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テルディアス変身!
テルディアスも大変なのである
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キーナがチラリとこちらを見ると、メリンダに何か耳打ちした。
するとメリンダがチラリとこちらを見て、キーナに何か耳打ちした。
すると二人はにっこりと笑い合い、楽しげにまた喋りだした。
そして、またメリンダがこちらをチラリと見て、何故かニタリと笑った。
一体、二人は何をこそこそやっているのだろう・・・。
次の街に辿り着いた。
あまり広くはないが、人々の顔は暗くない。
商店などの並んだ通りに出ると、
「それじゃ、あたし達買い物してくるから、あんたは宿でも取っといて」
と有無を言わせぬ迫力で、メリンダがキーナを連れ出そうとする。
「お、おい!」
テルディアスが慌てて呼び止める。
「何を買う気だ?」
「野暮ねぇ。女の子の買い物にいちいち口出す気?」
「無駄使いする金はないぞ」
キーナが慌てる。
しかしそんなキーナの心配を余所に、メリンダはズバッと切り出した。
「女の子の下着、生理用品、その他諸々ってはっきり言って欲しいわけ?」
テルディアスずっこけた。
キーナが顔を赤くする。
通りの真ん中でそんなに堂々と言って欲しくない。
「それともあんたも行く~?」
とメリンダがにやけながらテルディアスに聞き返す。
「行くか!」
テルディアスのような男が一緒に行けるわけがない。
「そういうことだから、宿をヨロシクね~」
とヒラヒラと手を振りながらキーナの肩を抱いて行ってしまった。
キーナが申し訳程度に
「行ってくるね」
と口を動かし、軽く手を振った。
そして二人はテルディアスが絶対に近づけないような店に入っていった。
(なるほど・・・。あの時のひそひそ話は、これか)
この世界に来てから、キーナは旅先の宿屋の女将さんなどに話を聞き、下着や生理用品などを購入していた。
そういう物を取り扱っているお店がどんな店なのか分からなかった為である。
そして今回、メリンダさんという強力な仲間ができ、やっとこさ自分で買い物できるようになったと・・・。
女の子は下着も色々なので大変なのです。
宿屋の一室でテルディアスが大人しく二人の帰りを待っていた。
そして気付く。
「なんで俺、素直に宿で留守番してんだ・・・」
根が真面目だからじゃないかい?
(宝玉について色々調べなきゃならんのに)
水の宝玉は手に入れた。
火の宝玉は案内してもらう。
だが風と地の宝玉については、まだ何の手掛かりもないのだ。
もう一度マントを身につけフードを被り、身支度を整える。
そして耳に付けていた双子石を外し、側のサイドテーブルの上に置いた。
(これをここに置いて行けば、宿も分かるだろう)
そして静かに部屋を出て行った。
ルンルンと浮かれながらキーナがメリンダと歩いていた。
「ありがとお。メリンダさん」
「どう致しまして」
なにやら良い買い物でもできたのか、足元がステップを踏んでいるようだ。
「さすがにこればかりはテルに聞くわけにいかなくて・・・」
キーナが少し顔を赤くした。
「あの唐変木が知ってるとも思えないしね」
というか知っていたら怪しい気もするが。
生理という現象は知っていても、生理用品の仕組みまでは分からない。
それが一般の男性というものだろう。
まあその話は置いといて。
並んだ露店から良い匂いが漂ってくる。
「キーナちゃん、アレ食べて行かない?」
「ふえ?」
肉団子が三つ、串に刺さって並んでいた。
タレの匂いがなんとも言えず香ばしい。
「でも、テルが待ってるから」
ただ早くテルディアスの元へ行きたいだけなのか、待たせているというのが嫌なのか。
(またテルディアス?)
