異世界は黒猫と共に

小笠原慎二

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黒猫と共に迷い込む

送り届けて

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「失礼、その奴隷は貴女の奴隷だろうか?」

門の所で衛兵さんに止められた。

「いえ、森の中で死にかけてたので、この妖精の子に治してもらって、危ないので一緒に連れてきたのですけど」

子供1人森の中に置き去りになどできん。

「そうでしたか。それは失礼しました。朝方別の方と一緒に居たところを見たものですから。あいつら、またか…」

あいつら?またって事は何か前にしでかしたのかな?

「お待たせしました。どうぞお入り下さい」
「ご苦労様です」

軽く頭を下げ、門を潜っていく。
とうとう着きました王都!やってきましたラーメン!
じゃなくて。
一緒に歩いていた虎子ちゃんが足を止める。
ちなみに、説明が面倒くさいので、クレナイ以外は元の姿になってます。

「あの、ありがとうございました。ここまで来れば、もう1人で戻れますので」
「そんな固いこと言わない。子供なんだから遠慮しなさんな。さ、どこがお家? いや、奴隷だからうちじゃないか?」
「で、でも、そんなお手を煩わせるには…」
「いいからいいから、あ、ハヤテに乗ってく? ハヤテ、フワフワで気持ち良いでしょ?」
「クア~」

頭をナデナデすると、ハヤテが気持ちよさそうに目を閉じる。

「いや、でも、グリフォンですよね…」
「そうよ~。可愛いでしょ?」
「クア!」
「・・・・・・」

なんか、なんだこいつみたいな目で見られてるんだが。何故?

「あの、私は、こっちなので…」
「こっち? んじゃ、行こうか」
「いや、あの、1人で…!」

虎子ちゃんが何か言いかけてるけど、子供はちゃんと家まで送り届けないとね。
この世界人攫いとか普通にあるらしいし。子供を1人で歩かせられません。








「ふむ。八重子、ちと待っておれ」

そう囁いて、クロが路地で人の姿になって戻ってきた。

「どうしたの? 珍しい」
「ちとな」

人の姿になったクロを伴い、虎子ちゃんの案内で進んで行く。
虎子ちゃんは訳が分からず首を傾げていた。









虎子ちゃんの家、もとい、奴隷商のお店にやってきました。
虎子ちゃんは奴隷なのだからまあ当然ですね。
この世界には奴隷が普通にいる。ただし、この国では奴隷の人権などはしっかり守られているらしい。犯罪奴隷以外だが。
今までにも奴隷らしき人を見かけたが、確かに質素な服を着てはいるが、死にそうなほどがりがりに痩せてるなんてこともなく、多少細めだがしっかり働いていた。
この辺りの制度も、なんとなく日本人らしいよね。

扉を開けて中に入ると、右手に受け付け、左手にソファーなどが並んでいた。そこで商談などをするのだろうか。目隠しも兼ねているのか、ソファの後ろに観葉植物らしきものが並んでいる。

「いらっしゃい…、!」

カウンターの向こうにいたおじさんが、何故か息を呑む。

「久しいの。商売のほうは、順調なようだの」

何故かクロがおじさんに声を掛ける。

「は、はい…。も、もちろんでございます…」

冷や汗を垂らしながらおじさんが答えた。

「クロ、知り合い?」
「以前にちとな」
「いつの間に…」

私に隠れて謎行動が多くないかい?

「きょ、今日は如何なさいまして…?」

おじさんがキョドってるよ。何をしたんだ。

「特に用というわけではない。此奴を送りに来ただけだの」

そう言って虎子ちゃんを前に出す。

「おや? 89番。お客様は?」

おじさんが不思議そうな顔をして虎子ちゃんに聞いた。

「森でシルバーウルフに襲われて、囮にさせられました。瀕死の重傷を負ったところを、この方々に助けて頂きました。お客様達はどうなったのかは分かりません」

虎子ちゃんが坦々と報告していく。
狼に襲われて、怖かっただろうに。こんなに落ち着いていられるなんて。
言葉も丁寧だし、しっかりした子だな~と感心。

「そうだったか。うちの奴隷を助けて頂いたようで。ありがとうございます」

おじさんが頭を下げた。

「いえいえ。偶々居合わせただけですから」
「あの、すいませんが、出来ればこの子を発見した時のことをもう少し詳しくお聞かせ願えませんか?」
「ああ、はい。いいですよ」

扉が少し大きかったので、シロガネとハヤテも中に入る。
外に置いておくと人が群がって大変なことになるからね。
ソファーに対面で座って、虎子ちゃんとクレナイの証言も交えて、発見当時の様子を話していく。
クロは私の後ろに立ってます。

「なるほど。つまり、意図的に危ない目にあわされたんだね」
「はい。荷物持ちとしてレンタルされたはずなのに、実際は獲物をおびき寄せる囮役をやらされました」
「なんてことだ。やはり、あの冒険者達、違反者のようだね」

違反者?

