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光の宮編
光の宮
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広々とした部屋。
大きな衣装ダンスと大きなベッドが置かれ、そこに青緑の肌をした男が横たわっている。
側には一人の女性がおり、横のサイドデスクの上に置いたタライからタオルを取り出し絞っている。
それを持って男に近づくと、体を拭こうと手を伸ばした。
突然男の手がその女性の手を掴み、あっという間に後ろ手に固定し、もう一方の手で女性の首を掴んだ。
「うあ・・・!」
一瞬の出来事に女性は反応できず、男に体の自由を奪われてしまう。
男、テルディアスが女性の耳元で囁く。
「お前は誰だ? ここはどこだ?」
静かだが、下手に答えれば、その手に力を込め、殺されてしまいそうな迫力を秘めていた。
女性は震えながらも声を絞り出す。
「わ、私はアイ。御子様の世話役を仰せつかりました」
(御子・・・? 世話役?)
テルディアスがあの時感じた違和感が再び感じられる。
「ここは、御子様の寝室でございます」
(御子? 御子はキーナだろう? 何故俺・・・)
そして違和感の答えが閃いた。
(勘違いで連れてこられた?!)
何をどう間違えたのか、キーナではなく、テルディアスを光の御子だと思ったらしい。
とりあえず害はないと判断し、女、アイと名乗る女性の首から手を放し、自由にしてやる。
アイは少し苦しげに咳をした。
テルディアスがベッドから降りる。
「何故俺が? どうして俺を光の御子だと?」
「み、御子様はまだ完全にお目覚めになってはおりません。それを妨げているのが、その闇の呪いに違いないと、神官達が・・・。御子様の体調が整い次第、呪法を解く儀式を行うと言っておりました」
テルディアスがその言葉に目を剥く。
呪法を解く儀式?
「・・・連れの娘はどうした?」
気になっていた事を聞く。
この部屋に、この近くにキーナはいないようだ。
「星の宮にて介抱しております。御子様が望むのであれば、宮に住まわせても良いと」
アイが上着をテルディアスの肩にかけた。
上半身に何も身につけていなかったテルディアスは、一応有り難く着させて頂く。
(とりあえずキーナは無事か。しかも願ってもない、光の者の方からこの呪法を解いてくれるとは・・・。しばらくこのまま様子を見るか)
「宮殿内を見て回りたい」
そう言うと、
「ご案内いたします」
アイが頭を下げて、先に立って歩き出した。
宮殿内を見て回り、何かあった時のための脱出ルートを確認しておく。
できればキーナのいる所も正確に把握しておきたかった。
(元の姿に戻って勘違いだと分かれば、俺はすぐに追い出されるだろう・・・)
そこで気付く。
テルディアスは光の御子ではない。
だが、
(キーナは?! あいつは正真正銘光の御子だ! それに、俺が元の姿に戻ったら、キーナと旅をする理由がなくなる・・・)
元の姿に戻る為に旅をしているのだ。
元の姿に戻ったら旅をする必要は無い。
つまり、キーナと共にいる理由がない。
それに、光の御子は本来光の宮にいるのが当たり前なのだ。
だとすれば・・・。
テルディアスは、それで全て丸く収まるはずなのに、何故か心がもやっとしていた。
その頃、星の宮と呼ばれる建物の一室で、パチリと目覚めたキーナがいた。
「あ、お目覚めになりましたか?」
側でキーナの様子を見ていた少年が声をかけた。
ガバリッ
と上体を起こす。
いきなり動いたのでびびる少年。
そのままキーナはキョロキョロと顔を動かす。
「あ、あの・・・」
キーナの奇怪な動きに若干引き気味の少年が、恐る恐る声をかける。
キーナは少年に気付くとその顔をじっと凝視し、
「ここどこ? テルどこ? あなた誰?」
「え・・・と・・・」
立て続けの質問攻めに、何から答えていいのか判断に迷う少年だった。
テルディアスがその通路に気付く。
「待て」
アイが足を止めた。
「あっちは?」