キーナとの会話の中で、今までも何度となく、かなりしょっちゅう出てくる単語、テルディアス。
なにかにつけテルディアステルディアス。
メリンダは嫉妬を覚えていた。
「大丈夫よ! あんな男! 待たせとくらいで丁度いいのよ!」
「フニャ?」
少し無理矢理にキーナを引っ張っていく。
(テル、テルって、二言目にはテルディアスなんだもの)
とメリンダが溜息をついた横で、
「そーだ! テルの分も買って行ったげよう!」
と再びテルディアスの名。
またかい、と心の中で突っ込んだメリンダだった。
肉団子の串を両手で持ち、ルンルンのキーナ。
「テル喜ぶかな?」
「喜ぶと思うわ・・・」
(これだけ思われてりゃね・・・)
半分諦め気味にメリンダ呟く。
「本当~~にテルディアスとキーナちゃんて恋人でも何でもないの?」
と、ちょっと前にもした質問を、念のためもう一度口にする。
「うん!」
汚れのない眼差しで、素直に返事するキーナ。
(う~~~~ん)
その様子に頭を悩ませるメリンダ。
キーナの瞳が純粋過ぎて踏み込めない。
「同じ目的(?)を持った旅の仲間だよ!」
キーナにとっては、RPGの仲間くらいの感覚なのかもしれない。
「それに僕、人を好きになるって、まだよく分かんない」
とちょっと照れたように笑う。
その顔を見て・・・、
(か、可愛い~~~~。食べちゃいたい~~~)
と悶えるメリンダ。
食べるのは肉団子だけにしてね。
(テルディアスになんかには、もったいない!)
と一人で心の中で燃え上がる。
(キーナちゃんにはあたしが認めた男じゃなきゃ任せられないわ!テルディアスなんてダメダメダメ!)
そしてふと考える。
こんな可愛い子に似合う男などいるのだろうかと・・・。
(それともいっそのことあたしが・・・)
キーナは何故か背中がゾワリとした。
なんだろうこの寒気は?と首を捻るが、隣を歩く綺麗なお姉さんが、異様な光を秘めて見つめていることには気付かなかった。
双子石を頼りに宿屋に入る。
「テ~ル~」
テルディアスの部屋をノックする。
「おみやげだよん」
と扉を開けるが、部屋には誰もいなかった。
「あれ?」
キョロキョロと見回すが、狭い部屋の中、隠れるスペースなどもない。
「どこかに出かけたのね」
メリンダがベッドを見た。
誰かが座っていた跡がある。
キーナがサイドテーブルの上の双子石を見つけた。
それを手に取り、眺める。
随分前にもこんなことが・・・。
キーナの背筋が寒くなった。
遠ざかっていくテルディアスの背中・・・。
まさか・・・、もうそんなことはないはず・・・、だけど・・・。
「キーナちゃん、先に二人で食べてましょ!」
メリンダがあんな奴ほっとけ感を出しながらキーナに話しかけるが、
「って・・・、キーナちゃん?!」
キーナが双子石を見つめながら、ポロポロと涙を零していた。
「ど、どうしたのキーナちゃん?!」
慌てるメリンダ。
「テル・・・、テル、帰ってくるよね? メリンダさん?」
キーナが悲しそうにメリンダの顔を見上げた。
「キーナちゃん・・・」
メリンダがキーナを抱きしめる。
「大丈夫。大丈夫だから、ね? 絶対帰ってくるから」
「うん・・・」
キーナは小さく震えていた。
(キーナちゃん・・・)
メリンダはキーナの涙が止まるまで、その体を柔らかく包み込んでいた。
夕闇が落ちかけている街中を、テルディアスが宿を目指して歩く。
(少し遅くなったか・・・)
有力な情報はないかと、あちこち調べていたら遅くなってしまったのだ。
とっくにキーナもメリンダも宿に着いているだろう。
宿が見えた。
そして、その前に立つ赤い髪の女も見えた。
メリンダだ。
何故立っているのだろう?
不思議に思いながらも近づくと、何故かものすごく睨まれる。
「テ~ル~ディ~ア~ス~」
地の底から響いてきそうな声を出し、仁王立ちで迎えるメリンダ。
「あんたよくも・・・」
と早足でテルディアスに近づいてくる。
「キーナちゃんを泣かしたわね!」
と平手打ちが一閃。
しかし難なくヒョイッと避けるテルディアス。
「何のことだ」
「よく分かんないけど!」
再び平手打ち。
避ける。
「キーナちゃんがあんたのことで・・・」
返す手で平手打ち。
ヒョイッと避ける。
「泣いてんのよ!」
五月雨平手打ち!
