異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

やってきました小事件

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意識が覚醒していく。

反射的に瞼を持ち上げる。




「起きたか八重子」




横からクロの可愛い顔が覗き込んできた。

そっと瞼を閉じる。




「バレてないとでも思っておるのか?」




ですよね。




「くっそおおおお!!」




ガバリとクロを腕に抱きしめ、




「やめい八重子!!」

「モフってやるモフってやるモフってやるうううううう!!!」

「放せえええええ!!!!」




朝から元気だった。






















いつも通りに宿を予約してお昼を包んで貰って、ギルドまでやって来る。

扉を開けて中に入ると、なんだかいつもと空気が違う気がした。

なんだか視線を集めているような…。




「は! あたしってば、この世界では需要の高い容姿だったとか!」

「脳天気だの」




そんなアホなやりとりをしつつ、いつものお姉さんの窓口へ。




「おはようございます。何か簡単で稼げる楽な仕事はありませんか?」

「そんな仕事があったら私がやってます」




に~っこり。




「私でも出来そうな仕事は?」

「う~ん、困りましたね。討伐系はできないんですよね?」

「武器はナイフしかございませんが」

「・・・。どうやって猪を…。いえ…」




お姉さんが目を逸らす。




「討伐系が出来ないとなると…、やはり薬草採取しか、今の所ありませんね」

「そっすか~…」




がっくり。




「あの、一つお尋ねしてもいいですか?」

「はい、何ですか?」

「お姉さんのお名前、エリーさんって言うんですか?」




一瞬呆けたような顔になったお姉さんであったが、にっこり笑うと、




「凄いですね。もう読めるようになったのですか?」

「簡単な単語程度ですけど」




えへへと照れ笑い。

何故分かったかって?胸の所にネームプレートっぽいものがあったからよ。

断じて巨乳に見とれていたわけではないからね。

多分上に書かれているのが役職名っぽくて(まだ読めない)、下に書かれているのが名前なのだろう。ギリギリ読めた。

ふ、採取が終わって宿に戻っても、ゴロゴロするか単語帳見るかしかやることがないおかげで、この世界の文字にも多少見慣れてきたぜ。

分からない所は、宿屋の看板娘のウララちゃんにちょろっと聞いたりしましたよ。

私より年下だと知ってびっくり。胸の発育にもびっくりだよ…。




「実は、Bランクに上がるには、筆記試験があるので、文字の読み書きが出来ないとCランク止まりになってしまうんです。ヤエコさんはその点は大丈夫そうですね」

「へ~、そんなのがあるんですね~」

「Bランクに上がるといろいろ面倒な依頼なども増えてきますから。依頼書の内容が読めなければ、不利な契約を結ばれてしまう可能性もございますからね。文章の読み書きは必須なのです」

