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第二章 シルフェリアとの別れとイリスの覚悟

56話 「グリプス王国」その3

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ようやく市街地に入ったエリカ達。
文明レベルが高い地球人?が好き放題して想像以上にグリプス王国がヤバい国で何だか少し疲れて来ている。

街並みを見てエリカが早速ツッコミを入れる。

「やっぱりねぇ・・・高層住宅まであるじゃん・・・やりたい放題だねぇ」
何と無く予想はしていたがコンクリート製の10階建て程の建物がチラホラ見える。
しかも1フロアーで10世帯程の結構大きいマンションだ。

「あんな高い建物・・・人の重みで倒れませんの?」
シルフィーナも初めて高層住宅を見るのか怪訝そうだ。

この世界の一般住宅は2階建てが普通で軍事施設や官庁施設以外で10mを超える建て物はほとんど無い

「うーん・・・建て方を間違えない限り大丈夫だよ?多分」
さすがのエリカさんでも建設物の知識はそんなに多くは無い、お城の知識は凄まじくあるマニアなのだが。

10階に限定されているのは、おそらく火災が起きた時に対応出来る限界が10階だったのだろう。
その気になればもっと高い建物を作れると予想出来る。

グリプス王国首都の街並みは印象的には地方にあるちょっと大きな街の駅前の住宅地と思ってくれて良い。
中心部にも空き地も多くまだまだ開発段階なのだろう。

「そうですね、あの手の高い建物が出来てから50年くらい経つらしいですが今まで倒壊した話しは聞いた事ありませんね。
ただ上の階になるほど人気が無く、現在は若い軍人しか住んでいません。
毎日の階段の登り降りが結構キツいので訓練も兼ねてます。
私も毎朝良いトレーニングになってますよ」
そう言って笑う若い軍人のハドソン隊長は問答無用で10階にお住まいの様子だ。

「あー・・・なるほどー」
《あー良かった!EVが搭載されて無くって良かった!》と思ったエリカ。

「その対策で箱に人を乗せて上下させる装置の開発を急いでいます」

「いや開発してんのかい!」思わずツッコミを入れるエリカ。
ほぼ地球から転移または転生した者が国王なのは確実だ。

「ちなみに国王陛下のお名前は?」
「トシゾウ」とか言われたらどうしようか?とドキドキのエリカ。
ちなみに利蔵さんとは絵梨花さんのお父さんの名前だ。

「現国王陛下は「ロテール」陛下です」

「あっ・・・良かった。普通だ」

「え?」

「いえ、何でもありませんよ?」

「ロテール王の在位は建国以来通算で250年ほどと聞き及んでおります。
幾度か国王は変わりましたが、その国王がお亡くなりになられると、また国政をロテール陛下にお願いをしているそうです」

つまり若い者に国王の座を譲り、その国王が老衰や病気などの理由で亡くなるとまたロテールが国王になるのを繰り返していると言う訳だ。

異常に長い通算年数だが住んでいる者達にして見れば、自分が産まれた時には既にロテールは居るので「それが普通」なので誰も気にもしていない様子だ。

「ええ?!通算?で250年・・・ええー?マジですかー?」

「はい、250年です」

一気に地球人とか言うより「人間」ですらかどうかも怪しくなって来た。

「エリカ将軍の話しをしたら陛下も凄くお喜びで是非とも来て欲しいとの事です」

「それは光栄な事です」
そう言ってニコリと笑うエリカ。
エリカも当然、こんなに異世界で好き勝手してるヤツの「顔を見て見たい」と思っている。
そんな不敬は絶対に口には出さないけどね!