全て避けきるテルディアス。
「って、避けるなーー!」
ぜいぜいと肩で息するメリンダ。
「殴られる意味が分からん」
と涼しげ~なテルディアス。
メリンダの平手打ちは全弾不発に終わった。
部屋の扉を開ける。
「キーナ? 何かあったのか?」
言い終わらないうちに、キーナがテルディアスに飛びついてきた。
テルディアスに対する連続攻撃が全部空振りに終わり、良い運動をして息を切らしていたメリンダが目をむいた。
キーナがテルディアスに飛びついて、抱きついている!
しかも腕に力を込め、ぎゅうっと。
嫉妬の炎が燃え上がる。
いやいや、それどころじゃないんだと落ち着かせる。
テルディアスがキーナの頭を優しく撫でた。
「どうした? 何が不安がらせた?」
テルディアスがメリンダに対するのとは打って変わって、優しげな口調でキーナに語りかけた。
「石が・・・。テルの双子石が置いてあったから・・・。置いて行かれた時のこと思い出しちゃって・・・。また、置いてかれたかもって、思っちゃった・・・」
テルディアスの目が優しく細められた。
「バカだな。もう置いて行かないと、約束したろう?」
「うん・・・」
テルディアスはキーナの頭を優しく撫で続けた。
キーナの肩から、少しずつ力が抜けていった。
メリンダはそんな二人を見ていた。
そして、この二人の間に、自分は入れないという事が、何となく分かった。
とっぷり、という擬音語は誰が考えたのだろう。
夜もとっぷりと更け、人々が仕事を終えて眠る頃。
例に漏れず、ここでもすやすやと眠る寝付きの良い子がおりました。
そんな子の、穏やかな寝顔を見ながらメリンダは、やはりベッドに入りながら考えていた。
(キーナちゃん自身は気付いていないだけで、
キーナちゃんはテルディアスのこと、きっと・・・、きっと・・・)
メリンダも穏やかな眠りの淵に、落ちて行った。
その隣の部屋では。
(施錠もした。結界も張った。これで常人は入って来られない・・・)
と、寝しなの点検をいつものように厳重に行っているテルディアスがいた。
そして、
(今日からは安心して寝られる!)
とガッツポーズをしていた。
まあ無理もないだろう。
(人の気配を感じられれば寝られるんだよな)
とベッドに潜り込んだ。
怖い夢を見た後は一人ではいられなくなる。
ということで忍び込んできたあの色々問題ありきな行動を取っているにもかかわらず無自覚な少女は、今夜からは一緒に寝る人がいるので忍び込んで来ることはないだろう。
その点では、メリンダという女の同行には感謝していた。
施錠しているにもかかわらず、結界を張っているにもかかわらず、何故か朝起きると布団の中に潜り込んでいるあの少女。
鍵はなんとかなるとしても、どうやって結界を潜り抜けて来ているのかも分からず不気味であるし、何故起きるまであの少女の気配に気づけないのかも謎だった。
今夜からはそんなことに悩まされることもない。
テルディアスは安心して睡魔に身を委ねた。
寂しい?
という単語が一瞬頭に浮かんだ気もしたが、ついぞ無視して眠りに落ちた。
星々の煌めきがいっそう輝く頃。
パチリと目を覚ます者がいた。
布団の中でしばしぼんやり考える。
(変な時間に目ぇ覚めた・・・。あ~、いつもテルの所行くくらいか・・・)
と身を起こす。
(でも今はメリンダさんいるし)
と、なんの条件反射か、ベッドを出て隣のメリンダのベッドに潜り込んだ。
もそもそと潜り込み、メリンダの隣で身を落ち着けようとするが。
穏やかな寝息をたてるメリンダの寝顔を見ながら、キーナは違和感を覚えていた。
(何か・・・、違う)
何かが違う。
眠る為にはこの人ではない。
良い眠りを貪るには、この人の隣ではない。
よく分からない本能的な勘の言いつけに従い、キーナは行動を開始した。
もそもそっ
ガチャリ
トテトテトテ
カチッ
ガチャリ
ごそごそごそ
ということをした。
なんて分かりやすい表現なのでしょうね!