説明もされずに通り抜ける所だった。
通路の奥には少し仰々しい扉が備え付けてある。
「あれは太陽の宮へ続く扉です」
アイが答える。
「太陽の宮?」
「御子様はあちらへ行くことはなりません」
「何故だ?」
アイがボンヤリとした目を向けて答える。
「ここには、あまり力の無い者の住まう星の宮、ある程度の力を持つ者の住まう月の宮、強い力を持つ神官、巫女達の住まう太陽の宮があります。強い力を持つ者が、下位の者、または俗人などと長い間関わると、聖性を失うと言われ、互いの宮を軽々しく行き来することは禁じられているのです」
「・・・。つまり、俺はもうここから出ることはできないと?」
「はい。御子様は神託を受ける大事な方。聖性を失い力を失えば、世の民を導くこともできなくなります」
(つまりは、自分たちの地位を失うことを恐れていると言うことか。アホらしい)
「連れの娘に会うことも?」
「なりません」
「・・・」
それはちょっとした誤算だった。御子なのだから堂々とあちこち歩き回れると思っていたからだ。
それどころか狭い建物の中に閉じ込められる羽目になるとは。
(キーナと連絡を取ることはできない・・・か。まあ、あいつなら・・・)
どうにかこうにか無事に切り抜けているのでは・・・と考えたかったが、今までの行動から考えると・・・。
(心配だ・・・)
何かアホなことをしでかしていなければいいが・・・。
不安に思いながらも、テルディアスはアイの後ろについて建物内を回る。
「・・・というような造りになっているんですよ」
ソウと名乗った少年の後について、キーナが星の宮を見て回っていた。
「ふ~ん」
広い敷地内には幾人かの人が何かしら働いているようで、すれ違っても軽く頭を下げる程度。特に話しかけても来ない。
なんだか皆無愛想で、明らかにこちらに関わりたくないような態度を示す人もいた。
(なんだかなぁ・・・。造りは豪奢なのに、なんか、暗いなぁ)
建物もとても綺麗な造りで、キーナにはよく分からないが、多分大理石とかそういう貴重な石などを使って作られているのだろう。
あちらこちらに金で作られた装飾、置物などもみられ、キラキラしている。
だのに、何故か空気が重い。
あちこちピカピカキラキラしているのに、暗いと感じてしまう。
あまり長くいたいと思えない場所だった。
「実は僕の母もかなりの高位の巫女でして」
「ホウ?」
ソウ君は12歳になったばかりだというのに、キーナよりも少し身長が高い。
ちょっと複雑な気持ちを抱えながらも、キーナはソウの後を大人しく付いて歩いていた。
「ソウ君のお母さんも? どこにいるの?」
「太陽の宮です」
ソウ君がちょっと嬉しそうに笑った。
「僕があまり力を持って生まれなかった為に、三つの時に離されたのであまりよく覚えていないのですが、ただ、・・・一度だけ、遠目で拝見した時は、とても綺麗な方だったなぁとは・・・」
「会わないの?」
キーナは目をパチクリさせた。
何故お母さんが近くにいるのに、一緒に暮らしていないのか不思議だった。
ソウは少し寂しそうに笑う。
「会えませんよ。僕はそんなに力を持ってませんから。・・・会ってみたいけど、僕は、出来損ないですから・・・」
自分を卑下し、諦めたような顔をする。
キーナは納得いかず、なんだかむっとなる。
しかし声を荒げた所でなんともならないこともなんとなく感じて、とりあえず大人しくしている。
(なんかやだなぁココ。早く出て行きたいけど、テルがいるしなぁ。テルはどうしてるかな・・・? でも、テル、光の御子だっていうなら、もう一緒に、旅するなんて、できないよね・・・)
どれだけ偉いのかよく分からないけど、とにかく御子とも呼ばれる人とそう軽々しく会えないだろうことはキーナにも分かった。
会えないということは、旅なんてできるものじゃない・・・。
日が暮れ、月が昇る。
特に天気が荒れることもなく、穏やかな夜だった。
テルディアスが御子の寝室に戻ってくる。
やや気疲れした顔をしていた。
(堅苦しくてやってられんな)
