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第二章 シルフェリアとの別れとイリスの覚悟

閑話 「ゾンビに堕ちた男」その2

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「ほぎゃー!ほぎゃほぎゃほぎゃ」
・・・この声は?・・・・・・私の声か?転生・・・したのか?

「おお!男の子!じゃあミル!お前はミルだぞ!」
嬉しそうな優しい男性の声・・・私の父か?

「ティー!良く頑張ったな!偉いぞ!」

「はぁ、はぁ、はぁ、・・・もう・・・少し落ち着いて?アナタ」
優しそうな女性の声・・・母か・・・

幸せそうな家庭に転生してしまった・・・
父も母も申し訳ない・・・産まれた子が罪に塗れた子なんて・・・ごめんなさい。

ここで魂の浄化など出来るのだろうか?

そして3ヶ月が経ち、私はようやく完全に周囲を見る事が出来る様になった。
赤ん坊とはこんなに視力が良いモノなのか・・・驚いたな。

私が産まれたのは農家の若い夫婦の家庭だった。
私がこんな事を言うのもアレだが貴族に産まれなくて本当に良かった・・・

しかしここは、どこの国だろうか?
父と母を見る限り食事に困っている様子がないのでゴルド王国でない事だけは確かだ。

ゴルド王国の平民達は貴族の搾取によって毎日の食事にも困っているからな・・・
本当にすみませんでした。

「今日はいよいよ収穫ね!楽しみだわ!ねえ?ミルにも収穫の様子を見せて上げても良いかしら?」

「俺は風車の整備に行くから、ティーは腰が冷えない温かい格好でな」

「はーい」

それにしても収穫とは初めて見るな・・・そのまま父は風車へと出掛けて行った。
母は洗い物を済ませると私を毛布で包みドアの方へ歩き出した。
いよいよ、今世初の外の世界へ出て行く。

「ほら見てミルちゃん、綺麗な小麦色よ~」

私は母に抱っこされて前世でも見た事がない初めて収穫前の小麦畑を見た・・・

なんて美しい・・・

一面見渡す限り、風に揺れ黄金に輝いている大地・・・

略奪の際、領主の館に乗り込んだ仲間同士で私達が血まなこになって奪い合った大きな金の彫像など取るに足りない見窄らしい物だった思うほどの圧倒的な大自然の金色の美しい大地が広がっていた・・・

本当に価値がある物がそこにあった。

黄金に輝く小麦畑に心を奪われていると遠くの街道から何かの一団が村に迫って来た。
その一団が近くまで来て、私が何処の国に産まれたのかが分かった。

ここはヴィグル帝国なんだ。

何度も私達と戦った見覚えのある鬼神の赤い軍服・・・忘れる訳が無い。
あの赤い軍服を見れば私達貴族兵は恐れ慄き、平民兵と傭兵達に戦いを押し付けて逃げ回っていたのだから。

そしてあの兵士達が何をしに来たのが分かった気がしていた。
徴収か・・・・・・・小麦が実った時を狙って奪いに来たのだと思った。

私はこの美しい小麦畑が兵士達に奪われると思うと凄く悲しい気持ちになった・・・
そしてこの気持ちは今まで私達に奪われた者も同じ気持ちだったんだと理解する。

でも何で収穫前に来るんだ?まだ小麦粉にすらなってないのに?
それに畑で作業をしている者にも全く動揺が見られないし、大勢のヴィグル兵を見ても母は変わらずニコニコ笑っている。

近づいて来る2000名程度の兵団は小麦畑を見ながらワイワイ話しながら歩いて来る。

「おーーーー!豊作だな!!」

「良いじゃねえか!こりゃ来年はビールに困らないぜ」

「こいつはやりごたえあるぜ」

「やっぱり、種を植える間隔を広く変えたのが良かったんだな。来年もまたやろうぜ」

兵士達は村人より畑の小麦の発育状況ばかりを気にしている?
すると1人の村人が兵団に近寄り何かを話し始めた。

話しをしている村人に緊張感は無い・・・いや何か楽しそう?なのか?

「隊長!北の6面はまだ少し早いらしいです。南の28面は収穫可能だそうです」
村人と話しをしていた兵士が隊長と思しき人物にそう報告すると。

「よおーーーし!お前ら準備しろ!夕方前にケリを付けるぞ!」
隊長が剣や胸当てなどを外し始めて腕まくりをする。

「おーーーし!!やるぞお!!!」

「「「「おお!!」」」」
隊長に続き他の兵士達も持っていた剣や槍を近くの木に立てかけ始めた?

何だ?何が始まるんだ?