するとメリンダがチラリとこちらを見て、キーナに何か耳打ちした。
すると二人はにっこりと笑い合い、楽しげにまた喋りだした。
そして、またメリンダがこちらをチラリと見て、何故かニタリと笑った。
一体、二人は何をこそこそやっているのだろう・・・。
次の街に辿り着いた。
あまり広くはないが、人々の顔は暗くない。
商店などの並んだ通りに出ると、
「それじゃ、あたし達買い物してくるから、あんたは宿でも取っといて」
と有無を言わせぬ迫力で、メリンダがキーナを連れ出そうとする。
「お、おい!」
テルディアスが慌てて呼び止める。
「何を買う気だ?」
「野暮ねぇ。女の子の買い物にいちいち口出す気?」
「無駄使いする金はないぞ」
キーナが慌てる。
しかしそんなキーナの心配を余所に、メリンダはズバッと切り出した。
「女の子の下着、生理用品、その他諸々ってはっきり言って欲しいわけ?」
テルディアスずっこけた。
キーナが顔を赤くする。
通りの真ん中でそんなに堂々と言って欲しくない。
「それともあんたも行く~?」
とメリンダがにやけながらテルディアスに聞き返す。
「行くか!」
テルディアスのような男が一緒に行けるわけがない。
「そういうことだから、宿をヨロシクね~」
とヒラヒラと手を振りながらキーナの肩を抱いて行ってしまった。
キーナが申し訳程度に
「行ってくるね」
と口を動かし、軽く手を振った。
そして二人はテルディアスが絶対に近づけないような店に入っていった。
(なるほど・・・。あの時のひそひそ話は、これか)
この世界に来てから、キーナは旅先の宿屋の女将さんなどに話を聞き、下着や生理用品などを購入していた。
そういう物を取り扱っているお店がどんな店なのか分からなかった為である。
そして今回、メリンダさんという強力な仲間ができ、やっとこさ自分で買い物できるようになったと・・・。
女の子は下着も色々なので大変なのです。
宿屋の一室でテルディアスが大人しく二人の帰りを待っていた。
そして気付く。
「なんで俺、素直に宿で留守番してんだ・・・」
根が真面目だからじゃないかい?
(宝玉について色々調べなきゃならんのに)
水の宝玉は手に入れた。
火の宝玉は案内してもらう。
だが風と地の宝玉については、まだ何の手掛かりもないのだ。
もう一度マントを身につけフードを被り、身支度を整える。
そして耳に付けていた双子石を外し、側のサイドテーブルの上に置いた。
(これをここに置いて行けば、宿も分かるだろう)
そして静かに部屋を出て行った。
ルンルンと浮かれながらキーナがメリンダと歩いていた。
「ありがとお。メリンダさん」
「どう致しまして」
なにやら良い買い物でもできたのか、足元がステップを踏んでいるようだ。
「さすがにこればかりはテルに聞くわけにいかなくて・・・」
キーナが少し顔を赤くした。
「あの唐変木が知ってるとも思えないしね」
というか知っていたら怪しい気もするが。
生理という現象は知っていても、生理用品の仕組みまでは分からない。
それが一般の男性というものだろう。
まあその話は置いといて。
並んだ露店から良い匂いが漂ってくる。
「キーナちゃん、アレ食べて行かない?」
「ふえ?」
肉団子が三つ、串に刺さって並んでいた。
タレの匂いがなんとも言えず香ばしい。
「でも、テルが待ってるから」
ただ早くテルディアスの元へ行きたいだけなのか、待たせているというのが嫌なのか。
(またテルディアス?)
