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第二章 シルフェリアとの別れとイリスの覚悟

69話 「死霊の軍団」その1

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「ぐ・・・ううう・・・水・・・水はどこだ?」

俺はゴルド王国の男爵家の次男坊だ。
三男坊から「今回の遠征は金になる」そんな甘い言葉に踊らせられて出征して来た。
それで今は全身の火傷に苦しみながら水を求めて原生林の中を彷徨っている最中だ。

ゴルド王国じゃ男爵家の次男なんぞ平民とそう変わらんのだ。
自分の食い扶持は自分で探さないとダメだから前金に釣られて意気揚々とこんな所まで来ちまった。

「兄上、開拓村に着いたら略奪も何でも出来るってよ、女も好きにして良いってさ」

「へえ?エルフの女かぁ、そりゃ楽しみだな」

ゴルド王国にはエルフは居ないからな、エルフの女がどんな具合か期待に胸を膨らませていた。

船の上でこんな事を兄弟で考えてたから罰が当たったんだろうな・・・
どこかで駄目だって分かっていたがゴルド王国貴族じゃこれが当たり前の考え方だ。
力が弱い者は強い者に搾取されるだけだからな。

それでいざ上陸して見れば浜辺の先は辺り一面、原生林だった。
開拓村?そんなモンどこにも無かったよ。
なんかの手違いかは知らんが予定地点より外れた場所に上陸したらしい。

とは言え俺は貴族、貴族兵は船に積んでいる酒も食糧も飲み食い出来るし野営用のテントにも入れる。

上官から森の中から食糧を調達しろと命令を受けたが同行して来た平民兵に木の実の採取をやらせておけば良かった。

毎回送り出した兵士の数人は帰って来ないが気にしたモンじゃ無い。
数合わせで同行している平民兵は幾らでも居るからな。
脱走しようが怪我して死のうが俺の知った事じゃない。

上陸して1週間、女が居なかったのが不満だが、いつもとやる事は変わらない。
仕事は全部平民兵にやらせて俺は野営用のテントの中で踏ん反り返って弟と昼間から酒を飲んで次の命令を待っていたんだ。

「楽で良いけど暇だよな・・・」酒にも飽きて来たのか弟も不満を溢している。

すると外が騒がしくなって来た?

「おい!貴様!何を騒いでる?!」俺はテントから出て平民兵を捕まえて詰問する。

「はっ!ハーグ侯爵閣下が先行出撃して開拓村を落としに行くそうです」

ふーん?あ・・・そう・・・さすが剣聖様、侯爵閣下は頑張るねえ。
その時はそれくらいにしか思わなかったが、多分侯爵閣下は危険を察知して逃げたんだろうな・・・

何と気無しに浜辺に出て、ハーグ侯爵の艦隊が沖に消えるのをボーと見ていた。
「早っ?!随分と急いでいるな・・・」
帆も上げて無いのに凄いスピードで艦隊は遠ざかっていった。

艦隊も見えなくなった事だしテントに戻って飲み直しするかあ?
そんな事を考えて砂浜から立ち上がったら・・・
50m先で平民兵の漁を監視していた知り合いの子爵令息が立ったままゴソゴソ動いてる?

何してんだ?

すると子爵令息から赤い霧の様な物が空中に舞い始めた??

「ギャアアアアアアアア?!?!」突然悲鳴を上げる子爵令息?!

あれは霧じゃない?!血飛沫だ?!?!

「ギャアアアアアアアア?!助けろ!お前達!私を助けろおおおお!!」
500mは離れている平民兵達に叫ぶ子爵令息!
その直後に黒い炎が子爵令息を包み燃え始めた?!

「ガアアアアアアアアアーーーーーー??!!!」
炎に包まれ断末魔を上げる子爵令息を見てようやく俺も敵の攻撃を受けていると理解した。

「ううう・・・うわあああああああ?!」
俺は恐怖に支配されて、みっともない悲鳴を上げて子爵令息を見捨てて走り出した!