見回りが終わった頃から、神官と名乗る者達が代わる代わる挨拶に来て、なにやら言上を述べたりだの今後の御子様のご活躍がどーのだのと一人一人が長々しい台詞を吐いていった。
一応それらしく振る舞って対処しては来たけれど、一々長いわくどいわで、終わりの方はほとんど聞き流していた。
(これがキーナだったら・・・)
「もう飽きた!」
(とか言いそうだな・・・)
と思いつつ含み笑いをする。
きっと途中で逃げ出しているに違いない。
御子なのに御子らしくない奴だ。
そんなことを考えながら着替えようとすると、後ろからアイがそれを手伝ってくる。
脱いだ物を衣装ダンスにしずしずと仕舞う。
(まだいたか。もう寝るっつーに)
ずっと付き添い、付きまとってきていた。
(さっきの風呂場でも・・・)
用意された風呂に一人でのんびり浸かっていたら、後ろから、
「お背中を流しに・・・」
と声が。
振り向くとタオル一枚で体を隠したアイ。
盛大に水音を立てて驚いてしまったのだった。
(御子の権限を使ってやめさせたが・・・)
渋るアイを命令だと言って風呂から強制的に追い出した。
その後はゆっくりなんて浸かってられなかったのだが。
「もういいぞ。部屋に戻れ」
テルディアスがアイに向かって命令する。
「は?」
アイがまさにポッカ~ンという感じでテルディアスを見つめる。
(? 何故不思議そうな顔を?)
「まだ、夜の勤めが残っておりますが・・・」
夜の、勤め?!
テルディアスがアスティに吹き込まれた、怪しい一場面を思い浮かべた時、おもむろにアイが自分の着ていた服を脱いだ。
その下はパンティしか履いてなかった。
つまり、テルディアス見ちゃった。
ぐるりと後ろを向き、顔を手で覆う。
この純情青年、顔が耳まで真っ赤になっている。
「御子様?」
アイが首を傾げた。
「い、いきなり脱ぐな!」
今見た物を必死に忘れようとするが、そういうときに限って何故か、アスティに吹き込まれたいろいろな情報が頭を駆け巡ったりして、大変である。
「お、俺はそんなものいらん! だ、だから早く服着て、自分の部屋に帰れ!」
どもってるよこの純情青年。
「けれど、御子様・・・」
「いいから早く出て行け!」
最後は必死な叫び声になってます。
と、アイが悲しげに目を伏せた。
「申し訳ありませんが、その命だけは聞くことができません」
「?! 何故?!」
「私には、帰る部屋がございませんから・・・」
言った意味が分からない。
テルディアス恐る恐る顔を上げ、
「ど、どういうことだ?」
聞いた。
「巫女のお役目の一つで、夜は神官達の寝所を温めなければなりません。より強い力を持った次代の子を成す為に・・・」
テルディアスは愕然となる。
それは、つまり・・・。
「一つ、聞いていいか?」
テルディアスは思い浮かんだ疑問を口にする。
まさかとも思いながら。
「もし御子が・・・、男じゃなくて・・・、女、だったとしたら・・・?」
「女? だったら・・・」
アイはテルディアスの最も聞きたくない答えを口にした。
「御子様が女性でしたら、尚更かと。より強い者、または次代の御子をお産みになられるかもしれませんから。毎夜違う神官が御子様の部屋を訪れるでしょう」
テルディアスの拳に力が入る。
赤くなっていた顔が、今や青ざめて、いや、どす黒くなっている。
(あいつはまだガキだぞ! だが、14ということは・・・、一応男を受け入れるということができるわけで・・・)
月の物もきちんときている。
つまりは子供を孕むことができるということだ。
テルディアスを覆う空気がどす黒い物に変わっていく。
その変化を感じ取り、アイがたじろぐ。
「とにかく服を着ろ」
「え?」
「この部屋にいてもいい。だがお前を抱く気はない」
「はい・・・」
有無を言わせぬその迫力に、アイは黙って従うしかないと悟る。
今までも触れれば怪我をするようなトゲトゲした空気は感じていたが、今は触れた瞬間に斬り殺されてしまいそうな雰囲気に、ただたじろいでいた。
テルディアスは血が滲みそうになるほどに拳を握っていた。
(こんな所にキーナを置いて行けるか!)
