二人のおっさん

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「着いたな~日本海キレイやな、な!?」
「説明しろよ!」
叫んだ声が崖の上から日本海に向けて溶けていった。

「何がやねん。大きな声出すなや。周りの人びっくりしてるやんけ」
「あんな大事件起こして、『着いたな~』じゃないんすよ。説明しないと読者さんが困るだろうが!」
「読者さん?訳の分からんことを言うな!」
「今さらメタ小説じゃない体でいこうとすんな!」

やれやれ、というようにアメリカ人さながら両手の平を上に向ける姿がこんなにも腹立たしいおっさんも近年稀に見ないだろう。

「まぁ、確かにたまたまあの地方の信仰してるものが人魚やったとは驚きやったよな~、確認したくなる気持ちも分からんでもないわ。」
「っていうか、そんな事あります?」
「『事実は小説より奇なり』っていうやん」
「小説なんよ…これ。」
小さな呟きは空に消えていった。

波が岸壁に当たる音を聞きながら、千畳敷の岩肌の上で大きく伸びをする。
「いやぁ、改めて。着いたな~、絶景やな。」
「語彙力が凄い勢いで無くなってますけど、確かにキレイな場所ですね。」

日本海が目の前に広がり、景観の為か手すりやフェンスが一切ない。
福井県にある東尋坊は一度くらい来てみたい場所なのは間違いない。

伸びをしたまま左右に揺れるおっさん。そして、首を鳴らし。
「よし、帰ろか?」
「早くない!?」
「えっ?」
「いや、まだ来たばっかりですよね?」
「いや、見たやん。えぇ景色やったな。」
「早すぎるでしょうが!こんなに数時間バイク走らせて、滞在時間5分も経ってねぇよ。」
「大丈夫、とある小説家は京都市内に住んでた時、夏場の舞鶴に原付で5時間かけて行って牡蠣だけ食べて15分の滞在をしたことがあるから。」
「やべぇ塚口もいたもんだ…」

断崖絶壁、まるで東○のオープニングの様に波しぶきが絶え間なく聞こえてくる。

「かといってなぁ…特にすることもないからなぁ。」
「ハイダイビングをするっていうのはどうですかね?前にテレビで見たことがありますけど。」
「バカかお前は!死んでまうわ!あれやろ、27メートルから飛び込むやつやろ?」
「そう、それです。」
「素人がするものちゃうねん。怪我で済まんて。」
「人魚だから、飛び込むの得意じゃないんですか?」
「お前、見たことあるんか。人魚がそんな高いところから飛び込んでんの!」

ひとしきり揉めた後で聞き捨てならない言葉を最後に聞いた。

「そもそも、ここ海やん。俺達、淡水でしか生活出来ひんし。」



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