キーナとの会話の中で、今までも何度となく、かなりしょっちゅう出てくる単語、テルディアス。
なにかにつけテルディアステルディアス。
メリンダは嫉妬を覚えていた。
「大丈夫よ! あんな男! 待たせとくらいで丁度いいのよ!」
「フニャ?」
少し無理矢理にキーナを引っ張っていく。
(テル、テルって、二言目にはテルディアスなんだもの)
とメリンダが溜息をついた横で、
「そーだ! テルの分も買って行ったげよう!」
と再びテルディアスの名。
またかい、と心の中で突っ込んだメリンダだった。
肉団子の串を両手で持ち、ルンルンのキーナ。
「テル喜ぶかな?」
「喜ぶと思うわ・・・」
(これだけ思われてりゃね・・・)
半分諦め気味にメリンダ呟く。
「本当~~にテルディアスとキーナちゃんて恋人でも何でもないの?」
と、ちょっと前にもした質問を、念のためもう一度口にする。
「うん!」
汚れのない眼差しで、素直に返事するキーナ。
(う~~~~ん)
その様子に頭を悩ませるメリンダ。
キーナの瞳が純粋過ぎて踏み込めない。
「同じ目的(?)を持った旅の仲間だよ!」
キーナにとっては、RPGの仲間くらいの感覚なのかもしれない。
「それに僕、人を好きになるって、まだよく分かんない」
とちょっと照れたように笑う。
その顔を見て・・・、
(か、可愛い~~~~。食べちゃいたい~~~)
と悶えるメリンダ。
食べるのは肉団子だけにしてね。
(テルディアスになんかには、もったいない!)
と一人で心の中で燃え上がる。
(キーナちゃんにはあたしが認めた男じゃなきゃ任せられないわ!テルディアスなんてダメダメダメ!)
そしてふと考える。
こんな可愛い子に似合う男などいるのだろうかと・・・。
(それともいっそのことあたしが・・・)
キーナは何故か背中がゾワリとした。
なんだろうこの寒気は?と首を捻るが、隣を歩く綺麗なお姉さんが、異様な光を秘めて見つめていることには気付かなかった。
双子石を頼りに宿屋に入る。
「テ~ル~」
テルディアスの部屋をノックする。
「おみやげだよん」
と扉を開けるが、部屋には誰もいなかった。
「あれ?」
キョロキョロと見回すが、狭い部屋の中、隠れるスペースなどもない。
「どこかに出かけたのね」
メリンダがベッドを見た。
誰かが座っていた跡がある。
キーナがサイドテーブルの上の双子石を見つけた。
それを手に取り、眺める。
随分前にもこんなことが・・・。
キーナの背筋が寒くなった。
遠ざかっていくテルディアスの背中・・・。
まさか・・・、もうそんなことはないはず・・・、だけど・・・。
「キーナちゃん、先に二人で食べてましょ!」
メリンダがあんな奴ほっとけ感を出しながらキーナに話しかけるが、
「って・・・、キーナちゃん?!」
キーナが双子石を見つめながら、ポロポロと涙を零していた。
「ど、どうしたのキーナちゃん?!」
慌てるメリンダ。
「テル・・・、テル、帰ってくるよね? メリンダさん?」
キーナが悲しそうにメリンダの顔を見上げた。
「キーナちゃん・・・」
メリンダがキーナを抱きしめる。
「大丈夫。大丈夫だから、ね? 絶対帰ってくるから」
「うん・・・」
キーナは小さく震えていた。
(キーナちゃん・・・)
メリンダはキーナの涙が止まるまで、その体を柔らかく包み込んでいた。
夕闇が落ちかけている街中を、テルディアスが宿を目指して歩く。
(少し遅くなったか・・・)
有力な情報はないかと、あちこち調べていたら遅くなってしまったのだ。
とっくにキーナもメリンダも宿に着いているだろう。
宿が見えた。
そして、その前に立つ赤い髪の女も見えた。
メリンダだ。
何故立っているのだろう?
不思議に思いながらも近づくと、何故かものすごく睨まれる。
「テ~ル~ディ~ア~ス~」
地の底から響いてきそうな声を出し、仁王立ちで迎えるメリンダ。
「あんたよくも・・・」
と早足でテルディアスに近づいてくる。
「キーナちゃんを泣かしたわね!」
と平手打ちが一閃。
しかし難なくヒョイッと避けるテルディアス。
「何のことだ」
「よく分かんないけど!」
再び平手打ち。
避ける。
「キーナちゃんがあんたのことで・・・」
返す手で平手打ち。
ヒョイッと避ける。
「泣いてんのよ!」
五月雨平手打ち!
