塚口真司短編集

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人はそれを○○と呼ぶ。

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人いきれの街の中、群青色の空が人の体と比べ巨大なビルの隙間から遠くに見える。
周りの声が聞こえないように、イヤホンから流れるアルペジオの旋律に心を委ねながら特に示し会わせた訳でもない人々の流れに沿うように建物の外へ吐き出されていく一人になる。

年の瀬でいつもより多い人混みを見つめながら、『俺は何をしているんだろうな』という思いを結局持てなかったままこうして繁華街まで来てしまった。

子供の時から、人の顔色を伺う事が多い子だったと自覚している。
すぐに怒りをあらわにし、感情をぶつけ、言いたいことだけを言う大人がすぐそば、最も近くに居たからなんだと思う。
こうはなるまいと反面教師にし、人生を歩んでいくと、どうにも他人が地面に埋まった地雷の様に何がきっかけで爆発するのか分からないモノなんだと接する様になってしまった。

駅前の広場は数ヶ月見ない内にいつの間にか綺麗になっており、端っこの方に追いやられていた喫煙所が、跡形もなく消えてしまっていた。
イヤホンをしたまま口の中で「ここもか」と呟きながら、心の中で舌打ちをし、出来るだけ人が多い方へ足早に歩いていく。

だからだろうか、たまにどうしようもなく自分は他人を本質的な所では見ていないのではなかろうかと思ってしまう時がある。
そして、あの人の血がこの体を巡っているということが時々堪らなく嫌になり、子供の時から□□と思うことが度々あった。

この辺で一番有名なS商店街は週末になると、人が塊になって地面すら見えない程集まってくる。増えてきた薬局の店舗や外観が変わらない豚まんが有名な中華料理屋の本店を横目に特に目的も無く只ひたすら、人の波にのまれていく。

相手の事を思い考える事と、相手を怒らせない様にするという事は時々同じ結果を生む事に気付いたのは最近だった。そう思ってしまうと益々自分の事が嫌いになっていくと実感し、そうなると街での人の話し声すら恐くなり音楽を聴きながらじゃないと人の沢山居るところは歩けなくなってしまった。
そんな折、もう数十年も逢っていなかった件の肉親から手紙がきた。
内容を読んで、いろんな感情がない混ぜになったまま一週間経った今、こうして人が恋しくて有名なカニの看板がある橋の前まできてしまった。

一体、俺は何をしてるんだろうか、悲しいのか、ざまあみろと思っているのか、嫌なのか、嬉しいのか、逢いに行くのか行かないのか。とやっと自問自答でもしてみようかという気持ちになり近くの喫茶店を検索しようとした時に。

掌の中でブブッと振動した。


沢山の人の中で、結局俺は独りなのだと、独りになってしまったのだと。
震えるスマホに出ることもせず握りしめていた。

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