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第三章 女王イリスの誕生

14話 「それぞれの倫理観」

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「さあ答えなさいイリス?」

「ほわー?」

頬に両手を当ててそのままキスでもするのか?と言う程に顔を近づけるエリカ。
エリカがナチュラルにそう言う事をすっから百合っぺ達がはっちゃけるんじゃね?

そして案の定ドタン!バタン!ガサガサガサガサ!!とエリカ部屋の何処からか異音がする・・・
おのれ曲者かぁ?!と思ったら。やはり百合っぺが2人、本の雪崩に巻き込まれて潰れていた。

やっぱりコイツらは当番制でイリスとエリカを監視していたのだ。
今のエリカの部屋なら隠れたい放題だからね!

百合っぺが「これは?!最高のシチュエーション!!」とかぶり付きで身を乗り出して覗こうとしたら勢い余って本の山が崩れたのだ。

「え、エリカ?!人?!人が見てるよ?!離れて!」
百合っぺ達にエリカと抱き合って寝ていたのを見られていた!と悟ったイリスは顔を真っ赤にしてエリカに離れる様に促す。

「そこはどうでも良いから答えなさい。
イリスが「黙示録戦争」の事を知っていたんだったら事前に何かしらの準備をしていたよね?
そして準備が終わったら1人で消えるつもりだったでしょ?
具体的に準備の内容を答えなさい!」

エリカは、もう既に唇同士が触れている程に顔を近づける。

「うおおおお?!」「きゃあああああ?!」
本の山に潰されながらでも意地でも2人を覗き見て黄色い歓声を上げる、ど根性百合っぺ達。

「エリカ?!触れてる!もう触れてるって!」
エリカが喋るたびに唇同士が触れるのだ!これは恥ずかしい!

「それで?!勇者達の作戦は?答えなさいイリス!作戦の規模は?!」
触れ合う唇がしまいにはチュッチュッと音までする始末。

「もうこれだけで3年オカズ要らずですわー!」「いゃああん!最高ー!」

「ひゃあああ?!見ないでー!
答えます!答えますからエリカ離れてぇーーー!!」

かなりエリカは真剣な質問をしているはずなのにイマイチ深刻にならんな。
おかしい!ここからシリアスな展開になるはずなのに!なぜなんだ。
誰だ?!誰のせいだ?!(全部オメーのせいだよ)



「はあ・・・はあ・・・はあ」既に心に甚大なダメージを受けているイリス。

いつまで経っても話しが進まんので恍惚の表情の百合っぺ達にはご退場願って部屋の鍵をやっと閉めるエリカ、普段から鍵くらい掛けておけよ。

多分、扉の向こうでは、緊急招集が掛かった大量の百合っぺ達が聴診器を使って話しを聞いているだろうがそんな事を気にするエリカでは無い。

「遮音結界!」
だが、激オコのイリスが部屋に結界を張ってしまう、百合っぺ達よ残念。

そして扉の向こうではノンケ女性隊員から「また夜からずっとドタバタとうるさいんですけど?」との通報を受けたホワイト侯爵が不法侵入犯の百合っぺ捕獲作戦を行い阿鼻叫喚の世界が広がっていた。

きゃーきゃーと逃げ惑う百合っぺ達に、

「周りに迷惑が掛かっているから任務中と宿舎では大人しくしろ!って侯爵言ったよね?言ったよね?再三に渡って言いましたよねーーー?!
こらぁ!ちょこまか逃げないの!全員そこにお座りなさーい!お仕置きよーー!!」
ホワイト侯爵の野太い怒鳴り声が隊舎に響く。

