キーナの魔法

小笠原慎二

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始まりの旅

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「ねぇ、テル?」

宿を出て通りを歩く。通りはほどほど人で埋まっていた。

「なんか怒ってな~い?」

不思議そうにキーナがテルディアスに聞いた。

「別に」

いかにも不機嫌そうにテルディアスは言った。

(僕何かしたかな?)

わけも分からず考えるキーナ。
でも何もやった覚えはない。確かに何もしてはいない。

(こいつは…)

何となくキーナが考えていることが分かったテルディアスは又腹がたってきた。
くるりとキーナに向き直ると、

「一つ言っておくがな、一応俺とお前は男と女…」
「あ!!!」

まるで人の話を聞いちゃいない。

「テルっ!武器屋だよ!武器屋!」

といってすぐそこにある店の前にへばりついた。
テルディアスが怒りで肩を震わせているのも構わずに…。

ショーウィンドウの中では大層高級そうな大剣が飾られていた。
キーナにとっては憧れの剣。
走り出すのも仕方ない。
でもそんな事情をテルディアスが知るはずもない。

「お前は…、人の話を…」
「かっくい~~~」

やっぱりまるで聞いてない。

「…剣か」

ショーウィンドウには大層綺麗な剣が飾ってある。
眼はきらきら、口は半開き。
キーナはうっとりとしながらその剣を見つめている。

「護身用に一本持つか?」

冗談半分にテルディアスが言った。

「いいの?!」

思わず食いついてきた。
今更やめろとも言えず、仕方なく店に入っていく。

「僕あれがいい!」

と張り切るキーナ。

「別に構わんが…」

テルディアスは言った。

「抜けるか?」

剣とは勿論のこと金属で出来ている。
剣とは金属の塊でもあるのだ。故に力がなければ…、

「ふ~~~~ん!!! ウギイイイイ!!!!」

いくら引っ張ってもキーナにはその剣を1mmたりとも鞘から抜くことは出来なかった。

残念でした。

代わりに子供でも扱えそうな短剣をテルディアスが見繕った。
軽くて扱いやすく、初心者でも安心して使えるような一品だ。どう見ても剣など触ったことのないようなキーナには一番あっているだろう。
地味で少し短めの剣を持ちながらキーナは嘆いた。

(どうして僕ってこんなに非力なんだろう…)

一応女の子ですから。
テルディアスが支払を済ませてきた。

「テルは? テルはあのあそこに飾ってあるのにしないの? 立派じゃん!」

諦められないらしい。

「俺はナマクラは身に着けん性質なんだ」

その言葉を聞いて、

「ちょおいっと待ったいお客さん!」

店主がずずいっと引き止めた。

「するってぇと何かい?うちにはナマクラしかねえと言いなさるんかい?」

と店主が少し怒りを込めた声で聞いてきた。

「ああ、あまり良い物はないな」

更に神経を逆なでするような一言をテルディアスは放った。

「てやんでい!こちとらここに店構えて十と余年。いい品安くってのがこの店の信条でさあ!」

カウンターにデン!と足を構え、迫力のある店主が袖を捲り上げる。

「ああ、確かに、二、三流の程度の腕には悪くない品だがな」
「そんなオンボロの小汚ねぇどこの誰が作ったのかもわからねぇ様な剣をぶら下げてるような奴が何言ってやがる!」
「俺に会う剣がないだけだ」

どんどん事態は悪くなっていくようだ。
キーナはハラハラしながら止めようにも止められず見ていた。

「唯一あるとすれば、そこに飾ってあるその剣くらいだ」

とテルが指差した方向には、店主の後ろに飾られている、ショーウィンドウのものよりも幾分地味目の、しかし造りのしっかりした剣だった。

「な、何言ってやがる!こいつは有名なカリヴェロの造った一品だ。こいつは家宝だぜ! そこまで言うならおもしれぇ。俺と勝負しな! 勝ったらあのうちの家宝の剣をやるよ」
「いいだろう」

