キーナの魔法

小笠原慎二

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始まりの旅

ミドル王国到着!

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ミドル王国。
数ある王国の中でも歴史が深く、街並みは古さを感じさせつつも、どこか懐かしい気配が漂う。
周辺の大国と同盟を古くから結んでおり、この国の周辺には争いの影はあまりない。
とても平和な王国であった。
街の真ん中に座する城の北門の前で、テルが顔を隠したまま、門番の衛兵となにやら話しこんでいる。
キーナといえば、何か気になるものを見つけたらしい。
テルディアスが戻ってくるのも待たず、何かに向かってルンルンと走っていく。

「面会の予約をしてきた…っておい」

待っていろと言った場所にキーナの姿はなく、近くの露天販売のところでなにやら注文していた。
テルディアスは溜め息をつくと、キーナを迎えに歩き出す。
露天からなんとかキーナを引き剥がし、二人は歩き出した。

「この世界にもアイスがあるとは♪」

といってアイスのようなものを嬉しそうにペロ~リと食べるキーナ。
ところが一口食べた所で顔色が変わった。

「今日はとりあえず宿に泊まるぞ…、どうした?」

明らかに不味そうな顔をして、キーナはアイスのようなものを睨んでいた。
というか、アイスではないぞ?







「外国のお菓子は日本人の味覚に合わないとか…、う~ん」

宿屋の窓から外の通りを眺めながら、キーナは一人呟いていた。
余程不味かったのかなんだか渋い顔をしている。

「この世界とももしかしたら明日お別れかぁ…」

夕闇を背にしてカラスのような鳥たちの群れが飛んでいく。
塒に帰るのだろうか。
街並みも夜に向かって準備をしだしているのか。
慌しいような、寒々しいような不思議な感覚を覚える。

「魔法も使えなくなるし…、テルともお別れか…」

元々魔法などに憧れていたキーナ。
多少なりとも使えるようになったのが嬉しいのだが、元の世界では無用の長物と言うか、存在しないもの。
物語の中だけに許された夢物語でしかなかった。
それが使えなくなるというのがとても悲しいのだ。
しかもまだうまく使いこなせてないし。

「危険はなくなるけど、寂しいな…」

元の世界に戻れば、少なくとも誰かに命を狙われるという危険からは回避できる。
しかし失うものも多い。

「できるなら…、もうちょっといたいかも…」

ふに~と顔を埋めるキーナ。
ずっと冒険に憧れていたのだ。
無理はない。
だけど、平和ボケした世界に帰るほうがキーナにとってはいいことだろう。

もう一つの部屋で、上半身裸になり(何故?!)、テルディアスがベッドで寝ていた。

(あいつは明日帰る…)

天井をボーっと見上げている。

(例えすぐに帰れなかったとしても、あいつはミドル王国において行こう。ミドル王国なら危険も及ぶまいし、魔法の修行もできる…)

自分のせいで巻き込まれるのがもう嫌だった。

(また…独りか…)

ここ数日間のことを思い出していた。
その時、

コンコン

と扉を誰かが叩いた。
ベッドから降り、扉の前に用心して立つ。

「誰だ」
「僕、キーナ」

扉の向こうからキーナの声が聞こえた。

「何か用か?」

少し間が空く。

「…入れて」
「何故?」

また少し間が空く。

「…最後だから、…話がしたい」

言葉の意味を慎重に汲む。
テルディアスは嫌な予感がしたが、何故か正面切って断る気にもなれず、扉を開けた。
キーナは枕を持って入ってきた。
これは何を意味するのだ?
テルディアスが扉を閉めた。
おずおずとテルディアスの顔色を伺いながら、

「一緒に…寝ちゃダメ?」

テルディアスの予感は当たった。

「怖い夢でも見たのか?」
「違う…けど」

懇願するような目でテルディアスを見つめるキーナ。

「あのな…、俺は17の男だ。お前は14の女。来年は15でもう成人だろ? 少しは常識を考えてだな…」

おや?
キーナは思った。
成人が15?
どうやらこの世界では成人は15歳であるらしい。
ちなみに平均寿命はだいたい50歳くらいである。
医療技術やらが発展していないせいもあるのだろう。

「成人は20歳でしょ?」
「15だろうが」

どう説明したらいいのかキーナは迷った。
テルディアスもどう言えばいいのか考え込んでしまった。
まぁ、つまりは文化の違いということで。

「成人どうこうじゃなくて! 一応年頃の男と女が(そうは見えないが)同じ部屋で寝るということが問題なんだ!」

心の声が混じったぞ?

