キーナの魔法

小笠原慎二

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水の都編

水中

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「水底の水竜の鱗を取ってくるだけ? なぁんだ、簡単じゃん」

脱いだ服を行儀良く畳む。

「簡単じゃありません! 穴は想像以上に長く深い・・・、底に行くに従って水圧も増してくるし、それに・・・」
「それに?」
「機密事項なので言えません」
「ケチだなぁ」
「そういう問題じゃありません! 元々修行を積んだ水巫女候補の者達の最終試練なのですよ! なかには命を落としかけた者もいるほど危険な試練なのに!! 水の一族でもないしかも盗賊のあなたがこの試練を受けるなんて! 危ないにも程があります! ナギタ王は何を考えてらっしゃるんだか・・・」








(処刑の代わり? まさかねぇ?)

脱衣所での会話を思い出し、キーナは水底に向かって水を掻く。

(確かに深いわこりゃ。でも思ったより暗くないなぁ。ま、行ってみますか)

どれくらい深いのかもよくは分からないが、とにかく行けるだけ行ってみようと心を決める。
多分なんとかなるさと。
どっから来るんだその自信・・・。









「テルディアスとやら」

王が真面目にテルディアスの名を呼んだ。
真面目である。

「不思議に思っていよう。何故主らにこんなことをさせたのか」
「ああ、何故だ? 俺達は罪人だぞ? しかも宝玉を盗もうとした大罪人だぞ?」

テルディアスが王を睨め上げる。
目つきが悪いのは元からだが。
王が遠くを見るような目をした。

「一つには、あの娘が面白いという事もあるが・・・」
(まあ、確かにちょっとおかしいが・・・)

テルディアスが心の中で同意する。

「我が国の歴史のなかで、水の宝玉が王国から消えた事が何度かあるのだ。その時は決まって王は神託を受け、王国に変事が起こる。私もつい先日、神託を受けたのだ。『水は留まるものに非ず。流れるものなり。我は再び流れるだろう』とな。そしてお主らが現われた。私は見極めたいのだ。主らが神託の者達なのかどうかを・・・」

テルディアスも神妙な面持ちで聞いている。
一応真面目な事も言えるのだなと思いながら。

「一つ教えてやろう。宝玉が女人しか触れないというのはデマだ。あれには女人であろうとも、資格のあるものしか触る事ができないのだ。この試練はその資質を見極めるものなのだ。水の祝福を受ける者、水の精霊に認められた者しか宝玉には触れない。この試練もまた然り。もしあの娘がこの試練を乗り越えられたら、水の精霊に認められた者ならば・・・」















キーナの顔が赤みを帯びてくる。

(い、息が・・・)

ゴボリ

息が漏れ出す。

(でも一回潜ったら鱗取ってくるまで水面に顔出しちゃいけないって・・・。い、息継ぎ・・・。どこか・・・)

コポ・・・

微かな音が聞こえた。
どこからか吹き出した小さな空気の泡が、岩陰に吸い込まれていく。
近寄ってみると、どうやら岩陰に窪みがある。

「ぶへあっ」

頭を突っ込んでみると、空気が溜まって空洞ができていた。

「はあ~、なるほどね。どうして壁がごつごつしてるのかと思ったら、窪みに空気が溜まって息継ぎできるようになってんだ」

思いっきり深呼吸をして、また潜って行く。

(魔法も使わずにどうやって潜って行ったんだろうと思ったけど、こうやってみんな行ったんだな。でも、そろそろ水圧が重くなってきたなぁ・・・)

だいぶ潜ったように思えるのだが、まだまだ底は見えない。
さすがに少し不安になってきた時、穴の底で何かが光った。
お?鱗か?とキーナがよく見ようとすると、その光が動いた。
いや、凄い勢いで近づいてくる。
自分に向かってくるそれから、思わずキーナは逃げようとするが・・・。











「水の一族が呪文なしで魔法が使えるなら、あの穴のなかで不正をしても分からないんじゃないのか?」

テルディアスが顎でクアグーラを指す。

「その対策はたてられておる。あの水着は特別製でな。もし魔法を使ったら、水着は千々に裂けてなくなってしまうのだ」
「!」
「そう、つまり、一糸まとわぬ姿になってしまうのだ」
「何を想像したらそんなに鼻血が出るんだ!」

王の鼻から止めどなく鼻血が流れ出る。

「こ、これは、別に欲求不満が溜まっているわけでは・・・」
「溜まってるのか・・・」

テルディアスの鋭い眼光に射すくめられる王。
だって后達が子供が生まれた途端に教育ママになっちゃって・・・相手にしてくれないんだもん・・・などと王がぶつぶつ呟く。

「王としての自覚が足りないんじゃないか?」

テルディアスが思いっきりとげのある言い方をする。

「お主こそ! あれを見て何も感じないのか!」
「感じてたまるか! あいつはまだガキだ!!」

などとギャーギャー言い合いを始める二人。
周りに立っている女性衛士達は同じ事を考えていた。

(聞いてるこっちが恥ずかしい・・・。アホらしく思えてくる・・・)

と。













水中でキーナは、長いものに巻き付かれ、身動きが取れなくなっていた。

(これが、機密事項?)

ウナギのようなその生物は、キーナの体をギュウギュウと締め上げていく。
その度に口から息が漏れ出していく。

(苦しい・・・。息が・・・。テルが・・・、待ってるのに・・・)

我知らず水面に向かって手を伸ばす。
そうすればテルディアスに手が届くかのように。

(テル・・・!!)

残ったキーナの空気が、肺から全て押し出されていった。
















コポリ

と水面に小さな泡が立った。
誰も気にかけなかったその音に、テルディアスは何故か敏感に反応する。
クアグーラの水面を凝視するが、その水面は特に何も変わりなく、静かなものだった。

(なんだ? この胸騒ぎは?)

腕に力が入るが、後ろ手に縛っている縄は簡単にはほどけそうにない。
身動きできない自分に焦りと苛立ちを覚える。

(キーナ・・・)

未だ水面に浮かんでこない少女。
不安がテルディアスの中で少しずつ大きくなっていく。
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