いつの間にか勝負になってしまっていた。

「はりゃりゃ…?」

キーナはただオロオロとするばかり。
店主が先に立ち店の裏手へと案内する。裏口を出ると簡易闘技場があった。キーナにはただの広場にしか見えない。平らにならされた地面。低い板塀がそう狭くもない広さで四角く囲っている。その真ん中に二本の線が引いてあった。
二人はその線のうえに対峙して立つ。キーナは邪魔にならないよう塀の傍で成り行きを見守る。

「お前のその剣でいいんだな?」

店主が言った。

「ああ」

テルディアスが答える。

「俺はこいつを…」

といって取り出したのはあのキーナが見つめていた高そうで派手な剣だ。

「あ、あの剣」
「こいつが俺の店にある家宝の剣を抜かした中で一番にいい剣だ!」

店主ががはははと笑いながら鞘から剣を抜いた。
よく鍛えられているらしく剣は美しい銀色に光り輝く。
柄に施されている金の装飾がまた豪奢に見せている。
店主も剣技には自信があるらしく、真っ直ぐにテルに向けて剣を構えた。

「この剣がナマクラかどうか試してみようじゃねぇか!」

相変わらずがはははと笑いながら店主が挑発してきた。

「久しぶりだな…」

どこか懐かしくテルディアスは呟いた。
そしてスラリと剣を抜いた。
正眼に構え、店主を見つめる。

「さあ!来て見ろ!」

途端にテルディアスの目つきが鋭くなった。
穏やかだった空気が殺気を含んでいく。
テルディアスの変容に店主は一瞬ビクリとなる。

(気圧される…、俺が…?)

どう見ても二、三流の流れの剣士にしか見えなかった男が、一瞬のうちにその気配を変えてしまったのだ。
今までに感じたことのない殺気に、店主は身が竦んだ。

キーナはテルディアスの変容に驚いていた。
感じたことのない殺気に体が強張る。
ドキドキしながら、しかしワクワクもしていた。
何故だか怖いのに、ワクワクするなんて?

「一撃で行かせてもらう」

そう言った直後、テルディアスの体は風のように軽やかに素早く動いた。
あっという間に間合いをつめ、店主に切りかかった。

「早…」

ギイイィィィィィン!

金属同士がぶつかり合う音。
一瞬の間にテルディアスは店主の背後に立っていた。

(すっご~~~~い!)

初めて見る剣技にキーナは感動した。
こんなにテルディアスがかっこいいとは!
おいおい。

「へ?」

反応すら出来なかった店主は間抜けな一言を漏らす。
確かに何かの手ごたえはあった。
だが、何が起きたのかさっぱり分かっていない。
とりあえず分かっているのは、自分がどこも切られておらず、無事だということ。
一瞬死を覚悟した店主は安堵するが、屈辱的な気分も感じた。

「勝負あったな」

テルディアスが振り向いた。

「な、何言ってやがる!俺は何ともない…!」

テルディアスが静かに剣を鞘に戻す。
チン、と鞘に剣が完全収まった瞬間、それが合図だったかのように、店主の剣がパキン!と音を立てて、バラバラになって地面に落ちた。

「オオ?!」

店主はこれでもか!というくらいに眼を開けて、バラバラになって散らばった剣を見つめた。

「ナマクラだろう?」

テルディアスが止めを刺した。













店に戻ると、

「約束だ」

とテルディアスが催促した。
店主は渋々しながらも、

「おらよ」

と家宝の剣を取り、テルディアスに渡した。
古い剣を取り、新しい剣を腰にさす。付け心地を確かめ、

「よし」

とテルディアスは言った。
複雑な顔をしながらそれを見ていた店主は、

「ところであんた、名はなんてんだい?それだけの腕だ。ちっとは名がしれてるんだろう?」

と問いかけた。
どうやらテルディアスの実力を認めたようだ。
テルディアスは少し考えている風だったが、

「テルディアス・ブラックバリーだ」

と名のった。

「へ?」

店主が変な顔をして呆然となる。

「行くぞ」
「うん?」

テルディアスが何故か慌てたようにキーナを促してそそくさと店を出て行った。
その後も何故かキーナを急かし、街中をアタフタと駆けていく。

「テルディアス・ブラックバリー…、テルディアス…ソードマスター?!」

何かに気付いた店主は

「えええええええええ!!!」

と大音量の驚きの声を漏らした。
店の外では通行人がギョッとなった。

「二年前…突如行方不明になった、史上最年少のソードマスター…。なんでそんな奴が…」

そこまで呟いて、店主はハッ!となり、急いで店を飛び出した!

