ヒーロー劣伝

山田結貴

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第五話 狙われたヒーロー! 遊園地の決戦

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 ヒーローとは、弱きを助け悪をくじく正義の象徴。
 その人気というものは今のご時世でも健在であり、子供達がヒーローの活躍の模倣をして遊ぶくらいに、偉大で影響力のある存在として描かれることは暗黙の了解であったりする。
 しかし、全てのヒーローがそうである保証はどこにもない。

「皇帝って、一体何者なのかしら」
 KTHの丸イスに腰かけながら、美江は一人考え事をしていた。
「あの、アホみたいなことばっかりする怪人達の親玉なのよね?」
 何かとセコかったり、どことなくずれた悪事ばかりを働く怪人の魔の手から、地域の平和をこっそり、さりげなく守るために存在しているKTHに勤めるようになってから早数か月。美江は、ヒーローの数々の活躍によって打ち倒されていった怪人達が度々口にしていた『皇帝』とやらが気になって仕方がなくなっていた。
 今まで地球に現れてヒーローに退治されたナーゾノ星人達は、皆皇帝の指示に従って動いていたのだろうか。それとも、自身の星に住む住人の統率がとれないほど、皇帝に君主たる者が持つべき才能がないのが事態の原因なのだろうか。考えれば考えるほど、謎は深まるばかりである。
「あのー……花咲君。ちょっといいかな」
 聞き心地の良い美声の響いた方を向くと、黒沢が困り顔を作っていた。
 その手には緑茶が入った湯飲み茶碗が握られており、それには何故か『七転八倒』と書かれている。普段の彼と重なる部分があるだけに少し滑稽であるとも言えるのだが、湯飲み茶碗に書かれる言葉としては、普通は『七転八起』とかがふさわしいのではないだろうか。
「どうかしましたか。また、怪人が出現したんですか」
「そうじゃなくてさ……その。はっきり言わせていただくけど、職場で堂々と求人誌を読むのやめてくれないかな。気持ちの方は、わからなくもないんだけどね」
「あ……」
 美江は少々申し訳なさそうにしてから、目を通していた求人誌をそっと閉じた。
 いつだかに激昂して永山の股間を蹴り上げて以来、ただでさえ良好とは言えなかったヒーローと監視役の関係が、ますます険悪なものとなってしまっていた。
 いくら永山の方に原因があったとはいえ、暴力行為に手を染めてしまった以上、ほんの少しくらいは自分にも悪かった点がある。非を認めて謝ることができればすっきりしそうな気もするのだが、いかんせん相手は周囲から外道呼ばわりされるほどの性根の持ち主。そういった流れに持っていくことすら至難の業だ。
 もういっそ、あんな奴と顔を合わせたくない。職さえ変えられれば……。
 そんな心の動きが、美江に職場で求人誌を読むという行動をとらせたのだった。
「もしかして、この前の外道君とのことを気にしてるのかい。あれのことならちらっとだけ聞いたけどさ、百パーセント外道君が悪いって。花咲君には、ミクロほどの落ち度もないよ。だから、あんな奴のために心を痛めることはないよ。彼だってさ、めずらしくそれについてどうこう言ってくる様子はないんでしょ。多分、自分が言い過ぎたってことを多少は自覚してるんだよ」
「でも、例えあいつがあんなでも罪悪感というものが。あの時はカッとなってしまいましたけど、やっぱり私もやり過ぎたかなと」
「まあまあ。自分を追い込んだらろくなことにならないよ。ストレスって、本当に恐いんだから。そんなにくよくよしないで……ん?」
 会話の途中、流れを遮断するようなタイミングで黒沢のパソコンから電子音が流れた。
「また怪人かな」
 黒沢はそう呟いてから『七転八倒茶碗』を置いてパソコンを操作し始めた。
「うわあ……これは」
 落ち着いた知的な顔立ちが、みるみるうちに渋いものへと変化する。
 その様子が気にかかった美江は、すぐさま声をかけた。
「どうかしたんですか」
「いや、怪人の情報が本部から送られてきたんだけどさ。今回のはかなり悪質みたいなんだ」
「悪質って、どんな風にですか」
「一般人が、ショーの途中でいきなり襲われたらしいんだ。幸い怪我は、軽く済んだらしいんだけど」
「えっ!」
 怪人が人間を故意的に傷つけたという事例は初めてではないだろうか。
 しかも、話が過去形であることから推測すると……。
「もしかして、その怪人はもうどこかに逃げてしまったんですか」
 美江の問いに、黒沢は静かにうなずいた。
「そうみたいだね。本部からの連絡は、いつもは怪人が現場に留まっているうちに届くんだけど、今回は悪事から逃走までの行動が異常に早かったらしいんだ。まるで、ある目的だけに狙いを絞って動いたみたいにね」
 確かに、今までの怪人は己の気の向くままに行動し、連絡が入ってから駆けつけても間に合うことの方が多かったくらいに滞在時間が長かった。しかし、今日出現したという怪人は、明らかにそれらの事例とは違う。黒沢の推理は、おそらく正しいのではないだろうか。
「花咲君。悪いけど、今から怪人が現れたっていうC区のデパートの屋上に出向いて情報を集めてきてくれないかな。本部からの連絡がこんな調子だと、今後送られてくる情報にも全く期待できないし、直接当事者から話を聞いた方がわかることも多いと思うんだ。ヒーローの監視役っていう普段の役割とはちょっと違うけど、その分給料に上乗せするからさ」
「わかりました。では、早速向かいます」
 美江は命じられたことをすぐに受け入れ、KTHを後にしようとする。
 だが、その途中で黒沢が「あ、ちょっとストップ」と言って呼び止めた。
「何ですか」
「あのさ、現場には迅速に向かった方がいいってやっぱり思わない? だからさ、スーパースーツ着て転送装置でひとっ飛びしてみない? その方が、効率もいいし手間も省けるよ」
「う……」
 あの、ヒーローにボロカスに言われる変身スーツと同じデザイナーが手掛けたという、恐怖のスーパースーツ。それを身につければ、身体の耐久性が象に踏まれても平気なくらいに跳ね上がり、使用後に移動先の宙へと放り出されるという転送装置のリスクをなくしてくれるという代物であるが、着たくないものは着たくない。
「前から嫌だって言ってると思うんですけど、どうしてそんなに勧めるんですか」
「だから、そうした方がうんと効率がよくなるからだって。それに、スーツを手掛けた彼のデザイン力が向上したのかどうかも気になるところだし。実を言うと、花咲君に支給されたスーツがどんなものなのか、まだ僕も見てないんだよね」
「……」
 何か前半のもっともらしい理由より、後半の興味本位的な部分の方が勧める動機として強いように聞こえたのですが、気のせいでしょうか。
 美江が言いかけた時、どこからか着信音のようなメロディが流れ始めた。
「げっ!」
 すると、饒舌だった黒沢の顔が青ざめ、冷や汗までかき始めた。
 そして、自身の服のポケットから携帯電話を取り出して溜め息をついた。
「どうかしたんですか」
「い、いやいやいや。ななな、何でもない。よし、花咲君。転送装置はまた今度ということで、お仕事頑張ってきて。てことで、レッツラゴー! ははは……」
「?」
 黒沢はイスを回転させてくるりと背を向けると、電話に出てごにょごにょと話し始めた。
 その内容は、あまりにも声が小さくて聞き取ることはできない。
「何だか知らないけど、助かったみたい」
 美江は突然の電話に感謝しつつ、早足でKTHから出ていった。
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