「「「「「「「「「「ごめんなさーーーーーーーーい!!」」」」」」」」」」

・・・・・・・・いやお前ら何人集まってんだよ・・・・・・

出番が飛び飛びで「ホワイト侯爵」って誰だっけ?と忘れた人も多いと思うので改めてホワイト侯爵=大精霊の白ちゃんの説明をしておこう。

白ちゃんは身長3mを超える見たまんま大鬼のオーガロードである。

姿に似合わないお姉さん口調で話すので「オカマの方ですか?」と良く間違えられるが、その正体は火の大精霊イフリートで正真正銘のナイスバディの超美人さんの女性である。

「ユグドラシルの瞳」の継承者の1人で受け継いだ能力は「予知能力」だ。

しかし目まぐるしく変わる未来に自分の能力の対応力に疑問を抱いており、白ちゃん自身がイマイチ信用しておらず参考までに程度にしか予知能力を使っていない。

そして初のお姉えさんキャラ登場にテンション爆上がりしたイリスだったが白ちゃんの本当の姿を見て、なんでか知らんがめちゃくちゃガッカリした事がある。

一時期はハイエルフのクレアの格闘技の師匠だった事もある。

イリスのジョブが「拳闘士」なのも白ちゃんの影響が大きい。
子供の頃にブルンブルンとあちこちを揺らして艶やかに戦う白ちゃんに憧れてしまったのだ。

しかし完全に大人へと成長した今となってはブルンブルンを諦めているが・・・

背も高く平均的なエルフより出る所は出ているがブルンブルンでは無いイリス。
ブルンブルンになりたかった・・・なんてぼやくと、お子様体型のロリ師匠クレアに何されっか分からないので黙っている。

話しを戻すと世界大戦勃発時の「亜人大同盟」の結成時に白ちゃんはオーガ代表としてラーデンブルク公国の元老院入りをして侯爵になった。

現在は軍事部門のトップ、軍務大臣を務めていて忙しいのでイリスとの絡みは限定的なモノになっている。


更に話しをイリスとエリカに戻そう。


部屋が静かになり現在仕切り直し中のイリスとエリカ。
外では白ちゃんに追い詰められた百合っぺ達が必死にドアを叩いているが2人には聞こえていない。

「えーと?どこまで話したんだっけ?」

「忘れた・・・」

正座で向かい合うイリスとエリカだが百合っぺ達のせいで頭パーン!して何を話していたか忘れた。

「とりあえずもうお互いに隠し事無しね。先ずは私から話すね。
私はバルドルさんと結託して魔物の統一を目指しています。
目的は「黙示録戦争」を遅らせる事と開戦したら「勇者達」を支援する戦力確保の為です」

「・・・でも何でスペクター(上級魔族)はそんなに皆んなからヘイトを買っているの?」
確かに、黙示録戦争とは勇者とスペクターの戦いになるのだが一方的にスペクターのみにヘイトが向いてるのはおかしな話しだ。

別にスペクターが絶対悪と言う訳では無い、ではなぜなのか?

「それはスペクターがこの世界の神とは別系統の神々の傘下の勢力だからです」

「????どう言う事?」別系統の神々って何じゃい?と思ったイリス。

「宇宙の神々は一枚岩では無く複数系統に分かれており常に争っている・・・までではありませんが、それぞれが独立した世界管理をしており交流も特別無いらしいです。
まあ、宇宙には色々な神々の倫理観がある訳ですね」

「ちょっと待って!ごめん・・・「宇宙」って何?」

「ああ、そっか、イリスには宇宙とか銀河とかの概念は無いモンね。
そうねぇ・・・分かり易く言えば異世界は数え切れない程にたくさん有って、この世界はその一つに過ぎないって事は理解しているよね?」

「そうだね、エリカは前世では「ニホン」って世界に居たんだよね?」

「日本は地球って言う世界の国の一つね。
黒龍のラザフォードさんも同じ地球の人間で国が違うだけです。
そして地球はこの世界と同じ神様達が管理している世界なのね」

「えーと?その「チキュウ」って世界は私のご先祖様も住んでいた世界なの?」

「違います、イリスのご先祖様は地球とは更に違う世界に住んでいました。
この点は真魔族もそうですね。
この世界はそんな複数の異世界から集まった種族で形成されている移民の世界です」

「スペクターも異世界から来た移民?」

「そうです、さてここで話しがややこしくなります。
イリスのご先祖様達の世界、真魔族の世界、私の住んでいた世界、そしてこの世界に住む人間達のご先祖様たちが住んでいた世界、これらは同じ系統の神々が作った、もしくは管理している世界なので基本的な倫理観は同じ様な感じで大きな問題は無かったのですが・・」