「しまったーーーー!」

店の扉を壊すかの勢いで飛び出してきた店主にまたもや通行人がギョッとする。
しかし店主の目当ての者達は既に影も形もなく、ただ風に舞う砂埃が見えるだけだった。

「そんな…、そんな有名人なら…、代わりにサインをもらっとくべきだったーーー!」

人目も構わず店主はおいおい泣き出した。

戻ってきてくれーーー!

というこだまが聞こえたような気もしたが、街を出て少しした丘のうえで、キーナとテルディアスはぜいぜいと息を整えていた。

「何で逃げるの?」

ハアハア言いながらキーナが素朴な疑問をぶつける。

「騒ぎになるのはまずいからな」

確かにテルディアスの姿がばれたらとんでもないことになってしまうだろう。

「名乗らなきゃいいじゃん」
「そうもいかんだろう」

ただでもらったという罪悪感みたいなものは感じていたらしい。

「俺の名ならあの店主もちょっとは浮かばれるだろう」
「そんなに有名人なの?」

ちょっと以外そうにキーナは聞いた。

「この姿になる前はそこそこ名の馳せた剣士だった」

少し懐かしそうにテルディアスは言った。

「じゃ、テルって魔法剣士なんだ!」
「魔道を本格的にやりだしたのはこの姿になってからだがな…」

と言いながらキーナを見てテルディアスはビクウッ!と息を呑んだ。
眼はキラキラ、顔もキラキラ、夢心地のようなおかしな顔をしてテルディアスをキラキラと見つめている。
手を組んでうっとりと、何かの世界に浸ってしまったおかしな人にしか見えない。

「魔法剣士…」

なにかはまり込むワードだったらしい。

「お前…時々怖いぞ…」

たじたじとテルディアスはさがった。

「かぁっくいい~~~~~」
「は?」

かっこいい? 今そう聞こえたような…。

「僕、魔法剣士って憧れだったの…」

相変わらずキラキラキラキラ…。怖い。

「それを実物で見れるなんて!キャ―――――!」

突然ピョンピョンと「すっごい!すっごい!」と繰り返しながら辺りを跳ね回る。

「変な奴…」

もはや自分には手が付けられないと、テルディアスは黙って見ていた。

「テルっ!」

と突然キーナが振り向く。

「なんだ?」

半分うんざりとテルディアスが答えた。

「ずーーーっと一緒に、旅しようね!」

テルディアスは一瞬固まった。
キーナは元にいた場所に帰さねばならない。
ずっと一緒なんて無理なのは最初から分かっていたことだ。
だが、…危険なことは分かってはいたが、テルディアスはこのちょっとおかしくて手のかかる少女と一緒にいるのが楽しくもあった。
久々に感じる他人との触れ合い。
この少女がいなくなったら、また自分は独りに戻るのだ…。

そんなことを考えてはいけないとは思いつつ、テルディアスはできることならこの少女と、もう少し一緒に居たいと考えたりしていた。
出来ないとはわかっていても。
何故この少女は、いとも容易く、自分が一番欲しい言葉を投げかけてくれるのだろう。

「な、何言ってんだ、おま…」
「魔法剣士と旅するなんて! かっくいい!」

テルディアスはがっくりきた。

(俺じゃなくて、魔法剣士かい!)

あんなに悩んでいた自分に腹が立ってきた。

「テルッ」

いつの間にやら側に来ていたキーナ。

「今度は何だ!」
「剣技も教えてね」

テルディアスは一瞬、嫌気が差した。

「さあっ!行くぞ!ミドル王国」

腰に手を当ててわははははと笑うキーナ。何を格好つけているのだろう。
なんだか物凄く疲れたテルディアスは、

(俺、こいつと旅していけるのかなぁ…)

と本気で悩んだ。

(とりあえずミドル王国へ…。そこへ行けば…)
「テル早く! 魔女が来るよ!」
「お前、楽しんでないか?」

一方はスキップしながら、一方は乗り気のしない足取りで、なんやかんやと道を進む二人であった。
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