「その前にも2人程不慮の事故で処理されてしまったけど、その子らももしかしたら、囮なんかをやらされていたか、もしくは…」

もしくは?

「違反者ってなんですか?」
「違反者とは、奴隷人権保護法を守らなかった者のことですよ。他の国ではいまだに奴隷の人権などは保護されておりませんが、この国では初代の国王が、奴隷もきちんと人権を保証しなければならないと、奴隷人権保護法をお作りになられたのですよ。
難しい事はありません。奴隷と言えども暴力を振るったり、無理矢理性行為などをしてはいけないなど、基本的なことです」

日本人だ。絶対日本人だ。
いや待てよ。ラノベの中には奴隷ハーレムとかいう阿呆な発想を持った日本人もいるんだよな…。まあ、置いておこう。
ふ、表層面だけの愛で満たされるなんて、男ってバカよね…。

「ただ、中にはなんで奴隷なのに人権を認めているんだなどと非難する者もおりまして。隠れて暴力を振るっていたりすることもあるらしいです。今回この89番をレンタルされた方も、先に借りた子達に何かをしでかしたのかもと。
レンタル奴隷は、普通の奴隷と同様に、身体的、精神的に傷つけることは許されていません。万が一死なせてしまった場合、それ相応の罰金を払って頂くことにはなってますが、これが1つ、抜け道がありまして…」

言葉を濁す男の人。そりゃ、抜け道をほいほい教えられないよね。

「やむを得ない事故などで死なせた場合などは、罰金が免除、減額されるのです。まさかそれを狙ってるなんてこと…」

どんなクズ人間ですかそれ!

「つまり、森の中で憂さ晴らしの道具にした後、適当な魔物の前に放り出して行き、後始末すると、そういうことじゃな?」

クレナイが腕を組みながら可能性を述べる。

「そうです。さすがに魔物に襲われたと言われてしまえば、不慮の事故扱いになってしまいますので」

腹が、腹が立つ…。
そういう弱者を食い物にする人って、一番大嫌いな人種なんだよね。

「89番、何か、嫌なことをされなかったかね? 囮にされる他に」
「そういえば、渡された荷物は私でもやっとという重さの荷物で、ことあるごとに転がされました。私が転ぶ度に、彼らはゲラゲラ笑っていました」

虎子ちゃんが軽く咳払いをしながら答える。
それって、いじめだよね?虐待だよね?

「うん。お前が生きて帰ってくれて良かったよ。これでちゃんと通報出来る。貴女方のおかげです。ありがとうございます」
「いえいえ。それよりも、通報って、衛兵さんに伝えに行けばいいんですか? なんなら私達行ってきましょうか?」
「いえいえ。お手を煩わせることではございませんよ。すぐに使いの者を行かせますので」

その時、入り口の扉が開き、男が2人入って来た。

「ガウストさんよぉ、申し訳ねーけど、また魔獣に襲われちまってよ」

あまりお上品ではない言葉に、顔を顰める。

「あ…」

虎子ちゃんがその男達を見て目を見開いた。
ガウストさんと呼ばれたおじさんが、私達に軽く頭を下げ、虎子ちゃんを隠すようにソファの奥に詰めさせた。
私とクレナイが入り口に向かって背を向けている状態。おじさんと虎子ちゃんはその対面。虎子ちゃんは入り口から最も見えにくい、奥に座っていた為、彼らの視界には入らなかったようだ。

「な、なんでペガサスとグリフォンが?! お、おい、従魔の取り扱いも始めたのか?!」

男達がシロガネ達を見て驚いている。

「その従魔はこちらの方の従魔ですよ。それで、イーヴィンさん。また襲われた、と?」
「そうそう、シルバーウルフに襲われてよ。荷物持ちしてたからな。対応が遅れて。こちとら荷物も全部失くすし、散々だぜ」

