を倒すとするか」
 美江がさらに余計なことを考えている間に、永山は数分前に女性の悲鳴が響いてきた方へとスタスタ歩いていった。
 その口振りから判断すると、怪人に八つ当たりをする気満々らしい。
「ま、待ってよ!」
 小走り気味にその背中を追っていくと、精肉コーナーに辿り着いた。
「げっ。な、何あれ」
 加工された精肉商品が多く並ぶ中、一際目立っていたのは品物ではなくウインナーの試食品の前であった。
「お客様、いい加減にして下さい! 試食というものはお一人につき一つから二つまでが限度というものですよ!」
「んむんむ。これはガーリック風味がきいていてなかなか。こちらは……レモンの香りがたまらない」
 すっかり半泣きになってしまっている若い女性店員に怒鳴られながら、口髭をたくわえた年配の男性が試食品を端から端までむさぼり尽くしている。
 男性はベージュのカーディガンにジーンズといった、どこにでもいそうなおじ様みたいな風貌をしているが、七三に分けられた白髪からニョキッと飛び出した角が、彼が人間ではないことを表していた。
「何? あのおっさん。そんなに飢えてるのかな」
「意地汚いなあ。角のコスプレに金使うんなら、飯買えよ」
 そこらに群がる野次馬達は、怪訝そうにしながらヒソヒソと話をしている。様子から察するに、誰も目の前の男が怪人だとは夢にも思っていないようだ。
「あれ、怪人よね? やってることセコ過ぎ……」
 一応、試食品をむさぼり倒すということ自体はかなりの迷惑行為であり、周囲の秩序を多少は乱すかもしれない。だが、怪人が行う悪行としてはあまりにもセコいのではないだろうか。
「あの野郎。何ていい根性をしてやがるんだ。いくら俺でも、あそこまでバクバク試食を漁ったりなんてしねえぞ。ま、でもウインナーはここに来て真っ先につまんどいたから食いっぱぐれなくて済んだな。俺への直接被害はなしだ。良かった、良かった」
 おいコラ、下衆発言はやめろ。
 美江は自分の利害のことしか考えていない永山に白い目を向けた。
「はいはい、ちゃんと仕事はするから睨むなよ。形はどうであれ、ジロジロ見られるのは好きじゃねんだ。ったく、かったりいなあ」
 永山は面倒臭そうに言うと、強引に人混みをかき分けながら怪人の元へと歩いていった。
「おい、怪人。食事の時間は終わりだぞ」
「んむ?」
 角をわし掴みにされると、怪人は試食に伸ばす手を止めた。
「何だ君は。人の食事を邪魔するとは、今までどのような教育を受けてきたのかな。その汚い手を、速やかに角から離しなさい」
「角から手は離さねえが、角をてめえの頭からなら引きはがしてやるよ」
「おお、君は地球人の中でも大変野蛮な性質をお持ちでいらっしゃるようですな。ならば、このわたくしがその性質をしっかり正してあげるといたしましょう」
「は? てめえ何言って……うわっ!」
 次の瞬間、美江には目の前で何が起きたのかがすぐには理解できなかった。
「ふふふ。よく飛びますね、地球人は」
 怪人がほんの少し振り上げた腕に当たっただけで、永山は大きくはじき飛ばされてしまった。
「いてえ! うぐっ……」
 しばらく空中を泳いだかと思うと、商品が並べられているワゴンに背中を強打し、痛みに表情を歪めた。
「永山が、あんな一発で……」
 チンピラ怪人と戦った時に、あれだけの強さを誇っていた男がたったの一撃で。
 美江は俄には信じられず、口元を手で覆ったまま固まってしまった。
「んむ。食後の運動も済ませたことですし、わたくしはこれにて。ああ、明日はどこを巡ろうか。楽しみで仕方がない」
 怪人は涼しげに言うと、ざわつく周囲を尻目にいずこへと去っていった。
 突然の出来事にざわつく周囲。この場には、彼を追う勇気のある者はいないようだった。
「うー……」
「あ、だ、大丈夫?」
 しばらく呆然としていた美江であったが、うめき声が耳に入ると床でひっくり返っている永山の元まで行き、抱き起した。
「頭とか打ってないわよね」
「うぐぐ。あの野郎、見かけによらずとんでもねえ馬鹿力だったな。くそっ! 治療費ふんだくる前にずらかりやがって。そこが一番ムカつく……いてて」
「ちょっとでも心配した自分が馬鹿みたい。金がどうこう言えるなら、バリバリ元気そうね」
 論点がずれた一言を聞くなり、美江の中で永山を心配する気持ちがしゅるしゅるとしぼんでいった。
「いてっ! な、何すんだてめえっ!」
 ポイッとヒーローの頭を放るように床へ投げてから、「はあ……」と深い溜め息をついた。
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