元の姿に戻っても、キーナを連れて逃げ出してやる。
そう心に決めた。
「? テル?」
なんだか呼ばれたような気がしてキーナが振り返るが、そこには壁があるだけ。
用意された小さな部屋に、簡素なベッド。
夕食も頂いてお風呂も借りて、清潔な寝間着も借りられて、そこそこいいお宿に泊まってる感じだった。
空気が重いのを除けば。
「気のせい、だよね?」
テルのことばかり考えていたから幻聴でも聞こえたのかしら?と自分を納得させる。
「ふにゃ~」
とベッドにごろんと転がる。
「一人旅・・・か。う~ん・・・。怖い・・・し、寂しいよね」
これからのことを考えて、頭を悩ます。
(サーガでも探して、またボディーガードでもやってもらおっかな~?)
どこにいるのかは分からないが、一人で旅をするよりはまだましかもしれないと思う。
だけれども、
(テル・・・)
できればテルと一緒に行きたい。
テルと一緒にいた方が何故か安心できるのだ。
しかし、それはもう叶わないかもしれない・・・。
(せめて最後に、もう一度会いたい・・・)
一緒に行かれないのなら、せめてちゃんとお別れが言いたい。
もう一度テルの顔が見たい。
「どうにかして忍び込めないかな?」
ポツリと呟いたその一言を、キーナは眠るまで思案することになる。
すぐに寝たけど。
大きな衣装ダンスと大きなベッドが置かれ、そこに青緑の肌をした男が横たわっている。
側には一人の女性がおり、横のサイドデスクの上に置いたタライからタオルを取り出し絞っている。
それを持って男に近づくと、体を拭こうと手を伸ばした。
突然男の手がその女性の手を掴み、あっという間に後ろ手に固定し、もう一方の手で女性の首を掴んだ。
「うあ・・・!」
一瞬の出来事に女性は反応できず、男に体の自由を奪われてしまう。
男、テルディアスが女性の耳元で囁く。
「お前は誰だ? ここはどこだ?」
静かだが、下手に答えれば、その手に力を込め、殺されてしまいそうな迫力を秘めていた。
女性は震えながらも声を絞り出す。
「わ、私はアイ。御子様の世話役を仰せつかりました」
(御子・・・? 世話役?)
テルディアスがあの時感じた違和感が再び感じられる。
「ここは、御子様の寝室でございます」
(御子? 御子はキーナだろう? 何故俺・・・)
そして違和感の答えが閃いた。
(勘違いで連れてこられた?!)
何をどう間違えたのか、キーナではなく、テルディアスを光の御子だと思ったらしい。
とりあえず害はないと判断し、女、アイと名乗る女性の首から手を放し、自由にしてやる。
アイは少し苦しげに咳をした。
テルディアスがベッドから降りる。
「何故俺が? どうして俺を光の御子だと?」
「み、御子様はまだ完全にお目覚めになってはおりません。それを妨げているのが、その闇の呪いに違いないと、神官達が・・・。御子様の体調が整い次第、呪法を解く儀式を行うと言っておりました」
テルディアスがその言葉に目を剥く。
呪法を解く儀式?