「あ、なるほど」




詐欺師とかが使う手ね。

上手いこと書かれているようで実は不利な契約を掴まされるという。

ある程度はギルドが防波堤にはなってくれるけど、貴族からの直接的な依頼とか、突発的な依頼などでそんなこともあったりしたという。

上に上がれば面倒が増えるのは何処も同じか。

まあ文字は覚えておいて損はない、どころか覚えないと損をするのでこれからも勉強頑張ろう。

とりあえず今日も薬草採取ということで、お姉さん改めエリーさんに手を振り、ギルドを出た。







その後ろから、何人かの人影も一緒に出て来たことには、気付かなかった。

























いつものように街を出て、森に入っていく。

昨日お世話になった衛兵さんに、気をつけろよ、と声を掛けられた。

はい、いってきますと返事する。

ちょっと嬉しい。

やっぱり知り合いが出来るのは嬉しいものだ。

いつものように草を掻き分け、森の中を進んで行くと、




「八重子、少し止まれ」




クロが何故か止まるように言ってきた。




「どうしたの?」

「後ろから良からぬ輩が付いてきておる。少し対応してくるからの。お主は少しずつ歩いて行け。急がんで良いぞ」

「良からぬ輩?! まさか、私の体を狙って…!」

「女も混じっておるがの」

「・・・。百合さんの方かしら?」

「では、我が輩は行ってくるでの」

「突っ込みプリーズ!!」




ちょっと悲しく思いながら、言われた通りゆっくりと歩き出す。

クロはすでに姿は見えない。

まあ、猫だし。森の中で猫と隠れんぼして、人間が敵うはずがない。

草陰、木陰、枝の上。足音もさせずに移動する猫に、人間が付いていけるわけもない。

後ろを見たいけど、あまり不自然に後ろと見てもまずいかと、振り向きたいのを我慢しながら歩いて行く。

何をしてるんだろう…。






















「猫を手放したぞ」

「猫なんかどうでもいいだろ」

「そりゃそうだけど…」




先頭を歩いていたギムの報告に、コールが顔を顰める。




「あの人なんで猫なんて連れ歩いてるんだろ?」

「何かわけでもあるんですかね?」




レンカの呟きに、ダナが首を傾げる。

冒険者パーティ、『銀翼の剣』。ランクは未だにG。名前は無駄に格好いいが、中身は田舎者の寄せ集め。

よくある、村の幼馴染みパーティである。

一応リーダーの剣士のギム。戦士のコール。弓使いのレンカに、魔術師のダナ。

一旗揚げるために冒険者ギルドに登録したはいいが、思った以上に素人では難しい依頼などに、パーティの存続が危ぶまれている所である。

このままでは村に帰れないどころか、奴隷に身を落とす羽目になってしまう。




そんな所に現われた、不思議な女性。

黒猫を連れたその女性は、登録したその次の日から、驚くような成果をあげている。

素早い上に、油断すると致命傷を負いかねない角ウサギを一日で3匹。

次の日には1人でなど素人では到底倒せない猪に、おまけに角ウサギを2匹。

しかも薬草を採取しながらである。

その上、獲って来た獲物はほとんど傷がなく、致命傷の喉元の傷だけ。

噂にならない方がどうかしているであろう。




4人は沸き立った。

比較的簡単だと紹介された村の倉庫の虫退治。

なんだ虫かと意気揚々と出かけてみれば、その辺りにいる小さな虫ではなく、大人の掌よりも大きい黒い虫の大群に、危うく全滅しかける所になったり。

依頼の失敗もさながら、その時の怪我による治療費も嵩み、なんとか常時依頼の角ウサギや猪を狩ろうと出かけてみても、なかなか獲物に出会えなかったり、返り討ちにされそうになったり。

猪など攻撃を当てることもままならず、よくて一日角ウサギ一匹獲れればいいほう。

しかも、なかなか急所に当てることも出来ず、矢を当て剣を打ち、ようやく倒してみれば結構な傷だらけ。

しかも血抜きを知らなかった最初など、書かれている金額よりも更に下回ることとなってしまった。

おかげでお財布は空っ風に吹かれっぱなしとなり、宿に泊まることも出来ず、馬小屋の片隅を借りて寝ているような状態である。




そんな4人は話し合った。

あの女性に、なんとかその狩りの方法を教えて貰えないだろうか。

しかし、冒険者の間で、その珍しい技などを秘匿するのは常識。

門外不出と言われる技など、人の目がある所などでは滅多に使わないのが普通である。

そんなことを、頭を下げたくらいで教えてくれることなどない。

かと言って、出すだけのものもこのパーティにはない。

となれば…。

あとは秘密裏に後を付いて行って、その技を盗み見るしかない。

4人は決断したのだった。




「なかなかに同情を誘うような背景ではあるが、人の秘密を盗み見しようとは頂けぬな」




突然頭の上から聞こえてきた声に、4人が固まる。




「そういう時は戦闘態勢を取らねばならんだろう」




言われて慌てて武器を構え出す4人。

声がした方を見上げてみれば、そこには枝の上に優雅に座る黒猫。




「え、猫?」

「まさか、魔獣…?」

「魔獣とは失礼な。我が輩は妖。言うなれば妖獣と言ったところかの」




尻尾をフリフリし始めるその光景は、なんとも気が抜ける。

ここに八重子がいたならば、「尻尾可愛い…」と幸せな顔をしていたところだろう。

しかし、猫の尻尾フリフリは、機嫌を損ねている印である。無理に触ろうとすると引っかかれるのでご注意を。




「あ、あやかし?」

「あやかしってなんだ?」

「ふむ、この世界には妖はおらぬようだの」




尻尾フリフリが収まって、テレンと力が抜けたように垂れる。尻尾は正直である。




「まあ、お主らはその背景に免じて、許してやらぬでもないが、その後ろの奴らは、許すわけにはいかんのう」




その言葉が終わる前に、一本の矢がクロに向かって飛んで来た。






















「ゆっくり進めって言われたけど、どこまで進めば良いんだろ? まだ終わらないのかな? うう~、後ろ見たい!」




後ろが気になるものの、振り向くに振り向けず、ジリジリしながら私は足を進めている。

一回くらいなら大丈夫かな?

と誘惑に負け、ちらりと後ろを振り返ってみたが、木立や草に視界を阻まれ、クロはおろか、他の誰をも視認することは出来なかった。




(そーいやそーよね)




がっくりと項垂れながら、やはりゆっくりと歩を進める。

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