「じゃーーーーん!!どうよ?これ!」
兵士の1人が腰に付けていた見事な作りの鎌を手に取って仲間に見せびらかせる。

「おお!凄え!それってゴートンの爺さんの所のヤツじゃねえか?!」

「ああ!ちょっと高かったが、今日に備えて思わず買っちまったぜ」

「それ良いなぁ・・・くれ!!」

「やらねえよ!!」「あはははははは」「自分で買えよ」

和気あいあいの雰囲気のまま兵士達は手に鎌を取り畑の前に整列を始める。
見事な整列だが何で畑の前で???

その後ろでは別の班が細い麻縄の準備をしている。
更にその後ろの乾燥場では穂かけ用の丸太の準備をしている兵士達。

村人達は村に有る荷車をあぜ道に用意をして運搬の準備を始める。

え?まさか?兵士達が小麦を刈る?・・・・のか?

「よし!ただいまより「近接戦闘訓練」を行う!!
1番刈り取りが早かった小隊は、この後での酒場で飲み放題、食い放題だ!気合い入れろ!」

ウオオオオオオオ!!!隊長の号令に鬨の声を上げる兵士達。

「掛かれーーーー!!」ウオオオオオオオーーーーー!!!

一斉に小麦を刈り始めた兵士達!いや嘘だろ?!

兵士達はしっかりと腰を落として鋭く鎌を振いサクサクサクサクと小麦を刈る。
この動き・・・接近戦で短剣を使い首を刈る動作と一緒だ。

「あっ!!クソ!!」茎に鎌の柄を引っ掛けてしまい動きが止まる新兵らしき男。

「しっかり振り抜かんからそうなる!!見ておけ!!」
新兵を怒鳴りつけて自ら手本を見せる隊長。
さすがは隊長・・・一応は武人端くれだった私にも分かる見事な得物の使い方だ。

「おいおい!おっせえぞ!」

「抜かせ!!」

対抗意識ビンビンの2人の兵士達は競いながら小麦を刈り取って行く。

刈り始めて2時間、日頃から厳しい訓練をしているのか兵士達の動きに衰えが見えない。
あれだけ広かった小麦畑の小麦がもう半分ほど刈られてしまった・・・

「兵士さんってやっぱり凄いわね~、ね?ミルちゃん」

兵士達の見事過ぎる動きに見惚れてしまっていたが私はまだ赤ん坊・・・
もう眠くなって・・・来た・・・

「うふふふふ、ミルちゃんはおねむさんですね~」
母の優しい声を聞きながら私は意識を飛ばして行った・・・

あの見事な動きと有り余る体力・・・
そりゃボンクラの私達じゃヴィグル帝国兵に勝てない訳だよな・・・



あれから6年経ち、私は6歳になった。
変な先入観があってヴィグル語をマスターするのに少し手間取ったが、もう完全に覚えた。

問題なく話せる様になったので兵士達の農作業について父に聞いて見たら、
ヴィグル帝国では小麦の種植えと刈り取りは兵士が果たす義務なのだそうだ。
特別な理由も無くこれを怠ると上位貴族だろうとクビ・・・だそうだ。

農民は種蒔き前の土の耕しと小麦の生育の管理と脱穀製粉に集中するのだそうだ。

なるほど・・・そう聞くとかなり合理的な話しだ。
1番大変な作業を体力に優れて刃物の扱いにも長けた兵士が受け持てば農民全体に余裕が出来て他の作業に集中する事が出来る。

出来た余裕の片手間で野菜を作ったりビールを作って収入をアップさせて行くとの事。
ゴルド王国では考えられない見事な発想だ、無駄が一切無い。

そっか・・・本当に私達は国にとって不要なただのボンクラだったんだな・・・
・・・・・・・いや落ち込むな!私に出来る事は、とにかく魂の浄化、罪滅ぼしだ。

農民に産まれた限りは農民として全力で生きるんだ!
そして父と母に可能な限り親孝行するんだ。

そうして私は産まれた村で農民として身を粉にして必死になって働いて、
63歳の時、老化から来る急性の肺炎で死んだ。

出来る限りに頑張ったつもりだ。







{ふむ・・・大分頑張った様じゃな、努力の積み重ねで魂の穢れを洗い流しておる}

「でも・・・まだ穢れは残っている感じがするのです・・・まだダメです」

{それが分かる様になったのじゃ、確実に進歩しておる安心せい}

私は、また転生門の前に立ち、ワイトキング様に魂の穢れの状態を見て貰っている。

「ワイトキング様・・・次の試練をお願いします」

{なんじゃ?お主も農民として生きたから随分とせっかちな性格になった物じゃのう。
それから転生は試練などでは無いぞ?気負い過ぎるな}

「まだまだ不安なんです・・・何かしてないと罪に押し潰されそうで・・・」

{分かった分かった、そう暗い顔をするでないわ、今回もランダムじゃ、行くがよい}

「はい・・・行って参ります」

そして私はまた記憶と罪を持ったまま転生の門をくぐった・・・
出来ればまた、農民として産まれたいなぁ・・・
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