「それで、また違約金を払わぬ、と?」

「仕方ねーだろ。不慮の事故なんだから。俺らもまさかあそこでシルバーウルフが出てくるとは思わなかったからよ」

「ふむ。それで、89番を囮にして逃げた、と?」

「お、囮になんかしてねーよ。後ろからいきなり襲われたんだよ。なあ?」
「ああそうだぜ。いきなり襲ってきたから、助ける事なんて出来なかったんだよ」

ちょっと男達がどもる。
やっぱり、こいつらが虎子ちゃんをあんな目に遭わせた奴らだね。

「ふむ。しかし、当の本人は、囮にされた、と言っておりますが?」

「は? 当の本人?」

「ええ、森の中で死にかけていたところを、親切な方に助けて頂いて、先程帰って来た所なんですよ。89番」

呼ばれて、虎子ちゃんが出て行く。
男達の顔色が変わった。

「しかも、契約以外の仕事もさせたようですね? もちろん、奴隷人権保護法は、説明致しましたから、ご存じですよね?」

ガウストさんの声が低くなっている。
関係ないはずのこっちまでちょっと寒気がしてくるほどに。

「!」

男達が踵を返して、大慌てで奴隷商の館から逃げ出した。

「ああ! 逃げる!」

立ち上がった私の肩をクロが押さえつけてソファに座らせる。

「落ち着け。大丈夫だの」
「でも!」
「大丈夫ですよ。すぐに衛兵に伝えに行かせます。街の外に出たとしても、2度とこの街に戻ってくることは出来ないでしょうし、他の奴隷商にも、あの方達の情報は流しておきますので」

ほえ?どういうこっちゃ?
ガウストさんが手を叩くと、奥から若い男の人が出て来た。
ガウストさんがその男の人に耳打ちすると、すぐに男の人は出て行った。
報せに行ったのだろう。

「手配が回ればこの街、下手をすればこの国にはいられなくなる。奴隷商に情報を流しておけば、また同じようなことをしようとした時に、その場で問答無用でお縄だの。犯罪奴隷が向こうから飛び込んできてくれるようなものだの。あとは何処かで野垂れ死ぬか。つまり、奴らはもうお終いだの」

ああ、納得。

「ありがとうございます。これで無駄に命を落とす奴隷もいなくなります」

ガウストさんと、虎子ちゃんも揃って頭を下げた。
虎子ちゃん、また咳をしている。

「それで、如何なさいますか? ついでに奴隷を見ていかれますか?」

「いやいや、私は奴隷は大丈夫です。この子…この人達もおりますので」

「はあ、左様にございますか。もしご用がございましたら、いつでもお越し下さい。それと、89番を救っていただいたお礼の方ですが…」

「ああ、いいですよ。偶々通りかかっただけですから…」
「などという言葉を本気にするわけはないわな? まあ、今回は主の気まぐれであるし、そう多くはいらんぞ」
「ちょっとクロ。何を言って…モガ」

「もちろんでございます。と言いたいところなのですが、この89番はすでに借金もいっぱいいっぱいでして。ご希望の金額に沿えないことをご了承願いたいのですけれど」

借金?なんで虎子ちゃんの借金が出てくる?

「ほう、礼金はその娘の借金という形になるのかの」
「そうなります。奴隷を手元に置くだけでもそれなりに維持費というものがかかってきてしまいますもので。最低限はこちらで面倒をみますが、それ以上のこととなると、本人の借金に上乗せされてしまうのです。この子は病持ちなので、売れることもないでしょうから、積極的にレンタルで働かせているのです」

・・・。
日本人としてツッコミたいけど、我慢。
そんな事情なら、尚更礼金なんていらーーーーん!!

「やっぱりいらな…ムガ」
「なるほどの。しかし、助けておいて、なんの礼もないというのは、そちらも心苦しいのではないかの?」

「はい。ですので、心付け程度になってしまいますが」

「ふむ。よかろう。それで手を打とう」

「ありがとうございます。早速ご用意して参ります。さ、89番も中へお戻り」
「はい」

コホコホと咳をしながら、虎子ちゃんが奥にある扉に向かう。

「あの、もし売れなかったら…」

なんとなくガウストさんに聞いてしまう。

「病持ちはまず売れません。となると、まあ最後は、ご想像の通りで」

ガウストさんが言葉を避けた。
病持ち。
この世界で病気になるということは、=死。
この先、虎子ちゃんが動けなくなったら…。
漫画で読んだことがあるけど、昔の花街の娼婦達は、病気になって客が取れなくなると、布団部屋に寝かされ、死ぬまで放置されたそうな。
虎子ちゃんが檻の中で苦しそうに息絶える姿を想像してしまう。
分かってる。分かってはいるんだけど。

「買います!」

口から言葉が勝手に出て来てしまっていた。
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