「・・・連れの娘はどうした?」
気になっていた事を聞く。
この部屋に、この近くにキーナはいないようだ。
「星の宮にて介抱しております。御子様が望むのであれば、宮に住まわせても良いと」
アイが上着をテルディアスの肩にかけた。
上半身に何も身につけていなかったテルディアスは、一応有り難く着させて頂く。
(とりあえずキーナは無事か。しかも願ってもない、光の者の方からこの呪法を解いてくれるとは・・・。しばらくこのまま様子を見るか)
「宮殿内を見て回りたい」
そう言うと、
「ご案内いたします」
アイが頭を下げて、先に立って歩き出した。
宮殿内を見て回り、何かあった時のための脱出ルートを確認しておく。
できればキーナのいる所も正確に把握しておきたかった。
(元の姿に戻って勘違いだと分かれば、俺はすぐに追い出されるだろう・・・)
そこで気付く。
テルディアスは光の御子ではない。
だが、
(キーナは?! あいつは正真正銘光の御子だ! それに、俺が元の姿に戻ったら、キーナと旅をする理由がなくなる・・・)
元の姿に戻る為に旅をしているのだ。
元の姿に戻ったら旅をする必要は無い。
つまり、キーナと共にいる理由がない。
それに、光の御子は本来光の宮にいるのが当たり前なのだ。
だとすれば・・・。
テルディアスは、それで全て丸く収まるはずなのに、何故か心がもやっとしていた。
その頃、星の宮と呼ばれる建物の一室で、パチリと目覚めたキーナがいた。
「あ、お目覚めになりましたか?」
側でキーナの様子を見ていた少年が声をかけた。
ガバリッ
と上体を起こす。
いきなり動いたのでびびる少年。
そのままキーナはキョロキョロと顔を動かす。
「あ、あの・・・」
キーナの奇怪な動きに若干引き気味の少年が、恐る恐る声をかける。
キーナは少年に気付くとその顔をじっと凝視し、
「ここどこ? テルどこ? あなた誰?」
「え・・・と・・・」
立て続けの質問攻めに、何から答えていいのか判断に迷う少年だった。
テルディアスがその通路に気付く。
「待て」
アイが足を止めた。
「あっちは?」
説明もされずに通り抜ける所だった。
通路の奥には少し仰々しい扉が備え付けてある。
「あれは太陽の宮へ続く扉です」
アイが答える。
「太陽の宮?」
「御子様はあちらへ行くことはなりません」
「何故だ?」
アイがボンヤリとした目を向けて答える。
「ここには、あまり力の無い者の住まう星の宮、ある程度の力を持つ者の住まう月の宮、強い力を持つ神官、巫女達の住まう太陽の宮があります。強い力を持つ者が、下位の者、または俗人などと長い間関わると、聖性を失うと言われ、互いの宮を軽々しく行き来することは禁じられているのです」
「・・・。つまり、俺はもうここから出ることはできないと?」
「はい。御子様は神託を受ける大事な方。聖性を失い力を失えば、世の民を導くこともできなくなります」
(つまりは、自分たちの地位を失うことを恐れていると言うことか。アホらしい)
「連れの娘に会うことも?」
「なりません」
「・・・」
それはちょっとした誤算だった。御子なのだから堂々とあちこち歩き回れると思っていたからだ。
それどころか狭い建物の中に閉じ込められる羽目になるとは。
(キーナと連絡を取ることはできない・・・か。まあ、あいつなら・・・)
どうにかこうにか無事に切り抜けているのでは・・・と考えたかったが、今までの行動から考えると・・・。
(心配だ・・・)
何かアホなことをしでかしていなければいいが・・・。
不安に思いながらも、テルディアスはアイの後ろについて建物内を回る。
「・・・というような造りになっているんですよ」
ソウと名乗った少年の後について、キーナが星の宮を見て回っていた。
「ふ~ん」