全て避けきるテルディアス。
「って、避けるなーー!」
ぜいぜいと肩で息するメリンダ。
「殴られる意味が分からん」
と涼しげ~なテルディアス。
メリンダの平手打ちは全弾不発に終わった。
部屋の扉を開ける。
「キーナ? 何かあったのか?」
言い終わらないうちに、キーナがテルディアスに飛びついてきた。
テルディアスに対する連続攻撃が全部空振りに終わり、良い運動をして息を切らしていたメリンダが目をむいた。
キーナがテルディアスに飛びついて、抱きついている!
しかも腕に力を込め、ぎゅうっと。
嫉妬の炎が燃え上がる。
いやいや、それどころじゃないんだと落ち着かせる。
テルディアスがキーナの頭を優しく撫でた。
「どうした? 何が不安がらせた?」
テルディアスがメリンダに対するのとは打って変わって、優しげな口調でキーナに語りかけた。
「石が・・・。テルの双子石が置いてあったから・・・。置いて行かれた時のこと思い出しちゃって・・・。また、置いてかれたかもって、思っちゃった・・・」
テルディアスの目が優しく細められた。
「バカだな。もう置いて行かないと、約束したろう?」
「うん・・・」
テルディアスはキーナの頭を優しく撫で続けた。
キーナの肩から、少しずつ力が抜けていった。
メリンダはそんな二人を見ていた。
そして、この二人の間に、自分は入れないという事が、何となく分かった。
とっぷり、という擬音語は誰が考えたのだろう。
夜もとっぷりと更け、人々が仕事を終えて眠る頃。
例に漏れず、ここでもすやすやと眠る寝付きの良い子がおりました。
そんな子の、穏やかな寝顔を見ながらメリンダは、やはりベッドに入りながら考えていた。
(キーナちゃん自身は気付いていないだけで、
キーナちゃんはテルディアスのこと、きっと・・・、きっと・・・)
メリンダも穏やかな眠りの淵に、落ちて行った。
その隣の部屋では。
(施錠もした。結界も張った。これで常人は入って来られない・・・)
と、寝しなの点検をいつものように厳重に行っているテルディアスがいた。
そして、
(今日からは安心して寝られる!)
とガッツポーズをしていた。
まあ無理もないだろう。
(人の気配を感じられれば寝られるんだよな)
とベッドに潜り込んだ。
怖い夢を見た後は一人ではいられなくなる。
ということで忍び込んできたあの色々問題ありきな行動を取っているにもかかわらず無自覚な少女は、今夜からは一緒に寝る人がいるので忍び込んで来ることはないだろう。
その点では、メリンダという女の同行には感謝していた。
施錠しているにもかかわらず、結界を張っているにもかかわらず、何故か朝起きると布団の中に潜り込んでいるあの少女。
鍵はなんとかなるとしても、どうやって結界を潜り抜けて来ているのかも分からず不気味であるし、何故起きるまであの少女の気配に気づけないのかも謎だった。
今夜からはそんなことに悩まされることもない。
テルディアスは安心して睡魔に身を委ねた。
寂しい?
という単語が一瞬頭に浮かんだ気もしたが、ついぞ無視して眠りに落ちた。
星々の煌めきがいっそう輝く頃。
パチリと目を覚ます者がいた。
布団の中でしばしぼんやり考える。
(変な時間に目ぇ覚めた・・・。あ~、いつもテルの所行くくらいか・・・)
と身を起こす。
(でも今はメリンダさんいるし)
と、なんの条件反射か、ベッドを出て隣のメリンダのベッドに潜り込んだ。
もそもそと潜り込み、メリンダの隣で身を落ち着けようとするが。
穏やかな寝息をたてるメリンダの寝顔を見ながら、キーナは違和感を覚えていた。
(何か・・・、違う)
何かが違う。
眠る為にはこの人ではない。
良い眠りを貪るには、この人の隣ではない。
よく分からない本能的な勘の言いつけに従い、キーナは行動を開始した。
もそもそっ
ガチャリ
トテトテトテ
カチッ
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ごそごそごそ
ということをした。
なんて分かりやすい表現なのでしょうね!
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「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
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