剣?!剣は?!ああ!!テントに置きっぱなしだ!!
酒に酔って兵士としての最低限の規律すら守って無かった俺は本当に馬鹿だ!
慌てて剣を取りに自分のテントへと走った。

「大変だ!敵襲・・・・・」
そう叫びながらテントに入ると股間から脳天を黒い槍に串刺しにされて白目を向いてビクンビクンと痙攣している弟が居た・・・・・

そしてやっぱり弟も燃えた・・・

「ひいい?!ひゃあああああああ?!?!」
俺は転がりながらテントを飛びだして助けを呼ぼうと周囲を見回すと・・・

燃えてる?辺り一面、駐屯地内で凄い人数の兵士が立ったまま槍で貫かれて燃えて・・・いる・・・

「ううう!うわあああああ?!」
訳が分からない状態にいよいよ俺は恐怖で小便を漏らしながら浜辺へ向けて走り出した!
なぜ?分からない・・・火が出たから水!海だ!と思っただけだ。

結果的にそれが俺が助かった理由だろう、原生林に向かって走っていたら死んでいた。

その後の事は余り覚えていない・・・

覚えているのはどこを向いても火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火火しか見えない。

どこをどうやって逃げ回ったのか・・・我に帰った時は周囲には誰も居ず、岩の上で岩にしがみ付いていたんだ。

周囲は静まり返り「パキパキパキパキ」と木が爆ぜる音だけがしている・・・

「助かった・・・のか?・・・水が・・・飲みたい」
こうして俺は水を求めて燃えていない原生林を彷徨い始めたんだ・・・

人間の本能とは凄いモンだ。
当てずっぽうに歩いていたのに水音が聞こえて来た?

「みみみみ水・・・」俺は這いつくばりながら水音がする方へと身体を動かす。
もう立ち上がる力は残っていない・・・

ぼやける視界に太陽の光が反射する水面が見える・・・

「ああ・・・助かっ・・・た」そこで俺の意識は途絶えたんだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









「グジャアアアアア!!!!」
あれ?俺?どうしたんだ?何だ?この声?俺はキョロキョロと周囲を見回す・・・

え?黒焦げの死体が歩いている?何千?いや何万の死体が・・・
俺の周囲を歩いているーーーーーーーー?!?!
俺は今、死体に囲まれているーーーーーー?!?!

「グジャアアーーーー?!グジャアアアアア!!!」
思わず悲鳴を上げた俺だが・・・この得体の知れない声は俺からしている?!

死体に囲まれている恐怖も一瞬で忘れて自分の両手を見る・・・
え?指が半分無い?しかも肉が腐って来ている?!なんで痛みが無いんだ?!

いや・・・全身に感覚が無い、それに息もしていない?!

ボトリ・・・俺の下で何か落ちた音がしたので見て見ると・・・俺のイチモツが腐り落ちていた・・・

「グジャ!!グジャアアアアア!!!」これは死体だ・・・俺はもう死んだんだ・・・
そして死体になっても意識はあって死体のまま歩いているんだ・・・

泣き叫んで見たが涙なんて出ない・・・目はとうに腐り落ちているんだから・・・
見えて聞こえているのは何かの魔法の力だ・・・

{ホウ?オ前・・・意識ガ戻ッタノカ?ソレハ興味深イ・・・}

声がした方を見るとボロボロの黒衣を纏った人型の魔物が居た・・・
本で読んで俺は知っている・・・コイツはネクロマンサーだ・・・

俺は死んでネクロマンサーに魂を取られて死体に縛り付けられたんだ・・・
死にたくても死ねない・・・だってもう死んでいるのだから・・・

{オ前ニハ、更ナル力ヲ与エテヤロウ}

ああ・・・神よ・・・これが罰なら・・・重すぎます・・・
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