広い敷地内には幾人かの人が何かしら働いているようで、すれ違っても軽く頭を下げる程度。特に話しかけても来ない。
なんだか皆無愛想で、明らかにこちらに関わりたくないような態度を示す人もいた。
(なんだかなぁ・・・。造りは豪奢なのに、なんか、暗いなぁ)
建物もとても綺麗な造りで、キーナにはよく分からないが、多分大理石とかそういう貴重な石などを使って作られているのだろう。
あちらこちらに金で作られた装飾、置物などもみられ、キラキラしている。
だのに、何故か空気が重い。
あちこちピカピカキラキラしているのに、暗いと感じてしまう。
あまり長くいたいと思えない場所だった。
「実は僕の母もかなりの高位の巫女でして」
「ホウ?」
ソウ君は12歳になったばかりだというのに、キーナよりも少し身長が高い。
ちょっと複雑な気持ちを抱えながらも、キーナはソウの後を大人しく付いて歩いていた。
「ソウ君のお母さんも? どこにいるの?」
「太陽の宮です」
ソウ君がちょっと嬉しそうに笑った。
「僕があまり力を持って生まれなかった為に、三つの時に離されたのであまりよく覚えていないのですが、ただ、・・・一度だけ、遠目で拝見した時は、とても綺麗な方だったなぁとは・・・」
「会わないの?」
キーナは目をパチクリさせた。
何故お母さんが近くにいるのに、一緒に暮らしていないのか不思議だった。
ソウは少し寂しそうに笑う。
「会えませんよ。僕はそんなに力を持ってませんから。・・・会ってみたいけど、僕は、出来損ないですから・・・」
自分を卑下し、諦めたような顔をする。
キーナは納得いかず、なんだかむっとなる。
しかし声を荒げた所でなんともならないこともなんとなく感じて、とりあえず大人しくしている。
(なんかやだなぁココ。早く出て行きたいけど、テルがいるしなぁ。テルはどうしてるかな・・・? でも、テル、光の御子だっていうなら、もう一緒に、旅するなんて、できないよね・・・)
どれだけ偉いのかよく分からないけど、とにかく御子とも呼ばれる人とそう軽々しく会えないだろうことはキーナにも分かった。
会えないということは、旅なんてできるものじゃない・・・。
日が暮れ、月が昇る。
特に天気が荒れることもなく、穏やかな夜だった。
テルディアスが御子の寝室に戻ってくる。
やや気疲れした顔をしていた。
(堅苦しくてやってられんな)
見回りが終わった頃から、神官と名乗る者達が代わる代わる挨拶に来て、なにやら言上を述べたりだの今後の御子様のご活躍がどーのだのと一人一人が長々しい台詞を吐いていった。
一応それらしく振る舞って対処しては来たけれど、一々長いわくどいわで、終わりの方はほとんど聞き流していた。
(これがキーナだったら・・・)
「もう飽きた!」
(とか言いそうだな・・・)
と思いつつ含み笑いをする。
きっと途中で逃げ出しているに違いない。
御子なのに御子らしくない奴だ。
そんなことを考えながら着替えようとすると、後ろからアイがそれを手伝ってくる。
脱いだ物を衣装ダンスにしずしずと仕舞う。
(まだいたか。もう寝るっつーに)
ずっと付き添い、付きまとってきていた。
(さっきの風呂場でも・・・)
用意された風呂に一人でのんびり浸かっていたら、後ろから、
「お背中を流しに・・・」
と声が。
振り向くとタオル一枚で体を隠したアイ。
盛大に水音を立てて驚いてしまったのだった。
(御子の権限を使ってやめさせたが・・・)
渋るアイを命令だと言って風呂から強制的に追い出した。
その後はゆっくりなんて浸かってられなかったのだが。
「もういいぞ。部屋に戻れ」
テルディアスがアイに向かって命令する。
「は?」
アイがまさにポッカ~ンという感じでテルディアスを見つめる。
(? 何故不思議そうな顔を?)
「まだ、夜の勤めが残っておりますが・・・」
夜の、勤め?!