「スペクターは違う系統の神様が管理している世界から来たのね?」

「そうなのよね~、だからスペクターの倫理観は私達とは全然違うのよね」

「具体的には?」

「スペクターの倫理観の基本は私達で言う所の「侵略国家思想」と言って良いわ。
力有る者が全てを総取り出来る考えね」

「でもそれって人間の国のゴルド王国と同じ考えよね?」

ここで一気にスペクターへの印象が悪くなるイリス、エリカと親友になって人間嫌いは治ったイリスだがゴルド王国は大嫌いなのだ。

「そうね、彼等と同じ人間だった私でもゴルド王国は許すまじよ。
こんな感じで私達の感覚ではその倫理観は「悪」よね?でも絶対悪ではありません」

「え?!絶対悪じゃないの?」
このイリスの倫理観こそが女神ハルモニアを始めとした神々の考えから来る物なのだ。

「自然界における弱肉強食の観点では、別に間違った考えじゃないよね?」

「うっ!」食物連鎖の頂点とはまさに「侵略国家思想」なのだ。

「この話題は話し始めると際限が無く議論が発生するから一旦保留するね。
次にそんな倫理観をスペクターに植え付けた別系統の神々の考え方を説明するね。
先ず私達の神様の考えは「世界は住む者達が育てるモノ」なのね」

「スペクターの神様は違うの?」それ以外に何か有るの?と言った顔のイリス。

「違います、スペクターの神様の考えは「世界は神が与えるモノ」です。
具体的な例では資源は神が与えるからお前達は好きに使えって感じね」

「え?!鉄とかを神様がくれるの?!」
スペクターが住む世界では朝起きると家の前に必要な分の鉄のインゴットが置かれているのが普通の事なのだ。

「へえ~?それはまた便利だね」
鉄の確保に凄え苦労した事が有るイリスはスペクターの神様の事をちょっと良いなと思ってしまう。

「うふふふ、イリスもどこか私達の神様に違和感が出てきたね?それで良いんだよ。
本当にスペクターの神様は便利よね。ただ・・・それによる大きな弊害もあるよね?」

「それだと採掘技術が全然発展しないよね?」

「その通り技術が発展しません。だから私達の神様は鉄をくれる事がありません。
それに対して資源を神様から貰える彼らには鉱物を採掘する発想がありません。
何かが足りなければ直ぐに神様が用意してくれるのが当たり前の生活を長い年月に渡って送っていたんだからね。
これは「食料」でも同じ事が言えます、彼らには「耕作」を行うと言った発想がありません」

「ん?んんんん?んーーーー?」
どっちが良いか?と聞かれても「私達の方が良い!」と断言出来なくなるイリス。
だって彼らの世界には飢えも貧困も無いはずだから・・・

「でも次の話しをバルドルさんから聞いて私は女神ハルモニアちゃんが私達の神様で本当に良かったと思いました」

何故、異世界の人間同士の戦争「黙示録戦争」が不可避なのか?話しの真髄に入るエリカだった。






『あの・・・これって私・・・上げられてます?下げられてます?』

「神が分からぬ事を儂に分かる訳あるまい?」

『あの・・・一応言いますが私は「黙示録戦争断固反対派」なのですが?』

「知っておる、そんなお主だからこそ儂は忠誠を誓っておるのじゃが?」

『ええー?!バルドルって私に忠誠を誓っているんですかぁ?!』

「マジ・・・か?・・・今まで何だと思っておったのじゃ??」
今まで儂がお主の意に反した事をした事あるか?」

『・・・・・・・・・・・・アレ?そう言えば一回も無いですねぇ。
バルドルは、私のお話しをちゃんと聞いてくれないだけですね?』

「儂はお主の良い臣下じゃと思うんじゃが?」

『そうですね・・・後は、お話しさえ聞いてくれれば最高ですね?』

「そこは断固拒否する」

『だから何でですかぁーーーー?!』
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