お・と・し・ご・ろ

と言われてピンとこないキーナ。
そうか、僕はお年頃だったのか。
などと納得している始末。

「僕、お年頃に見える?」

制服を着るということに憧れていた頃、初めて制服に袖を通した時は、なんだか少し大人になったような、くすぐったさがあった。
お年頃、つまり少し大人に見えるということ。
キーナは勝手に解釈した。

「さっぱり。全然」

テルディアスが全力できっぱりさっぱりすっぱりと否定した。
嬉しそうなキーナの顔が一瞬の間に、ぶすっとした変な顔になった。
ちょっと傷ついたのだ。
そんなにさっくり否定しなくても…。
でもだとしたら、

「だったらいーじゃん!」

こうなるのは当然だろう。

「いや、…その…あの…」

テルディアスは墓穴を掘ったことに気付いた。
額に怒りマークをつけたまま、キーナがテルのベッドにズガッと枕を置く。
そのままの勢いでベッドに潜りこんでしまった。

「最後の夜なんだよ! 折角だから一緒に居たいの!」

離すもんかと布団を掴み、テルディアスを睨みつける。
テルディアスが渋い顔のままキーナを見つめる。
と、キーナがシュンとした顔になって、

「でも、やっぱりだめ?」

今度はウルウルとテルディアスを見つめた。
こうなったら何を言ってもテコでも動くまい。
テルディアスは諦めた。

「何があっても知らないからな!」
(動物だと思おう)

何をする気があるわけでもないが(あったらやばいぞ)、一応最後の脅し文句として一言告げた。
が。

「何かって何?」

ケロリン

とキーナが聞き返した。

(誰かこいつに性教育をしてやってくれーーーーー!!!)

床で頭を抱えながら、テルディアスは誰に届くでもない悲痛な願いを、心の中で叫んでいた。
キーナに急かされ、テルディアスが渋い顔のままベッドに入り込む。

(なんだかんだで結局一緒に寝る羽目に…、いいのか? 俺…)

良くないと思うよ。
ま、キーナがこれだから仕方ないだろうね~(笑)
と、作者の突っ込みは置いといて。
テルディアスが入り込もうとしているそばから、キーナがテルディアスに体を寄せてくる。
一応発達盛りの女の子の体です。
お堅いテル君、ギクッとなってすすっとキーナから体を離す。
するとまたキーナが寄ってきて、またテルディアスが逃げて…。
これを繰り返すと、

ドタッ!

「てっ」

案の定テルディアスがベッドから落ちた。

「つ、つつ…」
「大丈夫?」

一応心配そうにキーナが聞いてくる。
誰のせいだ。

「くっつくな!」

テルディアスが抗議の声を上げるが、

「いいじゃん。温かいんだもん」

暖簾に腕押し。
とてもじゃないが耐えられないと判断したテルディアスは、

「やっぱり俺は椅子で…」

と逃げようとしたが、

「風邪ひくって」

キーナにがっしりと腕を掴まれた。
そのままバランスを崩し、ベッドに引きずり込まれる。

「神妙にしろー!」

テルディアスの上にまたがり、キーナがテルディアスを押さえ込もうとする。
その顔はいきいきとしている。
遊んでいるだろうこいつ。

「うぎゃー!」

反射的に声を上げてしまったテルディアスだった。
おいおい、男が女に襲われてるぞ。
ところが、はたっと二人の動きが止まった。
何があったわけでもないが、まぁ単に間が合ったというところ。

(なんで俺が敷かれてんだ?)

というテルディアスの疑問は置いといて。
ちょっときわどい格好で、テルディアスの顔を真上から見つめることになったキーナ。
一瞬ドキッとなった。
自分の顔が赤くなっていくのが分かる。
キーナの顔を下から見上げているテルディアスも、その表情に変わりように気付いた。
つられて少し赤くなる。
ずざざっ!
と物凄い速さでテルディアスの上から降り、壁に逃げる。
壁に背を預けたまま、自分のこの動機がなんなのか考えるが、分からない。
心臓は早鐘のようにドキドキと繰り返し、顔がちょっと熱を帯びているような…。

「どうした?」

鈍感なテル君が起き上がり、不思議そうにキーナを見つめる。

「え?!」

キーナが慌てふためく。

「な、なんでもないよ♪」

わはは~と精一杯の作り笑いを顔に浮かべる。

「さ、寝ましょ寝ましょ」

明らかに挙動不審だ。
そのまま布団を掴み、頭までバサッと引っ張り上げ、

「おやすみ!」

強制終了した。
よく分からないまま、キーナが寝てしまったので、何も聞くに聞けず、テルディアスも仕方なく布団に潜り込む。

(寝にくい…)

元々一人用のベッドだしね。
大きな体を小さくして、何とかベッドから落ちないように横になる。
キーナは顔に布団を被ったままだ。
少しして、

「テル…」

キーナが呟くように言った。

「ん?」

テルディアスが返す。

「何か話して」

そろそろとキーナが顔を出した。顔はまだ少し赤い。

「何かって何だ?」
「生まれた所のこととかでもいい」

テルディアスが少し考え込むような顔をした。

「生まれた所か…。俺はどこで生まれたんだか…」

なにやら呟いた。

「え?」

キーナにはよく聞き取れなかった。

「俺が生まれ育った街は、海が近かった…」

テルディアスが語り始めた。
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