テルディアスがアスティに吹き込まれた、怪しい一場面を思い浮かべた時、おもむろにアイが自分の着ていた服を脱いだ。
その下はパンティしか履いてなかった。
つまり、テルディアス見ちゃった。
ぐるりと後ろを向き、顔を手で覆う。
この純情青年、顔が耳まで真っ赤になっている。
「御子様?」
アイが首を傾げた。
「い、いきなり脱ぐな!」
今見た物を必死に忘れようとするが、そういうときに限って何故か、アスティに吹き込まれたいろいろな情報が頭を駆け巡ったりして、大変である。
「お、俺はそんなものいらん! だ、だから早く服着て、自分の部屋に帰れ!」
どもってるよこの純情青年。
「けれど、御子様・・・」
「いいから早く出て行け!」
最後は必死な叫び声になってます。
と、アイが悲しげに目を伏せた。
「申し訳ありませんが、その命だけは聞くことができません」
「?! 何故?!」
「私には、帰る部屋がございませんから・・・」
言った意味が分からない。
テルディアス恐る恐る顔を上げ、
「ど、どういうことだ?」
聞いた。
「巫女のお役目の一つで、夜は神官達の寝所を温めなければなりません。より強い力を持った次代の子を成す為に・・・」
テルディアスは愕然となる。
それは、つまり・・・。
「一つ、聞いていいか?」
テルディアスは思い浮かんだ疑問を口にする。
まさかとも思いながら。
「もし御子が・・・、男じゃなくて・・・、女、だったとしたら・・・?」
「女? だったら・・・」
アイはテルディアスの最も聞きたくない答えを口にした。
「御子様が女性でしたら、尚更かと。より強い者、または次代の御子をお産みになられるかもしれませんから。毎夜違う神官が御子様の部屋を訪れるでしょう」
テルディアスの拳に力が入る。
赤くなっていた顔が、今や青ざめて、いや、どす黒くなっている。
(あいつはまだガキだぞ! だが、14ということは・・・、一応男を受け入れるということができるわけで・・・)
月の物もきちんときている。
つまりは子供を孕むことができるということだ。
テルディアスを覆う空気がどす黒い物に変わっていく。
その変化を感じ取り、アイがたじろぐ。
「とにかく服を着ろ」
「え?」
「この部屋にいてもいい。だがお前を抱く気はない」
「はい・・・」
有無を言わせぬその迫力に、アイは黙って従うしかないと悟る。
今までも触れれば怪我をするようなトゲトゲした空気は感じていたが、今は触れた瞬間に斬り殺されてしまいそうな雰囲気に、ただたじろいでいた。
テルディアスは血が滲みそうになるほどに拳を握っていた。
(こんな所にキーナを置いて行けるか!)
元の姿に戻っても、キーナを連れて逃げ出してやる。
そう心に決めた。
「? テル?」
なんだか呼ばれたような気がしてキーナが振り返るが、そこには壁があるだけ。
用意された小さな部屋に、簡素なベッド。
夕食も頂いてお風呂も借りて、清潔な寝間着も借りられて、そこそこいいお宿に泊まってる感じだった。
空気が重いのを除けば。
「気のせい、だよね?」
テルのことばかり考えていたから幻聴でも聞こえたのかしら?と自分を納得させる。
「ふにゃ~」
とベッドにごろんと転がる。
「一人旅・・・か。う~ん・・・。怖い・・・し、寂しいよね」
これからのことを考えて、頭を悩ます。
(サーガでも探して、またボディーガードでもやってもらおっかな~?)
どこにいるのかは分からないが、一人で旅をするよりはまだましかもしれないと思う。
だけれども、
(テル・・・)
できればテルと一緒に行きたい。
テルと一緒にいた方が何故か安心できるのだ。
しかし、それはもう叶わないかもしれない・・・。
(せめて最後に、もう一度会いたい・・・)
一緒に行かれないのなら、せめてちゃんとお別れが言いたい。
もう一度テルの顔が見たい。
「どうにかして忍び込めないかな?」
ポツリと呟いたその一言を、キーナは眠るまで思案することになる。
すぐに寝たけど。
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過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。
そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。
「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」
前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。
二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。
辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
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