街中の雰囲気は、活気は有るがやはり市場や道端の露天に食糧品が少ない、飢饉とまで言わなくても食糧不足なのは本当の様だ。

空き地は勿論、街の至る所で自家栽培と思われる小さな畑が見える。
おそらくは住民が少しでも食料不足を解消しようと自主的に赤カビに強い生命力の有る芋などを栽培して凌いでいるのだろう。

ここは海に比較的近いので海産物なども入手出来れば違うのだろうが、この動乱の中で城塞の外で漁をするのは敵の攻撃が多くて厳しいのだろう。
市場に生魚は無く干物などが多い。

「他国から食料品の輸入とかはされて無いのですか?」

「前に小麦に毒物を混入されて以来、国家間の取り引きは中断して現在は信用出来る少数の武装商人からしか買い付けてません」

「それはまた・・・随分と卑劣なやり方ですね」

一般市民の食料品を戦や政治の道具に使うのは如何なる理由が有っても、卑劣、下劣、愚劣とあらゆる卑下の言葉が当てはまる愚行だと言えよう。
「そのカス共、マジで叩き潰してやりたいなぁ」と物騒な事を考えてるエリカだった。

話しに出て来た「武装商人」とは、この動乱の時代に台頭してきた亜人達による傭兵と商人が合わさった集団である。

商品のお値段はお高いが国や集落から依頼された品物を野党とか通商破壊を行う敵軍を蹴散らせながら運んで来る超武闘派集団である。

龍騎士隊イリスも定期的に実戦訓練を兼ねて武装商人をして外貨を稼いだりする事が多いのだ。

「栄え有る貴族がそんな商人紛いの事をやる事は認めん!」と気位の高い人間の国家では国軍や領軍が武装商人をやる事を認めている国は少ないが、ラーデンブルク公国では認められている。

貰えるモンは貰う精神だね。

そんな話しをしていたらいつの間にか王城へ到着した一行。
果たして国王ロテールとはどんな人物なのか。

「意外と王城は普通ですのね?」
シルフィーナの指摘通り王城は小ぢんまりとした普通の古城だった。

「陛下は敵が攻めて来た時、毎回城兵と共に市街の外で討ち死にするつもりなので本城に手をお掛けになりません」

「そうなんですね?」
ただ異世界チートで好き勝手しているだけと思ったが、かなり強い信念を持っているのだと知りロテール国王に対する認識を改めるエリカ。

その言葉の通り正門は開かれたまま丁番は完全に錆びついている。
門を閉めるつもりは全く無い様だ。

中に入ると大きな中庭が有り、花では無く芋や野菜が栽培されていた。

良く見ると鶏小屋や山羊小屋まであり「コッコッコ」「メー」と長閑に鳴いている。

「陛下は自給自足で自炊なされております」
シルフィーナからのツッコミが入る前にぶっちゃけるハドソン隊長。
これも昔から「こう言うモノ」なので誰も変な事だと思っていないらしい。

中庭の奥に進むと野外の炊事場で何か料理を作っている女性の老人が居た。

「ロテールって名前なのに女性なんだ」とかエリカが言いそうだが何も言わない。

「あのお方がロテール国王陛下です」
小声でハドソン隊長が教えてくれる。

「やっぱり自炊してんだ・・・」とツッコミを入れる者はいない。

何故なら楽しそうに料理をしている老人の穏やかで馬鹿デカい気圏に飲まれて全員誰も声を出せないからだ。

「仙人?」

ようやくエリカから口から出た言葉がこれだ。
グリプス王国の国王ロテールはやはり人智を超えた存在だったのだ。

するとロテールはエリカ達の方に向き笑顔で

「こんな遠い所まで良くおいで下さいましたね。
皆様もお腹が空きましたでしょう?今ご用意しますね。
あちらに席をご用意してますのでお座り下さい。
ハドソン?いつまでもお客様を立たせていてはいけませんよ?」

「はっ!?・・・あっ・・・はい!失礼致しました!皆様!こちらへどうぞ!」

ロテールに促され慌ててエリカ達を席に案内するハドソン隊長。
その案内に従い大人しく席につくエリカ達。

ハドソン隊長が手伝いに呼ばれ、用意されたテーブルにエリカ達だけになると小声でシルフィーナが口火を切った。

「あの方の力は何なのでしょう?」

エリカ達なりにロテールの正体の考察が始まる。
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